流れ星の夜に








「う、うーん……」

 マリオの意識は戻りつつあった。
 さっきまでは石の床で倒れた気がしたが、今は全身が温かい。柔らかい感触もし、恐らくベッドで寝ているのだろう。心地好い空間に未だ瞼が重かったが、痙攣してからうっすらと目を開いていった。ボヤける視界に広がるのは、木で出来た低い天井。そして、こちらを見ている、黒い人間と黄色い鼠。

「気が付いたか?」
「ピッカ!」

 視界がハッキリすると、その正体はスネークと、スネークの腕の中にいるピカチュウだった。マリオの意識が戻り、スネークは安堵の微笑み、ピカチュウは涙目で喜びの笑顔になった。

「スネーク、ピカチュウ……無事だったんだ」

 マリオは薄目状態のまま、ホッとした表情を見せた。

「これ位でくたばるような俺達じゃない。少なくとも、あんたに比べりゃな」

 スネークは斜め上から見下す仕草をして見せた。

「ピッカチュ!」

 それに同感しているのか、ピカチュウも笑顔だ。

「! し、仕方ないじゃんっ、腹が空いてたんだか……」

 顔を赤くして言い返してやろうと上半身を起こすと、

「気が付きましたねー」

 マリオの目の前に、突如黄色いハニワの顔がどアップで現れた。

「ギャアアアァァ!!」

 心臓が飛び出す──否、この家が壊れる位のマリオの叫びが町中に響き渡った。

「いい目覚ましになったみたいだな」

 スネークは吹き出した。ピカチュウは、マリオの叫びに驚き、耳を下へ引っ張って震えている。

「また気絶しそうになったよ!」

 マリオは白目で真っ青になりながらスネークに突っ込んだ。

「驚かしてすみませんー」

 さっきの黄色いハニワは焦って頭を下げた。

「先日は食べ物を取り戻してくださって、ありがとうございますー」
「た、食べ物?」
「ここは例のゴーストタウンだ、マリオ隊長」

 マリオのハテナにスネークが答えた。

「いや、今はそんな町じゃなくなったけどな」
「それじゃあ貴方は……」

 と、マリオは黄色のハニワに顔を向けた。ハニワは頷いた。

「プププランドの住人です。私達はキャピィと申します。ノックに出れなくて、何とお詫びすれば良いか」
「謝る必要はない。食われずに済んだんだからな」
「……」

 キャピィの肩に手を置いて励ますスネークに、マリオは何も言い返せなかった。
 暫くして、マリオの腹が思い切り鳴った。驚いた家内の彼等の目線は、マリオの腹に向けられる。マリオも赤面して自分の腹を抑えた。

「そういや、お腹を空かし過ぎたから、あの時気絶しちゃったんだっけ」
「それなら心配要りません」
「え?」

 キャピィのハニワな目が笑んだ。

「先程、陛下からのお呼び出しが、貴方達に来たんですよ」




 デデデ城の食事の間で、物凄い勢いで料理を食す音が止まない。長いテーブルには城の住人、スマメンが座って食事をしていたが、一部気まずい席があった。

「……」

 料理を運ぶ手を自然に止め、スマメンや城の者達は、豪快な食べっぷりを見せるカービィとマリオをポカンと見ていた。何ともはしたない光景だとしか言い様が無い。料理長を務めているコックカワサキも手が追い付かない程である。

「お替り頂戴!」
「あ、ボクもっ」

 カービィとマリオは、同時に大きな皿を、近くを通るコックカワサキに突き付けた。コックカワサキは初めかなり驚いた顔をしたが、後に冷や汗を流しながら笑顔でそれらを受け取った。

