黒の魔王 「俺の技を見なきゃ分からないとは、俺も相当な嫌われ者になったな」 「ガノンドロフ、どうしてお前がここに?」 マリオは下から睨み上げた。ガノンドロフもスマッシュブラザーズの一員だが、もしも違反行為をしたら遠慮と容赦は無い。彼は、スマッシュ王国を守る精鋭部隊隊員の掟を破ったのかも知れない。マリオは彼を信じたいが、この状況では半信半疑になりかけていた。 「正か」 リンクは冷たい目線をぶつけながら、マスターソードの剣先をガノンドロフに向けた。 「あの黒い雲は、お前の仕業か?」 「……だとしたらどうするつもりだ」 「!」 マリオ達は戸惑った。本当に彼が元凶なのかと、次第に不安と疑いを募らせた。一方の例の勇者二人は、相手が宿敵だからか、簡単に受け入れてしまった。武器を構え直し、戦闘態勢に入る。 「例え俺達の仲間でも、裏切り者は容赦しないっ!」 「……そうだろうな。最も、お前達はそれだけじゃ無いだろうがな」 ガノンドロフは楽しげに吹き出し、巨大な剣を引き抜いた。鋭い刃が闇に照らされる。 「まあ良い。丁度トレーニングにもなる。掛かって来るが良い」 「マリオさん達は危ないから下がっていてください」 「とっ!」 身軽な子リンは地面を蹴り上げると高々とジャンプし、掲げるコキリの剣を振り下ろした。 「はっ! とおっ! てやぁ!」 ガノンドロフは剣を使うまでも無く、片腕だけで子リンの剣術を難無く受け流していた。 「ヌン!」 ガノンドロフは真横から腕を振るうが、子リンはとっさにしゃがんで回避した。そして目の前には、こちらへ飛び掛かる成年の勇者。 「!」 流石のガノンドロフも予想外だったらしく少し見開き、反射的に剣を振り上げてはリンクのマスターソードと交わらせた。 「ほお、随分と腕を上げたな」 「最初から納得がいかなかった……お前がスマッシュ戦士になるなんてな!」 「随分短気な勇者様だな……小僧の分際で!」 「うぐっ!」 ガノンドロフはリンクの胸に蹴りをお見舞いした。リンクは彼に蹴り飛ばされるが、何とか倒れず、地面に足を付けながら後退りした。しかし肺は強く衝撃を受け、リンクは胸を押さえ付けながら咳き込んだ。 「リンク!」 「っ……だ、大丈夫ですっ」 「はあ!」 「おっと」 子リンがガノンドロフに飛び掛かるが、ガノンドロフはジャンプして避けた。 「お前はまだまだだな」 「うわっ」 子リンの胸ぐらを掴み、片手で軽々と持ち上げた。子リンは彼の巨大な手を握るが、力の差は桁外れでびくともしない。 「ガ、ガノンドロフ! 正か本気じゃないだろうな!」 マリオは見開き、遠くから片手を彼に伸ばした。ガノンドロフは子リンを睨みながらマリオの言葉を聞いた。だが怪しげな笑みを浮かべると、もう片手から黒い玉を作り出した。 「やめろ、ガノンドロフ!」 リンクは確りと立ち上がると彼に向かって走り出す。 その時。 「トレーニングはおしまいだ」 ある男のその一言で、ガノンドロフは作り出そうとした黒い玉を中断した。そして発言した本人へ目線を向けた。マリオ達も、その本人に振り返った。 発言したのはスネークだった。それで驚くのはまだ早い。彼の後ろで立っているのは、シークだった。 「スネーク!? それに……シークも……っ」 ガノンドロフは、やっと来たかとでも言う様な、彼には似合わない安堵の表情を僅かに出し、子リンの胸ぐらから手を離した。 「スネークがいなかったら、リンクと子供リンクの命は本当に危うかった」 「スネーク……もしかして……知ってたのか!?」 「黙ってて悪かった」 スネークは後頭部に手を当てた。 「俺はあの村で、既に彼に会っていたんだ」 そしてシークが前に出た。 「分かったのだ、マリオ達」 「な、何を?」 「この村の結界を破れない程に弱い暗雲を、俺が何で作る必要がある」 カカリコ村の裏通りで、フード男──ガノンドロフはスネークに呆れて答えた。 「それに、俺はスマッシュ戦士の掟として、もうハイラルを支配する事は無い。したくてもその魔力を封じられているしな」 「それじゃあ、他の奴が作り出したって言うのか」 スネークは腕を組んで考える。 「他の奴か、俺の元手下だな」 「手下?」 