光と闇








 光が消え、その中から姿を現した。それは、鋭い目付きをした狼だった。
 魔法が解けた様に顔をブルブルと振るわせ、低く唸る。

「な、何だこいつは!?」

 ファルコは叫んだ。

「リ……リン……ク……?」

 マリオは頭の中が混乱してしまっていた。今目の前にいるのは、これまで一緒に旅をして来た仲間なのか? それとも……別の者なのか?
 スマブラも言葉が出て来なかった。
 狼は唸った後、マリオを思い切り睨んだ。

「!」

 身構え、かなりの殺気を漂わせている。だがマリオは逃げようとはしなかった。いや、逃げられなかった。驚愕したあまり動けないのである。

「ピカッ!」

 狼は本気モードでマリオに飛び掛かって来た。
 そこでマリオと狼の間にピカチュウが現れ、ピカチュウは電気の壁を作った。

「ピィカアァ!」
「!」
「ピカチュウっ!」

 狼は弾き飛ばされたが、直ぐに体勢を立て直した。ピカチュウは凛々しい表情をし、マリオの前で小さな両手を広げている。

「グルルル……」

 狼はピカチュウを睨みながら再び唸り声を上げていた。

「リンク……本当にリンクなのかっ?」

 フォックスは茫然としていて、現実を見るには相当な時間が掛かってしまっていた。

「グアァ!」
「ピッカァ!」

 狼はまた攻撃に掛かり、ピカチュウは頬袋からパチパチと電気を弾き出す。

「二人とも、やめるんだ!!」

 マリオは呼び掛けるが、両者は聞く耳持たず、ぶつかり合おうとしていた。

「はあ!!」

 マーシスの声がしたと同時、ピカチュウと狼の間で強い光が放たれた。それは目を潰してしまいそうな勢いで、狼やスマブラ全員瞼を強く閉じる。

「グアッ……!」

 狼は叫び、少し蹲ってしまう。
 光は直ぐにおさまり、マリオ達は目を覆うのをやめた。

「リンク殿、いい加減静まるのだっ」

 マーシスは狼に一歩近付く。狼は彼を睨みながら、震えた己の身を立ち上がらせようとしていた。

「リンク? やっぱりリンクなの!?」

 カービィは言った。

「リンク、どうしてそんな姿になったんだ! どうなっちゃってるんだよ!」

 マリオは言うが、狼は耳さえ動かさず、マーシスを睨んでいた。どうやら獲物が変わったらしい。
 そして地面を蹴り上げ、マーシスに牙を剥いた。

「マーシス!」

 メタナイトは助けに向かおうとしたが、

「メタナイトは危ないから下がってるんだっ!」

 マーシスの大声にメタナイトはハッと止まった。

「ムンッ!」

 マーシスは狼の攻撃から身を屈んで避け、下から蹴り上げた。蹴りは狼の腹に入り、狼は吹き飛ばされた。

「リンク……!」

 フォックスは直ぐ側に倒れ込んだ狼に振り向いた。
 狼はよろめきながら立ち上がると、そのまま暗闇の中へと駆け抜けていった。

「リンク!」
「待て、フォックス殿!」

 フォックスが走り出し、マーシスは彼を止めに行こうとするが、他の仲間も彼と同じ行動を取っていることに驚いてしまった。

「マーシス、彼等はもう止めても無駄だと思うぞ」

 メタナイトは静かに言った。マーシスは彼等を見てから、もう止めるのを諦めた。

「マーシス、メタナイトも行こうっ」
「ピッカ!」

 ピカチュウはマリオの肩に飛び乗り、マリオは焚き火を消すと、彼等を見て頷きながら言った。二人の騎士は顔を見合わせ、コクリと頷いた。
 スマブラはリンクの後を追う。
 マリオは走りながら隣のマーシスに訊いてみた。

「マーシス、もしかしてリンクは……っ」
「ああ。信じがたいことだが、どうやら彼の心の奥底には闇の力が眠っていた様だ」
「……」

 マリオは悲しみに暮れそうになったがそこは堪え、真剣になった顔を上げた。

「僕、分かってたんだよ」
「? 何をだ?」
「神の宝玉は、闇の力も目覚めさせてしまうって。リンクも知ってた。ハイラルの世界でね」
「ピィカ……」

 ピカチュウも知っていて、静かに耳を垂らしてしまった。

「……」

 マーシスは無表情だったが、次第に口端を上げる。

「黙っていてご免なさい、とでも言いたいのか? それは違うぞ」
「?」

 マリオは走りながらマーシスを見るが、マーシスは常に前を見ながら話した。

「マリオ殿達の気持ちは、そのスマッシュ王国の王と一緒だったのだと思うからな」

 マリオは口を半開きにしていたが、ギュッと閉じ、キリッとして前を向いた。

(……)

