NAKAMA







 異次元空間の事故から数週間の時が経った。
 スネークは任務中に大怪我を負ったままマリオ達の世界へ飛ばされた。皆の決死の介抱と、人一倍回復力に優れている己の身体のお陰で、今は大分歩ける様になった。
 王のマスターに未だ仮の危険人物と見なされていて、外出する事は禁じられている。
 スネークは仕方ないと思い、取り合えず城内を散策している。おとぎ話に良く出てくる城みたいな雰囲気に、まだ夢を見てると信じたい。しかしそうはいかない。サムスに看て貰った時の走った傷の痛みが現実を語る。

(正か本当におとぎ話の世界へ来るとはな)

 驚く所か呆れ、軽く溜め息をついた。

「ん?」

 暫く歩いていると、淡白な石で作り上げられたリビングにて子供達がワイワイ騒いでいる。丸くて大きなテーブルを囲み、皆下を向きながらとある作業を行っていた。スネークは少し離れた場所にいるので彼らが何をしているのかはここからでは伺えない。まだ彼らは自分を怖い人ととらえているであろうが、何をしているのかは気にならないでも無い。逃げられる覚悟(そこまででは無いが)で彼らに近付いてってみた。子供達は夢中で作業をしているせいか、直ぐ近くまで来てもスネークの存在に気付いていない。
 驚かしてみるか。

「何をしている」
「! うわあぁ!」
「キャー!」

 普通に話し掛けてみてもこの子らの反応はいつも大袈裟だから中々飽きない。今でも、ドタバタしている光景は笑えた。
 赤い野球帽子の少年──ネスは、テーブルの上にあった何かを慌てて腕で覆って引き寄せた。それが『何か』の材料らしいのだが、正体は把握出来なかった。余程こんな自分に見せたくないんだなと肩をすくめる。

「へ、蛇のおじさん! いるならちゃんと言ってよ! 死んじゃうかと思ったっ」
「そいつは悪い事をしたな」

 反省の色を出さず、スネークは煙草を口にくわえると颯爽と先端に火をつけ、紫煙をくゆらせた。

「皆の作業の邪魔をしたくなかっただけだ」
「だ、だからってこんな近くから呼び掛けなくても」

 ピンクの分厚い防寒服を着こなしている少女──ナナは焦りながら言った。スネークは喉を鳴らし、煙を彼らから反らした方向へ吐き出した。

「気付かなかった君達も悪いんじゃないのか? 俺に見られたくない『それ』を直ぐに隠せるだろう」

 少し軽蔑した口調で彼らを見下ろす。ネス達は言葉に詰まり、次第にうつ向いていってしまった。スネークは、本当にからかいがいのある連中だと密かに心を弾ませ、煙草をくわえながら言った。

「ま、驚かして悪かったな。一寸した暇潰しと言う事で許してくれ」

 困った笑みを見せて立ち去った。彼の背中を、ネス達は心配そうな眼差しで見送った。



「あ、スネークさん」

 回廊を歩いていると、以前会った事のある人物らが見えた。こちらの世界にやって来た際に確か自分の人質になった天使。今は怯えている様子は無い。
 もう一人とは初対面だ。天使とは正反対に、悪魔のバットウィングをマントから羽ばたかせている。黒く真ん丸な体に仮面を付けていて見た目が人間じゃないが、この世界の特権なのだろうと一々スネークは驚かなかった。

「スネークさん、怪我はもう平気なのですか?」

 一時自分の人質にされたのにも関わらず、天使──ピットの表情は、スネークへの心配と哀しみに満ちていた。

「ああ。心配は要らない」

 正か話し掛けて来るなんてな。良い奴もいるってか。

「貴方が異次元事件の被害者か」

 次に悪魔の仮面が言った。

「失礼。私の名はメタナイト。貴方の事はマリオ隊長らとピットから聞いている」
「それはどうもご丁寧に」

 スネークは腹に手を軽く当てた。

「我らが王はそなたを恐れていると聞くが、誠か」
「そうだな。あんた達の仲間の一部も、未だに俺を嫌っているな」
「単純な考えを持つ仲間はそうであろう。しかし王は違う」
「何だと?」
「王が貴方を危険だと言ったのは故意なのだ。何者かが異次元空間からこちらへスリップしたと敵国の耳に届けば、奴らの第二のターゲットは貴方になるだろう」
「……ターゲット……か」

