極寒の国 翌朝。 欠片を取り戻したマリオ一行は、キャピィ宅にいた。 木のテーブルにはキャピィの出した様々な料理が並べられ、スマメンはそれらを平らげた。 「城のご馳走も良いでしゅけど、キャピィしゃんのお料理もとてもいけるでしゅ」 「ピッカチュー」 「ピィッチュ!」 プリンは幸せな顔で言うと、ピカチュウは食べ終えた林檎、ピチューは葡萄の粒を掲げて共感した。 「へへっ」 カービィは、満面な笑顔で欠片を、天井の明かりで輝かせて眺めていた。 「なるほど、そう言う事か」 スマメン達から少し離れた場所で、メタナイトは、マリオとアドレーヌと一緒に椅子に座って話をしていた。 「はい。あの時、マリオさんが提案を出してくれたんです」 両膝に両手を付けてアドレーヌは話した。アドレーヌの話に寄ると、マリオは彼女の能力を知った時、カービィの絵を描いて欲しいと頼んだのだ。時間が無いらしく、アドレーヌは、きっと何かに重要なのかも知れないと直感し、引き受けた。そして、もう一人のカービィを、自分の持つ実体化能力で生み出したのである。 「では出発時、マリオがカービィに何やらこそこそ話をしていたのは……」 「そ」 メタナイトがマリオを見ながら言うと、マリオは頷いた。隕石を避けながらワープスターが進む間に、アドレーヌの絵の事をカービィに話し、作戦は実行されたのである。 「マルクの攻撃で消えたカービィは、架空の身代わりだったって事だよ。ボクの世界では宇宙戦なんて滅多にないから、何があるか分からなくてさ」 マリオは、自分の頭を軽く叩いてみせた。そしてアドレーヌに振り向き、笑んだ。 「ありがとな、アド」 「うん、お役に立てて良かったわ」 アドレーヌは、女の子らしさ溢れる可愛い微笑みを返した。 「……一寸可哀想な事したけどな」 マリオは前を向くと、鼻を掻きながら静かに呟いた。例え存在しない者だとしても、本物と全く同じで、マリオと共に戦ってくれた。彼もまた、自分達の仲間だったのだ。 「えっ、クレイジー大臣が倒れた!?」 リンクは、目の前で浮遊している妖精と対話をしていた。旅に出る前に呼んでいた、光の玉に透明な四枚の羽を持つ妖精である。飛んでいる度に小さな光の鱗粉が落ちて消えて行った。正確にはその妖精を通じ、スマッシュ王国にいるマルスとロイを相手に話をしていた。 スマメンは、リンクの少し大きな声に振り向いた。 「そうなんだ」 妖精からマルスの声がした。意味深な声色で、多少の緊張感を物語っていた。 「酷く頭を痛めておられた。恐らくここ数日、一睡もしていなかったからだと思う。今、寝室で休んで頂いてるから、もう大丈夫だけどね」 だが、後に安心させる柔らかい口調が聞こえた。 「そうですか」 リンク始め、スマメンはホッとした。クレイジー大臣が急に倒れてしまったと言う報告を受け、聞いた者の驚きは隠せなかったのだ。 「突然、申し訳なかった」 「いえ。また何かあったら連絡してください」 「分かった。それでは」 通信が切れ、妖精はリンクの帽子の中へ戻った。 「大臣達も頑張ってるんでしゅね」 プリンは言った。 「それなら、俺達もモタモタしてはいられませんね」 リンクは椅子から立ち上がった。それに吊られ、他のスマメンも立ち上がった。 「もう行ってしまわれるのですかー」 キャピィは少し残念がっていた。アドも同じく、表情を悲しい色で染めていた。 「いつまでもここにいたら悪いしな」 スネークは武器を整え終え、キャピィに言った。 「色々お世話になりました」 マリオはキャピィに頭を下げると、向こうも頭を下げた。 「いえいえ、ポップスターを救ってくれた英雄ですもの。