「時の勇者に倒されてる奴ばかりだから、その可能性は殆んど無いがな」 「その手下を倒した勇者が、今この村にいるが」 それを聞いて、ガノンドロフの目元がピクッと反応した。 「ほお、それは面白い。また是非とも腕試しをしたいものだな」 「確か、あんたとあの勇者さんは、宿敵同士、だったな?」 スネークはガノンドロフを見つめた。彼は何も言わないが、笑みだけはそのままだ。 「俺は手下の仕業であろうが無かろうが、リンクと戦えるのは俺だけだ。邪魔する者だけは到底許さん」 そしと影と共にその場を消え去った。 「この参事は、ガノンドロフが招いたものでは無いと」 「どうやら間に合ったな」 言いながら、スネークは口に煙草をくわえる。 「魔王さんは、自分がやったのでは無いと証明してくれる者が現れるのを待っていたんだ。それまでは、勇者さんとの戦いに水を差すなと言われてね」 「スネーク、最初から教えてくれれば良かったのに」 マリオ達はヒヤヒヤ状態だった。スネークは、リンク達が万が一殺されても、彼が無実だと証明するまで黙り通そうとしたのだろうか。 「言う必要は無いと個人的に思っただけだ」 スネークは煙草の先端に火を付ける。 「俺は、あんた達とは全く違う世界から来たから、関係とか相関とかどうとかは知った事じゃ無い。ただ、あんた達が信用しているのなら、俺は言う必要は無いだろうと思っただけだ。俺は別に構わないが、仲間なら自分で判断する能力を持ってみたらどうだ?」 「スネーク……」 スマブラは、スネークの言葉に胸を締め付けられた感覚がした。忘れ掛けた何かを思い出される。マーシスもプププランドでの出来事を思い出し、黙って聞いていた。自分達は、恐らくガノンドロフに対する信用が欠けていた。今は、スマッシュ戦士として共に戦っていると言うのに……。 「……信じてなくて悪かった……」 子リンは申し訳無さげに、リンクは目を少しだけ反らして謝り、武器をしまった。ガノンドロフは腕を組むと、やれやれと息を吐いた。 「俺は綺麗事が大の苦手だが、スネークの言葉、有り難く受け取って置こう」 「シーク」 マリオはシークに目線だけを向けた。 「ガノンドロフがやってないとすれば、これは一体誰が?」 「あれは、リンクが嘗て封印した魔物だ」 「何だって!?」 二人の勇者は同時に声を上げた。 「ほお」 対してガノンドロフは冷静に対応した。 「俺の手下が何かやらかしてくれたのか」 「その名も、ボンゴボンゴ」 「ボンゴボンゴ?」 マリオは眉を寄せた。 「これ程恐ろしき魔力を繰り出すのは、奴しかいないのだ」 「ガノン殿、ボンゴボンゴと言うのはもしや……?」 マーシスは仮面の奥から、ガノンドロフの目を真っ直ぐに見つめた。ガノンドロフはチラリと彼を見た。 「ああ、俺の可愛がってた手下だな」 「……」 「どうするって訊きたいのかな?」 ニッと笑い、マントを翻しながら彼へ体を向けた。 「俺は俺のやり方で解決させる。お前達も好きにするが良い」 ガノンドロフは体を半回転させると、闇の光を浴びながら消えていった。 「あ、待てガノンドロフッ」 リンクが呼んだ時は、既に彼は完全に消え去っていた。 「ガノンさん……」 ポポは悲しい顔で呟いた。 「裏切られた仲間をどうするんつもりなんだろう」 「正しくは『手下』だけどね」 ナナは訂正した。 「同じだよ」 マリオは微笑した。 「マリオしゃん、どうするんでしゅか?」 プリンは不安がっていた。 「ガノンしゃんの大切な仲間が元凶みたいでしゅ。それでも倒しに行きましゅか?」 「……」 マリオは腕を組んでいて黙り込んでいた。先程から彼はこんな状態だった。一言二言返事をしたっきり沈黙になっている。 「マリオさん?」 リンクは心配な表情になる。 「……どーも……納得がいかないんだよなぁー」 唐突にマリオは声のボリュームを上げた。彼の一言に、スマブラはハテナを浮かべる。 (不思議なものだ) マリオは目を閉じた。 (相手は仲間のガノンドロフの手下だと言うのに、ボクはかなり落ち着いてる) そしてうっすらと瞼を開きながら、 (もしかして……彼を信じてるから?) 「……よし、行こうっ」 「マリオ殿……」 マーシスは、フッと微笑んだ。 「奴は平和を乱した。