沼の王女








 マリオ、ピカチュウ、子リン、そしてチャットは、またもや深い森を歩いていた。そこは緑が、空を覆い尽す程に生い茂る。ここには小さな妖精達が住んでいる様で、チャットに似た妖精も見掛けた。

「この先には沼があって、確かデクナッツのお城がある筈よ」

 チャットは彼等より少し先に飛んで行く。

「デクナッツ姫には色々とお世話になってるわ。今はあの城が一体どうなっているのか、少し心配ね」
「チャットが世話になったんだ」

 マリオは言った。

「と言うより、皆がお世話になったと言っても良いわね」

 チャットは一度クルリとこちらを向いてからまた前方に向き直した。

「この森が綺麗なまま保たれているのは、あの城の支援のお陰でもあるの。特にお姫様は動物やあたし達妖精をこよなく愛して下さっているから、皆彼女が大好きなの」
「へえ、あのチャットが」

 あとの言葉は小さく呟いてみたが、チャットには十分丸聞こえだった様だ。

「今何か言った!?」
「べっつにー?」

 マリオはニヤニヤ笑いながら頭の後ろに両手を回した。子リンは隣で密かに吹き出す。

「ピ?」

 マリオの頭の上にいるピカチュウは、何かを見付けると耳を大きく動かし、何故か驚いた顔で前方に指を差した。

「ピピッカ!」
「ピカチュウ?」

 マリオがどうしたのと尋ねようとしたが、その前に思わず立ち止まってしまった。他のメンバーも気付いたらしくその場に止まる。

(何だこの臭い……!)

 マリオの冷や汗が一粒、額から流れた。
 何やら、人が好まなそうな、毒々しさを漂わせる臭いだった。普通の人ならば、恐らく吐気を及ぼしてしまうに違いない。

「チャット、この臭いは何だ?」

 子リンも少し顔を青ざめて彼女に問う。が、チャットは少し後ろに下がっていた。

「私、知らないわ。このすぐ先には沼があるけれど、こんな臭い、聞いたこと無いわよ!」
「……!」

 考えれば、妖精達もこの辺りに来ると、一匹もいなくなっていた。妖精は確か空気が澄んでいる森にしか生息しない。
 マリオは悪い予感を覚えるととっさに駆け出した。子リンとチャットもマリオに急いでついて行く。
 木々の間を抜け、マリオ達は漸く生い茂る森を抜け、チャットの言う沼へやって来た。

「! 何てこった!」
「ま、正か……あの沼が……!」

 マリオと子リンは目を丸くしていた。
 沼は、誰から見ても気味が悪い程に濃い毒色に染まっていた。紫と緑で濁り、時々泡立つ。生き物がこの沼に落ちれば一貫の終わりだろう。

「酷いな」

 マリオは目を細めた。ピカチュウも怯え、マリオの頭にしがみつく。

「姫達も無事だと良いんだけど」

 子リンは抑えていた鼻と口から手を離しながら言った。
 そんな時、後ろの茂みからガサガサッと音が響き、マリオ達は反射的にそちらへ体ごと振り向かせた。そして茂みから直ぐに何者かが飛び出してきた。

「敵か!?」

 とっさにそう思ったマリオは拳を繰り出そうとした。子リンも武器を構え、ピカチュウも電流を流し始める。

「あ! 待ってマリオ!」

 唐突にチャットの叫びを聞いたマリオだが、その時は既にパンチを前へ振ってしまった。そして、パンチは何かに当たった感触を持つが、それは飛び出してきた影では無かった。

「……あ、ごめん……」
「あ……あんたって人はあぁー……」

 マリオの前の木で、吹っ飛ばされたチャットが見事ペシャンコになっていた。

「ま、待って待って! オイラは敵じゃないよ!」

 例の飛び出した影が、マリオの前でピョンピョン跳ねている。その影は、白猿だった。

「君は?」

 と、マリオは尋ねた。

「オイラはこの森で暮らしている白猿だ。毎回姫には世話になっててな。この森の生活は幸せだったぜぇ」
「だった……か」

 子リンは静かに呟いた。
 そこへ吹っ飛ばされたばかりのチャットが現れ、カンカンに怒りながら子リンの帽子の中へ入っていった。子リンはそんなチャットを見て、やれやれと苦笑を漏らしていた。