 隣で翼を使って飛んでいるメタナイトは、マーシスの横顔をチラッと見た。

(マーシス……)

 彼は記憶を失っていると言うが、それは宝玉に関することなのかも知れないと言う。プププランドで共にしてきた戦友が何故、宝玉を知っているのだろうか。メタナイトの知らない彼がここにいる。
 狼はどんどん森を駆けて行く。子リン曰く、この森は抜け出すまで半日は掛かると言うが、それでも彼等は走り続けていた。少なくとも、彼に追い付くまでは。
 その時、フォックスは急に立ち止まった。後ろのスマブラが何人かフォックスにぶつかってしまい、フォックスは前に向かって思い切り倒れてしまった。

「ぶはっ!」
「あ、ご免、フォックス!」
「てか急に立ち止まるなっ。驚かすなよ」

 子リンは慌てて謝り、ファルコは慌てて咎めた。

「いててて……」

 フォックスは頭を擦りながら立ち上がった。

「フォックス、一体どうした?」

 漸くマリオ達も追い付いたが、フォックス達の様子にハテナを浮かべた。

「! 皆しゃん、あれ!」

 プリンは小さな手を上へ向けた。木の太い枝に座っている男がいたのである。その男は口端を上げていて、細目でこちらを見下ろしていた。

「真っ暗な森なのに良く気付きましたね?」
「ミ、ミエール!!」

 その正体はミエールだった。

「あの勇者は遂に覚醒しましたか。流石ですね」
「お前か!? リンクに何をしたんだ!」

 子リンは弓矢をミエールに向かって構えた。それでも彼は余裕に微笑んでいるが……。

「覚醒したのは向こうの勝手ですよ。俺達は只一寸した手助けをしただけです」
「手助けだと?」

 フォックスは静かな怒りを露にし、ブラスターを構えた。

「彼は闇に目醒めるのを恐れていたのですよ。自覚していなくてもね。でも早くしなくては、いつしか彼は闇に心を奪われ、二度と光を見ることが出来なくなっていました」
「何だって……!」
「それよりテメェ」

 ファルコはフォックスの隣に立ち、彼もブラスターを構えた。

「何でテメェがそんなこと知ってるんだ。俺達以外、誰にも分からない筈だろうっ」
「あっ!」

 マリオ達はハッとした。

「へえ。極秘だったんですか。それは知らなかったなぁ……」
「とぼけるなっ! 本当の事を言え!!」

 マリオも拳を構える。スマブラも続いて攻撃の構えに入っていた。
 ミエールは組んでいる足の先をブラブラ揺らしながらまたクスッと微笑した。

「クアンやエミーが以前、貴方達に話したではないですか。オリジナルとクローンは、お互い同じ『気』を持っている、と。俺はリンクの『気』を感じた。それだけのことです」
「な……っ」
「それより、相手を間違えないで貰いたいですね。俺達の新しい仲間がお相手でしょう」
「えっ……?」

 ミエールが首を横へヒョイと動かすと、彼の座っている木の影から、スッと何者かが現れた。

「リ、リンク!?」

 まだ狼の姿のままで、リンクはマリオ達を睨みながら唸っていた。

「嘘だろう……何でギガ軍の仲間なんかに……!」

 子リンは見開いたまま固まってしまっていた。

「もう貴方達の声は彼には届きませんよ」
(さあリンク、貴方が見た『皆殺しの夢』を正夢にする時です)