戦う……上等だとも!」 マリオは城の入り口に向かって振り返らずに前進して行った。スマブラは近くにいるスマメンと顔を見合わせるが、同時に決心すると彼について行った。 マリオとリンクは一緒に扉を開いた。ギィッと軋み音を立てながら、大きな扉が開かれて行く。明かりが壊されているのだろう、城内は暗闇に覆われ、中々見渡せない。全員入ると、敵がいつ現れてもおかしくない殺気が、一気に彼等を包み込んだ。全身を舐められる様な視線に、スマブラは警戒心を強めた。 その時、後ろの大扉が大きな音を立てて独りでに閉まった。 「!?」 スマブラは驚いて一瞬後ろを振り向いた。扉は閉まりきっていて、もう開く事は不可能だろう。 「……何か来ます、気を付けて!」 リンクが武器を構えると、他の戦士も各々の戦闘態勢に入った。 不気味な程に静まりかえっている。奇妙に聞こえる僅かな風を除いては。 「何だ、この音……?」 それは少しずつこちらへ向かって来ている感じだった。辺りを見回すが、モンスターの姿は全く見えない。 「……」 リンクは床を見ながら何かを思い出そうとしていた。だがそれでは手遅れだった。 マリオの体を突如大きな黒い手が掴んだ。 「うわ! な、何だ!?」 「マリオさん!」 「ピカッチュ!」 ピカチュウはマリオを掴む手をぐいぐい引っ張るが、振り払われてしまう。手はそのままマリオを連れて天井へ消えていった。 「み、皆ぁー!」 「マリオさあぁーん!」 「ピカァ!」 スマブラが叫んだのも束の間だった。 「わぁ!」 「うわ! 何するんだ!」 「う、くっ!」 続いてシークや子リン、そしてリンクも、巨大な手に捕まれる。それは素早くて、すぐその場を離れて行ってしまった。 「マリオ殿! リンク殿! シーク殿!」 マーシスは叫んだ。だが、四人は跡形もなく城内から消えてしまったのだ。 「一体どうなってるんだっ」 スネークは声を少し荒げた。 「私が考えるには」 メタナイトは言った。 「この世界に関係している者が連れていかれたのだ」 「それなら何でリーダーまで?」 ナナは眉間に皺を寄せた。側には、マリオがいなくなって今にも泣きそうになっているピカチュウがいた。耳と尻尾を垂らし、涙目をうつ向かせている。 「簡単だ。我々をまとめているリーダーは彼だからだ」 「ピカ!」 ピカチュウは怒った顔をした。 「ピカッチュウ! ピカピカ!」 「『そんな事は良い。早くマリオさん達を捜しに行こう!』って言ってましゅ」 プリンは即翻訳した。 「そうだね」 カービィはファイナルカッターを装備した。 マーシスも言う。 「隊長達の身に何かが起こる前にそれを止めねば。悪魔は何を仕掛けて来るか分からないからな」 「そうと決まれば、早速行くわよ!」 ナナは張り切ってハンマーを振り回しながら、一人奥へ向かって走っていった。 「あ! 待ってよ、ナナ!」 置いて行かれたポポは慌てて彼女の後を追った。 「!」 その時、マーシスとメタナイトは何かを察した。その殺気の一点はアイスクライマーから感じた。 「伏せろ!」 二人はそこへ素早く向かいながら叫んだ。アイスクライマーは何事かと振り返った。彼女達が反らした所に黒い影があった。その影は鋭利な物を振り上げている。二人の剣士は力を合わせ、そいつを切り裂いた。悲鳴を上げた影はその場で息絶え、泡となって消えた。 「出来ればその力をもっと借りたいとこだ」 スネークが落ち着いた台詞を放つが、かなりのギャップな光景を彼らは目にした。気付けば、ここにいるスマブラは全員囲まれていた。いつの間にか、数えきれない程の無数モンスターが彼等を囲んでいた。この状況は、スマブラが力を合わせて挑んでも、恐らく勝ち目は無い。スマブラは迂濶に攻撃が出来ず、大人しく武器を下ろし、技を引っ込めた。 「……リオさん……」 「う、うーん……」 「マリオさん、確りしてくださいっ」 リンクの声と、体を揺さぶられる事で、マリオは少しずつ意識を取り戻していった。目に映るのは、風で速く流れて行く黒い雲と、心配してくれているリンクだった。 「大丈夫ですか?」 「あ、ああ。何とかな」 マリオは頭を撫でながら自ら体を起こした。そして辺りを見渡してみる。 「どこだここ?」 