恐怖の魔物








「来たか」

 エレベーターの扉が開くと、扉前でメタナイトが待っていた。
 少し狭い青い部屋で、天井からは四つの穴が太陽の光を射し込ませている。真ん中には、大きな穴がぽっかりと空いていた。それの所為で、通路が小さく壁に沿って続いているのであろう。メタナイトは恐らくここから飛んできたと考えられる。

「最上階にしては、王様がいるって感じしないでしゅけど……」

 プリンは首を傾げた。それに続き、ピカチュウも彼女と同じ仕草をした。

「陛下はここの上。即ち、屋上におられる。そこが本当の最上階だ」

 マーシスが答えた。

「メタナイト、上の様子は見てきたか?」
「今から向かおうとしていた所だ。マリオ達もついてきてくれ」

 メタナイトとマーシスは先頭になり、歩き出した。彼らが連れてきたのは、天井に空いている四つ穴の内の一つで、唯一登り棒が取り付けられていた。

「さあ行こう」

 そう言ったメタナイトはコウモリの翼で、マーシスは登り棒を使って軽やかに屋上へ向かった。二人を見た後、マリオはスマメンに頷き、登り棒に手を掛けた。
 相変わらずの青空が広がるが、前に感じた平和とは程遠い空虚さがある。
 全員屋上へ出ると、奥で城壁から景色を眺めている赤い王服が目に入った。

「陛下、失礼します」

 マーシスは大王の背中に向かって膝を付き、お辞儀をした。

「マーシス、何の様だぞい?」

 振り向かず、デデデ大王は口を開いた。

「デデデ陛下、一体どう言う事ですか」

 彼の隣に立つメタナイトは、敬語を使って話した。

「プププランドの国民達に必要な食料を全て税にしたと聞きました。今や国民は飢えに苦しんでいます」
「理由をお聞かせください、陛下」
「……」

 デデデ大王は彼らの声を聞いているのかいないのか、黙ったまま暫く何も答えない。メタナイト達だけでは無く、マリオ達も彼に不安を抱いていた。

「勿論、理由はあるぞい」

 その言葉と同時、水色の肌と黄色いくちばしを持った顔が振り向かれた。ただ、彼の目線はメタナイト達では無く、なぜかスマメンに向けられていた。目線を感じたスマメンは見開いた。彼は自分達を知っているのか、彼の口は僅かな笑みを浮かべていた。

「マリオと仲間達をここへ誘き寄せる為だぞい」
「! 何ですって!?」

 マーシスの声と同時にマリオ達は驚きの声を上げた。その応えを聞いた瞬間、マリオは直感した。大王は何か企んでいる、と。

「何、俺様の命令に従えば、命を取るつもりは無いぞい」
「へ、陛……下……?」

 何をおっしゃるのですか、と、マーシスは恐る恐る尋ねる。

「マーシス!」

 メタナイトが叫ぶと、スマメンも彼と同じ所へ出、即戦闘態勢に入る。それでも、マーシスは唖然として彼らを見ていた。

「いい加減目を覚ますんだ。あんたも、お前もな!」

 マリオはマーシスに振り向いた後、デデデ大王へ目線を戻し、指を勢い良く突き付けた。

「やい、デデ大王! ボクらを誘き寄せる為に、お前の国の住人達を犠牲にしたってのか!」
「マリオさん、デが一個足りません」

 リンクが真剣な表情をしながら冷静に突っ込んだ。痛感したマリオは、突き付けていた指先をへにょりと曲げてしまう。

「と、とにかく!」

 少し顔を赤くしたマリオだが、目は戦闘モードに戻っていた。

「こんな事してただで済むと思うな。食い物は返して貰うぞ」
「……面白い」

 デデデ大王はニヤッと歯を見せ、後ろに手を回すと、木で出来ている頑丈なハンマーを取り出した。

「命を取らない条件は俺様の手下になる事だったのだが、どうやら聞き入れる気は無いみたいだぞい」
「お前みたいな曲がった王様の手下になる位なら、戦いで死んだ方がマシだ!」

 マリオが大きな声で告げると、スマメン全員、頷いて同感した。
 大王はハンマーを肩に掛けた。

「この俺様を倒してみるがいい。手加減はしないぞい」
「ピッカチュウッ!」

 ピカチュウは、赤い頬袋に電気を溜め込んだ後、石の床に向かって電撃を放った。電撃は床を跳ねて波を描き、大王に向かって行った。大王は難なく電撃を跳んで避けた。そのままスマメンに向かって体を落とす。

「危ないっ!」

 未だ放心しているマーシスをメタナイトが庇い、スマメンはその場から慌てて離れた。デデデ大王の踏み付けはかなりの体重で床を唸らせ、大きな地響きがした。

「はぁ!」

 リンクは剣を横へ薙ぎ払って攻撃しようとした。大王は、図体が大きいのにも関わらず軽々と跳んで避ける。そして、上からハンマーを振り下ろして来た。

「そうはさせん!」

 メタナイトは翼を広げると、剣を抜きながら彼に急接近し、大王のハンマーを、リンクの頭上から剣でギリギリ受け流した。

「やっ!」

 それに油断する大王を見計らい、反対方向から現れたマントマリオは、スーパージャンプパンチをお見舞いしてやった。空中戦な為、空気に抵抗出来ない大王はそのまま上へと舞い上がる。