 スネークはくわえている煙草を指で挟み、面白おかしい気持ちに口端を上げた。
 次にピットが口を開いた時、

「王様は貴方の為にそう言ったんです。だから……」
「結局王様は自分の国の事しか考えてないんじゃ無いのか?」

 スネークが遮った。しかもさっきまでの笑顔を削除し、ある意味問題発言をした事に、二人は黙ってしまう。

「俺は別に構わない、そんなのは既に慣れっこだ。ベソをかく程ガキじゃない。言わせて貰うが、俺だって王様含め、あんたらをまだ信じきって無い。王様も少なくとも俺に嫌悪は抱いてるんだろう。そこまで不安ならばさっさと俺を元の世界へ還してくれよ。こんな狭苦しい国なんか沢山だ」

 言いたい放題で彼らに語った後、スネークは歩き去った。

(……なぜ、俺はあんな事を?)

 一人城内を歩きながら溜め息をついた。
 危険人物だと思われても、彼等はこんな俺を助けてくれた。なのに、恩人らにネガティブらしく酷い言葉を吐き散らしてしまった。
 煙草を吸っているのに中々胸がスッキリしない。きっと手に負えない程、ストレスの元となる過剰反応が強いのだろう。原因はこの国の者達……に対する己の気持ちだ。

(……いい加減、この環境に合わせないとな)

 外の世界には出れないからそれは難しいが、やむを得ない。
 ふと暗い倉庫に足を踏み入れた。
 何やら物音が聞こえ、少し気になったスネークは倉庫の明かりをつけた。武器やら魔法玉やらが棚に整頓されている。どうやら武器倉庫みたいだ。
 そして明かりがついた事で一目で物音の主が分かった。その人物は辺りが一気に明るくなったのに驚き、折り曲げていた体を素早く立たせては入り口を見た。

「……スネークか……」

 金髪のポニーテールに、青く澄んだ剣の様な瞳を持った、姉貴肌の女──サムスである。彼女はスネークを見た途端、冷たい視線を作った。
 彼女は、スネークに対して人一倍嫌悪感を抱いていた。スネークの体からは、彼に寄って死んだと思われる人々の血の悪臭がし、過去のトラウマを抱えている彼女にとってそれは酷く辛いものだ。実際に彼自身から血の臭いはしないが、彼女は彼の人間像を見たのである。

「何の用だ」

 無表情でそっぽを向き、手を止めていた荷物等の整理整頓に再び取り掛かる。

「散歩してたら辿り着いた」
「そうか」
「……」
「……」

 会話が止んでしまった。最も、サムスが忙しそうにしているからスネークは黙っていた。
 まだくわえている煙草を取り、煙を吐く。それに気付いたサムスはしかめた面で彼に振り向いた。

「ここでは煙草を吸うな」
「なぜだ」
「分かるだろ。ここは武器倉庫。火薬を使った武器も収納されてるから火気厳禁だ。火薬に引火して爆発したら、一大事だろ」
「王様の魔法で直せないのか」
「つべこべ言うなっ。さっさと消せ」
「解った解った」

 スネークは面白半分に応え、煙草を、黒い軍手をはめた指で揉み消した。
 それからも、サムスの働く姿を入り口からジッと見守っている。暫く作業に集中していたが、額の汗を手の甲で拭いながら漸く顔を上げたサムスは、彼に気付くと、まだいたの、とでも言う様に目を細め、腰に片手を当てた。