「お前達、名前は?」

 と、猿はマリオ達に指差して訊いてきた。

「僕はマリオ」

 マリオは自分の胸に手を当て自己紹介をする。

「そして頭の上にいるのがピカチュウで」
「ピッカチュー!」

 マリオに指を差されたピカチュウは元気に手を上げた。

「そしてこの子がリンクだ」
「宜しく」

 子リンは軽く頭を下げた。

「宜しくな、お前達」

 猿はニッと笑い、地面に手を付けると、猿らしく深々と頭を下げた。

「お前達、ここにいては危ないじゃろう」

 そして更に茂みからガサガサッと音を立てて現れた人物がいた。

「今度こそ敵か!?」

 マリオはまた拳を構える。

「マリオさん、少しは落ち着けよ」

 子リンは慌ててマリオの腕を掴み攻撃をやめさせた。

「あ、コタケさんっ」

 白猿にコタケと呼ばれた老婆は、背はマリオくらいで色黒、大きな目と長い鼻を持ち、長い白髪で、派手な宝石等をあちこちに付けていた。見た目で言うと──魔女らしく見えた。

「彼女はコタケさん」

 白猿が紹介する。

「この森に住んでる魔女だよ。いつも色々な薬を作ってるんだ」
「はあ。そうなんだ」

 マリオやピカチュウはコタケを見てポカンとしていた。

「お前さん達はここにいると危険じゃぞ。何故ここにおる」
「あ。えっとですね」

 風変わりな人物と対面したのでマリオは直ぐに答えることが出来ず一瞬躊躇ってしまった。

「そう。この沼の謎の解明と、デクナッツのお城に用があるのです」
「ピカッ」
「ほう。沼の謎を解きに来たとは、中々の考古学者じゃのお」
(別にそう言う訳じゃない……)

 顎を擦って何度も頷き感心するコタケだが、何故かマリオは心の中だけで言い返せざるを得なかった。

「じゃが、城に用があるとまでは感心出来んな」
「な! どう言う意味ですか?」

 子リンはとっさに前に出た。

「城は今大変なことになってるんだよ!」

 コタケの代わりに白猿はピョンピョン跳ねて答える。

「デクナッツ姫が……行方不明になっちゃったんだよ!」
「何ですって!?」

 チャットが驚きながら声を出した。

「姫が行方不明になっちゃったから、王様はカンカンになってるんだ」
「どう言う意味?」

 マリオが呟く様に問うと、

「簡単なことじゃ。姫を誘拐した犯人を見付けるんじゃよ」

 コタケは目を閉じて答えた。そして瞼を開くと空を仰いだ。

「愚かだねえ、王様も。お陰でこの森にすむ動物も殆んど犯人扱いされて囚われの身じゃ。短気なあやつじゃ。近々奴らを処刑するかも知れん」
「! 酷い……!」

 マリオは低い声で震える様に言った。

「だからお前さん達もこれ以上近付かんことじゃ。火炙りにされたくなかったらのお。この事件に関しては、わしらに任せれば良いんじゃよ」
「わしら?」
「何百年ものパートナーとし、共に過ごしているコウメさんがおってな。少し前に砂漠の調査から戻って来たのじゃが、今は城へ出掛けておる──じゃが中々帰って来んから、心配でのお」
(コタケさんにコウメさん……ねえ)
「いーや、行かせて貰うよ」