これ位は当然ですー」 「カーくん、頑張ってね」 アドレーヌはカービィの頭を撫で、悲しみながらも笑顔を作った。それに対し、カービィは元気一杯の笑顔で返事をした。 「うん!」 「メタナイトも来るか?」 マリオは背伸びをしながら尋ねた。 「ああ、私も行こう。皆の運命が掛かっているのだからな」 メタナイトはそう言って椅子から降りた。 町の出口で、住人はスマメンを見送る。 「いつでも遊びに来てください、お待ちしておりますぞ」 ヒゲを生やしたキャピィの町長が言うと、マリオは快い返事をした。 「そうだ、マーシスよ」 見送りに来ていたデデデ大王は、後ろに立っているマーシスに振り向いた。 「何でしょう、陛下」 「マリオ達のとこに行かんのかぞい?」 「えっ」 マーシスは驚いた。それは住人やスマメンも同じで、大王を見ていた。 「確か、修行が終わって帰って来たと言っていたが、まだまだ修行したいのでは無いのではないかな?」 ニヤリと笑みながら言うデデデにマーシスは少々戸惑った。だがその様子を見ると、マーシスの気持ちは、大王の言う通りだった。 「マーシス、力を貸してくれるか」 マリオは笑顔でマーシスにお願いした。マーシスはマリオを見た後、暫くして口端を上げた。 「感謝します、陛下」 大王の前で片膝を付き、深々と頭を下げた。 「但し、旅の途中で死んだらただでは置かんぞい」 「はっ」 腕を組んでそっぽを向く大王に、マーシスは笑んで頷いた。 「では皆の者、暫しの間、世話になる」 「ああ、宜しく」 マーシスはスマメンの前に出ると、胸の前で片腕を横にした。スマメンはそれぞれのやり方でお辞儀をした。 「マリオ隊長、準備良い?」 「ん? おう」 カービィは懐から欠片を取り出して掲げると、マリオは頷き、自分も欠片を取り出した。欠片は優しい光を放ちながら二人の手から離れ、互いの欠片を掛け合わせた。そして、マリオ達を光で包み込む。 「ありがとー」 「さようならー! 頑張ってねー!」 アドレーヌやキャピィ、その他住人達は笑顔で手を振った。マリオ達を光で完全に包み込んだ欠片は、キラリと光った後、その場を消え去った。 マリオ達が消えていった場所を、街頭の上に立って見下ろしている者がいた。汚れた布を纏い、覆われた顔のシルエットからでは、何者かは分からない。そして、その場から消え去った。 天候はかなり悪かった。分厚い灰色の雪雲が空を覆う。見るだけで凍えそうな大吹雪が山々を襲っていた。 そこへ、欠片の光が現れた。相変わらず少し高い場所で欠片はマリオ達を解放する。 「とおっ!」 マリオは体を回転させ、今度はちゃんと着地出来た。もう大丈夫だと、少し埃被った服をはたいていたが……。 「ぐおは!」 「むっ、これは失礼」 今までよりも凶器に近いものがマリオの体に思い切り伸し掛かった。今度はマーシスに踏み付けられる始末である。 「立ち位置が悪いんじゃないのか?」 スネークは肩を竦めて言った。マーシスは直ぐにどいてくれたが、マリオは雪に埋もれたまま呟く。 「マーシス、連れて来るんじゃなかった……」 「まあまあそう言わず」 リンクは苦笑いしてマリオに手を貸した。 辺りを見渡すと、そこは極寒の国と言っても過言では無かった。雪を連れた強風がマリオ達を襲う。おまけに視界も悪くて、遠くまでは見えなかった。 「っ……は、はあっくょん!」 マリオは派手なくしゃみをかました。その寒さに耐えきれず、鼻を啜りながら必死で腕を擦った。 「あ、あんだよ、この寒さぁー……」 ガチガチと凍えているせいでマリオの声はかなり震えていた。 「……どうやら雪山の様です」 リンクも寒いらしく、見渡しながら腕を擦る。 