鼓動







 スマッシュブラザーズの掟には、こんなことが記されている。

 ──違う次元の者同士、恋愛感情を抱いてはならない。

 それは、スマッシュブラザーズの誰もが分かりきっている事だった。その感情を持つことに寄り、次元の未来が大きく変わってしまう恐れがあるからである。
 だが、掟を守ろうとも、今、それを破ってしまいそうな予感を抱く人物が二人もいた。その二人は、抑えきれないとこまで来ていたのである。




 サムスは城から抜け出、今は一本の木の影で体を癒していた。たまに来る任務で、サムスは一旦スマブラから外れることがある。そして、心身の疲れを土産に戻ることは少なくない。幾らサムスでも、疲れくらいはどっと溜るものなのだ。だからこうしてリラックス出来る時間が恋しく、サムスは木に身を任せ、心地好い優しい風を浴びていた。
 暫くすると、後ろでキャッキャとはしゃぐ子供達の声がした。振り返ると、城の外で騒いでいるファンシーズが目に入った。そんな彼等の中にいる、唯一ファンシーズメンバーではない大きな男──スネークは、やれやれと言う顔をしていたが、ファンシーズの遊びにはちゃんと乗ってあげていた。
 サムスは、そんな彼等を微笑ましく見守っていた。これも彼女の疲れを癒すのであり、何よりスネークも混ざっているのは、彼女にとって特別の療法だった。だがその理由は自分でも分からなかった。スマブラの掟は分かりきっているから、そんな特別感情は抱かないつもりであるのだが……。

(何なんだろう、この気持ちは……)

 サムスは木に背中をつけ、胸にそっと手を当てた。鼓動が何故か早く聞こえる。こんな時にドキドキしているなんて、何か変だと自分で思った。
 サムスは掟は知っているものの、恋愛感情と言うものが分からないのである。スネークと親しくなった時から、冷たかった心の底から、初めてこの感情が生まれたのだ。

「あ! サムスのお姉ちゃん!」

 こちらに気付いたネスが笑顔で手を振った。ファンシーズにスネークもそれで彼女に気付き、そちらを向く。
 ファンシーズはすかさずサムスのとこへ行き、周りではしゃぐ。

「ねえねえ! サムスも遊ぼうよ!」

 カービィは浮遊しながら言った。

「私もか?」
「サムスのお姉ちゃんも一緒なら、凄く楽しいよ、きっと!」

 ネスはニコッと笑った。
 そう言われても……とサムスは戸惑うが、その様子は確りと大きな男に見られているのにハッと気付き、またもや鼓動が一段と高鳴った。

「……ああ、分かった」
「本当に!? わーい!」

 素直に凄く喜んでいるファンシーズがあまりにも可愛く、サムスは思わずクスッと微笑した。

「おい、サムスは疲れてるんだ」

 そんな風に口を開いたのはスネークだった。最近仕事から戻ってきたサムスに対する気遣いなのであろう。

「だからここへ来て休んでいるんだぞ。休ませてやりな」
「えー? やだやだー。サムスと遊びたいー!」

 カービィはジタバタとだだをこねてしまった。

「カービィ、サムスのお姉ちゃんは疲れてるんだって。休ませてあげようよ」

 ネスは未だに暴れているカービィを慰めようとしているが、まだカービィはドタバタしている。

「スネークにネス、私は大丈夫だ」

 サムスは立ち上がりながら笑顔で言った。

「明日の任務は恐らく無いから、今日は疲れるまで沢山遊んであげるよ」
「本当!? 流石サムスー! 大好き!」

 カービィはサムスにギュッと抱きついた。サムスはそんなカービィに手を添える。

「じゃあ今度は何して遊びましょう?」

 ヨッシーが言うと、その場でファンシーズ会議が始まる。これはファンシーズでの決まり事なのである。
 サムスは微笑みながら、子供達の会議が終えるのを待つが、ふとスネークを見た。すると何故か、二人は目線が自分へ向けているのに気付いた。ハッとした二人だが、慌てて目線を反らそうともせず、互いを見つめていた。

「……」
「……」

 子供達の声が遠くに聞こえる気がする中、二人は静かに見つめ合う。まるでそれは時が止まった様に。
 また、サムスの鼓動が早くなる。今まで感じたことの無い不思議な感情。何故か顔も熱くなるのに気付いた。

「きーまった!」

 ネスの大きな声に二人は我に帰り、慌てて彼等に顔を向けた。

「二人共、隠れんぼうに決まったよ!」
「隠れんぼうか……私を気遣ってくれたのか?」

 ネスに訊くと、彼はニコッと笑って頷いた。それに吊られ、サムスも静かに笑む。

「ありがとう」
「よーし、早速じゃんけんよっ!」

 ナナは舌先を出しながら厚い袖をめくる。ポポも同じ仕草をとった。
 サムスはスネークを見ると、スネークもこちらを向き、コクッと首を縦に振った。これなら構わないと言う返事である。
 サムスも加わり、ファンシーズ達との遊びは再び開始された。