 ミエールはツイッと人差し指を振り上げ、そして振り下ろした。

「行け、リンク! 奴らを食い殺せ!」

 リンクは彼の声に耳を動かし、マリオ達を鋭く睨む。マリオ達はギョッとし、一瞬うろたえる。そうしている間にも、リンクはジリジリと近付いている。

「……っ!」

 マリオはキリッとすると、一歩前に出た。

「ピカチュウ、僕から離れてて」
「っピカ?」

 ピカチュウはマリオを見て耳をピクッと動かした。少し躊躇ったが、素直に肩から下りた。

「マリオ殿、正か……」

 ハッと気付いたマーシスは静かに呼び掛けた。マリオは無言のまま狼リンクの前に立つ。

「ガァッ!」

 狼リンクは直ぐに襲い掛かって来た。マリオはジャンプしてそれを避ける。

「どうしたリンク! お前の力はそんな程度かっ!」

 木の枝を掴んだマリオは、攻撃に失敗したリンクを見下ろした。狼リンクはブンブンと首を振り、マリオを見上げると、思い切りジャンプして来た。

「うおっ!」

 マリオは焦って枝から手を放した。彼が掴んでいた若干太い枝を、狼リンクは難無く噛み砕いてしまった。

「しゅごい力でしゅ……!」

 プリンは口を抑えた。

「あいたっ!」

 マリオは着地に失敗し、尻餅をついてしまった。

「いってえぇぇ……!」
「てかマリオ、何でマント装備してねえんだよ!」

 ファルコは思い切って突っ込んでしまった。いつの間にかマリオはマントをつけていなかったのである。だがマリオはそれには応えず、涙を滲ませながら立ち上がった。

(隊長の奴、そこまで頼る必要は無いってことか?)

 スネークは腕を組んだ。

「グアァ!」

 狼リンクは上からそのままマリオへ飛び下りて来る。マリオは後ろへローリングして間一髪彼の攻撃を避けた。

「避けるだけじゃキリがないと思うのですがねぇ」

 既に見る側の客になっているミエールはクスクス笑っていた。

「リンク……っ」

 マリオは悲しい目で狼リンクを見ていた。狼リンクはそれに一瞬だけ瞬きをしたが、直ぐにこちらへ向かって来た。

「うわっ!」

 マリオは素早く横っ飛びをしたが、右肩を狼リンクの牙がかすめた。そこはフォックス達の世界で負傷していた部分で、マリオの顔がひきつる。

「うう、いってえー……!」
「マリオ!!」

 子リンは彼等のとこへ向かおうとしたが、目の前に現れた腕に止められる。その腕の持ち主はフォックスだった。子リンは何故止めると顔を上げるが、フォックスは真剣な表情をしながらマリオ達を見ている。
 顔を上げたマリオへ狼リンクが飛び掛かって来た。

「うわぁっ!?」

 皆から見れば、マリオは顔を噛みつかれたかに見えた。だが、後数センチで首に牙が当たるとこで、マリオは狼リンクの体を手で押さえ付けていた。
 だが狼リンクは、そのままマリオへ口を開いている。

「おやおや、リンクさんたら殺る気満々ですね」

 ミエールはフッと笑っていた。
 そこで顔を横へ倒し、飛んで来た矢を片手で止めた。

「……観客に怪我させようとする舞台俳優は初めて見ましたね」
「悪いな。俺達はお前のことを客だなんて、これっぽっちも思っちゃいない」

 弓を構えている子リンの隣へスネークが現れた。

「そもそも、そなたがいつから客になったか訊きたいものだな」

 スネークとは反対側からメタナイトが現れ、ギャラクシアを光らせる。
 ミエールはニッと笑い、掴んでいる矢を片手で難無く折った。

「この森から出て行きなさい! あんたみたいな邪悪な者が踏み入れる場所じゃないわ!」

 子リンの頭上にチャットが現れ、プンプンしながら怒鳴る。その隣にいるリンクの妖精は、チャットの後ろに身を潜めながら少し怯えていた。

「勇ましいお嬢さんですね。けど、俺を気にしてる場合じゃないのでは?」

 ミエールは横に向かって片手で矢を器用に投げ放った。矢は幹にドスッと刺さり、その木の下にはマリオ達がいた。

「うーんっ……せいやああぁ!!」

 マリオは腕に気合いを入れ、狼リンクを巴投げした。狼リンクは地面を一度バウンドし、そのまま倒れ込む。

「いって……く!」

 マリオは怪我をした右肩を抑えながら立ち上がる。狼リンクも素早く体制を立て直す。

「リンクしゃん! マリオしゃん!」
「ピッカァ!」
「ピィチュウー……!」
「やっぱり……攻撃しないとダメなのかっ?」

 子リンは弓を下ろすと呟いた。

「……リンク……っ」

 マリオは狼リンクに語り掛ける。

「インパさんと特訓した時を覚えてるか?」
「グゥルルル……」
「あの時、インパさんが何て言ってたか覚えてるかっ?」

 説得する様に声を大きくした。狼リンクは少し驚き、顔を少し引かせた。

「ピカ……」

 悲しむピカチュウは耳を垂らした。

「フン、愚かな真似を」

 ミエールはニヤニヤ笑っていた。
 狼リンクは地面を蹴り上げ、マリオへ大口を開いた。だが、マリオは抵抗する気を見せず、彼を信じて強く目を瞑った。

「マリオ!!」
「あっ、子リン!」

 見るのに耐えられなくなった子リンは、フォックスが止めるのも聞かず、彼を助けに行こうとダッシュした。
 狼リンクの耳に彼の言葉が入り込んだ瞬間、何かにピンと来た感覚がした。そして何を思ったのか、マリオに噛みつく一歩手前で空中方向転換をし、彼を横切る。彼の攻撃は、マリオの服を少し破いただけで終わった。
 マリオはハッと目を開き、彼に振り返った。子リンも立ち止まり、狼リンクを見る。狼リンクは蹲っていて、何故か身を震わせていた。