「見れば分かるよっ」 寒さにイライラしているのか、マリオは少し怒鳴ってしまう。勢い余って鼻水を垂らしてしまった。 ファンシーズは、吹き飛ばされそうな程に強い風に必死な様子だ。ピカチュウはマリオの頭に必死でしがみつき、カービィはメタナイトの後ろにいて、プリンはマーシスの足を掴み、ピチューもリンクの帽子を掴んでいた。スネーク達は、向かい風から顔を背けてしまっていた。雪が顔に当たって痛い為である。 「こんな所から欠片を見付け出せって言うのかよっ」 マリオの顔は正に絶望感に満ちている様子だった。誰から見ても青色だと言う事が一発で分かる。 「や、やむを得ませんよ、マリオさん」 リンクのごもっともな言葉に、マリオの頭に血が上ってしまった。 「見付ける前に死ぬっての!!」 限界が訪れ、遂に叫んでしまった。マリオの声が吹雪の中、木霊する。山と山で何度もエコーして消えて行った。 「頼り有る隊長さんが情けないな」 スネークは腰に手を当て、吹き出して言った。 暫くすると、何やら轟音がクレッシェンドで聞こえて来る。異様な音に、マリオ達はギョッとした。 「な、何だ?」 次第に地面も小刻に揺れ出して来ているでは無いか。 「なぜか、嫌な予感がします」 リンクは、寒い空間にいるのにも関わらず冷や汗を一筋流した。そして、皆の考えは一致したのである。彼等が見上げる急な斜面からは濃く白い霧……では無く、雪崩が押し寄せて来た。物凄いスピードを上げてこちらへ向かって来ている。 「うわわわ! 逃げろお!!」 マリオが言わなくても、既に全員は雪崩からダッシュしていた。しかし、雪崩はかなりの勢いで、津波の如くマリオ達を襲った。いくら速く走っても、雪崩の方が何倍も速い。そして、遂に追い付いてはスマメンを呑み込んだ雪崩は斜面を滑り落ち、漸く止まったのだった。その後、吹雪は嘘の様に止み、雲の隙間から覗く白い太陽が、厚い層となった雪崩の跡をキラキラと照らし出した。 暫くして、雪面の一部が小山の様に盛り上がった。それはボコッと崩れ、中から現れたのはスネークだった。その直後に、彼の側にいたマーシスも、うつ伏せ状態から顔を出す。 「大丈夫か、スネーク殿」 「ったく、いい迷惑な隊長さんだ」 頭を掻きながらスネークは呟いた。 辺りに気配を感じ、軽く見回した後、適当に雪の中に手を突っ込んだ。何かを掴むと力を入れて引っ張り起こす。中から出てきたのはリンクだった。 「っぷはぁ! た、助かりました、スネークさん」 スネークはリンクの手を掴んでいたのである。 マーシスも習い、雪に手を突っ込んでみた。すると掴み返されたので、直ぐに引っ張り出した。 「っぷあ! あ、ありがとう、マーシス」 雪崩を呼んだ張本人が当たった。スネークはマリオを見ると呆れながら近寄る。 「ここが雪山だって忘れるな」 「ふご! わ、悪かったよ!」 マーシスが止めるのを無視し、頭を掴んで雪に無理矢理埋もれさせるスネークに、マリオは必死で謝罪した。 漸く手を離したスネークにマリオは目で改まった後、 「皆ー、大丈夫かー?」 エコーが掛らぬ程度に周りに呼び掛けた。それに応える様に次々とスマメンが現れる。 「し、死ぬかと思ったあー」 顔を出した直後のカービィは驚いた目をしながら言った。 「何だ何だ?」 「何か凄い音がしたけど……」 その時、別の方から二人の子供の声がした。マリオ達には、聞き覚えのある声だった。 「あ! マリオさん!」 「わあ、皆もいるのね!」 そして、少し高い丘から声の主が現れた。青とピンクの防寒服を着、木のハンマーを持っている男女。マリオ達を見ると、明るい笑顔で手を振っていた。 「ポポ! ナナ!」 マリオも大きな声で彼等を呼んだ。 