血戦場








「貴様ラ全員地獄ノ底ヘ落トシテクレル!」

 ボンゴボンゴは縦に構えた手をステージの端へ置くと、そのままこちらへ向かって来た。マリオ達はジャンプ中に更に空中を蹴って二段ジャンプした。手はギリギリ彼等の下を通り過ぎた。マリオは着地した反動を利用し、思い切り床を蹴り上げて足技を繰り出した。

「せいや!」
「グオォ……ッ!」

 スピードキックが手に打ち当たり、ボンゴボンゴはダメージを受けた。だが手をブルブルと振って直ぐに立ち直った。

「何度ヤッテモ変ワラナイ」
「果たしてそうかな?」

 マリオは余裕の笑みを見せた。彼の後ろから弓矢を構えたリンクがジャンプして現れた。

「何ッ!?」
「くらえ!」

 ボンゴボンゴが怯んだ隙にリンクは矢を放った。見事奴の手に当たる。

「ウグアァ!」

 ボンゴボンゴは悲鳴を上げた。

「どうだ!」

 マリオは揚々と言った。
 しかし、ボンゴボンゴの手がブルブルと振られると、矢はポロリと抜け落ちてしまった。

「!」
「魔力ガ無ケレバドウニモナラナイミタイダナ」

 楽しげに笑う声はまるであのガノンドロフだ。
 マリオ達はそれでも休まず攻撃に掛かった。襲う手をマリオは跳んで避けると直ぐ様手に向かって揃えた拳を振り下ろす。ドカッと当たって手を叩き落とせたが、彼の後ろから奴のもう片手のパンチをくらってしまう。

「ぐはっ!」
「マリオ!」

 ゼルダの側の床に叩き付けられたマリオは、意識が少しだけ朦朧し、隙だらけだった。必死で立ち上がろうとも中々そうはいかない。

「ゼ、ゼルダ姫は、危ないから離れてて……」

 マリオは、心配しているゼルダにそう言い、体を震わせながら立ち上がる。
 ボンゴボンゴは人差し指を作り、指先から彼等に向かって闇の光弾を作り出す。だがそれは爆弾に寄って阻止された。横を向くと、リンクと子リンがこちらへやってきた。

「ハッ! てやぁ!」
「とおっ、や!」

 空中で互いの打撃技が弾かれる。そこで二人の勇者は手を挟み撃ちし、リンクが攻撃した隙を子リンが埋め、子リンが攻撃した隙をリンクが埋めると言う連携プレイを見せる。手は中々逃げ出せず、彼等のサンドイッチ攻撃を受けるばかりだった。
 マリオはもう片手に向かう。手は彼を握り潰そうと手を広げて来た。マリオは握られる直前で手の側面に手を付けるとそれを軸に片手側転した。そのままの体勢で背後の拳を両手で掴むと、思い切りステージへ叩き付けた。巨大手はステージにめり込み、砂埃を立ち上げた。

「マリオ、怪我は大丈夫か?」

 男の声がした。マリオの後ろにシークが立っていた。

「あれっ、シーク?」

 マリオはキョトンとして指を差した。

「幸い、知恵のトライフォースの力がまだ一部保たれていたのだ。これが最後の力だな」

 シークは、トライフォースのマークが刻まれている右手の甲にそっと触れた。マリオはそれを見た後、微笑んだ。

「心強いよ。今んとこ、お姫様の状態じゃ何も出来ないからな。シークになった今、力を貸して貰うぞ」
「当然だ」
「よし。って、うわっ!?」

 マリオとシークは気配を感じ、その場を離れた。彼等の立っていた場所に奴の拳がめり込んだ。二人は床に足を着き、気合いを発して手へ向かった。

「それ! 頑張れー」

 檻の中からファンシーズは声援を送っていた。他の大人達は静かに見守っていた。
 しかし、マーシスは多少落ち着かない。

「どうした」
「如何した」

 スネークとメタナイトはマーシスを見た。彼は何かに不安を抱いているばかりで、彼等の言葉は聞いていない様だ。二人はハテナを浮かべ、顔を見合わせた。
 ボンゴボンゴの片手へサンドイッチ攻撃をしている二人に、握り状態だったボンゴボンゴの手が急に開かれた。突き出された指の攻撃をリンク達は受けてしまう。

