焼きリンゴ







 朝日が地平線から昇り始めている頃。
 緑の木々が生い茂った村の、端にある果樹園。そこには、オレンジ、さくらんぼ、ナシ、桃と言った様々な果物の木が並び、太陽の光を浴びてはキラキラと輝きを放っている。
 その中で、真っ赤に熟されたリンゴの木が何本か生えているのがあった。その内の一本の木が揺すられると、リンゴが幾つか木から離れ落ちて行く。

「よっ、ほっ」

 掛け声を出しながら落ちてくるリンゴを、大き目の籠で受け止めて行っているのは、ピンク丸のカービィである。
 もう一本、更にもう一本とリンゴの木を揺すっては、限界までリンゴを籠へと次々と入れて行く。

「うーん、もっと欲しいけど、これ位で良いかなぁ」
「こらっ、カービィ!」
「わっ!?」

 籠の中にリンゴがどっさりと積まれ満悦に笑っているカービィだが、背中に叱咤の声が当たると驚きながら飛び跳ねる。

「果物はとってって良いって言ったけど、全部はダメって言ったじゃんっ」

 カービィが振り返ると、そこにはご立腹に頬を膨らませ、腕を組んでいる赤い服の少年──むらびとがいた。むらびとは、この村に住んでいる住人の一人であり、カービィが今いる果樹園を持っている者でもある。

「果樹園を作るのも大変なんだよ?」
「ぽよ……ごめんなさい……」

 むらびとの許可を貰い果物を集めていたが、採り過ぎは厳禁だと言う、大事なことをすっかり忘れていた。これには流石のカービィも反省し、落ち込みながらも謝罪した。
 そんなカービィを暫く見ていたが、むらびとは次第に笑みを浮かべ、言葉を掛けながら果物の木々を眺める。

「ぼくの育ててきた果物を気に入ってくれたのは嬉しいけどね。<おいしいフルーツ>が実れば、この果樹園をもっと良いものにしたいんだけどなぁ」
「おいしいフルーツっ?」

 カービィは相手の言葉を、目をキラキラとさせながらオウム返しした。

「まだ見つけたことないんだけどね。その名の通り、普通の果物よりすっごく美味しいんだって」
「わー食べたいなー! その果物の木、見付かると良いね!」
「うん。その時は、カービィ達にもおいしいフルーツを分けてあげるよ」
「やったー!」

 先程までは、怒ったり怒られたりで悪くなっていた二人の機嫌も、今の話のお陰ですっかり上機嫌となっていた。

「それにしても、本当に沢山積んだんだね」

 大量のリンゴが入っている籠を見ながら、むらびとは呆れる様に笑った。カービィは籠を改めて見ると、自分の頭に手を軽く当てながら舌を出していた。
 むらびとはリンゴを眺めながら暫く考えるリアクションをとった後、

「ちょっとそのリンゴを持って、僕の家までおいでよ」
「ぽよ?」

 カービィに向け軽く手招きしてから、むらびとは自分の家を目指しさっさと歩き出した。カービィは半ば慌てながら、よいしょっと掛け声と共に籠を両手で上に持ってから、彼の背中を追う様について行った。




「今日、カービィとピクニックに行くんですの? それは良いですわね」
「ピィカッチュウ!」

 朝早くからピカチュウに、サンドイッチやおにぎりを作る様お願いされ、館のキッチンにて料理を作っているピーチ。朝早くからどうしたのかと作っている間に問うピーチに、ピカチュウは理由を紙に描いて説明した。その内容を把握すると、ピーチはフワリと微笑んだ。

「それじゃあ、腕に寄りを掛けますわね。ピカチュウも手伝ってくださる?」
「ピカピ!」

 手伝って欲しいと言うピーチに対し、ピカチュウは片手を上げては明るい笑顔で快く返事をした。

「お握りの具を作りたいから、鮭を焼いてくれるかしら」
「ピッカ」

 ピーチは、鮭の切り身を乗せたフライパンをピカチュウに手渡した。ピカチュウはフライパンを両手で持ちながら、鮭をジッと見詰める。そして頬袋からパチパチと電気を弾かせると、

「ピィーカァ……チュウウゥゥゥッ!!」

 電気のパワーを溜めて行き、体から一気に放電をし始めた。すると電気の熱に寄り、フライパンの中の鮭が丁度良い具合にこんがりと焼けたのである。焼けた鮭の香ばしいにおいに、ピーチは満足気に微笑んだ。