「お、おのれぇ……!」

 懲りずに大王が次の手を考え出そうとした時、

「メタナイト、お前の体を少し借りるっ」
「む……っ!」

 スネークは、飛んでいるメタナイトを足場に片足を掛け、大王に向かってジャンプした。自分より大きい人物の重さにメタナイトは少し苦戦したが、翼の力を借りて何とか耐えた。上へと飛んでいく大王の上にスネークは現れ、落ちる重力の力を利用し、彼の腹に踵落としをくらわせた。

「ぬおおぉぉ……っ!」

 今の攻撃で、大王は落ちるスピードがぐんっと上がり、思い切り床へ叩き付けられた。

「やったーでしゅ!」

 仰向けになったままピクリとも動かない大王を見て、ファンシーズは喜びの声を上げた。

「へ、陛下……」

 入口付近で座り込んでいるマーシスは、悲しい目で、我らが大王の無残な姿を見る。

「……あっさり動かなくなったな」

 スネークはマリオ達の前で着地し、汚れた手を叩いた。

「口だけは達者で、意外と弱かったんでしゅね」

 プリンはポケモン達と笑いながら言った。

「これしきの事でやられる陛下では無い」

 その時、後ろにいるマーシスはそう発言した。ギョッとしたスマメンは彼に振り向いた。マーシスは立ち上がり、その場でマリオ達へ静かに告げる。

「陛下はピンチになると、人が変わるのだ」
「か……変わる?」

 マリオがもっと詳しく訊こうとした時だった。
 ピチューは、ふと大王を見た。

「! ピチュッ!」

 悲鳴に似たピチューの声を聞き、スマメンはどうしたと大王の方を向いた。気付けば、倒れている大王から赤いオーラが溢れ出ている。さっきまで感じなかった殺気も、今はじわじわと感じ出してきた。

「……貴様ら……如きに……」

 大王は、ムクッと起き上がった。額には、怒りを象徴する血管がクッキリと見える。

「この俺様が……この俺様があぁ……」

 ハンマーを強く握り締め、振り上げる。スマメンは何か仕掛けてくるのかと、冷や汗を流して一歩後退りした。

「負ける筈無かろうがぁ!!」

 大王は叫ぶとハンマーを床に向け、力任せに振り下ろした。すると、彼を中心に床から電気混じりで地割れが発生した。

「な! うわああぁ!」

 衝撃派を受けたスマメンは城壁に背中をぶつけた。

「! マリオ達!」
「み、みんなぁ!」

 メタナイトとカービィは飛んでいて、幸い彼の攻撃を免れていた。
 残りのスマメンは背中を痛めたか、唸っていて動けなかった。忠告したマーシスも同様であった。

「デ、デデデ大王が怒りモードになってるよぉ」

 カービィは顔色を悪くしてしまった。
 暫くしてメタナイトが口を開いた。

「今はマリオ達を戦闘に参加させると危険だ。ここは、まだ体力がある我々だけで挑もう」
「ぼ、僕達で!?」

 オロオロしているカービィにメタナイトは顔を合わせた。

「カービィは何度も彼と戦っているだろう。その経験が、己への力となっている筈だ。自分の力を信じるんだ、カービィ」

 カービィは目線を下に向けて悩んだが、キッと目の色を変え、ソードを構えると顔を上げた。

「分かった! 僕、やる! 星の戦士として……スマブラのメンバーとしてっ!」

 メタナイトはコクンと頷いた。

「マリオ達に手出しはするな」
「僕らが相手だっ。掛かって来い! デデデ大王っ!」
「この俺様を本気で怒らせるとどうなるか、後悔させてやるぞい!」

 大王はハンマーを床へ放り、大きく息を吸い込む。カービィ達も危うく吸い込まれる位だ。空気を吸い込んで腹を膨れ上がらせ、破裂寸前で口を閉じると、彼らに向かって巨大な空気砲を発射させた。慌てて避けるカービィとメタナイトだが、その時、その空気砲が爆発し、中から炎に包まれた星々が花火の如く散らばった。

「あちちちち!」
「っ! くそっ」

 何とか避けているものの、爆発と炎の星から生まれる、有り得ない程に熱い風が彼らを襲った。
 しまいに飛ぶことを忘れてしまったカービィは、床へボテッと落ちてしまった。