辺りに見えるのは、赤黒い空と、広範囲の床だけ。後は何も無い。後ろを向くと驚く事に、床の先は小さなハイラルの景色がある。まるで床が空を飛んでいる様だ。 「俺にも分かりません。シークと子リン、もここへ連れて来られました」 「その二人は?」 リンクを見て問うと、彼はある方向を顔で示した。 「あそこにいます。ここが一体どこなのかを調べてる最中です」 「調べなくても大体分かる気もするけどね。少なくとも、ここがどんなとこかは」 「意識が戻ったのだな、マリオ」 さっきまで遠くにいたシークが、小爆発と共に瞬間移動して来た。かなり目の前で登場し、平然なリンクに対してマリオはビクッと驚いてしまった。 「マリオ、我々はフォールマスターに寄って連れ去られた」 「ボク達を捕まえた、あの巨大な手?」 「そう。そしてここは、簡単に言えば空中戦場だ」 「せ、戦場!?」 マリオは目を丸くした。 「つまり」 子リンがシークの横へやって来た。 「空飛ぶ床以外何も無い場所──逃げられないって訳だ」 「元々逃げる気は更々無いけどな」 マリオは真剣な顔をすると立ち上がった。 「けど、一体誰が!」 そんな時、真上の黒雲が渦を描き始めた。 「な、何だ!?」 マリオは見開いて唖然としているが、後のハイラルの戦士は前に出て武器を構えた。 渦の奥から現れた巨大で邪悪な玉状のパワーが、ゆっくりと降りて来る。空中戦場にいる戦士達の近くまで舞い降り、パワーが弾けると共に中から誰かが現れた。全体的に闇色な怪物で、花の様な部分の中心には赤い目が光り、両手は離れて浮いていた。 「何、あれ……」 マリオは恐怖にかられていた。あの様な化け物をマリオは見た事が無いのだ。 「あれがボンゴボンゴだ!」 シークは三本の飛針を指に挟んだ。 「なろー、一体何の目的だ!」 マリオは指を突き付けた。ボンゴボンゴは彼の言葉を聞くと、指をパチンと鳴らした。空中に牢屋の箱が現れた。数は四つ。その中にいたのは……、 「み、皆!」 マリオは叫んだ。中にはマリオの仲間達が閉じ込められている。それは四つに分けられていた。一つはピカチュウ、プリン、ピチュー。もう一つはカービィ、アイスクライマー。後はメタナイト、マーシス、スネークだ。 「ゴメンね、隊長!」 「ピカァ!」 牢屋越しにカービィは叫んだ。その後でピカチュウも言った。彼も謝罪しているのだろう。 「俺ニ負ケタ者ハ、仲間ト同ジ目二会ッテ貰オウ」 口は無いが、ボンゴボンゴは笑い交えた口調だ。余った牢屋はこれを差していたのだ。 「くそ! 待ってろ、皆。必ず助けるからな!」 「う、うん」 「無駄話ハココマデダ……サア、楽シイげーむノ始マリダ!」 ボンゴボンゴは拳を作り、四人に向かってパンチを繰り出して来た。四人は各々の方向へ飛んで避ける。拳は床に当たると、その衝撃で床が激しく揺れた。拳の下の床が下へ、それとは反対の場所が上へ大きく傾いた。 「うわわっ」 マリオは思わず床の下へ転がり落ちるとこだった。四人は上へ走り、何とか落下を防いだ。 「よーし、それなら……」 マリオはマントを取り出した。 「ソンナ物、俺ノ前デハ何モ役二立タンゾ」 「何だって?」 突然の発言にマリオはギョッとした。一体どう言う事だろう。 「マリオ」 ゼルダの声が聞こえた。いつの間にか、シークがゼルダの姿に戻ってしまっていた。 「ゼルダ姫!」 「どうやら、ボンゴボンゴに魔力を封じられてしまったみたいです。マリオのマントも、恐らく」 「畜生!」 マリオは悔やみながら、結んだマントを握り締めた。 「こうなれば、物理攻撃で行くしかありませんね」 リンクは言った。 「……マントには一寸休んで貰うか」 マリオはマントを外した。そして拳を構える。 「ずっと頼ってばっかりだったからねっ」 「インパさんの特訓を信じよう」 子リンはマリオの横に立つと笑顔で言った。 「ああ、そうだな!」 「ドウシタ、怯エテイルノカ?」 ククク……とボンゴボンゴは静かに笑った。マリオ達は鋭い目をして睨む。 「行くぜ、ボンゴボンゴ! 仲間達をこんな目に遭わせやがって……絶対に許さないからな!」 そしてマリオ達はボンゴボンゴに向かって飛びかかった。 ──to be continued── |