家族








 スマッシュ王国には、人々の体と心を癒す場所がある。城の庭には洞窟があり、自然で作られた透き通った小さな滝や池がある。ここも緑に覆われ、天には大きな穴があり、そこから太陽が差し込んでくるのだ。
 トレーニングを終えたスマッシュ戦士がここに来ることは多い。そして今、ここに来た者が一名。
 洞窟の入り口前にて、赤いヘルメットを外し、トレーニングを終えた疲れで溜め息をつきながら、多少乱れた茶髪を片手で整える男──キャプテン・ファルコン。
 ここへ来ると、入り口時点で気持ちが落ち着く。
 だが、新しい傷は癒せても、古く深い傷までは流石に癒せないか。片目辺りに出来た一筋の傷を思い出し、そこにそっと触れ、フッと目を閉じた。
 そして洞窟へ足を踏み入れた。進めば進む程、滝の音は大きくなる。

「……んっ?」

 ふと見下ろすと立ち止まった。一枚の小さな写真が落ちているのである。
 気になってそれを拾って見ると、二人の大人と二人の子供が写っていた。大人の内の一人がキャプテン・オリマーだと分かった。そしてこの写真は、見ただけでとても幸せそうに見える。
 その時、洞窟の向こうから小さな足音が複数で響いてきた。赤、青、黄色等、それぞれ色が異なる小さな生物──ピクミンである。ピクミンは、ファルコンの持っている写真を見付けると、一斉に飛び掛ってきた。

「わっ、何だ何だ!?」

 ファルコンは焦り、ピクミン達を追っ払おうと腕を振った。
 そんな中、一匹のピクミンが彼の手元から写真を取り上げた。すると他のピクミンは攻撃をやめ、ファルコンから離れていく。ファルコンは、やれやれと服を軽くはたいて汚れを取り、改めて歩き始めた。
 漸く目的地へたどり着いた。相変わらず汚れの無い空間に、ファルコンは鼻で軽く息を吸い込む。
 前を見ると、先程のピクミンがいた。ピクミンが誰かに写真を渡しているのが見える。ピクミンがなついている相手と言えば、一人しかいない。ピクミン達は、彼の見ている写真を周りから見ていた。
 ファルコンは笑みを溢すと、一歩一歩進んでいく。そして彼の直ぐ後ろで立ち止まった。
 ピクミンがこちらを向くと、拳を構えて警戒してきた。そんな彼等の様子に気付いた男──オリマーもこちらを向いた。

「オリマーも来ていたのか」
「ファルコン、トレーニングはもう良いのか?」
「俺はもう終わったんだ。だからここへ来た」
「……そうだろうな」

 ファルコンはオリマーの隣に腰を下ろした。ピクミンは相変わらず警戒している。恐らく、あの時のファルコンの失態のせいだろう。

「ファルコンには中々懐かない。ピクミン達にも感情がちゃんとあると分かった」
「あの時は本当に悪かった。でも、許してくれる訳はないか」
「ピクミンが死ぬのはいつも辛いが、そこまで反省するのなら、きっと天国の彼等は許してくれるだろう」

 写真を見ていたオリマーは彼を見上げた。

「私はもう恨んではいない。ファルコンは仲間だからな」
「仲間……か」

 ファルコンが呟いたきり、二人は無言だった。
 滝の音が響き渡り、それだけでもリラックス出来る。太陽の光も差し込んでくるので、気温は丁度良い。
 だが沈黙に耐えられなくなってきたファルコンは、オリマーが見ている写真をチラリと見た。ずっと見ても飽きる様子を見せないオリマーの表情。矢張り、とファルコンは悟った。

「家族か?」

 そう訊いてみると、オリマーは写真を見詰めたまま頷いた。ファルコンはもう少し見易い様に、地面に手を置くと体を傾けた。オリマーも彼に見せようと、写真を彼の前に出した。

「可愛い子供達だろ?」

 自慢そうに語る彼に、ファルコンはフッと口端を上げた。

「ああ。お前にそっくりだ」
「妻にはいつも苦労を掛けている。二人も子供がいるのに、私が不器用なばかり……今頃何をしているだろう」
「微笑ましい家族だ」
「ファルコンの家族は?」
「……妹が一人、な」
「そうか」

 オリマーは、これ以上は訊かないことにした。ファルコンがそう答えただけで、どこか辛い色を滲ませていたからである。彼の顔にある古傷が、彼の辛い過去を物語っていた。
 二人は一端体勢をたてなおし、さっきの風に戻る。
 そしてあることを考えると、オリマーは再び写真を見ながら口を開いた。

「ファルコンは、どう思う」
「何をだ?」
「未知なる世界に突然落とされ、一気に襲いかかる不安と、わいてくる孤独感。ファルコンには分かるか?」

 ファルコンは、そう言えばと思った。オリマーは宇宙を旅していた時、とある星へ落ちてしまった。その星はまだ誰にも知られていない星で、オリマーは見知らぬ世界で独りぼっちだったと。だけど、あることが切っ掛けで、無事生き延びれた。

