|
神の切りふだ 手応えがあったとディバは満足げな笑みを浮かべ、背中を向けた。 「反対さえしなければ、子分にしてやったのにな」 ディバは欠片を見て、ボンゴ・ボンゴの事を呟いた。 「あいつはガノンドロフの手下でしたから、無理も無かったと思いますよ」 ミエールは言った。 「ふん。とにかく行くぞ。グズグズしていると、やがてこの床は崩れるからな」 激戦の後は、ステージには大分亀裂が入って来ていた。周りの方からも少しずつ崩れ始めている。 「さあ、欠片よ、我等を導きたまえ」 ボンゴボンゴが消えたステージの真ん中に落ちている小さな欠片を拾い上げようとした。 ──可愛い手下をよくも消してくれたな。 誰かの声にディバは手を止めた。 低音の深味あるボイスに、ディバとミエールは目を大きくして辺りを見回した。そして、立ち上っていた煙が消える所を見る。 実は、檻は消えていなかったのである。 その檻達の前に、手を突き出してディバの闇の光を食い止めた人物がいた。魔王と言う言葉がピッタリな黒い容姿に赤い短髪。見るからに威圧感を持つ男だ。彼のもう片腕には、気絶しているマリオが担がれていた。 「ガノンしゃん!」 プリンは泣きじゃくりながら声を発した。他のスマブラも、一部泣いたり、一部ホッとした笑顔を作れた。 「一足遅かったか。城内から空上ステージへのルートを邪魔する結界に戸惑ってしまった」 ガノンドロフは苛立っていた。 ディバら二人は最初は最初で、今はもう落ち着いていた。だが、降り注がれるガノンドロフの鋭く冷たい目線には、ゾクッとした寒気を覚えた。 「……ガ、ガノ……ドロ、フ……?」 マリオは意識を取り戻した。瞼を薄く開き、彼を見上げた。 気付いたガノンドロフはこちらを見下ろす。その表情は、安心処か呆れていた。 「貴様の言う事は最もだが、人が良すぎる。仲間を全滅させる気か?」 「……ゴメン……」 マリオはうつ向いてしまった。だがガノンドロフは、次第に笑みを浮かべた。 「ふん。俺何かの手下を救おうと考えてた気持ちは、愚か通り越して尊敬ものだがな」 ガノンドロフはステージに着地し、マリオを下ろした。そしてディバとミエールを見る。 二人は彼の目を見た途端、ディバの手元から欠片が消えた。 「なっ……!」 「あっ」 それはマリオの手元に戻った。 「ついでに小さな欠片も取り戻した」 ガノンドロフを向くと、彼はフッと笑んだ。 「魔物の王にそんな気持ちを持ったのは、貴様が初めてだな。礼位くれてやる」 「ガノンドロフ……」 「やっぱり仲間に頼ってるから弱いんだよなー……気に食わねえ」 ディバとミエールは武器を構えた。 ディバはふと斜め下を見下ろす。そこには、うつ伏せで倒れているリンクがいた。ディバはリンクの腹を蹴り、体を転がして仰向けにした。 マリオはそれを見て少し反応した。 「弱っちいお仲間を皆救えるのか? 隊長殿?」 リンクの胸板に片足を乗せ、ディバはヒヒッと笑った。 それにマリオは動じず、欠片をただ強く握り締めた。 「これで最期にしてやる」 ディバが言い、ミエールが剣を天へ掲げた。すると、空からは幽霊モンスター、ステージからは茶色いゾンビのモンスターが無数で這上がって来た。 だがマリオはそれにさえ動揺せず、真っ直ぐにディバ達を見つめた。そして、前髪で目に影を作り、静かに口を開く。 「ディバ。お前、さっき、仲間をクズって言ったよな……」 「それがどうした」 「……ボクに対する罵声なら何を言っても構わないさ……けどな……」 マリオの周りを柔らかい風が包み込む。そして、彼の体からは、炎と虹色のオーラが現れ出した。 「何あれ!? リーダーが……光ってるわ!」 驚きを隠せないスマブラの一人のナナは言った。だが、唯一落ち着いているのはマーシスだ。 「あれが、真の力……」 マリオを見ながらポツリと呟く。 気付いたスネークは彼を見た。 「仲間を侮辱する奴は、誰であろうと、ボクが許さない! 決して……許さなあああああい!!」 欠片が力強く輝きだし、光に包まれたマリオはパワーアップした。 「な、何が起こっているんだ!?」 