Namida no Ame








 草や岩がとてつもなく巨大な大地。その上には、戦いに次々と破れていく、小さな戦士達。

「キュウゥー!!」

 悲鳴を上げ、ぐちゃぐちゃと嫌な音を立てながら、未知なる怪物に食われてゆく。

「ピ、ピクミン達が……」

 オリマーは身を震わせながら怪物を見上げている。怪物は、それはそれは美味しそうに彼らを食していて、死んでいくピクミン達は光の魂となって空へ消えていった。
 食べ終えた怪物は、獲物を捕らえた様に、オリマーへ殺気漂う目線を向けた。オリマーはビクッと肩を上げ、後退りしてしまう。
 隣にいるのは、最後の生き残りである、一匹の赤ピクミン。彼の力だけでは、奴を倒すのに相当な時間を必要とするだろう。奴の奥には、最後のパーツがあると言うのに。

「ここは一端退こう」

 だが、今は逃げた方が良いと、オリマーは隣のピクミンに命令をし、走り出した。しかし、ついてくる気配は無く、変に思うと立ち止まって振り返った。
 赤ピクミンは逃げようとはせず、怪物に飛びかかっていたのだ。怪物は振り払おうと暴れ回るが、赤ピクミンは踏ん張り、頭の植物を使って奴の表面を何度も叩いていく。
 オリマーは戻っていき、笛を鳴らした。だが赤ピクミンはこちらへ来ない。何度鳴らしても、一向に攻撃をやめようとはしなかった。

「何をしている! 早くこっちへ来い!」
「ピクミッ!」

 赤ピクミンはこちらを向くと、高い声を上げて何かを言った。その声は必死だと思わせる。

 ──ここは僕が食い止めるから、キャプテンは逃げて!

 と、そう聞こえた気がした。だがオリマーは逃げようとはしなかった、逃げたくはなかった。死んでゆくピクミン達を見るのは耐えられないからだ。

「早く来るんだ!」

 オリマーはもう一度笛を鳴らし、呼び寄せようとした。だが、

「! ピー!!」

 遂に振り払われ、宙を舞う赤ピクミンは、怪物の舌に捕われ、丸呑みにされてしまった。彼の死に様が目に映り、オリマーは笛を落とし、ペタリと座り込んでしまった。
 怪物は舌舐めずりをした後、オリマーをギロリと見下ろした。もう後が無いオリマーは、座り込みながらも後ろへ下がる。

「や、やめろ……っ! く、来るなっ……!」
「グウゥゥ……」

 怪物は涎を流しながらオリマーへ近付く。オリマーは、立ち上がることは出来ない程の恐怖にかられていた。そして、怪物はオリマーへ、舌を出しながら大口を開いてきた。

「やめ……うわあああああああああ!!」

 オリマーは悲鳴を上げながらベッドから飛び起きた。

「!?」

 ハッと気がつくと、辺りは暗かった。良く見回すと、ここはスマッシュ王国の城内にある、オリマー専用の部屋だった。窓の外は、大きな雲が少し目立つ夜空が広がっていた。
 深く息をしながら隣を見ると、もう一つベッドが設置されていて、そこには数匹のピクミンが、小さな寝息を立ててすやすやと眠っている。

「……」

 窓の外を見ながら、オリマーは、あれは夢だったのかと、漸く気付いた。あの星にいた頃の自分を思い出し、そして、あの夢を見てしまったのか。
 だけど、あれは明らかに悪夢だ。あの星にいた頃は、あんな悲惨な出来事は無かったが、夢の中の世界は本当にあった様に思ってしまって、恐怖のあまり、今でも体が勝手に震えていた。ピクミンが死んでしまうのは何度か見てきた。それがトラウマとなって、あんな大袈裟な夢を見てしまったのだろうか。今でも思い出すだけで涙が溢れてしまう。
 まだ夜中だから、今の夢はさっさと忘れてしまいたいと、そう祈りながら、もう一度眠りについた。




「ふあぁ」

 回廊を歩くファルコンは、夜中に自分のマシンを見ていたので、うっかり寝不足状態だった。お陰で朝からあくびが止まらなくなっている。今でも腕を伸ばして口を大きく開いていた。
 窓の外を見ると、朝から空はどんよりとしていた。暗い厚い曇り空で、今にも雨が降りそうだ。

「今日のトレーニングは中でやるかな」

 ファルコンは外を見ながら呟いた。

「ん?」

 ふと下を見ると、草原で誰かがトレーニングをしているのが目に入った。

「……オリマー?」

 ファルコンから見ると、オリマーとピクミンの姿に見えた。今にも雨が降りそうなのに、なぜ外でやるのだろうか。何となく疑問を抱いたファルコンは外へ出ることにした。
 そこへ来てみると、矢張り彼らだった。彼らは、ファルコンがそこにいるのに気付いていない様で、トレーニングに集中している。

「ピクミン、そこで攻撃だ!」

 オリマーはピクミンをどんどん投げ、投げられたピクミン達は、トレーニング用の岩にくっつくとバシバシと叩き始めた。そこまで見れば、いつも通りのトレーニングだなと分かり、ファルコンは腕を組んで静かに見守っていた。

「赤ピクミン、そんな攻撃じゃ駄目だ! 何度言ったら分かるんだ!」
「?」
「青ピクミン、早くこっちへ来ないとやられるぞ!」

 今日のオリマーは様子がおかしい。何だか命令口調が荒っぽかった。笛を何度も鳴らして、声を上げていて、ピクミン達はそれに少し驚きながらも、オリマーの言うことを聞いて行動している。だが少しでも遅かったり、彼の思った通りに出来ないと怒られて、彼らは次第に怯えてきた。
 見ていられなくなったファルコンは、後ろからオリマーの肩を掴んだ。オリマーはハッとして行動を止め、振り向いた。ファルコンが無表情でこちらを睨んでいるのを見て、笛を持つ手を下ろした。