(? 何が起こった?)

 ミエールは表情を静かに変え、狼リンクを見下ろす。
 それは誰もが不思議に思ったことであろう。狼リンクの様子が急に変わったのだから。
 狼リンクは立ち上がり、マリオを見ている。それは殺気とかそう言うのでは無く、何故か邪悪な心に似合わない僅かな感情が見えた。

「グゥゥ……ガウゥ……ッ!」

 自分の中で何かと戦っているのか、一人で勝手に暴れだしている。首を激しく振ったり、体をあちこちに傾けたり、その時の彼の表情は、苦痛に見えた。

「リンク?」

 マリオも彼の様子が理解出来ず、近付こうとした。だが狼リンクはサッと後退り、威嚇する。
 そして身を翻し、走り去ってしまった。

「リンク!」
「っ!? そんなバカな……!」

 ミエールは見開き、狼リンクが走り去った方角を見つめる。

「くそっ」

 ミエールは枝を足場に立ち上がり、高くバック宙をすると、闇の茂みへ入った。

「あ! 待てっ!」

 子リンは再び弓矢を構えたが、既にミエールの気配は消えていた。そうだと分かると、子リンは弓を下ろした。
 マリオは、狼リンクが消えていった方向をずっと見ていた、さっきのことを思い出しながら。

「ピカピィッ」

 ピカチュウはマリオの側まで歩み寄り、マリオを見上げた。
 同時にマーシスもマリオの隣へ来て、傷を見る。

「マリオ殿、傷を見せるんだ」
「マーシス……」
「傷はどうだ」
「……大丈夫だ、メタナイト。傷口が少し開いただけで大したことは無い」
「リンク……一体どうしちゃったのかしら」

 チャットは言った。

「ねえナビィ、あんたは分からないの?」
「し、知らないわよ。狼になっちゃったってこと自体分からないんだしっ」
「ナビィ? 君ナビィって言うの?」

 飛んで来たカービィが言った。ナビィと呼ばれた妖精はコクリと頷いた。

「そう言えば自己紹介まだだったっけ? 私はナビィ。宜しくね」
「えっ、ナビィっ?」

 それを聞いた子リンはさっと彼女に振り向いた。

「あんたんとことは別次元の妖精だけど、子リンも改めて宜しくね」
「あ、うん。宜しくな」
「何でしゅ? 子リンはナビィしゃんの知り合いなんでしゅか?」

 プリンはハテナを浮かべた。

「このナビィは別世界の妖精だけど、俺達の世界ではもう既にお別れしてたんだ。ハイラルに平和が訪れる時まで、一緒に旅してたんだよ」
「そうだったんでしゅかぁー。初めて知ったでしゅっ」
「ピィチュ!」

 一方、マリオ達はまだ森の闇を見ていた。あの時の狼リンクを思い浮かべながら。

「リンク……」




「あの狼が逃げたってぇ?」

 森のある場所で、ディバは腕を組み、背中を向けながら立っていた。ミエールは、彼の後ろでうつ向いていた。

「あいつはまだ、自分自身をコントロール出来ていませんでした。つい、油断をして……」
「言い訳は無用だよ」

 ミエールを横から見ているのはデークだ。彼はニヤッといやらしく笑んでいる。彼の声に、ミエールは身をこわばらせた。

「『あいつを飼うのは俺一人で十分です』って自信満々に言ってたのは誰だったっけ? リンクが憎いから思い知らせるってはりきってたから、僕達渋々協力してやったんだ」
「その結果がこれか!」