 だが子リンはコタケの言葉を拒否して首を横に振る。

「さっき言った筈だよ、お城に用があるって。用が済むまで、俺達は帰る訳にはいかない」
「何とも勇敢な少年じゃ。それも良かろう」
「良いんだ!」

 マリオはギョッとし、今度は声を出して突っ込んだ。

「どうなっても知らんからな。ま、楽しみが増えたと言うことで。ヒッヒッヒッヒッヒッ!」
「コタケさん、怖い……」

 かなりの高笑いなのでマリオ達は鳥肌を立たせてしまった。

「さあて、お話もそろそろここまでにしておこう」

 コタケは手を上へ掲げた。そこからホウキがポンッと現れる。そしてコタケはホウキに跨り、ふわっと浮遊した。

「ワシはコウメさんを探しに行くとしようかの」
「えっ! コタケさん、乗せてってくださいよ!」

 と、マリオは一歩前に出た。だがコタケは即答した。

「この先の目的は皆違うじゃろ。お前さん達で頑張るのじゃ!」

 そしてまた高笑いを上げながら、城の方へ物凄いスピードで飛んでいってしまった。

「やれやれ、仕方ないな」

 マリオは帽子を軽く掻いた後、マントの裾をギュッと掴んだ。

「子リン、乗って。城まで行くよっ」
「ああ!」

 背中に子リンを乗せ、飛び立とうと地面を蹴り上げた。

「待ってくれ!」

 だが丁度足を掴まれたマリオは勢い余って地面に前面を直撃した。

「ぶほっ!」
「オイラも連れてってくれよー!」

 地面に倒れたままピクピクと痙攣しているマリオの後ろで猿がピョンピョン跳ねている。

「猿も行くのか?」

 子リンはマリオの背中に乗ったまま訊いた。

「コタケさんが言ってたじゃないか。もしかしたら、君も処刑されるかも知れないんだぞっ?」
「分かってるよ!」

 そう言いつつも、白猿はマリオの背中へ跳ねていった。

「でも、仲間を助けたいんだ! 仲間の為なら命かけるよ!」
「うーん。マリオさん、どうする?」
「……好きにしたら?」

 マリオは地面に肘を付いて投げやり的発言をした。白猿は大喜びでマリオの背中を跳ねた。

「宜しく頼むぜ! マリオ、リンク、ピカチュウ、チャット!」
「それじゃ、改めて……っ」
「ピッカチュー!」

 ピカチュウが、元気でマリオの頭の上で前へと指を差し、マリオは気合いを入れ直すとマントの力を使って飛び立った。




 やがて城門を上から通り越したマリオ達は城内へ侵入することに成功した。
 中は木で作られたアスレチックの様な作りで、デクナッツの兵が見回りをしている。

「コタケさんは今どこにいるんだろう」

 壁に背を付け、見張りが向こうに行くのを待ちながら、子リンは静かに言う。

「さあ。分からないけど、何かの薬で姿を消してたりしてなっ」
「その通りじゃ」
「うわっ!?」

 真横から声が飛込んで来たからマリオは思わず声を上げてしまった。慌てて口を抑えようとしたが、その前に子リンや白猿に押さえ付けられ、微妙に息苦しかった。

「誰かいるっピ?」

 デクナッツの兵は彼等のいる壁に振り向いたが、暫く経つと、気のせいかと立ち去った。
 マリオ達はホッと胸を撫で下ろした。子リン達も息を吐きながらマリオの口から手を離した。

「もー大声出すなって」

 子リンが頬を膨らませたのに対しマリオは頭を掻く。

「だ、だって急に横から話しかけられるもんだからさぁ」
「ヒッヒッヒッ! 驚かせてすまなかったのぉ」

 不気味な笑い声と共にマリオの隣からコタケの姿が現れた。

「ここまで来れるとは、対した若者達じゃのお」
「ど、どうも」
「王の間はこの先じゃ。ワシはお主達と行動することにしよう」
「いきなりどうしたの?」

 不審を抱くチャットは問う。コタケは相変わらずヒッヒッヒッと余裕そうに笑っている。

「こう言うスリルを味わうのは本当に久しぶりでのお。昔のワシを思い出してみたくなったのじゃ」
「昔の……」

 マリオは何と無く呟いた。

「心配は要らん。ワシは魔法使いじゃ。攻撃技も幾つかは持っておる。勿論、防御技もバッチリじゃ!」

 と、コタケは親指を立て、パッチンとウィンクをした。ウィンクをした瞼から星が数個現れたのはきっと気のせいではない。
 それは兎も角、彼女がいれば心強いと分かった。彼女とは長い付き合いと思わせる白猿も静かに喜びの跳躍をしているから、大丈夫だろう。

