再会








 静まる暗い森の中から白い光が現れた。徐々に大きくなり、そして小さくなる。光が消えた途端、マリオ達がそこに現れた。

「うわわわあぁっ!?」

 少し高いとこで宙に浮いていたので、マリオ達はバランスを崩し、地面へ次々と落ちて行った。その中でもリンクとスネークは、無事地面に足を付いて着地出来たが、マリオはピカチュウとカービィの下敷きになってしまった。

「むぎゅっ」

 二体が背中を直撃した瞬間に変な声を発してしまい、マリオの頭からは、暫く小さな星がチカチカと輝いていた。

「だ、大丈夫ですか?」
「何とかね。ったく、変な所から出さないで欲しいよ」

 マリオは痛む頭を片手で抱えながら立ち上がった。ピカチュウはマリオの頭の上、カービィはふわふわと空中浮遊した。

「ここは?」

 辺りは木や葉が生い茂っている。かさかさと、深緑の葉っぱが擦れ合う。葉が傘となっている為か、日が全く差し込まない。その為、遠くを見詰めても暗闇が広がるだけで見渡す事は困難だった。茶色の道が無ければ、スネークであっても迷ってしまうだろう。
 不安に包まれるマリオ達だが、唯一恐れていないのはピカチュウだ。怖がる所か、耳を異様に動かしながらキョロキョロさせている。

「どうした、ピカチュウ?」

 マリオは目線だけを上に向けて問うが、ピカチュウは他の声は耳に入っていない様子で、とにかく辺りを見回していた。

「どうやら」

 スネークは顎に手を当てて推測した。

「この森は、黄色い鼠さんには心当たりがあるみたいだな」
「もしかしたら故郷なのかも知れませんね」

 続いてリンクが言った。

「こんな暗闇の森が、ピカチュウの故郷?」

 マリオは眉を顰めた。信じられないでいたのだ。

「どうして?」

 と、カービィは浮遊しながらマリオに訊いた。
 マリオには分かるのだ。否、他の人もそうだろうが、この森からは密かな殺気が漂っている。四方八方問わず、どこから何かが現れても不思議では無い状況だった。
 戦士達はそれぞれの方向に背中を合わせて目線を向けた。

「……何か来る……様な気がしないでもない……」

 マリオはぽつりと呟いた。リンクは剣の柄に手を掛けながら辺りをねめ回す。ピカチュウは不安ながらも、頬から僅かに電気を走らせた。カービィは武器のカッターを片手に取り出した。スネークも懐から小銃を構える。
 その時、ある茂みがガサガサと揺れた。マリオ達の視線がそこへ集まった瞬間、茂みから何かが飛び出して来た。

「うわっ!」
「マリオさん!」

 紫色のヘドロがマリオ目掛けて発射された。リンクが咄嗟にマリオの前に立ち、盾でヘドロ攻撃を防御した。
 茂みから現れたのは、攻撃時と同じヘドロの色をした怪物だった。怪物の通った後の草や茂みは音を立てて溶けてしまっている。

「な、何だこいつ!?」
「えいっ!」

 カービィがヘドロの怪物目掛けてカッター攻撃をくらわせるが、ヘドロにカッターは沈み込んでしまうだけで何も効果も無かった。更に、カッターはヘドロに食い込んだまま抜けなくなってしまった。

「あ、あれれ? わあ!」
「カービィ!」

 怪物の手にカービィは弾き飛ばされた。スネークは、飛んで来たカービィを受け止めた。

「何なんだよこいつはっ」

 怪物はじりじりとこちらへ迫って来ている。倒す術はあるのか、マリオ達は内心焦った。
 その時だった。

「ピカチュウ! 十万ボルトだ!」

 どこかからか若々しい男の声が聞こえた。誰の声だとマリオ達は戸惑う。
 だが、ピカチュウはその声に反応すると、即座にマリオの頭からジャンプした。そして頬から大きな電流を流し出す。ヘドロの怪物に手を当てるか当てまいかの所で巨大な電撃を放った。怪物は悲鳴を上げ、ピカチュウの十万ボルトを喰らうとその場に倒れた。