 ディバは叫びながら体を翻した。そしてミエールの頬に傷が出来、彼の後ろにある木に短剣が突き刺さった。

「とんだ時間を無駄にしたみたいだな」

 ジビンダーは肩をすくめた。

「こんなガキ遊びに付き合ってる位なら、さっさと欠片を頂戴すれば良かったぜ」
「……」

 木陰からラフィットが覗き込んでいた。悔やむミエールを悲しい赤い目で見守る。
 そして目を閉じ、静止した。

「……!」

 ピンと来た時、ラフィットはパッと目を開くと、彼等のとこへ歩いて行く。彼に気付いたディバ達は顔を向けた。

「どうしたラフィット。腹でも空いたんなら木の実でも食べてな」

 からかい半分でディバは言った。だがラフィットは違うと首を振った。

「そうじゃない。あの、さっき言ってた狼なんだけど……」
「ほう。場所が分かったと言うのか?」

 ディバはもう一本の短剣を引き抜き、ラフィットの首元に刃を寄せる。
 ラフィットは目を見開き、僅かに顔を青ざめて震え出した。だが、足がすくみ、その場で立っていることしか出来なかった。ディバに赤く細い目でジッと見つめてくるが、目を反らすことも許されない気がしていた。

「いくら暇人でもさぁ、そんなんで暇を潰さないでくれるかなぁ。クローンに似合わないその性格をいい加減治して貰いたいよ」

 首筋に刃がちょいちょいと当たるので、迂濶に動いたら一貫の終りだ。
 ディバは怖がるラフィットを見ていたが、クスッと笑うと短剣を離し、鞘におさめた。

「ま、お前のお人好しなその性格、僕は嫌いじゃないけどね」
「ラフィット、余計なことをするな……っ」

 ミエールはその場で睨み、低く呟いた。

「お馬鹿さんが出る幕じゃないと思うよ?」
「!」

 木の下に座って林檎をかじっている少年がいた。彼は子リンのクローンであり、今は悪戯っぽい笑みを見せる。ミエールは少し気まずい目で彼に振り向いた。

「……フォウ……」

 フォウと呼ばれた子リンのクローンは立ち上がり、ラフィットに歩み寄る。

「そんで? ラフィット。そのマリオ達の狼とやらはどこにいるわけ?」
「う、うん……」

 ラフィットはうつ向きながら頷いた。

「おいミエール」

 ディバはラフィットを見ながらミエールを呼んだ。ミエールは下を向いたまま固まる。

「今回は大目に見てやるが、次もまたこんなヘマしたら……分かってるよなぁ?」
「……はい……っ」

 ラフィットはフォウに彼の場所を伝えた後で彼らを見ていた。

「……」




「その木の実はプリンのでしゅよー!」
「これは僕が先に見付けたんだよー!」
「ピィチュー!」

 これ以上動くと危険な為、仕方なく改めて焚き火を始めた。大人達は疲れきっていて、中には寝支度をする者もいるが、ファンシーズは疲れを知らず、焚き火の側で木の実の取り合いをしていた。

「だーもーやかましいんだよ!」

 被ってた布から起き上がったファルコは思い切り怒鳴ってしまった。ファンシーズはビックリしてピタッと止まり、ファルコに振り向いた。

「ファルコしゃんがそう言うならプリンやめましゅっ」

 プリンは嬉しそうな笑顔でファルコへピョンピョン跳ねて行った。

「ったくプリンは、本当にファルコが好きだなぁ」

 子リンは呆れながらも吹き出し、小さな木の実をパクリと頬張る。

「よし、これで大丈夫だ」

 マーシスは、マリオの右肩に確りと包帯を巻いた。マリオは自分の右肩にそっと手を置く。

「サンキュー、マーシス」
「で、どうするんだ、隊長」

 木に背中を預け、腕を組んで立っているスネークは訊く。彼の声に、マリオとマーシスは振り向いた。

「あの月は魔法に寄ってこの地上に落ちてくる。その時間はもう無い。一方、あの緑の勇者は闇の力に寄って姿を変えられ、狼に変身した上、俺達を敵視していた。どちらを優先する」
「しかも、いつの間にか彼はギガ軍にいたんだ……」

