ヨッシーのおはなし








 島にて、緑のヨッシーは浜辺に座り、青空を見上げていた。
 ほぼ晴天な日々。白い大きな雲と、青い空、そして海は、眺めているだけでも自然と疲れが吹き飛ぶ。今日も大乱闘を終えたとこだったので、結構疲れが溜まっていた。だからヨッシーは、いつもここで一休みするのである。
 大分気分が良くなると、ヨッシーは足をリズム良く揺らしながら、口を小さく動かしていた。足の動きは何かのリズムに合わせており、それに乗って口からも音が奏でだした。

「この間のライブは本当楽しかったなあ」

 ヨッシーの言うライブとは、毎週土曜日の夜8時より、どうぶつの森にある村、すま村にて行なわれるライブのことである。白い犬に太い眉毛がポイントなギターミュージシャン──とたけけが毎週ライブを行なっているのである。
 とたけけのギターライブを楽しみにしているファンも多く、村の住人だけでなく、マリオらスマブラの殆ども聴きに来ているのである。
 この間のライブで演奏していたタイトルを、うろ覚えだが思い出しつつ口ずさんでゆく。彼の曲はどれもこれも印象に残るものばかりで、歌わずには要られない気持ちになってしまう。ヨッシーも、すっかり彼のファンになってしまったのだ。

「うーん、ここにいても何だか落ち着かなくなってきたなあ……」

 気付けば太陽は真上まで来ていて、最も気温が高い時刻になった様だ。おまけに熱い気持ちからか、気温と共に体温が上がる。今まで海は憩いの場に使っていたのだが、自分の中では、暫く無理になってしまった様だ。

(島から移らなければならないけど……)

 もう一つの憩いの場を、ヨッシーは知っている。そこで休もうと決め、浜辺を後にした。




 ヨッシーのもう一つの憩いの場、そこは森だ。
 ここは季節に従って様々な季節色に彩られる。もう秋だから、葉っぱはすっかり赤色系の色に染まり、地面は落ち葉の絨毯となっていた。だが、木からまだ離れない葉っぱ達も沢山あり、青い空をオレンジ色に染めている。

「故郷からちょっと遠いけど、やっぱ落ち着くなあ」

 紅葉の森を眺めながら、ゆっくりと歩を進めていく。寝転がることも出来る、安心した森だが、暫く観賞してから寝る場所を決めようと思った。
 そんな時である。

「……あれ?」

 ヨッシーはふと立ち止まった。遠くから、微かだが音が響いてきたのだ。最初は何の音だろうと気になり、耳をすました。少しずつ歩んでいく度に、段々音も良く聴こえてくる。この音は……ギターだ。

(もしかして?)

 正かとも思うが、期待に思わず胸を躍らせ、自然と歩くのが速くなる。軈て、ギターの音はハッキリしてきた。そして、ヨッシーの予想通りだった。
 一本の木の奥で寄り掛かる様に座り、何かを演奏している白い犬がそこにいた。白い犬にアコースティックギター──とたけけだ。彼はギターと歌の練習に集中しているらしく、ヨッシーが近くまで来ても気付いていない。
 今回も新曲なのだろうか。ヨッシーがまだ聴いた事のない曲を演奏している。今回の曲も、聴いているだけで心が癒される。先取りするのも何だけど、はまり込んでしまったらそれまでだ。ここから離れるのも何だか惜しい。ただ、練習の邪魔にならない様に、その場で聴くことにした。
 そして曲は間奏に入り、ギターと口笛に入る。
 飽きる事の無い一曲。全ての曲を、彼自身が作りあげたとは思えない。曲って考えるのも大変だろうけど、それを聴く人達に送り届けて、心へ響かせるのは凄いと思った。
 しかしその時である。ヨッシーの側に落ちている、一本の枝。ヨッシーがそれを踏んだ途端、パキッ! と、意外に大きな音が鳴ってしまったのだ。

(しまった!)