「流石ピカチュウ、よく出来ましたわ」

 嬉しそうな表情をしたピーチに頭を撫でられ、ピカチュウは再び笑顔になった。

「この調子で、他のもお願いしますわね」
「ピカッピ」
「……でも、ちょっと焦げ目が強過ぎるから、次は気をつけるんですのよ?」
「チャー……」

 裏返せば鮭がほぼ真っ黒に焦げていることに気付いたピーチに言われ、ピカチュウは反省に耳を垂らし俯いてしまった。




「出来上がりー」
「うわー! 美味しそう!」

 幾つかのリンゴを使って料理をし、完成品をテーブルに並べて行くむらびと。その料理と香りにカービィは目を輝かせ、自分でも知らない内に涎を垂らしていた。

「これ何て言うの?」
「焼きリンゴだよ。同じ果物ばかりじゃちょっと飽きて来たから、果物を使って色々と料理してみてるんだ。これをピカチュウとのピクニックに持って行ったらどうかな?」
「わぁ、そうする! ありがとう、むらびと!」

 嬉しさの余りその場でピョンピョン跳ねるカービィに、むらびとはニコッと笑顔を向けた。




 太陽が最も高い位置に来た時間となった。青空が広がり、絶好のピクニック日和である。
 村の巨大なシンボルツリーを二人の待ち合わせ場所にしており、先にピカチュウがそこで待機していた。

「ピカチュウ、お待たせー!」
「ピッカ!」

 大きな風呂敷袋を両手で抱えながら現れたカービィ。その姿はまるで夜逃げか泥棒の様で、ピカチュウは少し驚いた後、思わず笑ってしまっていた。

「ちょっと、何がおかしいの?」
「ピッ」

 不機嫌となってしまい、笑っているピカチュウに頬を膨らましたカービィ。ピカチュウはそんなカービィを見て、失礼なことをしたと気付くと両手を合わせ謝罪した。
 カービィは少しした後、良いよ良いよと相手を許した後、何故こんなに大荷物なのかを説明した。

「今日はとっても美味しいものをむらびとに沢山作って貰ったんだ! だからちょっと大荷物になってたんだよ。早く一緒に食べたいなぁ」
「ピカァ」

 確かに、カービィが抱えている袋の中から香ばしいにおいが漂っており、鼻をひくひくと動かしているピカチュウは気付けば袋の目の前まで移動していた。

「じゃあ早く森に行こー! 僕も凄く食べたいんだから!」
「ピカッチュウ!」

 ピカチュウも食べるのが待ち切れないと言った様子だが、カービィも同じ気持ちの様で、既に少量の涎を垂らしていた。そして催促の言葉を放った直後、二人は森へ向かってダッシュして行った。




 柔らかな風が静かな音楽を奏で、太陽に寄って緑の木々は、葉と葉の隙間から光の粒で彩られている。心地良い空間に癒されながら、カービィとピカチュウは森の真ん中の小さな広場へと到着した。

「とうちゃーく! 早速食べよー!」
「ピイカ!」

 既に待ち切れない状態故か、二人は素早く食べる準備をして行く。
 ピカチュウがピクニック用の籠の蓋を開くと、カラフルな具材をパンで挟んだサンドイッチと、白い米が輝くお握りが籠いっぱいに入ってるのが見えた。

「うわぁ、ピカチュウのサンドイッチやお握り美味しそうだね!」
「ピカ、ピッカ」
「へぇ、ピーチ姫に作って貰ったの? ピーチ姫の作る料理はとっても美味しいよねっ」
「ピィッカ!」

 暫くその様な会話で弾ませた後、カービィは思い出したかの様にハッとした表情になり、こちらも準備をしなければと風呂敷を広げた。リンゴがどっさりと顔を出し、その半分はアルミホイルで包まれているのが目に入り、ピカチュウは小首を傾げた。そんな相手の表情に気付いたか、カービィは得意気な顔をしながら、一つのリンゴをアルミホイルから広げて見せた。

「じゃん! 焼きリンゴだよー!」
「ピッカー!」

 アルミホイルから香ばしいにおいがふわっと広がり、焼きリンゴが顔を出す。その香りと輝く焼きリンゴに、ピカチュウは目を輝かせた。

「これがむらびとに作ってもらったものだよ。早速食べよう!」
「ピッカチュー!」
「先ずはピカチュウの持ってきたお料理から!」

 それぞれの籠や風呂敷から焼きリンゴにリンゴ、サンドイッチにお握りを取り出し、先ずはとお握りを二人で同時に食べる。

「美味しいー! 中身がシャケだ!」
「ピッカ!」
「へぇー。ピカチュウがシャケを? 通りでちょっと焦げ目があるなぁと思ったよ」
「!! チャー……」

 確かにピカチュウが焼いた際、少々焦げ目が付いたのは本人も分かり切っていた。だがそれをストレートに言われたことに心を貫かれ、耳を垂らし落ち込んでしまう。そんな相手の様子に、思わず失言をしたことに気付いたカービィは慌てる様に謝罪した。