「そうだな。俺は常に一人で戦って来た男だからな。だがオリマーは違うだろ」
「?」
「オリマーはその世界にいても、ずっと独りぼっちじゃなかっただろう?」

 ファルコンは、オリマーに縋っているピクミン達を見た。オリマーも彼の視線を追い、こちらをジッと見ているピクミン達を見る。
 そしてオリマーは、自分の短い膝に乗っかって来ている赤ピクミンの頭を撫でた。赤ピクミンの頭の先になっている蕾が、少しずつ開き、やがて、ポンッと可愛らしい花を咲かせた。これも感情の表れなのだろうか。

「ピクミンは、もう一つの家族みたいなものだ。彼らがいてくれなかったら、私は生きて帰れなかった。帰りを待つ家族のもとへ……」
「感謝してもしきれないな」

 ファルコンの言葉にオリマーは頷き、綺麗に流れる滝を見上げた。

「この世界はどんな人でも住める環境にあるとは、未だに夢を見ている気がしてならない。そしてここへ来た時、この子達と再会出来るとは思わなかった。ホコタテ星に帰る時はこの子達を連れて行くことは出来ないが、いつでもここで会えると思うと、何だか嬉しくなる。この王国は、第二の故郷だな」
「……」
(第二の故郷か)

 ファルコンは笑んだまま彼を見ていた。

「勿論、マリオ達も家族同様だ」

 それを聞いて思わず笑顔を消してしまった。彼がそんなこと言うとは思わなかったのだ。

「まさか、意外に思ったのかな?」

 オリマーは微笑して彼を見てきた。ファルコンはそれに軽く苦笑し、目を閉じると顔を前へ向けた。

「私はここへ来て、色々な人に出会った。それぞれ皆違う生き方をしてきたんだなと、ここへ来て彼らに会う度に思う。だからこそ、互いの絆は深まる。家族の様に……」
「こんな俺でもか?」

 そんなことを紡ぐファルコンにオリマーはハテナを浮かべた。

「例え家族の様な絆が生まれても、オリマーは俺の全てを知ることは出来ないだろう。それでも、俺をその『家族』に入れてくれるのか?」

 まるで自虐した言葉だ。
 確かにファルコンの謎は多いままで、音速プロレーサーの賞金稼ぎであることと、今聞いた、妹がいること位しかオリマーには分からない。それは他のスマブラも同じだろう。
 だがオリマーは、躊躇うことなく微笑んだ。

「当然だ」

 ストレートな答え方にファルコンは少し目を丸くしたが、やがて目を細めた。
 彼らの会話を聞いていたピクミンは、気付けばオリマーではなく、ファルコンを見詰めていた。そして、ファルコンのもとへ恐る恐る歩み寄って来たのである。あの時の出来事で、あんなにファルコンを嫌っていた彼等が……そして、オリマーの上に乗っかっていた赤ピクミンが、今度はファルコンの膝の上へピョンと乗っかってきた。オリマーは彼らを見ていたが、漸く理解したかの様に笑った。

「きっと、ファルコンは私の友達だと認めてくれたのだろう。だけど、こんな行動を取るピクミンは初めて見た」
「このこと、お前のピクミン日誌に記すか?」
「そうさせて貰おう」

 そして大分時間が経ったと感じたオリマーは立ち上がり、うんっと背伸びをした。側にいたピクミンも真似て背伸びをする。

「良かったら私と乱闘でもするか?」

 それを聞いたファルコンも微笑すると、同じく立ち上がった。

「望むところだ」
「では、場所を変えよう」

 オリマーは写真を懐にしまい、二人とピクミン達は洞窟を後にした。
 家族と言う名の仲間と共に、これからも戦っていこう。
 自分達の故郷の為。自分達の本当の家族の為。
 そして、この世界の『家族』の為……。










 ──Fin──








 【後書き】


 スマックスをプレイしていたら段々このコンビが好きになって来たので、思い切って書かせて頂きました。結構楽しかったです。
 ピクミンが本当可愛くて、それも書きたいと思った要因の一つです(笑)。

 でもオリマーの口調ってこんなんで良いのか正直不安です。ゲーム本編を見ると、結構真面目な人なんだなとは思いますけどね。そして不器用(笑)。
 『家族』をキーワードにしているので、この話のファルコンの設定はファル伝です。ゲームでの設定も好きですが、ファル伝の設定も好きです。なのでファルコンの妹は……はい、彼女です(苦笑)。
 文中にあったファルコンの失態は、スマックスの亜空間をプレイした方には分かるかと。
 キャプテンと呼ばれてる彼等だけど、影では孤独を背負っていた二人。だから仲間がいると言うことは、家族の様な存在と思っても過言では無いでしょう。

 嗚呼、書けば書く程熱が上がっていきます。ファル+オリ、マイナーでも大好きだ!!