マウンテンの頂上で








 洞窟にいる恐怖も少しずつ忘れられてゆく。プリンとアイスクライマーは、次第に談笑をしていた。プリンは、アイスクライマーが分けてくれた野菜をご馳走になり、少しずつ元気を貰っていった。アイスクライマーも、そんな彼女にホッとした様子である。

「そっかー、色んな出会いがあったんだねー」

 ポポは笑い終え、腕を組んだ。

「ねえプリンちゃん、良かったら私達も連れてってよ」
「えっ?」
「冒険者の血が騒ぐのよ。皆の故郷がどんなものかも見てみたいし!」

 ナナは乗り出し、プリンに顔を近付けた。期待の目で見つめられる上、唐突な台詞に、プリンは思わずドキッとしてしまった。プリンは、奥にいるポポをチラ見してみた。僅かに顔色を悪くしている。自分は嫌だと言いたいのかも知れないが、ナナに振り回されている上逆らえないので、彼にはその拒否権が無いに違いない。プリンは取り敢えず、何と返答しようか迷っていた。そうしている間に、ナナは段々ガッカリして顔をうつ向かせていってしまった。

「やっぱり、駄目……かな……っ」
「う……」

 涙ぐむ彼女を見ると、友達思いのプリンは、キッパリと断る気にもなれなくなってしまった。

「う、うーん、考えてみるでしゅ」

 だがプリンは、自分一人で決めてはならないと思ったので、適当な事を言ってみた。目を反らし、冷や汗を少し流し、頬を軽く掻く。

「本当っ? すっごい嬉しい!」

 パッと切り替わったナナは、本当に嬉しそうな笑顔を見せた。無邪気なその表情に、心が大分和む、ただ一人を除いて。

「ナナ、僕らは山を登るだけで良いじゃないか。僕達、クライマーなんだよ?」
「駄目よ、ポポ!」

 ナナは確り立ち上がり、キリッと勇ましい顔をポポに見せた。

「クライマーにいつも待ち受けているのは何? そうっ、危険! デンジャラスなハプニングなの!」

 まるで演劇を見ている雰囲気になってきた。二人は、どこから現れたのかなスポットライトを浴びるナナを、ポカンと見上げる。ナナは、スポットライトに向かって拳を掲げた。

「私達は危険と言う壁を常に登り続けなければならない。登り切らないと先には進めないのよ!」

 ピシッと洞窟の出口を指差しながら叫ぶ。傍らで寝ていた翼竜の子は、ボーッと彼女を見ていたが、再び眠った。唖然として聞いていたポポとプリンは、目を丸くしたまま見合わせた。ナナは、未だにキラキラと輝きを見せていた。

「……ん?」

 その奥、翼竜の子の向こうから、もう一ヶ所輝いてるのをプリンは気付いた。

「あれは何でしゅ?」
「プリンちゃん?」

 プリンは、翼竜の子の頭から恐る恐る覗いた。虹色に輝く小さな欠片。ナナに負けず劣らずキラキラと輝いていた。プリンはどこかで見た物だと直感した。それを思い出すのに時間は掛らなかった。

「欠片……っ」
「え?」

 ポポと、我に帰ったナナはプリンに振り向いた。プリンは二人に声を上げた。

「神の宝玉の欠片でしゅ!」
「プリンー!」
「!」

 洞窟の外から誰かの呼び声が響き、三人は振り返った。懐かしい声に、プリン達の表情が明るくなる。

「マリオしゃん達でしゅ!」
「今、助けに行きます!」
「リンクさんも一緒だ!」

 僅かな音量でしか聞こえないが、彼等だと言うのは確かである。プリン達は、急いで洞窟の外に出た。が、先は崖っぷちで、ギリギリの所で慌てて立ち止まった。仕方なく、彼女達はそこから彼等を見るしか無かった。彼等は小さな豆粒に等しく、プリン達は中々彼等をちゃんと見る事が出来ないが、形からして大体理解出来た。間違い無くマリオ達である。