 頭の横に片腕を回して横になっているフォックスは呟いた。うつ向くその目は、とても辛い感情に染まっているのが分かる。

「空間神は闇の力も目覚めさせるって聞いたけど……正か光の者にもあっただなんて。しかもリンクに……」
「なら、俺もそうなのかな」

 何気に子リンは彼等の話を聞いていた。

「次元は違うけど、俺もリンクと同じ魂を持ってる。もしかしたら、俺の心の奥底にも、闇の力が……」
「それはどうか分からぬ」

 メタナイトが応えた。

「闇も光も、もともとは自分自身で作り上げるものだ。欠片は恐らく、そのパワー強化をしているのだと私は推測する」
「リンクも、闇の力を自分で作っていたってこと?」

 マリオは怪訝そうな目でメタナイトを見るが、メタナイトは顔を動かさない。

「恐らくな。狼が彼の闇なら、彼は生まれつきその力を秘めて……」
「ああーっ!! 思い出したあああ!!」

 マリオが急に声を上げるものだから、周りの者達は肩を思い切り上げた。

「な、何よ! 驚かさないでよ!」

 ビクビクしているチャットは、マリオの額にゴチンと体当たりをかました。マリオは子リンと同じく一度引っくり返ったが、直ぐに起き上がり、へらっと笑いながら頭を掻いた。

「なははは。ごめんごめん」
「それで? 隊長、何を思い出したのかな?」

 スネークはかなり冷静だった。ただ、さっきのやりとりがウケたのか、声の中には笑いが少しだけ込み上がっており、口端も少しだけ吊り上がっていた。
 マリオは殴られた額を撫でながら頷く。

「うん、それなんだけど。リンクのその闇の力、心当たりがあるんだよ」
「そうなのか!?」

 フォックスは反射的に顔を上げた。

「ハイラルの世界にいた時のことを覚えてる?」
「うん、覚えてる」

 子リンを始め、いつからか聞いているファンシーズも頷いた。

「実はこれ、僕とリンクしか見てないことなんだけど、ババラントって言う植物の化け物を倒した後に、ハイラルを見守ると言う三大神が現れたんだ」
「トライフォースか」
「トライフォースね」

 子リンと二匹の妖精は同時に言った。

「確かそう言ってたな。それでリンクは、そのトライフォースから力を貰ったんだ」
「もしかしたら……闇の力を与えたと言うのかしら」

 ナビィは言った。マリオは眉をひそめて少し首を傾げ、自信無さげに頷く。

「まあ、そうかも知れない……」
「可能性は低いとは言い切れんな」

 マーシスは顎を擦りながら呟いた。

「リンクに必要な闇の力……その力を与えられるにはそれなりの覚悟は必要なんだろうな」

 スネークは肩を落としていた。

「あの勇者に闇の力を与えたのなら、その力はあの勇者にしか使えないってことか」
「選ばれし者も大変だねぇ」

 人事みたいにカービィがそう吐いた。一瞬頭をコケさせたマリオと、え? とハテナを浮かべるカービィの為に、フォックスは笑いながら説明した。

「カービィ? そう言うお前も、一応選ばれし者だろ?」
「あれ? あ、そうだったっ」

 カービィは照れ臭く笑い、周りは暫くは笑いの渦だった。

「いい加減カービィの切りふだ見せてくれよ。一体どんな技か見てみたいんだっ」

 子リンは言った。その目は少し期待している。だがカービィはたじたじした。

「うーん。でも、どうやってそのパワーを発揮させるのか、まだいまいち分からなくて……ねえ、隊長はどうやってあんな凄い技を出せたのっ?」

 カービィは手をパタパタさせた。

「え、僕?」

 マリオは見開いて自分を指差した。

「……いや、僕にも分からないよ。気付けばそんな大技が出せたって感じだから」
「そうなのー? 何だぁ」

 首を振るマリオにカービィは大袈裟にしょんぼりした。彼等のやりとりを見ていたマーシスはクスッと笑う。

「神の切りふだは簡単に出せるものではない。戦士の意思に神が応える瞬間、その技が発揮されるのだ」
「ふーんそうなんだねぇ」

 その時、大地に僅かな揺れが起こった。

「うわわっ! 何だっ?」
「プリッ?」

 寝ていた者も全員起き上がる。
 そんな中、子リンと二匹の妖精はハッと空を見上げた。

「月だ!」
「え?」
「月が少しずつこっちへ近付いてる証拠だよっ」

 子リン達に吊られて他のスマブラも見上げた。前に見た時よりも月が大きくなっていた。不気味な顔が彼等を睨んでいる様にも見える。

「嗚呼、早くスタルキッドを止めないと、タルミナが終わっちゃう!」

 チャットは少し高いとこへ行くとそう叫んだ。彼女の言葉を聞いたマリオはハッとした。

「マリオ殿、いかがした」

 マーシスは彼の様子に気付いた。だがマリオは応えず、黙っている。

「マリオ……」

 子リンもマリオを見る。
 うつ向いていたマリオは、何かに決心した様でキリッと皆を見た。

「……まず、あの月を止めよう」
「マリオ……」
「時間が戻されたのなら、この事件と欠片は関係しているかも知れない。それにギガ軍もその欠片を血眼になって探しているんなら、リンクにもまた会えるかも知れないじゃないか」
「中々良い選択だ」