ディバとミエールはその衝撃の旋風に吹き飛ばされそうだった。腕で顔を覆い、足を踏ん張らせている。 ディバの疑問に、マーシスは静かに応えた。 「選ばれし戦士であるマリオ殿の思いに、今、空間神が応えたのだ!」 マリオは、エネルギーが溢れている両手を一度引いた。次第に、マリオの目も炎の光に輝いた。 「くらええええええええええ!!」 マリオは叫びながら、燃える両手を前へ伸ばした。パワーを解放した手からは、幾筋かの巨大な龍に見える炎の波が渦を巻いて現れた。ハイスピードでモンスター達を次々と焼き尽す。巨大ファイヤーは敵だけを攻撃していた。 「何!?」 「うぐああぁぁぁ!!」 ディバやミエールもそれに巻き込まれ、吹き飛ばされた。全てのモンスターを巻き込んだ炎の龍は、ステージを越え、空の彼方へと消えた。 一部始終を見入っていた仲間の殆んどは、ポカンと口を半開きにしていた。あまりの迫力に言葉が出なかったのである。 暫くすると檻はステージへフワリと降り、檻の天井が消え、鉄格子が全て外側へ外れた。 「やったー! やっと抜け出たわっ」 ナナが声を上げ、ファンシーズは喜びの余り飛び跳ねた。 やがてステージは消え、代わりに地面が現れた。スマブラは、再び地面に足を付ける事が出来た。 呪いが解けたのだろう、空を覆いつくしていた赤みを帯びた黒雲が、明るい太陽を中心に晴れて行く。不気味な雰囲気を漂わせていた城や城下町も、美しい姿へと戻っていった。 スネークとメタナイトは、檻から抜けると直ぐにリンク達の側へ寄った。スネークはリンクを抱き起こし、手を口に軽く当てた。 「息をしている。命に別状は無い」 スネークは言った。メタナイトも頷いた。 「ゼルダ姫も子供リンクも無事だ。後でカカリコ村で看て貰おう」 「了解」 「……スネークさん……」 リンクは瞼を開いた。 「皆、元に戻ったのですね」 「流石は隊長達だ。勇者さんも、ゲームでの存在しか考えていなかったが、本物もいたんだな」 口端を上げるスネークに、リンクも柔らかく笑った。 リンクがふと横を向くと、直ぐ側にマリオの赤い帽子が落ちていた。幸い体は動かせるから、リンクは自ら起き上がり、それを拾った。 「……」 マリオは、攻撃を終えた時から自分の両手を見下ろしていた。今、自分が何をしたのか、未だに理解に苦しんでいた。 「ピッカチュー!」 「おっと」 ピカチュウが抱きついて来たお陰で、やっと此方へ戻って来た。嬉しそうに頬を擦り寄せて来るピカチュウを微笑んで撫でる。 マーシスは空を見上げ、ディバ達の事を考えた。 (あれだけの技を受けても、しぶとい彼等だ。簡単には死なないだろう) 「マリオ殿」 そして、笑んでマリオへ歩み寄った。眉をひそめているマリオは、ピカチュウを腕に抱いてマーシスを見た。 「マーシス……ボク、気付いたら……こんな技を……」 「それは、欠片の力が生み出したのだ」 マーシスは直ぐに応えた。それを聞いたマリオは、手元にある欠片を見た。 「空間神が選んだ戦士に与えられる力だ。その名も、『神の切りふだ』」 「切りふだ……」 「絶体絶命の時、戦士の意思に神が応える瞬間だ」 「そうなんだ……凄い……な……」 「ピカ!」 「マリオ殿っ!」 マリオが急に倒れ、マーシスは慌てて抱き止めた。 「ハハ、何だかあの迫力技を出したら、凄い疲れちゃった」 マリオは力無く笑った。マーシスは無表情になった。ピカチュウは心配な目で見た。 「あの技は一度でかなりの体力を消耗すると聞く。あまり無茶をすると命に関わる」 「なるほどね。神の切りふだ、か……」 マリオは顔を上げ、晴れていき、青くなる空を仰いだ。 (触れて、欠片が光を発した者は、選ばれた戦士……か) 王の言っていた言葉が大分分かった気がした。 そんな事をぼんやりと考えながら、マリオは目を閉じ、脱力した。 「ピカッチュ!?」 ピカチュウは驚いてマリオを軽く揺さぶった。だが、良く聞けば心地好い寝息が聞こえる。 そこへリンクが現れた。 「神の切りふだの話は、スネークさんから聞きました。