「あそこでしゅ!」
「本当だ!」




「あそこにプリンが閉じ込められているんだな?」

 スマメンは、崖の側に立ち、向こう側にある遠い崖の上に小さな洞窟があるのに気が付いた。

「うん。あそこは翼竜の巣だから、きっとプリン達はあそこにいるよ」

 ポポは木槌で指し示した。

「少し遠すぎますね」

 リンクは良く見る為、額に手で影を作り、目を細めた。

「ボクはマントで行けるけど、また罠が待ち受けてるかも知れないよね」

 マリオはマントの裾を握りながら言った。
 そんな中、スネークは、隣に立つアイスクライマーをジッと見ていた。

「……ピッ?」
「ん、ピカチュウ?」

 マリオの頭の上にいるピカチュウ。彼の耳が、異様に動いていた。何かを察したのだろうか。

「また、何かが来たみたいだな」

 マリオの表情が険しくなる。マーシスは剣を抜き、目の前に構えた。

「マリオ殿、どうやら近いぞ」
「うん、殺気が強い」

 その時だ。

「キイイイイィィ!!」
「う、うわぁ!?」

 上空から襲う突如の高音な鳴き声に、スマメンは一瞬怯んだ。

「ま、またニットピッカーか?」
「この鳴き方は……違う! あの翼竜だよ!」

 ポポが言うと、崖下の闇から大きな影が飛び出して来た。それは強風と共に現れ、スマメンは吹き飛ばされそうになって何とか堪えた。その影は大きな翼を広げた。全長は十メートル程あり、オレンジ色の、見た目プテラノドンの姿をした恐竜だった。

「あいつがプリンを拐ったんだな?」

 マリオは拳で骨を鳴らしながら言った。

「倒したら、きっと欠片もプリンも取り戻せるよ」
「よーし!」




「大変でしゅ!」

 プリン達は慌てた。あの翼竜は別に悪さをしているのでは無い。アイスクライマーの話でプリンの気持ちは変わったのだ。だがスマメンはそれを知らずに戦おうとしているから、何とか止めなくてはならなかった。

「翼竜さん、自分の子供の為に戦おうとしているんだわ!」

 ナナは冷や汗を流した。

「どうしゅるんでしゅか?」
「う、うーん……」

 考える暇は無い。だが、本当にどうすれば……。
 悩む間に、向こうからの声が耳に入った。

「マリオさん、行こう!」
「おう!」
「……」

 向こう側の崖からアイスクライマーの声が聞こえて来た。プリンは目をパチクリさせ、隣にいる二人を見た。

「今の……ナナしゃん達でしゅか?」
「え? 違うわよ?」
「何のこと?」

 アイスクライマーは首を振って否定した。プリンは首を傾げる。

「あ、あっちの崖から二人の声が聞こえて来たんでしゅが……」
「た、確かに僕も聞いた……」
「私も……」
(一体、どうなってるんだろう?)

 二人と一匹は訳が分からず、崖を見つめていた。




「お取り込み中に失礼する、エスキモーのお二人さん」
「え?」

 呑気に煙草を吹かし始めたスネークは、アイスクライマーに話し掛けた。

「……スネークよ、やはり?」
「ああ」

 メタナイトは剣を下ろし、スネークはアイスクライマーを見ながら返事をした。

「ど、どうしたの? スネークにメタナイト……」

 マリオ達も攻撃を中断した。
 暫くすると、メタナイトの剣先がアイスクライマーに向けられた。二人を除いたスマメン達は驚くばかりだった。

「ち、ちょっと! 何やってるんだ、メタナイト!」

 マリオは慌ててメタナイトへ駆けた。だが、メタナイトは険しい目を彼に向けた。

「マリオ、リーダーなら、いい加減気付いたらどうだっ」
「え、え?」
「寧ろちゃんと目え覚ませ。皆もな」
「ス、スネークまで……」

 マリオ達が戸惑う中、スネークはアイスクライマーを睨む。まるで、犯人を見下すかの様だ。

「前から不審に思った。何であんた達は、プリンを呼び捨てにしているのか」
「えっ?」

 スマメンは見開いた。スネークに続き、メタナイトが口を開く。

「親しいと言えど、アイスクライマーはプリンを呼び捨てで呼ばない筈だ」
「なっ! い、言ってる意味が分かんないよっ」

 アイスクライマーは焦って抗議をした。

「プ、プリンちゃんとは仲が良いから、たまに呼び捨てで呼ぶ時があるのよっ……」

 だが、図星を突かれている風にも見える。スマメンも、段々疑いの眼になっていった。

「そして、先程の発言だ」

 メタナイトが言い、続きをスネークが語る。

「あの洞窟にはプリンがいると俺達は睨んでいる。だが、あんた達はさっきこう言ったな。きっとプリン『達』はあそこにいる、と」
「……あ!」

 マリオは漸く気付いた。それに続いて他の仲間達も気付き始める。スネークとメタナイトは少しホッとした。

「俺達は恐竜は大事な物を奪う事は知っているが、拐われたと聞いたのはプリンが初めてだ。プリンと欠片があると言うのならまだしも、今の言葉はどうも引っ掛かる。まるで──他に誰かがいるのを知ってるかの様だ」
「……」

