プリンの母性








「だ、誰でしゅか?」

 プリンは息を呑んだ。自分の他にも洞窟に誰かがいる。さっきの鳴き声は、恐らく気のせいでは無い。用心しながら洞窟の入り口の横に立ち、そっと中を覗き込んだ。外からの明かりで、内部の様子は直ぐに確かめられた。
 奥に、自分の倍はあるか、葉っぱの布団の上で、オレンジ色の生き物が眠っていた。頭は後ろへとんがり、手は翼の形をしていた。見た感じ、翼竜の子供に見えた。
 プリンは翼竜の子供を、気付けば見つめていた。状況さえ考えられない程、その子に魅了されているのだ。瞼を開けば可愛いつぶらな瞳を見せる気がして、思わず胸にキュンと来る。

「か、噛みついたりしましぇんよねっ」

 見掛けに寄らないと言うし。と、プリンはハッとした。
 気を引き締め、洞窟へ戻る。翼竜の子供の側へ来ると、何と無く思い出した。ここは確か、自分が気を失っていた場所だと。
 プリンは、眠りについている翼竜の子供へチラ見した。

「……あ!」

 うっかり声を上げたプリンは慌てて両手で自分の口を押さえた。そっと目線を横に向けるが、翼竜の子は少しだけ寝言(鳴き声)を漏らしただけで、あとは何も変わらない。ホッとしたプリンは、改めて翼竜の子のある部分を見た。
 それは左足だ。怪我をしているのである。猟師にでも撃たれたのか、出血は少ないとは言い難い。

「酷い怪我……っ」

 プリンは痛々しく、哀れな目で傷の部分を見る。
 そして翼竜の子の向こう側を見ると、食料やらガラクタやらが積み重なっているのが目に入る。プリンはある事を思い出した。大吹雪の中、雪崩が襲って来た瞬間、翼の音を聞いた後に自分は何かに掴まれて──気が付いたらここにいた。翼の音……この子を見ると、何かが引っ掛かった。

「もしかして……」

 勝手な推測だが、可能性は無いとは言い切れない。

「この子の親は、この子の治療の為に?」

 でも、それならば何で自分を拐ったのだろう。自分をここへ連れてきたって意味が無いと思うのだが……こんな考えを持つと、問題はそこになる。

「……今はしょんな事考えてる場合じゃ無いでしゅね」

 プリンは目を閉じ、首を振る。

「早く手当てしなきゃ、この子死んじゃうでしゅっ」

 今はドクターでもあるマリオがいないから、自分で何とかしなくては。消毒液等があのガラクタの中に入ってると願いつつ、早速ガラクタを漁る。

「うーん、無いでしゅなぁ……」

 参ったと頭を軽く掻いて悩んだ。
 ならば、次の考えだ。今度は食べ物を確認する。

「流石自然冷凍でしゅね」

 寒い空間内のお陰で、食べ物は奇跡的に一つも腐っていなかった。それならば、話が早い。プリンは栄養満点である木の実や果物を選ぶと、それを翼竜の子の下に敷かれている葉っぱの上に並べた。
 それらの匂いに気付いたのか、翼竜の子が、目を閉じながら鼻をヒクヒクと動かしている。プリンはその気配にハッと気付き、顔を上げた。翼竜の子の瞼はうっすらと開いてゆき、プリンと目が合った。プリンはハラハラしながら、黒い目を見つめた。相手は寝惚けているのか、それとも最初から大人しいのか、少し顔を上げてはプリンを見ても、そのままの体勢でいた。

「あっ。お、おはようございましゅっ」

 言葉が通じるかどうか分からないのに、プリンは何気に挨拶をしてしまった。翼竜の子は彼女の挨拶を聞き入れず、下を向いた。目線の先は、食べ物だ。どうやら、何故食べ物がここにあるかが理解出来ない様である。

「あの、食べても良いんでしゅよ?」

 プリンは半分慌てた感じで言った。相手は、食べ物に目を凝らすばかり。

「少しでも栄養を取らないと、体に悪いでしゅっ」

 無視されるのを気にせず、プリンは続ける。
 その時、翼竜の子は、今度はハッキリと開いた目でプリンを見た。初めての顔合わせにプリンは改めて緊張するが、落ち着いて、優しく微笑んだ。少しでも安心させる様に心掛ける為である。