 ヨッシーが焦っても、もう遅い。とたけけの演奏が中断されると、彼はこちらへ素早く振り向いた。誰かに聴かれていたのには気付かなかったし、ここにいるのは自分一匹だけだと思っても無理はない。

(ああどうしよう、怒られるっ……)

 彼と目が合ったヨッシーは、言い訳も見付からず、ギュッと目を瞑ってしまった。何てことをしてしまったのだろう。演奏の邪魔をしてしまっては、叱られるのもしょうがない。
 だけどとたけけは彼を見ていると、フッと口端を上げた。

「練習中の所を見られてしまったね」

 と、照れ臭く言って。
 ヨッシーは目を開き、彼を見ては戸惑う。彼は怒るどころか、笑っているのだから。

「……えっと、怒らないのですか?」
「何でだい?」

 とたけけは目をぱちくりさせた。

「だって、練習していたのでしょう? それを邪魔しちゃ、失礼な事ですし……」
「確かに乗っていたけどね。ずっとそこで聴いていたのかい?」
「えっ。あ、ハイ」
「じゃあ許すよ。ぼくの練習を静かに聴いていてくれていたってことなんだろう? その気持ち、とても嬉しいからさ」

 良かった、許してくれるんだ。
 ヨッシーはホッと安心しきった。嫌われてしまったらどうしようと悩んでいた所だったから。

「こっちへ来たらどうだい? えっと、君は……」
「あ、ヨッシーです」
「ヨッシーだね? 次回のライブで演奏する曲、一曲だけヨッシーに特別に聴かせてあげるよ」
「本当ですかっ? ありがとうございます!」

 ヨッシーは本当に嬉しく、一回そこで軽くジャンプしてから、早速とたけけの前に座った。
 とたけけは彼のその反応に微笑んだ後、ギターを軽くチューニングする。そして客の前でいつもする様に、曲名を上げた。

「それじゃあ、聴いてくれ。『だいすき』」

 リズムに乗る為に一端体を小さく振ってから、指で器用に弦を弾き始めた。イントロだけでもとても癒される音で、聴いているだけで幸せになってゆく音楽だ。
 『だいすき』と言うタイトルを思い出す度、彼の曲に乗りながら、ヨッシーの中では様々な思い出が描かれてゆく。アイランドの仲間達、一緒に乱闘をしているファイター達……。
 色々なことを思い出している内に、軈て演奏は終わった。ヨッシーは少し涙目になりながら、パチパチと手を打った。

「とっても感動しましたっ」
「ありがとう、聴いてくれて」

 とたけけはニコッと笑った。
 その場で直ぐに別れるのも何だと言う事で、とたけけは休憩時間の間、ヨッシーと話をした。

「ヨッシーの姿、毎週見掛けるね。いつも聴きにきてくれてありがとう」
「だってぼく、とたけけさんの曲大好きなんです!」

 ヨッシーは鼻息を鳴らしそうな勢いで言った。

「とたけけさんのCD、全部持ってるんですよ。マリオさんや他の仲間の家へ寄らないと聴けませんが、いつも聴いているんです。勿論、マリオさん達も喜んで一緒に聴いてるんです。ファイターは皆、とたけけさんの曲が大好きなんですよっ」
「そうなんだ」

 とたけけは、聴いてくれる人と一緒に話す機会は滅多に無い。だから、その中の一人と話が出来るのを嬉しく思っていた。中でもいつも聴きにきてくれている、ヨッシーと言う子と話が出来るだなんて、夢にも思っていなかった。

「いつもここで練習しているのですか?」

 ヨッシーが聞くと、とたけけは頷いた。

「たまにね。でも本当は草原とか、建物の少ない場所で練習した方が良いんだよ」
「そうなんですか?」
「うん。室内とか建物の多い場所で音を出すと反響し易くて、自分の鳴らすナチュラルな音があまり聴こえないんだ。だから、あまり周りに物とかがない、広い場所で練習した方が良いんだよ」
「へえ、そうなんですか! でもこの森は木がいっぱいあるから、音も反響し易いのでは?」
「そうなんだけどね」

 とたけけは、自分のギターを見下ろした。

「たまにこの森へ来ると、良い音が出せるんだ。これを買った時に店主が、このギターはここの森の木で作られたって言ってたからね」
「故郷に帰ってきた気分で、嬉しいのでしょうね」
「そうだろうね──ところでヨッシーは、恐竜なのかい?」
「そうですよ」
「ヨッシーの住んでいる所、少し気になるな。一体どこなんだい?」
「ヨッシーアイランドってところです。あそこにはスーパーしあわせのツリーがあって、あれのお陰でぼく達、いつも幸せに生活しているんですよ……少し前に奪われて、大変だったんですけどね」
「盗まれた? それじゃあ、幸せも失ってしまったってことだよね?」
「あ、でもちゃんと取り返せたんですよ。今は既にいつもの生活に戻っています」
「そうなんだ。良かったらその話、聞かせてくれないかい? 興味があるんだ」
「はい! いいですよっ」