相手は、ポポとナナのアイスクライマーで、マリオ達と同じ、スマッシュブラザーズの一員である。 マリオ達がいた場所から少し離れたある場所には、木で作られた小さな山小屋が建っていた。アイスクライマーはそこで暮らしていると言う。見た目は多少古くてボロだが、中には小さな暖炉が付いていて、今のスマメンには持ってこいだった。 暖炉の前で、ファンシーズは身を寄せ合って眠りに落ちていた。 「そうだったんだ」 アイスクライマーは、起きているスマメンを木のテーブル椅子に座らせ、暖かいココアを差し出しながら、マリオ達の事情を聞いた。 「だから、この山にも欠片があるって訳なんだ」 マリオはそう話して、ココアを一口飲んだ。 「何か、心当たりは無いかい?」 リンクは彼等を覗き込む様にして尋ねた。アイスクライマーは顔を見合わせるが、難しい表情をしていた。 「うーん、心当たり……一つだけならあるかも知れない」 「本当っ?」 それを聞くな否や、マリオ達は即反応して乗り出した。 「最近、恐竜がまた悪さをし始めたの」 「え?……恐竜?」 スマメンは目を丸くした。恐らく、どんな関係があるのかと訊きたいのであろう。ナナはポポに振り向くと、頷いたポポは次に口を開いた。 「プテラノドンみたいな恐竜なんだ。その恐竜は、僕達の大事な野菜を盗んで行っちゃうんだよ。それはいつもの事だから取り戻しに行けば良いんだけど、ここ最近様子がおかしくて、色んな人から大事な物を盗んで行ってるみたいなんだ」 「恐竜かあ。もしかしたら、欠片も盗んで行ったんだろうね」 マリオ達が腕を組んで考えている間、唯一落ち着いてない人物がいた。 「……リンク?」 リンクが、らしくない行動をしているのである。たまにファンシーズを見ては、別の方向を向いていたりしてソワソワしている。 「如何された、リンク殿」 メタナイトが話し掛けると、リンクはハッとして彼と目を合わせた。 「あ、いえ……何か、妙に違和感があるなって思いまして」 「違和感?」 マリオは眉をひそめ、リンクと同じ様に目線を動かしてみる。リンクの言う事は正しいらしい。確かに何かが足りない気がする──いや、明らかに足りなかった。 「……ああ!!」 ファンシーズを見て、ピンと来たマリオは思わず立ち上がった。 「プリンがいないぞ!」 「ああ!」 大声にピカチュウ達は驚いて目を開いた。 「大変だ! 探しに行かなきゃ!」 マリオ達は急いで山小屋を出た。 「プリンー!」 「どこだー!」 「ピカァー!」 さっきの雪崩があった場所へ戻り、プリンを探し回る。だが、幾ら探しても返事は無い。 スネークは奥まで行き、手掛りを探る。すると、何かを見付け、それを拾い上げた。 「隊長」 マリオのとこへ行き、スネークは手に掴んでいる物を差し出した。それは、ビリジアンに輝く長いリボンだった。 「! これ、プリンのお気に入りのリボンだっ」 マリオは声を上げてそれを手に持った。残りのスマメンもそこに集まった。 「クライマー達の言う通りかも知れない」 それを聞いたアイスクライマーは、え? と顔を上げた。 「このリボン、雪崩に呑み込まれた痕跡が無かった。そして、近くに恐竜っぽい足跡があった」 「! それじゃあ……」 リンクが呟き、 「プリンは……」 次にポポ。 「あの恐竜に……」 そしてナナ。 「拐われた訳か!」 最後にマリオが言った。 「ポポ、恐竜はいつもどこに住んでるの?」 「あの山の頂上だよ」 ポポは、この辺りの山で最も大きい山の天辺を指差した。 「んにゃろー」 マリオはその頂上を見上げた。 「待ってろよプリン、必ず助けに行くからな!」 ──to be continued── |