「じゃあ、行動の続きだ」

 マリオは言い、デクナッツ達が目を反らした隙を狙い、一人ずつ動く。何とか全員、無事兵の見張りをクリアした。

「ふう。ハラハラしたぁ」

 少し長い木の回廊を歩きながら、マリオは冷や汗を流した額を腕で拭った。ピカチュウも同じ行動を偶然取っている。

「てかさっきから思ってたんだけど」

 子リンがふと言う。

「姿を消す薬持ってるなら俺達にもくれよ、コタケさん」
「……あ! 言われてみればっ……コタケさん!」

 今更気付いたマリオ達は全員コタケに振り向く。だがコタケは動揺せず冷静だ。

「動く前に、そう言わなかったお前さん達もどうかと思うがのお」

 目を反らして顎を擦りながら正論を放つコタケに、マリオ達はこれ以上言い返せなかった。

「じ、じゃあ行こう」

 負けたマリオは落ち込みながら歩き始めた。子リン達も、彼に続いて歩き始めた。
 長い道を進むと、ある人物が目に入った。最初は敵かと思ったマリオ達だが、相手は倒れている様に見えた。それに良く見ると……、

「──何だかコタケさんそっくりな人がいるけど」

 マリオが首を傾げながら言うと、それを聞いたコタケはハッとした。

「コウメさーん!!」
「あの人がコウメさんね?」

 コタケが一目散に倒れている人に向かって走り、チャットも後を飛んで行く。マリオ達も後々駆け出した。

「うーん、アイタタタタ……」

 コウメはホウキを片手に起き上がろうとしているが、中々起き上がらない。

「大変! 怪我をしているわっ」

 チャットが声を上げ、マリオ達も彼女を見る。

「コタケさん、何か薬は?」
「バッチリじゃ」

 と直ぐにコタケは懐から赤い液体の入った瓶を取り出した。準備早いなと、誰もが思った。気にせずコタケはコウメに赤い薬を手渡した。

「さあさあ、飲まんなされ、コウメさん」
「うーむむ……あいつらワシまで敵としか見なくなったのお」
「あいつら……きっとデクナッツ達ね」

 チャットは言った。

「お前さん達は先に行っててくれ」
「え?」

 飲ませながら言うコタケにマリオ達は戸惑った。何故なら、相手がどんな人物であろうと、怪我人は放って置けないのが彼等なのである。

「気遣いは有り難いが、お前さん達はやるべきことがあるじゃろ。一刻の猶予も無いぞ」

 またもや正論を放つコタケに、マリオ達は暫くして、首を縦に振った。

「──じゃあ、コタケさん、コウメさんを頼みます」
「確りやるんじゃぞ、お前さん達」

 マリオ達は暫し躊躇ったが、直ぐに走っていった。
 暫く走っていると、やがて広間に出た。今までよりも広くなっている上、どうやらここが最後の場所らしい。
 そこへ入ると直ぐ様近くの柱の裏へ身を潜めた。何やら太鼓や笛の音が聞こえ、デクナッツ達の声も聞こえる。