 マリオは眉間に皺を寄せ、アイスクライマーを見つめた。アイスクライマーは顔に影を作る角度でうつ向いた。

「……フフ……ッ」

 その時、その場に似合わない微笑が聞こえた。スマメンは二人に目を丸くした。

「フフフ……」
「クスクス……」
「ア、アイスクライマー?」

 半信半疑のマリオは、アイスクライマーの声にギョッとした。

「あーあ、うっかり滑らしちゃったわね、クアン」
「お互い様だね、エミー」
「!」

 見ると、アイスクライマーの目の色が、徐々に赤く光り始めた。

「折角、欠片を楽に手に入れる作戦だったのに、思わぬとこで失敗しちゃったよ」
「お前達は……アイスクライマーのクローンだったのか!」
「ピンポーン」

 マリオが腕をわな付かせながら言うと、アイスクライマーのクローンは笑顔で返事をした。

「キイィ!」

 スマメンの後ろで飛んでいる翼竜は、くちばし攻撃を繰り出した。ターゲットは、アイスクライマーのクローンである。

「翼竜!」
「おっと」

 クローンは難無く翼竜の攻撃を避け、岩場へ着地した。
 クローンは、鋭利な刃物に等しい、翼竜のくちばし攻撃を軽々とジャンプして回避した。そして、翼竜の角の上に足を付ける。

「皆様、初めまして。ポポの血より生まれた、クアンと言います」

 クアンは、子供っぽい笑顔でペコリと頭を下げた。

「私はナナの血から生まれた、エミーって言うの。宜しくね」

 エミーはウィンクして星を飛ばした。

「……何と無く違和感はあったけど、やっぱり罠だったのか」

 マリオが言うと、偽アイスクライマーは楽しく微笑した。
 翼竜は角の上にいる彼等を、首を激しく振って振り払おうとした。しかし偽アイスクライマーは角から全く離れず、くっついたままだった。それ所か、彼等の足元からは赤い血が流れ出していた。

「! スパイク!」

 リンクが叫んでスマメンは気付いた。翼竜が暴れれば暴れる程、角から顔に掛けて赤い筋が流れる。

「やめろ! 何の真似だ!」

 マリオは声を上げた。偽アイスクライマーはその場で答える。

「僕達の役目をそろそろ果たそうと思ってね」
「そうね、貴方達には感謝してるのよ」
「感謝、だって?」

 エミーは顔を動かさず、木槌を洞窟側へ向けた。

「欠片のありかはディバ様から聞いていたけど、山には強敵がいるし、危険だけは回避しようと思っていたの。だから、山登りするアイスクライマーに影からついていこうと考えた」
「ところが、僕達がこの世界へ来た時、あの小屋にアイスクライマーは既にいなかった。でも、ここにいるって事は分かっていた」
「何故だ」
「……気だよ」

 クアンは呟いた。

「気?」
「本物とクローンは常に同じ波長を交している。その正体は気なんだよ。まあ、本物は気付かないだろうけど」
「だからクアンはうっかりした訳ね、あの洞窟にプリン達がいるーだなんて」
「うるさいな」

 悪心コンビはパートナーに対しても悪心みたいだ。本物とダブる為、見ただけで苛立ってしまう。

「あの目覚めたホワイトベアは、何か危険を察知したんだろうけど、倒してくれてありがとうね」
「な!」

 ホワイトベアが最近暴れ出したと言うのは、危険が迫っていたからなのか?