「凄い食べっぷりでしゅね、カービィしゃんは別として」

 プリンは皿の様な目を更に丸くしていた。

「オレさまの分は食うでないぞい」

 テーブルの奥で骨付き肉を片手に彼らを叱るのは、正気に戻ったデデデ大王だ。

「オレさまからのご褒美だからと言えど、限りはある事を忘れるで無いぞい」
「……乗り移られた時より態度悪いでしゅね」

 プリンは隣に座っているピカチュウに囁いた。ピカチュウも、彼女と一緒にデデデ大王をチラ見して首を縦に振った。

「でも、光栄ですよ」

 リンクは大王に微笑んだ。

「お礼に、こんなに豪華な食事をご馳走してくださるなんて、本当に恐縮です」
「俺達も、丁度腹を空かしていたからな。感謝してる」

 スネークもそう言った。

「……ま、まあ、オレさまも危うかったからな。これくらいの礼は当然だぞい」

 少し頬を赤らめながら、大王は肉にがぶり付いた。

「マリオッ」
「マリオ殿!」

 メタナイトとマーシスの声と共にバンッと扉が開かれた。

「むぐっ!」

 驚いたマリオは、うっかり料理を喉に詰まらせてしまった。中々息が出来ず、顔色を悪くしてゆきながら胸を必死で叩く。

「ピチュッ!」

 ピチューは慌てて側に置いてある水入りコップをマリオに差し出した。マリオは急いでその水を飲み、詰まっていた料理を流し込んだ。

「ップハ! し、死ぬかと思った……」

 ゼエゼエ息を荒らしているマリオに例の二人が駆け寄る。

「食事中、失礼した。だが、一刻も早く伝えるべきだと決めていた。
 ──分かったのだ」
「何を?」

 マリオは少し不機嫌になってしまっていた。それを掻き消す言葉をマーシスは言った。

「欠片の在り処だ」
「何だって!?」

 欠片と言う言葉にマリオの他、スマメンは表情を変えた。

「すっかり忘れてた!」

 真剣な表情をしながら惚けた発言をしたマリオに、スマメンはテーブルに頭を思い切り落とした。

「ご免、今まで食べ物のことしか頭に無かったから」

 顔を赤くしたマリオは後頭部をポリポリ掻いた。

「ま、まあ、無理も無い」

 一緒にずっこけてたメタナイトは漸く立ち上がった。

「マリオ、欠片の在り処は、空の上だ」

 そして、上へ指を差して言ったのだ。

「空っ」

 マリオはきょとんとした。

「空の上──つまり、宇宙だ」
「う、宇宙!?」
「先日、マーシスが私にそう告げたのだ。調べた結果、その様なパワーが宇宙内にある事が分かった」

 予想外の展開である。
 その事情を、マーシスが説明した。

「昨日の事だ。私は、この様な夢のお告げを聞いたのだ」




 ──明日、流れ星が降り注ぐ夜に、空間を守護する力の一部が、星々の戦士達に助けを求めるだろう。




「……助けを求めている、守護の力の一部って、正か?」

 マリオは少し乗り出した。そんな彼に、メタナイトとマーシスは頷いた。

「でも宇宙って……どうやって行くんですかっ」

 リンクは慌てて問う。

「私の戦艦がこの国にあれば直ぐに行けるのだが……」

 メタナイトは目を閉じ、腕を組んだ。そして、目を開き、カービィを見た。

「カービィ、そなたはワープスターを呼べるな?」
「う、うん」

 口の周りがミートソース塗れなカービィは頷いた。

「なるほどね」

 マリオは腕を組んだ。

「ワープスターで宇宙へ行くって訳だ」
「うーん……」

 その時、カービィはなぜか浮かない顔をしていた。

「カービィ?」

 マリオはカービィの顔を覗き込んだ。それに気付いたカービィは、少し不満げな顔をした。

「……ううん。最近使ってあげてなかったから、ワープスターの調子が悪くって、今は少人数しか乗せられないんだよ。調子が良かったら全員乗せる事は出来るんだけど……」
「そ、そうなのっ?」
「それは一大事ですね」