マリオさん、本当に凄いです」 マリオの前で膝を付き、彼に帽子を被せた。マーシスはその様子を見てから、 「確か彼の帽子は、マリオ殿のパワー源らしいな」 「そうみたいです」 「神の切りふだは余りにも強大な力を作る。戦士はたまにその力を制御しきれず、暴走させてしまう恐れもある」 「やっぱり、マリオさんがあの技を操れたのは……」 二人はマリオを見下ろした。 「……皮肉にも、帽子が無かったお陰でパワーが落ちていた訳だ」 「……」 リンクは、それでも柔らかな表情は変えなかった。気付いたマーシスは少し覗き込んだ。 「如何した?」 「帽子があったとしても、マリオさんなら、やってくれていたに違いないと思います」 リンクは、少し離れたとこに立っているガノンドロフを見た。ガノンドロフとスネークとのある気持ちを思い出していた。 「なぜそう言い切れるのだ?」 マーシスも笑みは変えない。まるで、その理由を既に知っているかの様だ。 リンクは顔を動かさないで返事をした。 「マリオさんを、常に信じているからです」 リンクの声を聞いたのか、それとも良い夢でも見ているのか、眠っているマリオの口元は、静かに笑みを綻ばせていた。 数日後。 ゼルダと子リンはまだ静養中だが、マリオとリンクの体力は全快した。 スマブラはそれぞれ、城下町や牧場等の復興作業の手伝いをしていた。彼等は英雄と称えられ、村人の姿に態々なる必要は無くなった。ひとりを除いて。 「……何で俺がこんな格好をしなきゃならない」 大きな村人姿の男となったガノンドロフは、ゼルダの隠れ家の前で、自分の格好を睨み回していた。恥ずかしいあまり、目をつむりながら赤面している。 彼をジロジロ見ていたスネークは思わず小さく噴き出した。 「案外似合ってるな、元魔王さん」 「フン」 ガノンドロフは、肩をポンポン叩くスネークから顔を逸らした。 「仕方ないだろう、ガノンドロフと言う者がこの村にいたら、村人は驚くからな」 「ガノンさんもスマブラなんだから、手伝うんだよ!」 スネークの横からカービィが現れる。 潔く諦めたガノンドロフは一先ず溜め息をついていた。 「我が戦友、マーシスよ」 「何だろうか」 城下町で煉瓦の積む作業をしているマーシスにメタナイトが話し掛けた。マーシスは額の汗を手の甲で拭いながら返事をした。 「そなた、ボンゴボンゴ戦の間、妙な行動を取っていたな」 「? どう言う事だ?」 「ハッキリ申すと、我々の気持ちとは正反対な仕草だった。マリオ達が有利な時は何かに焦り、マリオが戦場から落とされる時は異様に落ち着いていた。更に、リンクの世界へは初めて来たのに、あの敵をアンデット系と見抜いた。宝玉、もしくは欠片が無い限り、この世界には来れない筈だが?」 「……そう言われてみると、聞き捨てならないな」 マーシスはフッと笑った。煉瓦を地面に置く。 そして横に体を向けながら、顔だけメタナイトを真っ直ぐに見た。その時の笑みは、自嘲している様にも見えた。 「私は、もしかしたら記憶を失っているのかも知れぬのだ」 「記憶を?」 「マリオ殿達と冒険をすると、何かが思い出されようとしているのだ。だが、それは何なのかは分からぬ。只、今回は僅かな未来を一瞬だけ感じ取れた。あの時の私はそれを信じたり、信じられなかったりしただけだ」 そして体の向きと同じ、顔を横へ戻した。さっき見ていた方向からメタナイトの質問を聞いた。 「それも、記憶の一部とでも言うのか?」 「……分からぬが、私はそう思っている。今まで全く感じなかったのだからな。それに……」 「それに?」 メタナイトは彼へ近寄った。 「あの宝玉の秘密の一つをなぜか知っていた。私はスマッシュ王国に行ったことも無ければ、その様な本を読んだ覚えも無い。宝玉を知っているのも、何かの運命なのだろうか」 マーシスはそう呟き、空を仰いだ。 「マリオ殿達と旅をすれば、何れ何かが分かる時が来るのかも知れぬ」 「マーシス……」 メタナイトは戦友として、記憶喪失に苦しむマーシスを悲しい目で見つめた。 「マロン、この丸太はどうするの?」 