 メタナイトは何度も頷いた。

「だろ?」

 マリオはニッと笑った。

「ところで子リン、あの月は後どれくらいで落ちてくるんだっけ?」
「えーっと確か……」

 ピチューが月を見上げている間、何かの声が耳をかすめた。

 ──ヒヒヒ……。
「ピ!?」

 ピチューはギョッと耳をピンと立て、キョロキョロと辺りを見回した。

「ピカ?」

 ピカチュウはどうしたのとピチューに振り向いた。だが本人は気のせいだと思い、何でもないと首を横に振った。だが暫くすると……。

 ──ヒヒヒヒヒ!
「ピィチュ……!」

 不気味な笑い声が脳髄まで響き渡り、鳥肌を立たせながら蹲ってしまった。

「ピチュー!? どうした!」

 最初に気付いた子リンは慌ててピチューのもとへ向かう。

「ん? 何だ今の声……」

 マリオもあの笑い声に気付いた様で見回す。他も数人聞こえた様で同じ行動をとった。

「! あ、あれは何だ!」

 ファルコは月に向かって指を差した。
 そこには、一人の人物と黒い妖精が空中で浮いていた。その人物はまだ子供くらいの大きさで、まるで森に住む小人の様な橙の服を着ており、そして魔法で作られた不気味な仮面を付けていた。

「スタルキッド!!」

 子リンは叫んだ。

「あいつがスタルキッドかっ……」

 マリオは静かに叫ぶ。

「トレイル!」

 そう言ったのはチャットだ。マリオはチャットに目を向けた。

「ト、トレイル?」
「姉ちゃん!」

 すると、黒い妖精が反応した。だが、トレイルが行くのをスタルキッドの手が阻んだ。

「ヒヒヒヒヒ! お前達かぁ。僕の魔法を止めようとしてるバカ達は」
「お前か。月を落とそうとしている犯人は!」

 マリオは指をつき付けた。子リンも隣へ来て、スマブラも集まる。

「ヒヒヒ。バカだなぁ、お前らは。お前らの力であの月を止められる訳が無いだろう!」
「何だって!?」
(! 正か、歪みで戻された時って……!)

 子リンはハッと気付いた。

「何をしたって無駄だよ。月を抑えられる程の巨大な力が無い限り、あの月は止まらない」

 スタルキッドは、空中で足と腕を組んだ。

「ま、精々最後まで無駄なあがきをするんだな。クロックタウンの天辺からじっくりと見物しててやるからさ。ヒヒヒヒヒ!」
「姉ちゃあぁーん!」

 スタルキッドは笑いながら姿を消した。トレイルもスタルキッドと共に消えた。

「トレイルー!」

 チャットは彼等のもとへ素早く向かうが、もう彼等は既にいなくなってしまった。

「子リン、今のトレイルって言うのは……」
「……チャットの弟だよ。スタルキッドとチャット達は親友なんだ」
「そうか……」
「……」

 スネークは子リンの言葉に何かを考えていた。

「? スネーク、何か考え事でも?」
「ん? いや、大したことじゃない。気にするな」

 フォックスが訊いて来たが、スネークは少しだけ笑いながら手を振った。だが応えた後でも真顔になっているので、矢張りフォックスは多少気になっていた。

「マリオ、それより、一寸大変なことになったかも知れない」
「それよりって何よ! トレイルはそれより扱いなの!?」
「いや、そう言う意味じゃなくて……」

 うっかりした子リンをチャットはポカスカ叩いた。それをナビィが止める。

「落ち着きなさいよ、チャット! リンクの話をちゃんと聞きましょう?」
「聞かなくても分かってるわよっ。東西南北にいる四人の人達のことでしょうっ」
「え、何それ?」

 マリオは言った。チャットはこちらを向くと続けた。

「トレイルね、私達と離れ離れになる前に言ってたの。『沼、山、海、谷に棲む四人の人達を連れてきて』って。多分、その四人を連れてくれば、あの月を何とかしてくれると思うの」
「沼、山、海、谷……かあ……って、一寸待て」