「我が娘を拐った者には罰を! 娘を消した者には罰を! なんぴたりとも許すなっピ!」

 広間の奥で低い声が轟く。マリオは顔を少しだけだして見てみた。木で作られた様なデクナッツ族の中でも一番人型に近い上、巨大な体を持ったデクナッツが叫んでいた。

「あいつが城の王様か?」
「そうよ」

 マリオが言うとチャットが答えた。
 白猿も少し顔を覗かせると、あるものを見て目を丸くし、とっさに指を差した。

「オイラの仲間達!」
「何ぃ?」

 指を差した先には、一本の小さな丸太に縄で縛られている白猿がいた。他にも何本かあり、それぞれ疑われている生き物達が囚われの身になっていた。

「罪人には死を与えるっピ!」

 王が花の杖を掲げると、捕まっている動物達の側でデクナッツが松明を掲げた。

「! いけない!」
「あ、マリオ!」

 マリオは後先構わずそこから飛び出して行ってしまった。子リンやチャットが止めようとも無駄だった。おまけに白猿も一緒に飛び出していた。

「ちょぉぉおっと待ったああああぁぁぁ!!」

 声を上げて叫んだマリオにデクナッツ達は驚き、一斉にこちらを向いた。黄色い豆の様な目がキランと光ってこちらを見てくるのが何とも不気味である。

「……何だお前はっピ」

 王は驚いたまま尋ねた。

「僕はマリオ。んでこっちがピカチュウ」
「ピッカ!」

 それを聞いたマリオは元気に自己紹介をした。ピカチュウも笑顔でピシッと手を上げた。

「それでこの猿も僕達の仲間だっ」

 白猿は怒りの表情を乗せてデクナッツ王を睨み付けていた。

「リンク!」

 チャットは小さな声で子リンの帽子を軽く引っ張った。子リンが何? とチャットを見る。
 チャットは、松明を持っているデクナッツ達へ子リンを振り向かせた。

「! いつの間に……!」

 何と、デクナッツ達の掲げていた松明の火が消えていて、おまけにデクナッツ達は、若干焦げ跡と小さな煙を身体中に残して気を失っていたのである。

「そのマリモとやらが一体何の用があるっピ!」

 杖で床を大きく鳴らしながら王が叫ぶ。マリオはその音に少しビビったが、キッとした表情は何とか変えない。

「王様、こんなことは間違っています。証拠も無いのに彼等を火炙りだなんて……非道にも程がありますよ!」
「黙るっピ! 我が愛しき娘を何者かが拐っていったんだっピ! 犯人は森に住む者達以外に考えられないっピ!」
(……何とも頭の悪い王様なんだ……)

 マリオは危うくこけそうになった。

「ならば、貴様には分かるのかっピ?」

 王は杖の先をマリオ達に突き付け、叫んだ。

「我が娘を拐った犯人が!」
「そ、それは……」

 マリオは口ごもり、目線も次第に落としていってしまった。言われてみれば、犯人は誰かだなんて、まだハッキリとは分からない。自分も王と似ているとこがあって、人のこと言えなかった。

「お前達も怪しいっピ」

 王がそう言うと、マリオ達の周りを一斉にデクナッツ達が囲んだ。いつの間に!? と、マリオ達は見開いてデクナッツ達を睨み回した。

「お前達もまとめて処刑だっピ! 覚悟するっピ!」

 そして王が杖を振り上げたその時だった。

「ピカッ?」

 ピカチュウを一匹の大きな蛾が横切った。
 その直後、大きな揺れがマリオ達を襲う。

「うわ! 地震!?」
「ピッカー!」

 ピカチュウは壁を指差した。壁の一部が崩れ落ち、そこから巨大な何者かが現れたのだ。怒りの仮面を付け、盾と剣を握って体を横に一回転させながらと言う、後者は変わっている登場の仕方をしていた。