「わあ!」
「うぐっ」

 二人はステージへ背中を叩かれて転がった。そこへ巨大な掌が上から襲う。意識を直ぐに取り戻した二人は急いで回避した。

「奴はかなりのダメージを受けている筈だ。このまま行くぞ!」
「うん!」

 一方の戦いで、マリオは自らをトルネード状に回転させ、連続打撃をくらわし、力強く横へ蹴る。その先にいたシークは、身軽さを利用して高々と飛び上がり、頭上から蹴りのドリルをくらわした。

「オノレェ!」

 シークの攻撃をくらっていた手が突如縦に高速一回転し、上からシークをはたき落とした。

「うわっ!」

 シークは急降下してステージにぶつかった。

「この野郎!」

 マリオは下からスーパージャンプパンチを繰り出した。パンチをしながらコインが飛び散る。
 即立ち直ったシークは真下から蹴り上げ、更に手を上へ飛ばした。

「マリオっ」
「りょーかい!」

 マリオがシークの組んだ手に足を乗せると、シークは彼を素早く上へ飛ばした。マリオは空高く飛び、奴の手まで到着した。

「地獄へ堕ちるのはぁ……」

 手を両手で掴み、下を見ながら叫んだ。

「お前だあぁ!!」

 思い切りそれを下へと振り下ろした。手は物凄い勢いでステージへ叩き落とされた。
 大人リンクは手の上に立つと、両手を使い、下を向いている剣先を一気に振り下ろした。

「ハァ!」

 マスターソードは、奴の手に深々と突き刺さった。

「グウアァ……ッ!」

 今のはかなり効いたらしい。リンクが剣を引き抜くと、紫に光る血液が傷口から噴き出した。

「とお!」

 リンクと子リンは同じ位置までジャンプし、剣の刃が無い部分を使ってダブル打撃をお見舞いしてやった。マリオの時と同じく、片手が床へ沈んだ。
 二人の勇者は空中で一回転すると、マリオ達の所へ着地した。

「どうだ、参ったか!」

 マリオは腕を組んだ。

「ウヌゥ……」

 ボンゴボンゴは、大ダメージを受けてダラリと脱力している自分の両手を交互に見た。

「コシャクナァ!」

 ボンゴボンゴは悪あがきか、本体を床に着け、そのまま突進して来た。相手は巨大で、マリオ達は逃げる術が無い。

「うわっ、ヤバいっ!」

 その時、マリオの横を何かが通り過ぎた。三本の光る針が、ボンゴボンゴの赤い目に当たった。

「ヌアアァ……!」

 そしてボンゴボンゴは怯み、止まったのだ。
 マリオの隣にいるシークは新たな飛針を構えていた。

「シークッ!」
「マリオ、トドメを刺すなら今だ!」
「あ、ああ、分かった」

 マリオは拳に渾身の力を込め、駆け出す。

「くらえ、ボンゴボンゴ!」

 マリオのスーパーパンチが炸裂しようとした、その時だった。

 ──役立たずには消えて貰おう。

 マリオ達の耳から脳までに渡り、誰かの声が響いた。それは、彼等の心身を瞬時にして凍らす程の力に満ちていた。
 直後、ボンゴボンゴの体に無数の線が描かれた。暫くして、ボンゴボンゴは、悪魔さえも驚く甲高い悲鳴を上げながら、塵と化して消滅してしまった。
 マリオ達は愕然としていた。始めは何が起こったのか、思考が止まっていた。ファンシーズは顔色を悪くして固まっていた。だが我を取り戻した今、全員、漸く分かってきた。この様な残酷な殺し方をする者には心当たりがある。

「また会えて嬉しいよ」
「正か……」

 冷たい声の人と、

「再会出来て光栄です」
「この声は……っ」

 リンクと同じ声色を持つ声。
 ボンゴボンゴが消えた場所に現れたのは二人。ディバと、リンクのクローン──ミエールだった。

「ディバ! ミエール!」
「さっきから強く抱いていたこの殺気……矢張り来ていたか!」

 マーシスは込めた怒りで静かに呟いた。

「まぁた時間の無駄だったなあ」

 ディバは苛立って軽く溜め息をついた。

「俺が封印を解いてあげたのは間違いだったみたいですね」

 ミエールは、血の色を持つ目を細めた。

「ボンゴボンゴを蘇らせたのは、やっぱりお前達の仕業だったんだな!?」

 マリオは指を突き付けた。ディバは、フフッと微笑すると後頭部を掻く。

「そんなにカッカするなよ、いつもの事なんだしさ。それに、邪魔者は消えたんだから好都合だろ」
「いい加減……ふざけた真似をするな!」

 意味不明な台詞を耳にしたディバとミエールはポカンとし、お得意の笑みを忘れてしまっていた。

(マリオさん?)
(マリオ?)