 ヨッシーはそれから数々の冒険を意気揚々と語っていた。辛かったこと、楽しかったこと、大変だったこと、強敵と戦ったこと、危うく罠に落ちそうになったこと、沢山の思い出が詰まっている冒険を長々と語る。その間は、とたけけもとっくに過ぎている休憩時間を忘れてしまう程、彼の話に静かに夢中になっていた。ヨッシーの気持ちはとたけけにも伝わって、とたけけは自然と笑顔になってゆきながら耳を傾けていた。

「……と言う訳で、無事スーパーしあわせのツリーを取り返し、絵本だった世界も元に戻り、平和になったんです」
「本当に絵本のお話みたいだね。思わず聞き入ってしまったよ」
「えへへ、つい熱くなっちゃいました」

 ヨッシーは照れながら頭を撫でた。

「ヨッシーアイランド、か。良かったら今度、是非寄りたいね」

 それを聞いたヨッシーは、驚いたと言うか、嬉しいと言うか、どちらともとれない程な表情をしていた。

「是非っ! 今度遊びに来て下さい!」

 勢いのある返事にとたけけは驚きを隠せず、目を見開いてしまったが、彼の輝く目を見ると、表情を治してから頷いた。

「分かったよ。もし寄れたら、そこで演奏するね」
「ありがとうございます!」

 そして一端会話を終わらすと、気付けば日が暮れて来ていた。ここは紅葉の森だから、夕暮れになっていたのに気付かなかった。いつもより暗くなっているのは確かで、二匹は話にすっかり夢中になっていたことに気付いた。

「あれ、もうこんな時間なんだ」
「ああすみません! 練習時間が……」
「ううん、大丈夫だよ。十分練習したからね。さあ、もう暗いし、ヨッシーの友達が心配してるんじゃないのかい?」
「そうですね。今日は有り難う御座いました! ライブ、頑張って下さいね!」
「ありがとう。また、聴きにきてくれよな。待ってるからさ」
「勿論ですっ! それでは!」

 ヨッシーはとたけけに手を振りながら森から去って行った。とたけけは彼を見送った後、もう一度木を背に付けて座り、ギターを構えた。
 ヨッシーが話した事を全て思い出しながら、ふとギターから音を出してみた。そして、軽く音を奏でてみる。

「……」

 口から音を出し、それに合わせてギターも同じ音を出す。3、4小節位鳴らして、納得がいくまでそれを何度もリピートさせてみた。

「……」

 そして、大分良い感じになってきたと思った彼は、何かを閃いたのだ。




 土曜日の夕方頃。
 とたけけライブの為に、すま村の住人達の他、ファイターも結構な人数で来ていた。勿論その中にはヨッシーもいて、この間のことを思い出しては凄く笑顔になっていた。

「ヨッシー、何か嬉しいことでもあったの?」

 隣の切株に座ったマリオが、怪しい目でにやつきながらヨッシーを覗き込んだ。ポケーッとしていたヨッシーは、マリオに呼ばれるとハッと我に返った。だが笑顔は絶やさない。

「えへへ、ちょっとね」
「?」

 マリオは気になりながらも微笑んでいた。きっととても良いことでもあったのだろう。ヨッシーが幸せだと、何だかこっちまで幸せになる。本当、不思議な恐竜だなと、マリオは思った。
 そして、8時の鐘が村中に鳴り響いた。鳴り終わると、それを合図に、大きな切り株ステージの天井に設置されているスポットライトから中心へ向けて光が放たれる。照らされるのは、一つの椅子用丸太。
 ライブの主役が、ギターを両手に舞台に上がった。客は皆、待ってましたと大きな拍手を送る。

「今日はどんな曲なんだろうね!」
「ピッカチュウ!」

 拍手しながら、ファンシーズは話をした。
 とたけけは軽くお辞儀をし、椅子に座る。そして組んだ短い足の上にギターを乗せて固定する。
 ふと顔を上げれば、真ん中の少し前辺りにあの子の姿が。彼を見ると密かに微笑み、拍手が静かになったとこでギターを弾き始めた。
 とたけけのお馴染みの曲や新曲が何曲か演奏される。客も誰一人飽きず、彼の音楽に魅力された。
 何曲か終え、突如とたけけは口を開いた。

「みんな、いつもライブに来てくれてありがとう。ぼくが毎週ここに来るのも、楽しみにしていてくれているみんながいるからだ。この村へ招いてくれたことに感謝したい。ありがとう」

 そう言うとたけけに、客席から再び拍手が響く。

「みんなに感謝の気持ちを込めて、この曲を送るよ。それじゃあ、聴いてくれ」

 ヨッシーが前に聴いた『だいすき』が演奏される。初めて聴く者は、ほとんどヨッシーと同じ気持ちを抱いている様だ。中には涙を流している者もいた。ギターの優しい音色と独特な歌声は、すま村から森へと優しく流れていった。
 そして演奏が終わると、声と共に拍手が起こった。