「わわわ、逃げるっピー!」
「何だありゃあぁ!?」
「あいつはオドルワよ!」

 チャットがマリオの横へ飛んでくる。

「チャット!」
「マリオさんっ」

 続いて武器を構えた子リンが勇ましい笑顔で登場をした。

「皆、無事逃がしたよ」
「ホントか!?」

 白猿はかなりキラキラな笑顔で飛び跳ねた。

「良くやったな」

 マリオは片目を瞑り、親指を立てた。
 そして表情を素早く切り替え、オドルワと言う巨大な剣士を睨み付ける。

「あいつを何とかしなきゃな。何が何だか分からないけど」
「ウオオォ」

 オドルワはその場で軽快にジャンプをすると、着地する直前に剣を地面に向かって叩き付けた。激しい衝撃派が発生し、周りの物もろともマリオ達を吹き飛ばした。

「わー!!」
「わあ!」
「うわ! く!」

 子リンは床を滑るが、飛ばされてきた白猿は何とか抱き止めた。マリオは空中で体を回転させ、壁に足を付けた。
 オドルワは時折回転しながらあちこち飛び回っている。

「その名の通り、本当に踊りまくるのがお好みの様だな」

 マリオは言った。

「今度はこちらの番だ!」

 マリオはダッシュし、子リンもチャットを連れて走り出す。

「くらえ! ファイアボール!」
「ピイィカアアァチュウウゥ!!」

 マリオとピカチュウは技を同時に放った。マリオのファイアボールにピカチュウの電撃が当たり、更にパワーアップをした。子リンが後に矢を放つ。矢がマリオ達の技を突き刺し、スピードアップさせた。
 オドルワはこちらを向き、盾を向けた。だがその大技は盾を簡単に砕き、スピードを落とさずそのままオドルワへ直撃した。

「グオォ!」

 攻撃は爆発を起こし、オドルワは叫んだ。

「おっ。効いたみたいだな?」

 マリオは口端を吊り上げた。

「……ううん、まだまだ体力はあるわ!」

 チャットがそう言うと、オドルワは立ち上がり、そして何かを叫んだ。

「ウオオオォォ!」
「何だっ?」

 そう思ったが否や、マリオ達を大量の蛾が襲い掛かって来た。それはまるで生きたカーテンの様で、視界を遮られる。

「うわ! 危ないっ」

 マリオ達がそれに怯んだ隙を狙い、オドルワは巨大な剣を横へなぎ払った。マリオ達は何とか避けきれたが、それだけでは無い。
 蛾を巻き込み、巨大な剣で払った後で爆風が辺りを吹き飛ばす。

「おわあああぁ!」

 スマブラは吹き飛ばされ、地面を滑って行った。

「うぅ、裏の裏を読まれたか……」

 マリオは打った頭を抱えて立ち上がった。

「……?」

 後に立ち上がったピカチュウは、何かに耳を動かした。

「ピカチュウ?」

 その様子に気付いた子リンは振り向いた。

「ピカァ! ピカピー!」

 ピカチュウが指を差した先──オドルワだ。
 良く見ると、オドルワは腰から瓶を下げており、その瓶は独りでにガタガタと揺れていた。

「た、助けてー! こ、ここから出して頂戴っピー!」

 瓶から、ここからでも聞こえる程の、何やら大きく高い音の声が聞こえてきた。

「姫の声だ!」

 白猿は見開いた。

「あいつが犯人だったのか!」

 拳を構えたマリオが言う。

「よし。まずは姫を助けることを優先だ」
「ラジャー!」

 子リンはニッと笑い、警察みたいな敬礼をした。
 マリオは白猿を肩に乗せ、子リンはチャットを連れ、オドルワへ向かって走り出した。
 オドルワがまた雄叫びを上げると、蛾のカーテンがまた現れる。

「とお!」
「てやぁ!」

 マリオはジャンプするとマントの力を借りて飛び立ち、子リンは前へ体をローリングさせた。

「!?」

 動揺しているオドルワへ別々の方向からスマブラが攻撃を仕掛けて来る。

「くらえ、オドルワ!」
「……」

 オドルワは冷静に彼等を見た後、体を横へ回転させ、その場から素早く離れた。

「な! 何!?」
「マリオ! 一先ずオドルワの動きを何とかしなきゃ、どうしようも無さそうだわ!」
「でも、一体どうしたら……っ」
(でも、何か、何か方法はある筈だ……!)