 リンク達はマリオに目を丸くした。クローン等に対しての怒りなのは分かっているが、その理由はまた別にある様子だ。マリオは悔しそうに唇を噛み締めてうつ向く。

「ボンゴボンゴは、ガノンドロフの……仲間だったんだぞ。ボクは奴を気絶させ、もう一度封印するつもりだった」
「そ、そうだったんですか?」

 マリオは、知らなかったと驚くリンク達を一度見てから、

「そっちの方が、ガノンドロフもボンゴボンゴも本望だった筈だ。なのに、彼の大切な仲間を消し去りやがって……絶対に……絶対に許さないっ!!」

 力任せに叫んだ。

「……」

 クローンの二人は、怒りの形相をしているマリオを無表情で睨んでいた。

「……流石はスマッシュ・ブラザーズ精鋭部隊隊長殿。優しさと愚かなとこだけは一人前ですね」

 ミエールは、皮肉を込めた感情でゆっくりと言った。

「でもさー、一々他人の心配してると……」

 ディバは気に入らないと言う顔をし、言葉を濁す。
 いつの間にかマリオの前に立っていた。

「!?」
「早死にするぜ」

 イヤらしい笑みを浮かべているディバは、息が届く距離まで顔を近付け、そう呟いた。
 そして、マリオの腹部に思い切り膝蹴りを入れたのだ。

「っ! ゴホッ!」

 息が止まり、肺から大量の空気を、少量の唾液と共に吐き出した。

「ぐあっ!」

 ディバは休まず、彼の頬を蹴り飛ばした。マリオは床へ何度もバウンドし、場外の近くで意識を失った。

「マリオさん!!」

 リンクはディバに向かって走り出した。剣で攻撃しようとした途端、彼の前にミエールが現れ、剣で彼の攻撃を抑えた。

「おや?」

 ミエールはリンクを下から見上げた。

「貴方は確か退治したと思ってましたよ。正かとは思いましたが、気を感じたのに嘘は無かったみたいですね」
「あんたみたいな奴に殺される様な俺じゃないっ」

 リンクは冷ややかな目線をぶつけた。対してミエールは、如何にも楽しそうな笑顔を作った。

「面白い。俺は貴方を殺せない、と。無意味な自信を!」

 互い剣を弾き、間合いを取った。

「やぁ!」

 子リンはブーメランを飛ばした。だが、ディバはジャンプしてあっさりと避けた。
 そして彼の後ろで着地したと同時に彼の首筋を軽く叩いた。子リンは瞬時にして気を失ってしまい、倒れ込んでしまった。

「ハッ!」

 シークはディバに向かって飛針を放った。ディバは余裕の笑みのままそれらを剣の一振りで弾き、彼のとこまで瞬間移動すると、横っ腹へ蹴りをくらわせた。

「うっ!」

 シークは場外へ出そうになるがディバはそうはさせず、素早く回り込むと彼を足で上へ飛ばした。更に彼の真上までテレポートし、両足を一端縮めて力を蓄え、そして蹴り技を解放すると、シークを物凄いスピードでステージへ叩き落とした。
 シークは力尽き、魔力も底を尽いてゼルダの姿に戻ってしまった。

「ひ、酷い……」

 あまりにも酷な光景に女性陣は口を抑えていた。大人達も思わず息を飲んだ。

「邪心から生まれし力……侮れん……」

 メタナイトが言った。
 リンクとミエールは何回も剣を交わらせていた。リンクが今のとこ有利で、彼を場外ギリギリまで追い詰めた。ミエールの喉仏に、リンクの剣先があてがわれる。

「さあ、降参しますか?」
「……これで勝ったと思ってるんですか?」
「勝負はついた。このまま消えなければ、俺の手で消す!」

 剣を握り直すと、ミエールの首から小さな紅い筋が作られた。それなのにも関わらず、ミエールは口端を吊り上げた。

「フフ。思い出すな、貴方の首を裂いた、あの日を……」
「な……っ?」
「リンク、貴方が仲間を殺した夢、思い出せないか?」
「!」

 リンクの顔色が一変した。

「夢の中にいたもう一人の自分……あれは俺じゃなくて、貴方自身だったんですよ? 仲間達の血を全身に浴びた貴方だ」
「! う、嘘だ!」
「さぞかし快感だったろう。貴方だけじゃ無く、愛用の青い筈のマスターソードが、皆の鮮血で真っ赤色になってたまでだし」
「や、止めろ……っ」