「怪我は無い?」

 別の方向の茂みから現れたのは、赤いキャップに赤い上着、ブルーのジーンズに、黒い指無し手袋をはめた少年だった。

「ピッカァ!」

 ピカチュウは躊躇いも無くその少年に抱きついた。嬉しそうな顔をして頬にすりすりさせている。少年も微笑みながら、ピカチュウの背中を撫でた。

「久しぶりだな、ピカチュウ」
「ピカピ!」

 一人と一匹の一部始終をぽかんと見守るマリオ達。少年はピカチュウを片手に抱きながら、マリオ達に振り向いた。

「ここに来ちゃ駄目じゃないかっ。トキワの森は現在立入禁止なんだぞ。今、危険なんだから」
「危険ですって?」

 リンクは武器をしまうとおうむ返しをした。

「前からこの森の様子がおかしくなっているんだ。でもその話は後だ。怪我したポケモンもいるからな」
「ポケモン?」
「おじさんが今抱いているピンク丸の事だけど……もしかして新種?」
「ああ、こいつの事か」

 スネークは気を失っているカービィを見下ろした。

「生憎、こいつはポケ物じゃないんだ」
「そうなんだ。でも、怪我してるな」

 少年はスネークの前まで歩み寄り、カービィの攻撃を受けた部分に手を添えながら言った。

「とにかくトキワシティまで案内するよ。この子の手当てもしなくちゃならない。それに皆、見た目旅行者っぽいからね。俺が案内するよ」

 少年は背中を向けると歩き出した。マリオ達は顔を見合わせたが、いつまでもここにはいられないなと頷き、少年の後を追った。




 トキワシティは、トキワの森の隣にある、緑に囲まれた小さな町だ。
 とある小さな民家へ、少年は彼等を招待した。
 民家の人は安静させようと、カービィを寝室のベッドに寝かせた。カービィは多少怪我していたが、命に別状は無い。それを聞いたマリオ達は胸を撫で下ろした。

「トキワシティへようこそ。あんな森にいて大変だったわね」

 キッチンから、紅茶を盆で運ぶ中年女性が現れた。テーブルについているマリオ達の前に、その紅茶を差し出す。マリオ達は彼女に軽く会釈した。

「ピカチュウは元々、俺のパートナーだったんだ。あ、そうだ。自己紹介まだだったね」

 紅茶を啜った後、少年は言った。

「俺の名前はレッド。ポケモントレーナーだ」
「ポケモントレーナー……」

 ピカチュウが彼に懐いていると言う事は、彼が噂に聞くポケモンマスターか。見る限り十代の少年である。もっと大人だと想像していたマリオは次第に驚いていった。

「君が噂のトレーナー頂点なんだ!? 凄いな!」
「うーん、自慢になっちゃうけどそうなんだよね」

 レッドは照れ臭く笑いながら自分の後頭部を撫でた。だが、話を切り替えようと表情を険し目にした。

「実は、トキワの森に住んでいる筈の無いポケモンが住み着き始めてるんだ」
「住む筈の無い?」
「そのポケモン達に制圧されて、森に住んでいる虫ポケモンが減り始めてるんだよ。今、警察達が森の出入りを禁止しているんだ。住み始めたポケモンは皆凶暴系だからな」
「チュー……」

 レッドの側でポケモンフードを頬張っていたピカチュウは、彼の話を聞くとしょんぼりした。レッドは、ピカチュウを慰めようと頭を優しく撫でた。

「黄色鼠のふるさとにしちゃあ、おかしいと思った」

 スネークは腕を組みながら言った。

「どんよりしていたしな」
「あの暗さはトキワの森の特徴の一つだから、それは気にしなくても構わない。ただ、野生のポケモンが容赦なく通行人やポケモンを襲うのが問題なんだ。ロケット団はとっくに解散してしまっているし……」
「ロケット団?」
「ああ、もう昔の話。ポケモンを使って悪巧みを繰り返して来た連中だよ」
「レッドさんが、ロケット団を倒した英雄なのよ」