マリオは太い丸太三本を両手で軽々と持ち上げながら訊いた。 牛の乳絞りをしている女性はサッと振り向き、指を差す。彼女は赤色掛かった長い茶髪に、柔らかい布で出来たアイボリー色の服を着、更に小さな黄色いスカーフを巻いていた。 「そこに積み重ねてくれる?」 「オッケー」 マリオは重なっている丸太の山にそれらをよいしょと置いた。 「マロン、家畜の餌、あげ終えたよ」 別方向からリンクが現れた。それに女性は頷く。 「うん、ありがとう!」 カカリコ村の近くにあるロンロン牧場も大分被害を受けていた。 そこで牧場の人達に手を貸しているのはマリオとリンク。マロンと言う女性の指示のもと、あちこち動き回っていた。 「これで全部っと」 リンクも途中からマリオの手伝いに参加し、お陰で丸太は全て積まれた。 「ご苦労様。休憩時間にしましょう」 「ふはぁ! 疲れたぁ」 マリオはそれを聞くと、魔法が解けた様にそのまま芝生へ倒れ込んだ。リンクも笑いながら、彼の隣で腰を下ろした。 「今、お茶をいれて来るわね」 「ああ、サンキュー」 マロンはニコッと微笑み、小屋へと戻っていった。 二人は芝生から、平和になった空を眺める。白い雲が気持ち良く流れ、小鳥のさえずりも心地好く響く。 「何だか平和って感じが本当にするね」 「そうですね」 「ヒヒン!」 「ん?」 頭に手を回して寝転がるマリオを覗き込む影があった。それは他の馬とは少し色が変わっている馬だった。 「確かこの馬……」 「エポナですよ、子リンが乗っていた」 「あー、エポナって言うんだ」 そのままエポナの頭を撫でると、エポナは嬉しそうにした。 「驚きましたね」 リンクは笑顔のまま目を丸くした。 「エポナは人見知りが激しいから、あまり人にはなつかないのに」 「じゃあ、ボクとは初対面なのに何でエポナは?」 マリオは撫でながら彼に問う。リンクは少し考えた後、 「きっと、子リンと一緒にいた仲間だからだと思いますよ」 リンクは目を細めた。 「そっか」 マリオは上半身を起こした。 「エポナは音楽を聴くのが好きなんです」 リンクは説明しながら、青いオカリナを取り出した。 「マリオさんも一曲どうですか?」 「良いね。じゃあ、お願い」 そしてリンクはオカリナを奏で始めた。小鳥の表現がされる音色。癒されるメロディが風と共に流れてゆく。マリオもエポナも静かに聞いていた。 暫くすると、エポナは何かに耳を動かした。そして辺りを見回す。 「どうした、エポナ?」 「ブルルッ」 異変に気付いたリンクは演奏を中断して話し掛けるが、エポナはそれは聞こえていないらしい。そして顔を激しく横に振ったと同時、突然身を翻し、その場を走り去ってしまった。 「何だっ?」 マリオ達はギョッとした。 「エポナの様子が変ですっ」 「追おうっ」 マリオは立ち上がり、エポナを追おうとした。 「マリオさん、待って!」 だがリンクに腕をガシッと掴まれた。 「何だよ!」 マリオは少し苛付いて彼を睨んだ。 「先ずマロンを呼びに行きましょう!」 「それじゃあ間に合わないよっ。ならリンクが呼んで来てくれ。ボクはエポナを追うから!」 リンクの掴む手を振り払い、振り返ること無くマリオは走って行ってしまった。 「マリオさん!」 リンクは唖然とし、マリオの影を見失うまで見送ってしまった。だが、段々彼等が不安になって来た。彼等の身に何かが起こったら……? 「ま、待ってくださいよ!」 我慢の限界になったリンクは彼を追って行った。そのまま二人と一頭は牧場を去って行ってしまった。 「お待たせ、二人共っ。皆でお茶を……」 マロンは彼等がいた場所へ行ったが、そこはもう誰もいなかった。驚く彼女は首をキョロキョロ動かしたが、そこら辺りでも見当たらない。 (そう言えばエポナの姿も無いわ) 気配を感じないと分かると焦って牧場内を捜し始めた。 「リンクー! マリオー! エポナー! どこー?」 リンクとマリオはエポナの後を追う。彼等の行き先は森だった。それさえ気付かないまま、彼等は、次第に濃くなる霧に飲み込まれていった。 ──to be continued── |