 ファンシーズと遊んだ後、サムスは城内の回廊を一人歩いていた。先程から妙に心がモヤモヤしていて、どう抑えれば良いのか悩んでしまっている。
 外を見れば少しでも落ち着くかな。と思い、窓の外の夕闇空を見上げた。城から見る景色は素晴らしく、誰でもリラックスが出来るのである。お陰でサムスは多少は落ち着き、ホッと息を吐いた。
 少し遠くから足音を聞いたので顔を向けてみると、自分を不明な気持ちにさせた原因の人物が登場した。

「サムスもここにいたのか」

 スネークはサムスの隣へ来ると、彼も同じ景色を眺め始めた。

「……今、不思議な気持ちになっているんだ」

 サムスは景色を見ながら言った。

「不思議な気持ち?」
「その原因は……」

 と、言葉を濁すとすかさずスネークを指差し、

「お前だ」

 と言った。スネークは、俺か? な見開いた顔をしてしまっていた。

「どうすれば良いか分からないんだ、この気持ちを。どうしてか、スネークを見ると、胸が熱くなって、顔まで僅かな熱に染まる。今まで感じたことなかったんだ、お前に会うまでは……」
「……そうか」

 スネークはサムスの話を聞くが、冷静な返事をした。少し考えているのか、前を見たまま動かないでいる。サムスは、彼の答えを待つ為にジッとスネークを見ている。

「俺が言うのもあれなんだが、それはつまり……俺が気になってるってことじゃないのか?」
「! わ、私が、スネークを?」

 戸惑うサムスを見てスネークは少し笑み、彼女を見て続きを話した。

「俺に、掟破りの気持ちがあるんじゃないかってことさ」
「……う、嘘だっ……」

 サムスは夕日に染まる顔を反らした。その顔は、夕日の色に染まっただけなのかは疑わしいが……。

(マスターハンド王の言う掟は決して破っていないと思っていたのに……)

 そう思うと、また胸がドキドキしだした。掟破りをしたかも知れない不安か。それとも──。

「サムス、どうした?」

 後ろから、彼の囁きが聞こえる。確信犯みたいな低い声にドキリとしてしまう。

「自分の今の心境、理解して来たのかな?」
「そ、そんなことは!」
「強がることは無い。俺も同じ気持ちなんだ」
「っえ?」

 サムスは振り向いた。だがスネークは、さっきと同じ窓の外を見ている。

「サムス・アラン。あんたを見ていると、何故かいつもと違った気持ちが出るんだ──まるで、あんたを特別扱いしたくなる程に、な」
「わ、私は別に、そんな事は……だ、第一!」

 強気なサムスだが、何故だか慌てている様にも見える。

「ス、スマッシュブラザーズの決まりは分かっているだろう。『違う次元の者同士、恋愛感情を抱いてはならない』と。だから、私とスネークはそう言う関係になるのは……あっ」

 サムスはしまったと口を手で軽く押さえたが、彼女の言葉は確りと目の前の人物の耳に入ってしまった。スネークは少し驚いていたが、クスッと笑った。

「サムスも分かっているじゃないか。恋愛感情がどんなものかを」
「わ、私は……違う……そんな事を思ってしまったら、法に背いてしまうじゃないか……っ」
「人の気持ちは素直に表に出るもんだ。例えサムスの様な女でもな」
「!」

 唐突にスネークはサムスを抱き締めた。抱き締められた時に感じた温もりに、サムスの体の熱が更に上がる。
 抱擁の間、彼女の鼓動が自分の耳にまで響いて来ていた。今までよりも速く、おさまる気配は見せない。

「ドキドキしてるじゃないか」
「スネーク……それは口説いているのか?」
「……それは世界が違う俺には無駄な事で、無理な事だ。だが、今だけでも良い。こうして貰うと、かなり落ち着くんだ」

 それは彼女も同じだった。ルールを破ってしまう覚悟は出来ている。但し、この時だけだ。この時だけ、こうして貰うと、サムスの今まで冷たくなっていた心が温かく包まれる。こんなに高ぶった気持ちは、恐らく生まれて初めてだ。
 スネークは暫くすると、サムスから腕を解放した。サムスはスネークを少し悲しい目で見ている。彼が離れて行く事を、多少ながらも拒んでしまっているのに気付いた。

「これが最初で最後かも知れないが、俺の気持ちは恐らく変わらないだろう」
「……私も、私も同じだ、スネーク。だけど、こんな気持ちにさせたスネークを、私は恨んでやるからな」
「構わない。だけど、お互い様だろう?」

 こんな事を言い合っても、二人は微笑み合っていた。それは、自分の心を認めた証だった。
 密かな二人の話は、ここから始まった。









  ──Fin──








 【後書き】


 大変長らくお待たせ致しました!
 71500番を踏んで下さったルビー様リクのスネサム小説ですっ。

 こちらもまた楽しく書かせて頂きましたが、ストーリーが中々浮かばず時間だけが過ぎ去っていってました……本当に申し訳ありません(土下座)。精進します。
 これは甘いのか? はたまたシリアスなのか(笑)? ある意味禁断の愛とでも言うべきでしょうね。
 マスターハンドに気付かれないところででも愛し合う二人なんじゃないかなって思います(わあ)。

 宜しければお受け取り下さい! リクエスト有り難う御座いましたっ。