「そんなに汗だくな私を見るのが楽しいか?」
「いや、あんたみたいな人がなぜここにこもってるのかなと不思議に思ってな」
「……余計なお世話だっ」

 サムスは軽く吐き捨て、作業を再開しようとクルリと振り向いた時だった。直ぐ側に重量のある鉄の箱が置いてあって、気付かないサムスはそれにつまずいてしまった。

> 「!?」

 サムスは棚に体をぶつけた。その勢いで棚に入っている武器らがバランスを崩し始めた。

「! 危ないっ!」

 スネークは素早く彼女へ駆けて行く。数多くの銃やら爆弾やらが彼女めがけて落ちて来る。座り込んでしまっているサムスはその場から逃げれない。怪我を覚悟に強く目を閉じた。
 物凄い音が倉庫から轟く。幸い爆弾は一つも爆発しなかったが、他の武器も雨の如く床へ叩き付けられた。
 そしてその一瞬の後、しーんと静かになった。サムスは、瞑っていた瞼を恐る恐る開いた。多少の何かの重さを感じたが、武器独特の固さは感じられない。寧ろ、暖かさに包まれている気がした。

「……大丈夫かっ……」
「あっ……」

 サムスの上にスネークがいた。スネークは、彼女に武器が直撃する寸前に彼女に覆い被さったのだ。スネークは頑丈な体だから、武器が当たっても大怪我には到らない、精々かすり傷程度だ。
 サムスは、目を丸くしたまま言葉を失っていた。どうして助けたんだと、代わりに目が言っていた。スネークは頭に片手を当てながら照れ臭く笑った。

「男に襲われたと思ったか?」
「!! ふざけるな!!」

 悲鳴に似た叫びと同時に痛々しい弾き音が倉庫内に響いた。

「さて、おふざけはこれ位にしよう。冗談が通じないお嬢さんだ」
「冗談でもそれは私にとっては過言だ」

 頬に赤い手形を残してスネークは立ち上がり、自分の服の埃を軽くはたいた。サムスは座りながら顔を反らして言った。
 そんな彼女にスネークは手を差し出した。

「取り敢えず一言は欲しいな」
「何の話だ?」
「もう少しで武器の下敷になるとこだったんだ。ありがとう位言えないのか?」
「……」

 サムスは無言になって彼を睨んでいたが、

「……か、感謝する」

 その一言の後、スネークの手を握り、自分も立ち上がった。スネークは喉を鳴らした。

「何がおかしい」
「ちょっぴり素直なお嬢さんをかいま見た……とでも言っておくか」

 サムスはまた顔を赤くした。

「どうした? 何だか二種類の凄い音がした様な……」

 そこに現れたのはマリオと彼の頭に乗っかっているピカチュウだ。

「……何でもない」

 サムスはその一言の後、倉庫から出ていってしまった。マリオ達は彼女を見てから、武器の片付けをしているスネークを見た。

「……どうしたの?」
「いや、何でもない」
「……」

 マリオは薄々感じているらしく呆れて腕を組んでいたが、

「手伝うよ」
「心配は要らない、一人で出来る」
「……一人で出来る事なんて無いよ」
「?」

 マリオは断りも無く落ちた武器を手に持ち、棚に上げた。

「ピカ!」

 ピカチュウも素早く爆弾を収拾し、箱に入れた。
 スネークは二人をポカンとして見ていたが、フッと笑うと自分も片付けを再開した。
 数分後。片付けが終了した。

「……悪い、マリオ」
「ううん、どうって事無いよ」
「ピッカチュー」
「あ、いたっ」

 倉庫の入り口に誰かが顔を出した。ネスである。

「あの、蛇のおじさん」

 自分の事かとネスに振り向いた。ネスはそれに体を震わせてしまったが、勇気を振り絞って手招きしていた。
 スネークはマリオ達を見たが、マリオはニッと微笑み頷いた。彼はどうやら何か知っているみたいだ。
 スネークは自分より三分の一位の身長しか無い彼を見下ろしながら目の前に立った。

「えっと、こ、これっ」
「?」

 ネスは後ろに回していた両腕を前に持ってきた。それは一本の紐に、鳥の形をした小さな折り紙が何百も吊してあるものだ。スネークはどこかで見た事がある気がした。遠い昔の話な気がしないでも無い。

「これ、皆で作ったんだ。おじさん達の世界にある物だって聞いたから」

 顔を上げ、それを押し付ける様に差し出した。

「思いを込めながら作ると早く元気になるんだよね? おじさんの怪我が早く治る様にって、皆で願いを込めたんだよ」
「……」

 確かに、これは自分達の世界では千羽鶴と呼ぶ物だ。正かこの世界でもこれを見る事が出来るとは思いも寄らなかった。
 彼等がこそこそやっていたのは、俺の為にこれを折っていた所だったんだな。