「ご、ごめんね! でも美味しいよ! シャケはちょっと焦げ目があった方が良いから! ね!」
「……ピッカ!」

 必死でフォローしてくれるカービィが可笑しいと思ったのか、ピカチュウは軽く吹き出した後に元気を取り戻し、笑顔になる。カービィはそんな相手を見て、ホッと胸を撫で下ろした。
 お握り、サンドイッチと順番に食べ、リンゴを一個頬張り、そして、二人が一番に待っていた焼きリンゴを、いよいよ食べる時が来た。

「えへへ。焼きリンゴ、どんな味がするんだろう?」

 二人が味を楽しみに口を開いた時である。
 カービィの頭やピカチュウの鼻に雫が一つ当たった様な気がし、二人は思わず焼きリンゴから顔を離した。同時に空を見上げると、食べるのに夢中だった故に気付かなかった様で、雲行きが大分怪しくなっていた。一粒、また一粒と空から雫が落ち、それの間隔は段々と狭まっていく。そして一分もしない内に土砂降りとなった。

「わあ! ちょっといきなり何!?」
「ピカピー!」

 慌てる様に籠や風呂敷を持ち、近くの木へと一目散に向かった。木の下へと直ぐに避難することは出来たが、二人と籠、そして風呂敷や、その中身も、すっかりびしょ濡れになってしまっていた。

「焼きリンゴが……」

 食べるのを楽しみにしていた焼きリンゴが、雨の所為で形を崩し、全てダメなものになってしまった。カービィはその中の一つを手に持ち見つめ、次第に目から涙を滲ませて行く。

「せっかく沢山作ってくれたのに……」

 そう言うと、カービィの目からは大粒の涙がポロポロと零れ出し、止まらなくなってしまった。ピカチュウは、そんな相手を悲しそうな目で見守り、カービィの頭を撫でる。楽しみにしていたと言うのに、悪天候と言うタイミングの悪さ。天気の悪戯でこの様な事態になってしまったことに、初めて神様に対する怒りが込み上がってきそうになっていた。
 その時、ふと、別の方角から良い香りが漂って来、ピカチュウの鼻がヒクヒクと動いた。

「ピカ?」

 においのする方向へ顔を向けると、ピカチュウは気付けばその方角へ向かって歩き出していた。

「……ん? ピカチュウ?」

 小さな手で涙を拭った後、カービィは相手が何かに向かって歩いているのに気付き、半ば慌てる様に後を追った。
 暫くするとピカチュウが突然立ち止まった為、カービィも慌てて立ち止まった。

「もう、一体何なの?」

 一体何を考えているのかと、カービィは相手の隣に立ち、ピカチュウを横から見る。相手は何かに目を奪われている様で、それを見上げ声を上げている。カービィは、そんな相手の目線を追って行った。
 カービィ達が見たもの。それはリンゴがなっている木だ。だが、よく見る鮮やかな赤色ではなく、更に熟されたかの様に深みのある赤色で輝いていた。

「わぁ! あんなリンゴの色、僕初めて見たよ!」
「ピカァ」

 二人は同じ気持ちで木の実を見ていたが、まるでカービィ達を誘っているかの様に、その実からは甘い香りがふわりと漂って来た。その香りを一度でも嗅いだ瞬間、二人はその場で涎を垂らしかけた。

「ふふふ、美味しそうだなぁ」
「ピッカ」
「そうだね。雨で焼きリンゴが駄目になっちゃったし、あのリンゴを食べよっ」

 素早くリンゴの木へ向かい、二人掛かりでその木を揺らす。幾枚の緑の葉っぱと共に、幾つかリンゴが落ちてきた。カービィとピカチュウはそのリンゴを全てキャッチする。

「どんな味がするんだろ?」

 受け止めた艶やかなリンゴの中から一個取り出し、二人はほぼ同時にそれを一口齧った。

「……!」
「……!!」
「お……お……美味しいー!!」
「ピッカチュー!!」

 食べた瞬間、二人はそう声を上げずにはいられなかった。そして、幸福に満ちた笑顔になる。

「今まで沢山リンゴを食べて来たけど、その中でも一番美味しいよ、これ!」
「! ピッカ!」
「ピカチュウ? どうしたの?」

 ピカチュウは何か閃いたかの様に片手を上げた。
 そして、まだ手をつけていない艶やかなリンゴを二つ両手に持つ。頬袋から電気をパチパチと流し始めた後、

「ピィーカァ……チュウウゥゥゥッ!!」

 二つのリンゴへと一気に放電したのである。カービィは一体何をしているのかと少し驚きながらも、気付けばその様子を見守っていた。数秒程で、ピカチュウは電撃を止める。するとピカチュウの持っているリンゴが、丁度いい具合に焼けていたのである。