 一緒にテーブルについていた女性が言った。マリオ達は感心の声を上げた。

「お、おばさんっ!」

 レッドは顔を若干焦らせ赤くしていたが、軽く咳払いして話を戻した。

「まあ、とにかく大変なんだ」
「ところでレッドさん」

 リンクは顔を少し前に出してレッドを呼んだ。

「トキワの森の様子がおかしくなったのは、いつ頃からですか?」
「リンク?」

 マリオは小首を傾げて彼を見た。レッドも少し目を丸くしたが、即座に答えた。

「……トキワの森の上空から、何か光りが落ちて来てからだ」
「光っ……!」

 マリオも少し前に乗り出した。レッドは、何だ何だとても言う様にマリオ達を交互に見た。

「マリオさんっ」
「ああ。恐らく、あの欠片だ」
「あ、あの、貴方達は一体……」

 混乱しているレッドと民家の人達。マリオは彼等に事情を話した。

「……あまり信じ難い話だけど、マリオさん達がその為にあの森へ来たのならば、信用しないでも無いな……」

 レッドは顎を指で掴みながら考え込んでいた。

「でも、今はあの森に入る事が出来ないんだ。分かるだろ? マリオさん達の仲間が怪我したんだ」
「そ、そうだよね」
「少なくとも、警察の許可が下りるまではこの町にいた方が良い。俺も解決したい問題だけど、ロケット団の事件以来、警備が厳しくなっちゃってさ」
「……ん?」
「どうした、スネーク?」

 レッドの話を聞いた後でスネークは顔を上げた。

「なら、何であんたはあの森に入れたんだ?」
「! あ、えぇとそれは……」

 レッドはスネークの質問に珍しく口籠らせた。そんな彼を見て呆れる女性と、吹き出すリンク。

「やっぱりポケモンマスターも、子供の好奇心には適いませんね」
「……まあ、ボク等もそんなキャラだけどね」

 マリオが肩を竦めると、部屋内に笑い声が響いた。




 カービィを民家の住人達に任せ、マリオ達は民家前で一端バラバラになり、情報集めをしにトキワシティの町中を歩き回った。色んな人の話を聞くと、確かにトキワの森に流れ星が落ちて来たと言う情報が多くあった。

「やっぱり、ボク等の予想が正しかったら、あれは……」
(だけど、どうしてそれであの森の様子が変になったのだろう)

 そう考えながら、マリオは道を歩いていた。
 トキワシティは小さな街だが、環境を考えた静かな場所でもあり、マリオは心が安らいだ。

「こんなに良い街の隣に、あんな危険な森があるだなんて、信じられないなぁ」

 頭に両腕を回し、気晴らしに散歩してみる事にした。
 歩いていると、湖のある広場に出た。子供がボールからポケモンを出し、バトルを繰り広げている。側にある看板を見ると『トレーニング広場』と書かれていた。

「へえ。あんな風にバトルをしてるんだ」

 自分の出したポケモンにトレーナーは技を命令し、それを聞いたポケモンはその技を繰り出して相手のポケモンにダメージを与えている。マリオは、静かなこの町とバトルの迫力さなギャップに思わず魅入っていた。興味をそそられ、その場から見物をする。

「行け! モンスターボール!」
「え、ボール?」

 レッドの話に寄れば、トレーナーのポケモンは他のモンスターボールで捕まえる事は出来ないと言う。つまり、今あのトレーナーが戦っている相手は、野生のポケモンって事か? 気になったマリオは、対戦相手を見た。相手はポケモンだけでトレーナーはいない。そのポケモンは、トレーナーの繰り出すボールを必死で避け、あちこち逃げ回っていた。何だかピカチュウの面影がある様な無い様な……。