「大丈夫か、カービィ」

 心配したメタナイトは彼の側へ下りた。

「な、何とかね。お腹がぺこぺこで少しの間力が抜けちゃっただけだから」

 頭を抑えながら、カービィは何とか返事をした。

「そんな体でどこまでもつかな?」

 大王は苦笑した。睨む二人。

「勝ったらご馳走! 今の戦う気の素だいっ!」

 カービィは別の意味で怒り、ソードを構え直すと、後先考えずに大王へ飛びかかった。大王はハンマーを取り出し、剣とハンマーが、キンッと金属音を立てて交わった。

「とっ! てや!」

 何度も武器を交わらせるが、どちらも互角だ。

「……お前の攻撃パターンはお見通しだぞい」

 必死で戦っているカービィに対し、大王は余裕の笑みで抵抗していた。

「半身が隙だらけだぞいっ」
「! うぁっ!」

 大王のもう片方の拳がカービィの左半身に減り込む。一瞬だけ時間が止まったが、気付けばカービィは床へ殴り飛ばされていた。強い反動で、ソードを遠くまで飛ばしてしまった。

「ほう。陛下も腕を上げたものだ」

 メタナイトが呟く。大王はその言葉に彼を見上げた。

「だが、まだまだ脇が甘い」
「何を?」
「なぜかは……ご自分で確かめると良いっ」
「えいっ!」

 大王の襟元を、いつの間にか立ち上がっていたカービィに掴まれた。今度は自分が隙を作ってしまった事に大王は焦る。

「し、しまった!」
「たあぁ!」

 カービィは大王を掴んだまま空高く飛び上がり、そして、一気に急降下した。その衝撃は凄まじく、大王のジャンプ攻撃よりも激しい地響きが城全体を伝わった。

「わっ」

 地震の様な揺れに、スマメンはガバッと起き上がった。前を見ると、カービィの側で、大王が床に首を突っ込んで動かなくなっていた。開いた口が塞がらないマリオ達は、驚きの眼で見詰めていた。

「カ、カービィって、意外と力持ちだったんだな」

 目を皿の様にしているマリオは呟いた。

「僕だってやる時はやるんだからねっ」

 カービィは、自身たっぷりの笑顔をスマメンに見せていた。

「うん……やると言うよりやり過ぎだけど」

 きっぱりと言い放ったマリオだが、カービィは気にしなかった。
 スマメンの体力は、漸く立ち上がる程になった。未だに痛い体の一部を押さえている者もいたが、全員立ち上がる事は出来た。

「さあ大王、約束通り、食べ物は返して貰うからな」

 マリオは逆様になっている大王にビシッと言った。

「マーシス」
「……ん? あ、な、何だ?」

 黙って大王を見ていたマーシスは、マリオに声を掛けられて我に返った。

「食料庫まで案内してくれるか? そこに住人達の食べ物もあるんだろ?」
「ああ、そうだ。では、案内しよう」

 大王が倒された為、手下として遣る瀬無い気分であろう、マーシスの声のトーンが、さっきより明らかに低くなっている。しかし、ちゃんと案内はしてくれるみたいで、さっきの登り棒へ向かっていく。

「やったな、カービィ。これでたらふく食えるぞっ」
「うん!」

 彼についていきながら、ウキウキ気分でマリオはカービィに話し掛けた。カービィも嬉しそうな笑顔でマリオに近付き、元気な声で返事をした。
 ピチューは皆についていきながら、ふと後ろを振り返った。そこで何かを見た途端、思わず立ち止まってしまった。

「ピチュ……?」
「? ピチュー、どうしたの?」

 彼の異変に気付いたスマメンとマーシス。ピチューの目線を追うと、マリオは思わず声を上げた。

「な、何だあれ!?」

 さっきまで床で気絶していたデデデ大王が、真正面を向いたままふわふわと浮かんでいたのだ。異常な光景に、スマメン達は驚きを隠せない。

「マ、マーシス、あれって、何?」

 恐々とした声でマリオは訊くが、マーシスも驚いている様子である。

「……私も、あの様な陛下のお姿は見た事が無い」
「じ、じゃあ一体っ……」

 リンクも若干恐れている様子であった。声が僅かに震えている。
 大王は目を閉じたまま空中浮遊していて、その光景は不気味と言っても良い。

「……キ……貴様……ラ如キニ……」

 何故か大王の声が変わっていた。生の人間には出せない、まるで機械で出来たボイスだ。

「コ、コ、コノ……俺様……コノ……如キ、ニ……」
「メメメ、メタナイトォ!」

 カービィは涙目でメタナイトに話し掛けた。

「……更なる邪悪な気を感じる……」

 メタナイトは前を向いたままポツリと呟いた。

「途轍も無い気だ。恐らく、デデデ陛下を操っていた魔物に違いない」
「ま、また操られているのか!」

 リザードンとの対決を思い出したマリオは声を上げて言った。

「コ……コノ、ワ……ワタ……シ……ワタシガアアアァァァァ!!」

 何と大王の腹が黒い霧の渦へと変貌し、そこから大きな一つの目玉が現れたのだ。

「うわあああぁぁっ!?」










 ──to be continued──