 リンクは震えていた。あの頃の恐怖が、徐々に心へ蘇って来た。ミエールは、彼のその哀れな様にクスクス笑う。

「あれが予知夢だったらどうなるかな? 本当に殺しちゃう事があったら……」
「これ以上、そんな事言うな!!」

 リンクは我を忘れてしまい、怒り任せに剣を横へなぎ払った。だがミエールはその場から消えて回避した。

「偉大なる時の勇者様が悲しいな」

 後ろから聞こえたリンクは振り返るが、それより足下の何かが気になった。そこには、ミエール所持の爆弾があった。

「うわあぁ!」

 爆弾は火を吹き、リンクを爆風で吹き飛ばした。ステージに体を滑らし、そのままリンクは意識を失った。
 マリオ、子リン、ゼルダ、リンクは戦闘不能になった。ステージのスマブラは全滅したのだ。寂しき風が静かに吹く。

「これがスマッシュ・ブラザーズの力か」

 ディバは倒れた彼等をねめ回しながら言った。

「既に青い鳥さんの実力で大体は把握してたけどね」

 場外の近くで蹲っているマリオの前まで歩み寄り、胸ぐらを掴んでグイッと引き寄せた。目が半開きのまま引っ張られるマリオ。ずれている彼の帽子が床へ落ちた。
 ディバはマリオの懐を少し探り、未完成の欠片を手に握った。

「僕は、常に孤独を生きてきた。誰もいなくて、寒くて、真っ暗で、音も無い世界で、僕は生き延びてきたんだ。優しさだとか仲間だとかだなんて、僕にとっては醜い言葉なんだよ……っ!」

 憎しみを込めた手に力が入り、マリオの息苦しさが増して行く。

「だから、僕はお前等が醜くて醜くて堪らない。仲間なんか作ったって、それは只のクズに等しい」
「!」

 マリオは薄い意識の中で、その言葉を脳内でエコーされた。

「思い知らせてやるよ」

 ディバは彼を掴んだまま立ち上がり、マリオを場外へ突き出した。マリオの下に広がるのは、少量の雲と、広大な世界。ここが空高い場所にあることが改めて分かる。

「やめてー!」
「ピカピイィー!」

 ファンシーズは涙目で哀願するが、ディバは当然聞き入れない。

「何とかこの檻から出られないのか!」

 スネークは鉄格子を掴みながら言った。

「……悔しいが、強力な魔法で作られた檻が相手ではどうにも……」

 メタナイトは目をつむる。スネークは彼を見下ろした。

「大した剣士さんだなっ」

 その中、マーシスは今度は冷静になっていた。
 ディバは騒ぐ檻を見ると、ニッと笑った。

「安心しな。あんた達も後で隊長に会わせてやる」

 そして彼を高々と持ち上げ、

「地獄の底へ案内してやる。死ねぇ隊長おおおお!!」
「うわああああああ!!」

 手を振り下ろし、マリオを空の下へと落とした。マリオは直ぐに雲の下へ消えていってしまった。仲間達が茫然とする中、ディバはその場で、赤黒い天に向かって高らかな笑い声を上げたのだった。
 そして手中にある欠片を見た後、こちらへ来るミエールに話す。

「さあ、欠片は我が手にある。残りの欠片を見付けに行くぞ」
「そうですね。行き先はこの欠片が知っていますし、探すのは容易いでしょう。では、行きましょうか」
「待て」

 ディバはミエールを止めた。

「……その前に」

 ディバは檻達に振り向いた。

「あいつらを隊長のとこへ連れてってあげなきゃな」

 ディバは掌を檻へ向け、闇の光を作り出した。檻の中のスマブラは、ただその様子を見ることしか出来なかった。

「これで、僕達の邪魔をする奴は完全にいなくなる。精々隊長様と一緒にこの宇宙の運命を拝んでいろ。ハハハハハ!」

 目を見開き、狂いに満ちた笑いを上げ、闇の光を最大限まで引き出した。そして僅かな衝撃派と共に玉は放たれた。
 檻はその光に包まれ、空の雲やハイラルの一部を吹き飛ばす程の威力で、闇の光は大爆発を起こした。










 ──to be continued──