「……あ!」

 思い出したとマリオは声を上げ、逃げているポケモンを見ながら言った。

「ピチュー!」

 ピチューは野生のポケモンと間違われ、トレーナーに捕まろうとしていた。確かに誰のものでも無いが、スマブラの一匹だと言うのはマリオには見抜けた。他の見知らぬ人物に捕まったら大変な事になる。マリオが慌ててトレーナーを止めに入ろうとした時だった。
 何かを耳にしたピチューとマリオは、ほぼ同時に立ち止った。どこからともなく心地良い歌声が響いて来た。あまりにも気持ち良い歌い方で、思わず眠気を誘う歌と言えば……悟ったピチューとマリオは、慌てて耳を塞いだ。トレーナーとポケモンはその歌声がどの方向から来てるのか目で探すが、見付けるよりも先に睡魔が彼等を襲う。次第に瞼を重くしていき、遂には座り込んで眠ってしまった。歌声が止み、マリオ達は耳を解放した。

「ピチュー」

 僅かながら怯えているピチューに、マリオは歩み寄りながら優しく呼んだ。その声に耳を動かしてピチューはこちらを向くと、さっきまでの表情はどこへやら、一気に明るい顔に変わった。そしてマリオに飛びついた。

「ピチュッ!」
「おっと」

 勢いを抑え、立ち直ったマリオはピチューを抱き締め返した。

「ピィチュゥ……」
「良かった、無事で」

 心細かったのか、ピチューは大粒の涙をポロポロ流していた。

「マリオしゃーん、ピチュー」

 道の向こうからプリンが片手を振りながらとてとてと歩いて来た。言葉が話せるので、スマブラである事を確認出来た。

「大丈夫だったでしゅか?」
「何だプリン。リサイタルでも開いてたのかと思った」
「う……そ、それは、言わないでくだしゃい……」

 プリンはしゅんと落ち込んでしまった。気に障った発言だったとマリオは焦って謝罪した。

「ごめんごめん! とにかく助かったよ」

 それでもプリンは落ち込みながら紡いだ。

「本当はリサイタルを開きたかったでしゅが、自分の能力を考えると、最近躊躇っちゃいましゅ……」
「最近、ねえ」

 少しの沈黙が過ぎた後、プリンは、ハッと思い出したかの様に顔を上げた。

「そう言えば、良くこの世界へ来れましたね。何かあったんでしゅか?」
「あ、そうなんだよ。実は……」
「えー!? 王様の宝玉が! 分かりました。力になりましゅっ」

 ピチューもマリオの話を聞いて驚いたが、一声上げて、自分も力になると伝えた。

「サンキュ。ところでさ、ミュウツーもこの世界にいるんじゃないのか?」

 ミュウツーも、遺伝子でありながらもポケモンである。ピチュー達と同じ世界にいると思っていたのだが。

「それなんでしゅが、どうやらミュウツーしゃんは別次元のポケモン世界にいるみたいでしゅ」
「別の? そんなのってあるんだ」
「ミュウツーしゃんは、別次元のここと同じ世界から来たんでしゅよ」
「ふーん」

 次元が違っても、住む国は同じって事か……何ともややこしい空間だ。考えれば考える程頭が痛くなる。いずれにせよ、彼との再会はまだ先の事であろう。

「取り敢えず、ピチューをポケモンセンターへ連れていくでしゅ」
「ポケモンセンター?」
「平たく言えば、ポケモンの病院でしゅ」
「ああそう」
「こっちでしゅよ」

 ピチューはスマッシュ戦士であっても、まだ半人前である。自分から放つ電撃に自分が感電してしまうからだ。もしかしたら、さっきのバトルで、体力をかなり使った事だろう。
 そう思いながらマリオはプリンの後について行った。
 だが暫く歩いていると、突如地面が音を立てて揺れ出した。