「大丈夫でしゅ。毒は入って無いでしゅよ」

 プリンは小さな林檎を一つ手に取り、軽く一口かじった。

「ホラね、心配無いでしゅ」

 口を動かしながら、ニコッと笑んだ。翼竜の子は彼女をポカンと見ていたが、顔を、用意された食べ物に向け、暫く経ってから、それらの一つに口を付けた。

「あっ」

 プリンは自然と笑みを浮かべた。翼竜の子が、食べ物の一つを口に入れたのである。口の中でゆっくりと味わった後で飲み込み、また食べ物を選んでは口に入れる、と言う動作を繰り返す。

「確り食べるんでしゅよ」

 プリンは、食事をしている翼竜の子の頭を撫でた。
 やがて翼竜の子は食事を終わらせた。

「じゃあ、今度は確りと睡眠を取るでしゅ」

 プリンの声に、翼竜の子はこちらを向いた。

「任せてくだしゃい。プリンは、心地好く眠れる能力を持ってましゅからっ」

 そう言うと少し離れ、小さく咳払いをした。少し息を吸い、そして、歌声を奏でた。どこか懐かしさを感じさせる子守唄で、それは白い空へ流れ、消えて行く。翼竜の子はそれを聴くと、瞼をトロンと重くして行った。床にパタッと突っ伏し、やがて眠りについた。プリンは歌い終えると、ホッとした。

(何だかお母しゃんな気分でしゅ)

 プリンは、翼竜の子の頭を撫でながら少し吹き出した。どんな生き物であれど、物心が付かない子は、見る者の母性本能を擽ると言う。プリンもきっとそうなのだ。

「後はこの子の傷を何とかしなければならないでしゅね」

 プリンは腕を組んだ。

「今はそっとしておいても大丈夫でしゅがね」

 そう呟き、プリンは眠る翼竜の子を側で見守り続けた。




「とうっ!」

 マリオはジャンプしてホワイトベアに飛びかかった。ホワイトベアは手を後ろへ構えると爪を剥き出し、マリオを下から引っ掻こうとした。

「せいっ」

 マリオは咄嗟に手を両手で抑える。そして、彼の背中にしがみついていたピカチュウが飛び出し、ホワイトベアの腕を伝って走った。

「ピィカアチュウウウゥゥゥゥ!!」

 ピカチュウはそこで電撃を放った。正に直撃である。まともにくらったホワイトベアは叫びを上げた。

「グアアアァァ!」
「そいやあ!」

 マリオはホワイトベアを掴んだまま体を後ろへ半回転させ、そのまま前へ一気に体を倒した。ホワイトベアの体が浮かび、ドーンと言う音と共に見事な一本背負いを受けた。白い巨体は白い雪の層へ半分程沈み込んだ。

「やったか?」

 マリオは雪へ足を付き、ピカチュウはマリオの頭の上に乗っかった。

「いや、まだだよっ」

 アイスクライマーはマリオ達の横に立つとハンマーを構えて前に出た。

「グオォ!」
「どわっ」

 突然ホワイトベアが両腕を上げて復活し、側にいたマリオ達はその衝撃でひっくり返ってしまった。

「マリオさん、ピカチュウっ」

 リンクは叫んだ。身軽なピカチュウは雪へ着地出来たものの、マリオは雪に上半身が埋まってモガモガしている。突き出た下半身を何とか倒し、スポンと抜いた。

「くうー、こんなんで倒れる訳無いかっ……」
「えいっ!」
「やあっ!」

 アイスクライマーは走りながら互いに背中を向け、ハンマーを前へ出して横に回転した。コマの様にハンマーが回り、ホワイトベアを連続して攻撃した。相手は中々ダメージを受けていたが、倒れる気配は見せない。
 ホワイトベアは動きが止まったアイスクライマーへ向かって爪を振り落とした。アイスクライマーは互い別の方向へジャンプした。爪は雪の層へドゴッと当たる。地響きが鳴り、辺りが揺れた。

「わわっ」

 その揺れは尋常では無く、倒れそうな位だ。トッピー何かは体が一瞬跳ねている。また雪崩が起きそうな気配だ。そうなると、今度こそお陀仏になるかも知れない。何故なら、マリオ達が戦っている場所は崖の直ぐ側なのである。