 スマメンは悩んでしまった。全員で宇宙へ行く事は果たして出来るのか? この先どうすれば良いのか。

「ほれほれ、硬い話はおしまいにするぞいっ」

 全員の緊張する空気を解いたのはデデデ大王だった。肉を食べ尽くした骨を振り回し、全員をこちらへ向かせた。

「オレさまには何のことだかさっぱりだがな、ワープスターのことはカービィに任せれば済む話だろう。旅行者諸君、我がプププランドの観光を是非とも堪能してくるんだぞい」
「は、はあ」

 言われてみれば、自分達はまだ平和になったプププランドを詳しくは知らないし、ちゃんと見てない。もしかしたらもう来れなくなるかも知れないから、一度回って来るのも悪く無い。出発は夜だから、それまでに行って来よう、と、マリオ達は思った。

「カービィ、夜までに何とかならない?」
「頑張ってみる」
「頼んだよ」




 マリオは城から出ると、ピカチュウと一緒に丘を下りた。

「お陰で腹一杯になったなぁー」

 幸せそうな顔をして、マリオは自分の膨らんだ腹をポンポン叩いた。

「腹が減っては、流石のボクも戦は出来ないよ。これから欠片を見付けに行くんだしな」
「ピカッチュッ」

 下へ到着すると、ゴーストタウンだった町には既に活気が戻っていた。あれだけ殺風景だったのに、今は色んな種族の住民で賑わっていた。勿論、果物や野菜を売る店、レストランも営業中だ。