「……ピカチュウ、もしかしてそれ……」

 電気に寄って焼かれたリンゴ。カービィ達が、雨に見舞われる直前に食べようとしていた焼きリンゴそのものだった。

「ピーッカ!」
「……そうだね、食べよう!」

 カービィは焼きリンゴを受け取りながら、ふと思ったことがあった。

(むらびと、焼きリンゴが雨で駄目になっちゃった。せっかく作ってくれたのに、ごめんね。お詫びと言うのもアレだけど、とっても美味しいリンゴがなる木を見つけたから、帰ったら教えるからね)

 カービィが彼に対し一度心の中で謝罪した後、二人はまたもやほぼ同時に焼きリンゴを頬張った。暫くその味を味わっていたが、次第に二人の目が輝き出す。

「……!! 滅茶苦茶美味しいー!!」
「ピィカッチュウ!」

 それからも、二人は幸せそうに焼きリンゴを食べて行った。食べたかったものを漸く食したこと、更においしい果物を手にすることが出来、二人はこの上ない幸せを味わった。
 そして二人が食べ終わった後、降っていた雨も次第に止んで行く。そして青空が広がる中、美しい虹の橋が架かったのが見えた。

「わぁ、虹だぁ!」
「ピィカァ……」

 突然の雨で食べ物が台無しになってしまったが、美味しいリンゴに、焼きリンゴ、更に青空に虹が見え、もしかしたらより素敵なピクニックの思い出になったかも知れないと思った。その証拠に、二人は顔を見合わせると、この上ない幸せな笑顔を見せ合っていた。




「と言う訳なんだよ。ごめんね、むらびと。突然雨が降って来ちゃったから焼きリンゴが……」
「気にしないで良いよ。突然の通り雨だったから、僕もビックリしてた。ピクニックに行ったカービィ達が心配でならなかったからね」

 翌日、カービィとむらびとは森の中を歩いていた。
 カービィはこれまでのことを話すと、彼の隣で謝罪する。むらびとは困った様に眉根を寄せるが、怒っている訳でない。微笑を浮かべると、カービィの頭を撫でた。

「それで、カービィ。ついて来て欲しいって言ってたけど、どこへ連れてってくれるの?」
「えへへ。焼きリンゴのお詫びと言ってもアレだけど、素敵なものを見つけたんだ」

 そして、二人は目的地へ辿り着いた。普通のリンゴよりも更に深みのある赤色へと熟されているリンゴの木である。

「この木を見つけたんだよっ。普通のリンゴよりもとっても美味しいんだ!」
「……」
「? むらびと?」

 返事もせず、ただリンゴの木を見上げたままでいるむらびとに対し、カービィは不思議そうな表情をした。もしかして、やっぱりこれではお詫びにもならなかったかと少しずつ不安になっていくが、明るい表情となったむらびとの次の言葉でそれは掻き消された。

「カービィ、これ、僕がずっと探してた<おいしいフルーツ>の木だよ」
「えっ? そうなの?」
「偶然でも見つけてくれて本当にありがとうっ。お陰で果樹園がさらに良いものになるよ!」

 むらびとは満面の笑顔になり、カービィを強く抱き締めた。ぽよっと思わず声が出てしまったカービィだが、それは気にも留めていない。焼きリンゴのお礼が出来て何よりだと、カービィも抱き締められながら笑顔になっていった。

「今度この木の実で、もっと美味しいリンゴの料理やお菓子を作ってあげるからね」
「わーい!」




 雨と言う名の神様の悪戯は、カービィ達をより幸せにする為の悪戯だったのかも知れない。










 ──終──








【後書き】

 255000番を踏んでくださったTY様のリクエスト、『カービィとピカチュウのほのぼの小説』でした。
 むらびとくんも結構登場している上、ほのぼのになっているのか心配ですが、いかがでしたでしょうか? 気に入って頂けましたら幸いです。
 リクエスト、ありがとうございました!




 2014/07/30up