「距離を取りたい所だが、白熊が行く手を阻んでいるな」

 マーシスは言った。

「ならば、倒すまでだよっ」

 カービィは赤い鉢巻きを巻いてファイターカービィになると、何故か側にいたピチューを掴んだ。

「ピチュッ!?」

 ピチューは何の真似? と言いたいのだろう。ポケモン語が分からなくても意思表示で通じる。
 カービィは自らの体に力を溜め込み、

「とおぉ!」
「ピッチュー!」

 ホワイトベアに向かって思い切りピチューを投げ付けた。ピチューは焦るが、カービィが何をしたいのか大体理解し、咄嗟に頬袋から電気を放ってロケット頭突きをお見舞いした。

「ギャア!」

 二度も受けた電撃には流石のホワイトベアも応えた様だ。勢い余って仰向けに倒れる。ピチューは再び目を回したが、何とか倒れずに着地出来た。

「おぉ! カービィ、ピチューを使った作戦って訳だな?」

 マリオは期待の目でカービィに振り向いたが、カービィは浮かない顔をした。

「……いや、偶々掴んだものがピチューだったから……」

 カービィは、叱られた小学生の様に後頭部を掻きながら苦笑いした。

「……」
「……」
「……」

 マリオ、カービィ、そして、攻撃を終えたピチューが顔を見合わせると、時が少しだけ止まってしまった。マリオは俯くと、ワナワナと拳を震わせた。そして、

「お前が吹っ飛べええええええぇぇぇ!!」
「きゃあああああ!!」

 マリオはカービィを片手で掴むとホワイトベアの腹に向かって思い切り投げ付けた。暫し気絶中のホワイトベアの腹にカービィがポカリと当たる。

「ったくもーっ」
「まあまあマリオさん」

 今だお怒りマークを額に出しているマリオをリンクが宥めた。
 カービィとピチューが打たれた頭を撫でている間に、ホワイトベアの手が動く。それに気付いたスマメンはコントをお開きにした。

「む、しぶといな」

 ホワイトベアは両足を上げては前に倒し、その反動で一気に起き上がった。

「ぐぅぅ……ぐおおお!」
「わわわっ」

 突然足を思い切り踏み鳴らし、当たりを揺らした。またもや倒れそうな程である。ドンドンと、太鼓の如く音を立てるホワイトベア。その揺れは次第に強まって行った。

「不味いよ、マリオさん!」

 アイスクライマーは顔を青ざめていた。マリオ達も大体は分かっていた。そして、向こうの山から再び大きな雪崩が発生したのだ。

「踏ん張れ!」
「そんな無茶な!」
「もしくは岩とかに隠れるんだ!」

 マリオは思い付きで言った。最早絶望的なのである。三度目の雪崩は、トッピーの村とマリオ達を容赦なく襲った。

「わあぁ!」
「ピィッチュー!」

 リンクとピチューは雪崩に流されてしまい、そして、雪と共に崖から飛び出してしまった。

「ピチュー……っ! 掴まれ!」

 リンクはピチューの手を直ぐに掴み、フックショットを崖に向かって飛ばした。フックショットは岩を突き刺し、リンク達を支えた。正に宙吊り状態である。

「待ってろ! 今……」

 マリオが助けに向かおうとするが、ホワイトベアが行く手を阻んだ。

「くそっ!」

 リンクはフックショットで何とか落ちるのを塞いでるが、限界が来て落ちてしまうのも時間の問題だった。

「ピィチュー……っ」

 腕の中にいるピチューは不安げにリンクを見上げた。

「っ……ちょっとヤバいかも……」

 リンクの顎を冷や汗が伝う。上でマリオ達が攻防戦を繰り広げている間にも、リンクの手は痺れて来ている。手に汗も出、いつ滑り落ちてもおかしくなかった。

「どうしよう! リンクが……っ!」

 ホワイトベアの動きが先程よりも早くなっており、飛行出来るカービィでさえも中々リンク達の所へ行けないでいた。

「……よし、一か八かだ!」

 マリオは動き回りながら、ある案を思い付くと、アイスクライマーを呼んだ。

「ポポ! ナナ!」
「え?」

 その案をアイスクライマーに速攻で伝えた。一か八かの賭けと言う事だが、彼等は即それを受け入れて頷いた。
 ホワイトベアの爪がマリオを襲う。そこでマリオは最初の時と同じ彼の手を両手で抑え込んだ。そこを見計らい、命綱を互いの腹に巻き付けたアイスクライマーは素早く崖へ向かった。すると、何と崖からジャンプしたでは無いか。ホワイトベアばかりでは無く、スマメンもギョッとした。リンク達の頭上からアイスクライマーが落ちて来る。気配を感じてリンクとピチューは見上げた。ポポは落ちる最中にリンクの服を掴むと、