「オリマー、どうした。今日のお前、何だか変だぞ」
「……」

 ファルコンの言葉に何も言い返せず、次第に俯いていく。攻撃を止めたピクミン達は、岩の側でずっと体を震わせ、オリマーを怖々と見詰めていた。
 オリマーは俯いたまま、笛を震わす程に握り締めていた。

「分かっている。私も、こんな自分自身が憎くてたまらない……きっと、苛立ちの所為で、ピクミン達に当たっているのかも知れない……」
「……話してみな。聞いてやるぞ」

 オリマーは頷き、スマブラ中一番に信頼している彼に話し始めた。昨日見た悪夢のことと、その時の自分の気持ちを。
 沢山のピクミンが食べられていく悲しみ。そして、独りぼっちになる辛さ。
 ここにいるピクミン達は、オリマーの寂しそうな背中を、その場からジッと見ていた。

「あの星から脱出出来たのが未だ信じられないでいるのかも知れない。ピクミン達と協力してドルフィン号を修理したが、その記憶よりも、ピクミン達が食べられていくことが強く記憶に残っているのかも知れない。ピクミンは、私の子供の様に可愛がっていたのだ。私と共に戦い、死んでいったピクミン達が今でも忘れられない。そう思うと、またあの夢を見そうで、怖い」
「オリマー……」

 彼とは良く話をしているが、こんなに辛そうに語る彼を見るのは初めてだ。

「……過去に未だ捕われているから、あんな夢を見てしまうんだろう?」

 ファルコンは一言返事をした。まだ俯いているオリマーだが、彼のその言葉に僅かながら反応したのが分かる。
 暗くなった空からは、遠い雷の轟きと共に、雫がポツポツと落ちてきた。その数は急速に増し、彼らを濡らしていく。まだ日は昇ったばかりだと言うのに、暗く重い雨は、彼らの悲しみを深めていった。

「オリマー、今は現実を見ろ。彼らは、オリマーが、無事お前の星へ帰れることを祈って死んでいったんだ。今でもそんなに悲しんでいると、天界にいるピクミン達に申し訳が無い。オリマー、俺達は今、ここにいるってこと、確りと見るんだ」

 オリマーの肩を掴み、辛そうに話した。肩を掴まれたオリマーは顔を上げ、彼の目を見た。
 ファルコンが今までどんな過酷な試練を乗り越えてきたのか、そして、悲しみを積み重ねてきたのかは分からない。だけど、彼のその表情を見ると、オリマーの気持ちを理解している様に見える。
 後ろから気配を感じ、オリマーは振り向いた。ピクミン達がこちらへ歩み寄り、相変わらず無表情でも心配そうにして彼を見ていた。今日のトレーニングで、彼に散々厳しくされたのに。それの所為で体を小さく震わせていたが、オリマーを見詰めているのに変わりは無い。

「あ……」

 彼らを見て、オリマーは何かに気付かされた。それにドキッとし、声を少しだけ漏らす。
 そして涙を一粒零し、ピクミン達を強く抱き締めた。ピクミン達は体を使って大袈裟に驚いたが、目はオリマーをジッと見ていた。オリマーは気にせず、彼らをギュッと抱き締める。

「ピクミン達、すまない……すまなかった……本当に、……すまなかった……っ」
「……」

 涙を流しながら何回も謝罪の言葉を繰り返す。謝っても謝っても足りず、同じ言葉を何度も零していた。
 抱き締められているピクミン達の、まだ咲かせていない蕾は、重そうに下へと垂れていた。それは、雨に濡れて重みが増したからだろうか。それとも、オリマーに対する気持ちなのか。
 彼らを見守っていたファルコンは、フッと雨雲を見上げ、思った。

(今日の雨は、やみそうにないな)

 と。




 あれから数日が経った。
 今、ファルコンとオリマー達はトレーニングをしていた。
 その間にも、ファルコンはニッと微笑んでいる。
 あれからオリマーは、あの恐ろしい夢を見ることは無くなった様だ。ファルコンとバトルをしている彼らの表情は、いつも通り、否、いつも以上に生き生きとしていた。

「大分腕を上げたな……おっと!」

 投げてきた赤ピクミンをギリギリ緊急回避する。オリマーが笛を鳴らすと、投げられた赤ピクミンはピクッと反応し、大きく空中ジャンプをしてオリマーの側へと戻った。

「ピクミン達と私は一心同体。共に強くなるのだ」

 オリマーが笑みを浮かべながら答えると、ファルコンもフッと笑った。




『過去』を見るばかりではいけない。『今』を見て、前へ進んでいくべきなのだ。
 過去の様々な思いをバネにして、私達は前へ行く。
 時間は掛かっても良い。少しずつ、少しずつ前へ行けば良い。もし過去に縛られたままだったら、涙を流せば良い。そうすれば、きっと、そこから歩き出すことが出来るから。










 ──Fin──








 【後書き】


 何気にこの二人でシリアス系を書きたいなと思っていたので、気付けばキーボードを走らせていました。
 ピクミンの愛の歌は明らかに反則です。そんな風に言われてしまうと切ない気持ちになってしまいます……多分、この話を書きたいと思わせたのはこの曲を聞いていたからでしょう。
 まさかこのコンビでシリアスを書いてしまうとは思いませんでした。でも意外と書けてしまった自分にビックリ。

 今後もこのコンビで書く場合、ピクミン&オリマーが主役になると思います。ファルコンが主役の話でも頑張れば書けると思いますが、こちらメインの方が書き易い気がするので。でも、いつか挑戦したいな、とは思っています。

 ここまで読んで下さり、誠に感謝します。