「うわっ! 何だ!?」
「じ、地震でしゅか!?」

 周りの者達も地面の揺れに酷く驚いている。地震にしては揺れはまだまだ強いまま続いている。尋常じゃない、と、マリオ達は顔を見合わせた。

「マリオさん!」

 そんな中、レッドがマリオ達の前に慌てて現れた。

「レッド!」
「トキワの森からだ。マリオさんの仲間達もそこに向かってる」
「急ごうっ。ピチュー、行けるか?」
「ピチュッ」




「駄目だ! 入ってはいけないっ!」

 案の定、元凶の地はトキワの森からである。
 しかし、マリオや仲間達は入り口で止められた。入ろうとした寸前で警察官達が止めに入ったのだ。おまけに女警察の抑える力も強い。

「お願いです、ジュンサーさん。入らせてくださいっ」

 レッドは押さえ付けられながらも懇願するが、相手は当然聞き入れない。ジュンサーと呼ばれた女警察官も、首を横に振った。

「駄目よ。例えレッド君だろうと、中はとても危険なの。ここは私達に任せなさい」
「どうしましょう、マリオさん……」

 リンクは眉を顰めながらマリオに振り向いた。

「っくそ……!」

 悔やんだ顔でトキワの森を見詰める。
 だが、気付けば警察官が全員地面に突っ伏していた。良く見れば、全員眠りについているのだ。いつの間にこんな事になっていて、マリオ達は唖然としていた。

「……プリン?」

 気付かぬ内にプリンがうたって眠らせたのかと、誰もが思っていた。一部を除いては。

「え、違いましゅよ?」

 プリンはきょとんとしながら手を振った。彼女じゃなければ、一体?
 すると、彼等の横を、翼の音と共に風が襲う。レッドの側で、大きな蝶がバサバサと飛んでいた。レッドは、目を丸くしているマリオ達にウィンクをした。

「バタフリーの『眠り粉』で眠らせたんだ。こいつの効果は抜群だからね」
「流石、ポケモンマスターだな」

 マリオは、ホッとした笑顔で言った。

「警察官達をなるべく安全な場所へ移そう」
「彼女達の事はあたし達に任せな」
「! おばさん!」

 そこにいたのは、マリオ達が世話になった民家の人達だ。

「あんた達はトキワの森の怪物達を食い止めておくれ。この世界の未来は、あんた達に委ねたよ」

 中年の女性は親指を立てて言った。

「……はい!」

 マリオ達は大きな声で返事をすると、トキワの森へ入っていった。走る彼等とは逆方向へと逃げて行くポケモン達。きっと、奥に何かがあるに違いない。最初に来た時はあまり明るく無かったこの森も、今はある方角から赤い光が怪しげに照らされていた。後先考えず、マリオ達は森の中を駆けて行く。
 大分赤い光まで近付いたその時、その方向から突如炎の光線が放たれた。

「うわあ!?」
「マリオさん! 危ない!!」

 レッドはマリオを押し、他の戦士達もその場を急いで離れた。彼等がいた場所を炎が勢い良く通過し、広範囲の森を包み込んだ。今まで深緑に染まっていた森が、一辺に赤く燃え広がった。

「……何て威力だ……っ」

 マリオ達は息を呑み込んだ。

「これほどの力……野生ポケモンにしちゃあ桁外れだ」

 レッドは道に大きく残った焦げ跡を見ながら言った。

「誰かさんのモンスターって訳か」

 地面に倒れ込んでいたスネークは、上半身を起こすとレッドに尋ねた。

「可能性はある」
「一体誰がこんな事を……っ」

 リンクは立ち上がると剣と盾を構えた。
 レッドの頭の上にしがみついていたピカチュウは、燃える木々を見て表情を怒りへと変えていった。トキワの森はピカチュウの故郷で、それを汚す者を許せないでいるのだ。マリオはピカチュウを見て痛く思った。
 その時、また地面が揺れた。今度はリズム良く、そして、次第に大きくなっていく。巨大なものがこちらへ歩いて来る感覚だ。マリオ達の目の前に現れたのは、ドラゴンの姿をしたポケモンだった。燃える様なオレンジ色をした体と翼を持ち、尻尾の先には大きな炎が揺らめいている。
 そのポケモンは口を大きく開き、思い切り息を吸い込む。