「人がいるのといないのでは、雰囲気も随分違うものだなぁ」
「ピッカッ」

 マリオの頭の上に乗っているピカチュウは元気よく返事した。

「……ん?」

 マリオは町から少し離れた所で、プリンと、彼女の前でキャンバスに絵を描いている少女を見掛けた。

「あ、マリオしゃん、ピカチュウ!」

 プリンはこちらに気付くと短い手を振った。

「あ、プリンさん、動いちゃ駄目よっ」
「あぁ、すみましぇんっ」

 少女はプリンに慌てて言った。プリンはさっきの切り株に座っているポーズに戻った。

「何してるの?」

 マリオはプリンの側まで歩み寄った。

「アドしゃんに似顔絵を描いて貰ってるんでしゅ」

 プリンはポーズを変えぬまま答えた。

「アド?」

 アドと呼ばれた少女はキャンバスから顔を出し、ニッコリと微笑んだ。黒髪のショートで、緑系の洋服に赤いベレー帽を被り、手には絵の具用の用具が握られている。

「初めまして、マリオさん、ピカチュウさん。アドレーヌと言います」

 マリオ達の前に立つとお辞儀をした。

「先日はデデのだんなを助けてくれて有難う。カーくんから聞いたわ」
「デデの……デデデ大王か」
「アドしゃんは、絵の勉強をする為にこの星へ来たんでしゅって」

 プリンが言った。

「そうなんだ……なあ、アドレーヌ、今描いてる絵、ちょっと見せてよ」
「良いわよ。あ、後、私の事はアドで良いからね」
「おう、分かったよ、アド」

 許可を得たマリオとピカチュウは、アドレーヌのキャンバスを覗いた。切り株に座っているプリンの明るい笑顔が、絵の具タッチで確りと表現されていた。

「へえ、上手いなあ」
「ピカッ」

 マリオ達は思わず笑顔になった。

「有難う。もう少しで完成するから待っててね」

 アドレーヌは持ち場へ戻り、筆を使ってささっと仕上げる。彼女の描写時間を、マリオ達は後ろから見守った。

「うんっ、出来たわ」

 満足な表情でアドレーヌはキャンバスから筆を離した。先程見せてもらった時よりも完成度が何段階も出ていた。マリオ達は感心の声を上げて拍手した。

「本当に上手だなぁ」
「見せてくだしゃいっ」

 プリンは急いだ感じでマリオ達の前を飛び、絵を見る。

「わあ! 有難う、アドしゃんっ。宝物にするでしゅっ」
「あ、無闇に触っちゃ……」

 アドレーヌが止めようとしたが、プリンは彼女の言葉を聞く前に、うっかり自分の絵に触れてしまった。すると、キャンバスが一瞬光り……、

「プリーッ」
「キャッ」

 何とキャンバスから描かれたプリンが飛び出して来たのだ。そして風船となる為に自分の体を膨れ上がらせ、どこかへ飛んで行ってしまった。

「な、何だ、今の?」

 状況が理解出来ないマリオ達は、絵が飛んで行った方向を見詰めながらぽかんとしてしまった。

「ご免ね、絵を描く前に言っておくべきだったわ」

 アドレーヌは脱力して言った。

「私の描いた絵、実は実体化するのよ」
「えぇっ!?」

 マリオ達は呆気にとられた。

「じゃあ似顔絵描いたって無意味じゃんっ」
「う、うん、そこが悩みの種なのよ。生まれ付きそう言う能力を備えてるから」

 アドレーヌは片手で頭を抱えた。

「それはそれは……」
「凄いでしゅっ」

 自分の絵が逃げてしまったのにも関わらずプリンははしゃいでいた。

「本当にもう一人の自分が現れたと思ったでしゅっ。凄い画家しゃんになりましゅよ」
「あ……有難う」

 彼女の前をぴょんぴょん跳ねる。僅かに頬を染めながら、アドレーヌはプリンに微笑んだ。

(ある意味……な)

 マリオは心の中でこっそり呟いた。
 そしてあることを思い浮かべると、頭の上で電球を光らせた。

「いいことを思い付いたっ!」
「マリオさん?」




 夜が訪れた。青々とした夜空の中、星達が綺麗に輝いている。マーシスの聞いた夢の告げの通り、今にも流れ星が沢山流れて行きそうな空だ。
 丘から見下ろせば、町は活気の色として黄金色に彩られていた。
 スマメンは約束の時間に、集合場所の城の前の丘の上へ集まった。そこには、大きな黄色い星であるワープスターを調子を見ているカービィの姿があった。

「カービィ、どう?」

 少し期待しているスマメン。マリオは後ろから話し掛けた。

「うーん……ゴメン、やっぱり無理みたい」

 振り向いたカービィはしょんぼりしていた。マリオ達は駄目だったかと、がっかりしてしまった。

「では少人数で行くしか無いな」

 メタナイトは言った。

「どうされますか、マリオ隊長?」

 スネークはわざと敬語で訊いた。口に指を当て、暫くマリオは考え込む。

「……よしっ。じゃあ、ボクとカービィ、メタナイトで行こうっ。宇宙について詳しいのは、今の所この二人だからね」

 カービィとメタナイトを見て言った。

「うん、分かった!」
「良いだろう」

 その時、夜空を一つの流れ星がキラリと流れた。それに続く様に、星が次々と流れ落ち、流星群となった。町の住人は全員、そのカーテンの様な流星群に言葉も出なかった。家にいる者は窓からででも釘付けになっている。

「綺麗ですね……」

 リンクは思わず声を上げた。

「マーシスの見た夢は、本当だったのですね」
「極たまにだが、私は夢の中で、神の言葉を聞くことがあるからな」

 マーシスは、こちらを向くリンクに振り向いて言った。

「じゃあリンク達は待機しててくれ」

 先にワープスターに乗ったカービィとメタナイトに続き、マリオは最後に乗り込んだ。

「分かりました」
「確り頼んだぞ」
「じゃあお願い、ワープスター!」

 カービィが叫ぶとワープスターは改めて動き出し、マッハのスピードで流星群の夜空へと消えていった。

「頑張ってください、マリオさん、カービィさん、メタナイトさん」
「彼等なら出来るであろう」

 そう断言したのは、マーシスだった。

「マリオ達に与えられた使命なのだ。必ずやり遂げるだろう」
「マーシス……」

 スマメンは、マーシスの気持ちは固いと分かる。不思議とスマメンは元気づけられた。
 マリオ達を乗せたワープスターは空の彼方へと消え、最後に輝く光を残して行った。










 ──to be continued──