「まあ、今はもう欠片は目の前だからね。ここまで連れてきてくれてありがとう」

 偽アイスクライマーは、翼竜を伝って洞窟へ向かおうとしていた。

「あ! 待て、このっ……」
「マリオさん、危ないっ!」

 リンクはマリオを押して転がり込んだ。力尽きた翼竜がこちらへ倒れ込んで来たのだ。倒れた反動で角に出来た傷から、少量の血が飛び散り、白い雪を赤で点々と染めた。

「酷い怪我だ。出血がまだ止まっていないでは無いかっ」

 マーシスは、疲れきって息を荒らしている翼竜の体に触れながら言った。

「こ、この先は通らせないよ!」
「この声……」

 翼竜の向こうに見える洞窟から、クローンとは違った感じの声が聞こえた。目を凝らすと、洞窟の前で木槌を構えている男女コンビがいた。

「アイスクライマー!」

 今度こそ本物のアイスクライマーがそこにいた。

「ここを通ろうとしゅる悪党は……私達が許しましぇんっ!」

 続いて洞窟内から現れたのはプリンだ。プリンは、アイスクライマーの前に立ち、小さな両手を広げた。

「どうやら、風船がいるのに嘘は無いみたいだな」

 安堵の笑顔で、スネークは口から煙草を、二本の指で抜き取った。

「安心するのはまだ早いよ」

 マリオは表情を変えぬまま言った。

「あのクローン、目の色彩を変えてボクらを騙そうとしたんだ。そんな行為、許す訳にはいかないっ!」
「同感だ」
「しかしマリオ、翼竜の安否も心配だ」

 メタナイトは翼竜の様子を見ながら言った。近くにはポケモンやカービィも集まり、心配そうな眼差しで翼竜を見つめていた。

「どうやらこの時期で子供を産んだ様だな。先程の戦いで、疲労が普通以上に蓄積されている」
「大丈夫だ、メタナイト」

 マリオは偽アイスクライマーを睨みながら話した。

「短時間であいつを片付けば治療に間に合う。それまでに応急処置を頼む」
「心得た」

 そしてマントで飛ぶ体勢に入ろうとした時だ。

「マリオ殿」

 後ろから話し掛けて来たのはマーシスだ。マリオは中断して彼に顔を向けた。

「私も連れてってくれないか」
「えっ?」
「私は、陛下と約束を交した」

 そう言って、長剣をゆっくり引き抜く。

「強くなり、生きて還ると。私は守る力を得る為、魔物と戦うと固く誓ったのだ」
「……分かった」

 マリオは口端を上げて頷いた。マーシスは頭を下げた。
 マリオが飛ぶのを見計らって、マーシスは彼の背中に向かってジャンプし、背中に両足を置いた。

(軽い……)

 マリオは、彼の体重の意外に驚いてしまった。だが驚く暇もないと、即、崖から飛び立った。

「マリオさん!」
「!」

 叫ぶアイスクライマーは多少傷付いた格好になってしまったが、それより驚いたのは、

「マリオしゃーん!」
「プ、プリンー!」

 一羽のニットピッカーに乗っている偽アイスクライマーは、プリンを縄で拘束していた。

「フフフ、仲間が盾になったら、もう攻撃は出来ないでしょ?」
「くっ! 卑怯だぞ!」
「それが僕達のやり方なんだよ」

 偽アイスクライマーは笑い合った。マリオ達はここまで来たのに攻撃が出来ない事に悔やんだ。

「こちらからも援護しましょうっ」

 そう言ってリンクは弓矢を取り出した。

「そうだな」

 同意したスマメンも攻撃態勢に入ろうとした。

「皆、忘れてるかどうか知らないけど」

 クアンはハンマーを肩に掛け、ニヤリと笑む。

「ニットピッカーはいつも集団で動いてるんだよ?」
「! 正か……っ」

 言い終わった後で、空から大群の鳴き声が聞こえて来た。全員が見上げると、黒い玉の様な物が見えたと思い気や、それはニットピッカーが集まって出来たものだった。

「あの人達は、あいつらと遊んで貰うわ」

 エミーはリンク達を見て言った。

「あのニットピッカーのボスに負けたら、あの人達はニットピッカーの餌ね」
「! リンク、スネーク、メタナイト、ピカチュウ、ピチュー、カービィ!」

 ニットピッカーの大群の中から一匹、リンク達の前に降り立った。額に傷が付いていて、それがボスの証なのだろう。

「くそ、どうにもならないみたいだな」

 スネークが銃をしまって別の武器を構えようとした時だ。

「待って、スネークさん」

 彼の前に、リンクの手が現れた。リンクは、彼等の前に立ち、武器を構えた。

「何だ、二枚目勇者さん。正か一人で戦うとでも?」

 あまり興味無さそうに、スネークはそっぽを向いては煙草を吹かした。
 リンクは背中を向けながら口を開いた。

「俺、この旅が始まってから、皆の為なことをしていない。スネークさん達は翼竜を看ていてください。俺が、ニットピッカーのボスの相手になります」

 そう言うと剣と盾を構えた。スネークは、そんな彼の後ろ姿を見て僅かばかり溜め息をついたが、密かに微笑んでいた。

「了解だ。だが、勘違いだけはするな。ここまで来れたのは、あんたのお陰でもあるんだ」

 そう言い残してスネークはその場を引いた。

「マリオ殿」
「ああ」

 リンク達を見ていた二人は頷いた。

「さあて、どんなお遊びをお披露目してくれるのか、楽しみだね」

 偽アイスクライマーは、ハンマーを構えた。マリオ達も身構える。いよいよ、欠片を巡る戦いが始まった。










 ──to be continued──