「……やっぱ受け取れない……?」

 ネスはしゅんと落ち込んだ。考え事をしていたスネークは我に帰った。

「いや、そうじゃ無い……ありがとな」

 スネークはそれを受け取り、ネスの頭を撫でた。

「それ、メンバー全員で作ったんですよ」

 ネスの後ろに、さっき一緒だったピットとメタナイトが現れた。

「このまじないは前々から聞いた事あるが、私は折るのは初めてだ。多少失敗したが、許されたい」

 ピットの次にメタナイトが言った。

「実を言うと王様達も折っていたのだ」

 それを聞いたスネークは目を丸くした。

「マスター達が?」
「スネーク」

 話に割り込んだのはマリオだ。

「サムスがどうしてこの倉庫にいたか、分かるかい?」

 マリオは妙に企んだ笑顔で彼に聞いた。スネークは少し考えたが、何も思い付かなかった。

「ピカッ!」

 ピカチュウがとある大きな箱を重たそうに引きずり出して来た。マリオが頷くのをスネークは見る。
 その中身を見てみると、更に驚いた。銃、ナイフ、爆弾等、以前取り上げられた自分の武器達が入っていた。

「王様からのご命令だと」
「王様から?」
「でもね、それは随分前にサムスに頼んだ事なんだ。それまでは拒否っていたのに今日いきなり『武器倉庫ってどこ?』って僕に訊ねて来たんだ。サムスはきっと、自分の意思でスネークに武器を渡したかったんじゃないかなって思うんだ。ま、あくまでも僕の勘だけとね」
「リーダーの勘は良く当たりますから、絶対そうですよ」

 ピットは笑顔で言った。

「……」

 スネークは武器を見ながら何かの思いに浸った。自分は危険人物なのかも分からないのに、何故皆はここまで自分を思ってくれてるのか。あれだけ罵声を浴びせてしまったのに……。

「スネークは僕らの仲間だからだよ」

 スネークの気持ちを読み取ったか、マリオは笑顔で答えた。

「仲間……?」
「僕達も各々違う世界から来た。だけど、こうして皆と仲良くして、そして共に戦っている。スネークも同じだ。違う世界から来た、大切な仲間なんだよ」

 勇ましいその眼差しは嘘を付かない、とスネークは見抜いた。

「仲間……か。久しぶりに聞くな」

 そう言うとマリオはクスリと笑った。

「早く元気になってね! 怪我もだよ!」

 ネスは輝く笑顔で言った。

「そして、自分達の国の為にも共に戦いましょう」

 続いてピットが言った。

「ピカチューッ」

 マリオの頭に戻ったピカチュウは笑いながら鳴いた。
 信じられない。心が穏やかになっていくのが分かる。こんなに温かい気持ちを抱いたのは本当に久しぶりだ。もう、マリオ達と同化しても平気な感覚がした。
 スネークは千羽鶴を、ギュッと優しく握り締めた。

「……共に戦おう、俺達の故郷の為に……」
「おう」
「ピッカ!」
「はい」
「ああ」
「うんっ」

 この場にいる戦士全員が頷いた。

「……そうだな」

 石柱の後ろに隠れているサムスも、目を閉じながら静かに応えた。聞こえない程度に、言葉を続けた。

「さっきは助けてくれて、ありがとう……」




 これが、スネークが皆と一心同体になった日。その証に、スネークの部屋にて、机の目の前の壁には、王様達と戦士達がまじない込めて折った千羽鶴が今でも飾られていた。










 ──Fin──








 【後書き】


 50005番を踏んで下さったラナ様へ捧げます。
 スネークとスマメンとの触れ合い話、如何でしたでしょうか?

 とても楽しく書かせて頂きました。
 短編なので、やっぱり主役のスネークさんには幸せになって貰わなきゃなと思いました。こんなに素直なスネークさんも良いなと思い始めましたが、ついていけなかったらすみません……。
 ってか『千羽鶴』ってキーワードが今更ながら恥ずかしいです(笑)。

 遅くなってしまって大変申し訳ございませんでした!
 ラナ様、リクエストありがとうございました。