「ポポ!?」

 リンクは彼に振り向いたが、時間との勝負を挑んでいるポポは直ぐに顔を上に上げた。

「今だ、ナナ!」

 彼の上にいるナナに合図を送る。

「えぇーい!」

 ナナはゴム製の命綱を上へ向かって後ろから思い切り引っ張り上げた。すると、ポポはリンクを掴んだままナナの上まで引っ張り上げられ、続いてポポがその命綱を上へ向かって引っ張り、ナナを連れて来た。その勢いで崖の上へと飛び出したアイスクライマー達。

「うわ!」

 リンク達は地面の上へ突っ伏した。

「よっしゃ!」

 マリオはそれを見た後、咄嗟にホワイトベアの両足を掴み、体を竜巻の様に回転させた。

「ガッ……!?」
「これは雪崩に巻き込まれた人達の分だ! とくと味わえええええぇ!!」

 高速でホワイトベアを回転させ、思い切り山の方へ投げ飛ばした。白熊は虚しく叫びを上げながら、空の星となって消え去った。

「やったね、マリオさん!」

 アイスクライマーは喜びのあまりその場でぴょんぴょんジャンプしていた。トッピー達も喜び、鳴き声を上げながら手を何度も叩いた。

「ふう。何だか筋肉痛になりそうな戦いだったよ」

 マリオは凝ってしまった肩と首の関節を何度も鳴らした。

「有難う、アイスクライマー」
「ピチュッ!」

 リンクはホッとした笑顔でアイスクライマーにお礼を言った。ピチューも、涙を溢れさせながらお礼を言った。

「ううん、マリオさんに言ってよ」

 アイスクライマーは笑顔で言った。

「違うよ、二人が頑張ってくれたからだよ。無茶言ってすまなかったな」

 マリオは笑みを零していたが、帽子でその顔を覆った。照れているんだなと、リンク達も笑みを零した。

「さて」

 勿体無い気持ちだがそれも即座に切り替えなければならない。スマメンは、山の頂上を見上げた。

「いよいよ恐竜さんとご対面だな」

 マリオは睨みながら言った。

「気を引き締めて行きましょう」

 リンクは言った。

「よし、行こう! 待ってろ、欠片にプリン! そして、恐竜さん!」

 マリオは頂上を指差しながら叫んだ。




「んー……」

 プリンも、うっかり寝てしまった様だ。いつの間にか綴じていた瞼をそっと開く。まだ眠っている翼竜の子の体に身を預けながら転寝をした様だ。ボーッと霞んだ目をゴシゴシと擦る。

「寝ちゃいましたね」

 ピョンと立ち上がると、欠伸をしながら言った。
 その時、洞窟の外から大きな翼の音が聞こえた。プリンは何だと辺りを見回す。その音は段々大きくなり、それと同時に、何かが洞窟へ入って来た。中に入って来たのは、後ろの子よりも遥かに大きな翼竜だった。おそらく体はその子の五倍程の巨体だろうか。プリンはその圧倒さに、ドキンッ! と心臓が飛び出す程に驚き、慌てて寝る振りをした。
 翼竜はこちらへゆっくりと歩み寄り、プリンを側でじっと見詰めた。プリンは寝る振りをしても、冷や汗をダラダラ流しているだろう。ジーッと見られ、プリンの心臓はバクバクだ。だが、翼竜は何事も無かった様にそっぽを向き、口にくわえた食料らを翼竜の子の側に置くと、再び洞窟から出て行き、飛び立って行った。プリンは死にそうな思いに浸っていた為、解放された途端、大きな溜め息をついた。

「ここにいると、やっぱり心臓に悪いでしゅ……」

 唐突な出来事と恐怖に今にも泣きそうだった。あまり長居してるといつしか命の危機に陥るかも知れない。もし、自分が食料にされてしまったらと思うと──早く助けに来て欲しいと、プリンは最初の気持ちに戻ったのだった。










 ──to be continued──