「! 皆さん! 急いでここから離れて!」

 リンクは声を荒げてでも全員に呼び掛けた。言われなくても分かってると、マリオ達はその場を走った。ドラゴンのポケモンは息を吹くと同時に灼熱の炎を吹き出し、反動で跳ね上がる炎の波がマリオ達を襲う。

「だあっちちち!」
「マリオさん!」

 マリオの尻に炎が燃え移ってしまい、マリオはそこを抑えながらあちこち走り回った。暫くして漸くマリオの炎が消え、痛そうな表情で尻を擦った。
 レッドは、少し奥に見える例のポケモンを見て呟いた。

「……リザードン」

 リザードンは雄叫びを上げながら、辺り一面を炎で焼き尽くす。まるで我を忘れている様で、とにかく燃やす事しか頭に無い様だ。

「あんなに狂気に満ちたポケモンは見た事無いっ」

 レッドは、熱に寄る汗と冷や汗を流しながら言った。

「あのポケモン、何かあったのか?」
「分からない。でも、今は一刻も早くあいつを止めなくちゃっ」
「お、おいレッド! 待ってよ!」

 レッドは走り出し、マリオも慌てて走った。
 ピカチュウはレッドの頭の上から飛び、電光石火でリザードンへ向かった。そして、頬から電気をぱちぱちと鳴らすと、

「ピイィィカアァチュウウウウウゥゥッ!!」

 リザードンへ電撃をクリーンヒットさせた。

「グアアアァァ!!」

 リザードンはまともにくらい、悲鳴を上げた。

「やった! リザードンはひこうタイプだから、電撃は効果抜群だ」
「よしっ! じゃあこれで……」

 勝利の希望が見えて来たと思い込んだが、それはまだだ。リザードンはただ声を上げただけで、ピカチュウの攻撃は、彼にとっては蝿並だった。

「ピッ!?」

 ピカチュウは驚きのあまり体を動かせない。リザードンは、足元にいるピカチュウを見下ろすと、足をゆっくりと持ち上げた。

「ピカチュウ!」

 レッド達が呼び掛けても、ピカチュウはその場で止まっている。足が竦んでしまったピカチュウ目掛け、真上からリザードンの大きな足が襲う。このままだと踏み潰されてしまう。もう駄目だと思った時だった。

「ピカッ」
「!」

 別の方向からピカチュウと同じ声が聞こえた。すると、リザードンは足を止め、ゆっくりと降ろした。やっと動けたピカチュウは、レッドの頭の上に戻った。

「……ピカチュウ……じゃない……誰だ……?」

 マリオはどこかで聞き覚えのある声だった。と言っても、レッドの頭の上にいるピカチュウとは、僅かながら違和感があった。怪しげな声……正か……。
 リザードンの肩に、もう一匹のピカチュウがひょっこり現れた。そのピカチュウは口端を上げ、ニヤリと怪しげな笑みを浮かべていた。おまけに、目が赤かった。持ち場へ戻ったプリン達も、リザードンの肩に乗っかっているポケモンを見上げた。

「久しぶりだね、マリオ隊長」

 プリンの翻訳能力で、ここにいる者達は、もう一匹のピカチュウの言葉を理解した。久しぶりだって? マリオは嫌な予感がした。

「ま、正か……」

 マリオは恐る恐る問い掛けようとしたが、一気に名前を発した。

「お前は……クルヴィ!?」










 ──to be continued──