「ブラボー!」
「とたけけー!」

 そして拍手が止むと、とたけけはその場で一端音を一つ鳴らした。次の曲の出だしを確認したのである。

「それじゃあ最後になったけど、これは最近、素敵な思い出が生まれた日に作った曲なんだ。是非最後まで聴いてくれ」
「何だろ何だろ!」
「ピカァ」
「楽しみでしゅっ」
「カービィ達、静かにしてなきゃダメだよっ」

 ヨッシーも、一体何なのか、ドキドキする程楽しみで仕方なかった。

「それじゃあ、聴いてくれ」




『ヨッシーのおはなし』




 それは誰にも予想していなかった曲名だ。無論、ヨッシーも驚くばかりである。
 皆の反応は気にせず、とたけけはギター音を流した。始めのゆったりした感じの後は、やがて軽快なリズムへと変化した。今までの曲と比べて雰囲気も違う。新鮮なソングに客の一部も、わぁっと声を上げてしまった。
 元気が溢れて、優しさも詰まった、けど、どこか切なさも感じさせる音楽で、きっと全員の心に刻まれたことだろう。ヨッシーは、とたけけに一回しか話さなかったヨッシーアイランドでの大冒険を、こんな風に曲にしてくれるとは思わず、驚きと感動に胸が熱くなっていた。
 そして演奏が終わり、一瞬だけしーんと静まり返る。

(ヨッシーが嬉しそうな理由が分かった)

 マリオは隣りのヨッシーを見て微笑した後、立ち上がり、拍手をした。続いてファンシーズも立ち上がり、拍手をする。そして一人一人が立ち上がっては拍手を送り、今までよりも最も盛り上がった拍手喝采だった。最後にヨッシーが立ち上がり、涙を零しながら手を打っていた。とたけけも最後まで弾けてご満悦らしく、滅多に見せない明るい笑顔をして頭を下げた。




 ライブが終わり、とたけけがギターケースを片手に去ろうとした。

「とたけけさん!」

 ヨッシーは息を荒らしながら彼の後ろまで追い付いた。とたけけは立ち止まり、彼に振り返る。

「やあ、ヨッシー」
「あ、あの……」

 最初は何を言えば良いのか一瞬迷ってしまったが、冷静になると、最初に言うべきなのはこれだ。

「あんなに素敵な演奏、本当に有り難う御座いました!」

 深々と頭を下げるヨッシーを見て、とたけけも頭を下げた。

「こちらこそ、素敵なお話を有り難う」

 ヨッシーはそんな彼を見て、首を横に振った。

「たった一回お話しただけなのに、あんなに良い曲を作ってくれるだなんて……とたけけさんはやっぱり凄いです!」
「『けけも歩けば棒に当たる』ってね。あの森で練習していなかったら、ヨッシーとは会えなかったよ。こっちが感謝したい位さ」

 ヨッシーは感激なあまり涙を零し、ニコッと笑った。

「じゃあまたね。また、聴きに来てくれよな」
「はい! 頑張って下さい!」

 とたけけは手を上げ、やがてすま村を去った。ヨッシーは、彼の姿が消えるまで、その場で見送った。




 ヨッシーは、これからも毎週欠かさず、絶対にとたけけライブへ行くと決めた。
 そして、またあの森へ行こうとも思う。きっとまた、あのギターの音が聴こえるかも知れないから……。










 ──Fin──








 【後書き】


 遂にやってしまいました(爆)。正に自己満足ですね。でもとたけけもスマブラXに出ていますし……OKですよね?
 二匹共戸高キャラと言うことで、この二匹をメインに頑張りました。本当はピクミン達も絡ませたかったけど、絡ませる手段が見つかりませんでした(汗)。

 因みに『ヨッシーのおはなし』と言う曲は本当にあります。ヨッシーストーリーのエンディングがこの曲名だったりします。これを聴いて、とたけけが弾いている様子をイメージしてしまいました。他のファンもどうぶつの森っぽいと言っていましたし。
 聴いた事の無い方は是非聴いてみて下さい。とても素敵な曲です。
 この曲に感動したあまり、いつか小説化したいと思い、漸く書くことが出来ました。この曲を聴きながらこの小説を読んで頂けるともっと嬉しいです。

 この様な出来ですが、お楽しみ頂けたら幸いで御座います(深々と土下座)。