 マリオは腕を組んで考えていたが、あることに思い出した。

「あのさ、月は後二日で落ちるんだよな?」
「今の時間から計算するとそうなるな」

 フォックスは言った。

「それまでに、四人の人達を連れてくれば良いんだよな?」
「そう言ってたな」

 ファルコは面倒臭そうに言った。

「その人達は沼、山、海、谷にいるってことだな?」
「そうだよ」

 子リンは、首を確りと縦に振った。
 そして、五秒程の間が流れる。その間で、また僅かな揺れが生じた。

「……たった二日間で無理だってえぇのおおぉ!!」

 マリオは拳を握り締め、空に向かって思い切り叫んだ。なぜかその声は何回も木霊す。恐らく近付いてくる月が山びこ代わりとなったのだろう。

「まぁまぁ隊長、もちつ……じゃなくて落ち着いてっ」

 カービィは悲しい中笑顔でマリオの肩を優しく叩いた。

「……何でそこで間違えるかな……」

 マリオはさりげなく突っ込んでしまった。

「まあ、カービィ殿の言う通りだぞ、マリオ殿」

 マーシスは笑んだ。

「マーシス?」
「我々は今妖精を入れて十三人だ。その四人の者達を連れて来るには、十分な人数になろう」
「つまり、四手に分かれるってことか」

 子リンが訊くとマーシスは頷いた。

「でも、タルミナもとっくにスタルキッドの魔法に呪われてるかも知れないわ」

 ナビィは言った。

「ね、チャット」
「そうね。こっからでも凄く邪悪な気を感じるわ。少しでも油断すると、命取りよ」
「そんなの、いつだってそうだよ」

 マリオはまた腕を組み、ニッと笑った。

「いつだって僕達は命がけの戦いをして来たんだ。今更怖がってたらキリがないよっ」
「ごもっともだっ」

 子リンも、子供っぽい含み笑いをした。

「ナビィも、そうだったろ?」
「……うん、そうだねっ」

 ナビィも思い出したかの様にフワッと一段高く飛んだ。

「ナビィ……」
「チャット、弟と離れ離れのままで良いの?」
「!」
「さっきのあなたの張り切り振りはどこへ行ったのよ。私達もいるんだから、皆で力を合わせて、スタルキッドを止めましょう?」

 チャットはナビィに背中を向け、暫しフワフワと浮遊していた。そして背中を向けたまま応えた。

「そう、ね。皆がいてくれてるんだもの。信じる他……無いわ」
「チャット……っ」

 子リンは少し吹いてしまったが、それはチャットには幸い聞こえていなかった。

「それじゃあ、さっさとこの森を抜けような!」
「マリオ」

 張り切るマリオにメタナイトが割り込んでくる。

「リンクのことも忘れるんじゃないぞ」
「わーってるよ、メタナイト。忘れる訳無いだろうがっ」
「それもそうか」

 呆れて笑うマリオにメタナイトはフッと笑った。




 山から、真っ白い太陽が顔を出す。今日も晴天で、旅立つには絶好の天候だった。
 子リンの言う通り、漸くスマブラは森を出ることが出来た。森から出ると、平原と真っ青な青空が広がり、空気も森と同じく澄みきっていた。
 マリオは思い切り息を吸い、そして限界まで吐き出すと、気を確りと引き締めた。

「よしっ、やる気が出てきた!」

 マリオの横からチャットと子リンが現れる。

「ここから真っ直ぐに行くとクロックタウンよ。そこから行けば分かりやすいわ」
「ううぅ、武者震いがするぅーっ!」

 ブルブル震えているカービィを肩に乗せているフォックスはクスッと微笑んだ。

「じゃあ行くぞ、皆!」




 クロックタウンは小さな町だが、活気溢れていて、大工達があちこち走り回るのが目立つ。
 マリオ達は広場へ来ると、早速グループ分けを始めた。

「じゃあフォックス、ファルコ、カービィは北の門へ行ってくれ」
「おう」
「任せときな」
「ラジャー!」
「スネーク、プリン、ピチューは西の門な」
「了解した」
「分かったでしゅ!」
「ピチュウ!」
「僕とピカチュウ、子リンとチャットは正面の門へ行くから、マーシス、メタナイト、ナビィは後を……」
「承知した」
「ああ、心得た」
「うん、良いわよ。リンクがいなくて一寸心細いけどね」
「迷惑掛けぬ様に努力は尽す」
「え? あ、う、うんっ……!」

 マーシスが微笑むと、ナビィは何故か頬を赤くしていた。様子を見ていたマリオは腰に手を当て、やれやれと首を軽く振った。

「皆、無事に帰って来いよ。目的を果たしたら、この広場へまた集まってくれ。いいな?
 じゃ、スマッシュブラザーズ出動ー!!」

 マリオは拳を掲げ、スマブラも声を出して拳を上げた。










 ──to be continued──