 マリオは、踊り狂っているオドルワを見ながら考える。
 その時だった。

「やれやれ、大変な事態になったのう」
「ここはわしらの出番かのぉ」

 二人の老婆の声が上から耳に入った。マリオ達が上を見ると、そこにはホウキに乗っているツインローバがいた。

「コタケさん! コウメさん!」

 白猿は嬉しそうに笑いながら声を出した。

「いくよ、コウメさん!」
「あいよ、コタケさん!」

 二人は片手を上へ掲げた。すると、各々の手から赤と青の光が膨らんで行く。

「コタケさん達!」

 子リンは叫んだ。ツインローバに向かって、オドルワが剣を後ろへ構え、踊りながら斬り掛かって来たのである。このままでは彼女達の身が危険だ。
 だが彼女達は動かず、オドルワを到って冷静に見ながら魔法を作り出していた。
 そしてオドルワの攻撃が当たる直前だった。

「ハァ!!」

 二人の老婆は手をオドルワに向けた。赤く光る手からは炎、青に光る手からは冷気のビームが放たれた。かなりの近距離な為にオドルワは避けることが不可能。そのままオドルワの体を直撃した。

「グアアアァ!」

 おまけに近距離だからダメージも相当なものだ。オドルワは、ダメージを一番に受けた胸を押さえ、苦しみもがいている。

「すげぇ……」

 子リン達は目を丸くして彼女達を見ていた。

「! 今よ、マリオ達!」

 オドルワの動きが鈍くなったのに気付いたチャットはマリオ達に振り向いた。

「! ああそうかっ。白猿、子リン、ピカチュウ!」
「ああ、マリオさんっ」
「おう!」
「ピッカ!」

 頷いた子リンは白猿を肩に乗せてダッシュし、マリオはピカチュウを連れて素早くマントでオドルワへ向かった。
 白猿は近付いたとこでジャンプし、奴の腰に足をバウンドさせた。それと同時に、王女を閉じ込めた瓶を奪い返し、マリオ達のとこへ戻って来た。

「ヤッター! 姫を取り返してやったぜ!」

 瓶を両手にピョンピョン跳ねた。

「おのれ、貴様らあ!」

 オドルワは初めて言葉を口にしたが、かなりご立腹な様子である。白猿は瓶を片手に慌ててその場を離れていった。

「マリオさん、ピカチュウ、行くよ!」

 子リンはその場でひざまづき、弓矢を力一杯構えた。

「ああ!」

 マリオは拳を、ピカチュウは電気を出して構えた。

「マリオ、これを飲みなされ!」
「え?」

 その時、他の声も聞こえ、マリオはその声に振り向いた。
 その方向から何か瓶が投げ付けられ、慌ててキャッチした。瓶の中には透き通った緑色の液体が入っている。見た目は薬の様に見えた。

「お前さん、魔力を持っておるのなら活用しなされ!」
「森の者達を助けた序でじゃ。確りやるんじゃぞ」

 ホウキに乗っている二人が大声で言った。マリオは瓶を持ちながら彼女達に見開く。

「コタケさん、コウメさん……!」
「……」

 子リンは気付いて、あの時を思い出した。松明を持った者達を気絶させたのは、あのツインローバだったのだ。何とも早いコウメの復活に、矢張り彼女達は本物だと、ドキドキしながら思った。

「マリオ、それは魔力をパワーアップさせる薬よ!」

 側へ飛んで来たチャットがとっさにそう言ってくれた。

「飲むんだったらさっさと飲みなさい! もたもたしてると、折角動きを止められたオドルワがまた動き出すわ!」
「! ああ、分かった!」
「この私の……最大の技を受けてみよ!!」

 オドルワは剣を高々と振り上げた。大量の蛾がそこに集まると、蛾が炎へと変化し、炎の剣が作り上げられる。

「わわっ、あんな大きな炎技を出されたら、森が危ないぜ!」

 奥で身を潜めている白猿はビクビクしていた。
 マリオの側に空き瓶が落ち、地面をコロンと転がる。マリオは口元を袖で拭いながら、オドルワを睨み付けた。

(何だ、この感じ。何だか、凄く力がみなぎってくるぞ……!)

 そして、睨み付けながら両手を後ろへ向け、赤いエネルギーを膨らませる。マリオの体から、赤色と虹色のオーラが溢れ出てくる。

「な、何だあの光はっ!?」

 白猿は目を丸くして彼を見つめていた。

「ピカチュウ、スタンバイだ!」
「! ピッ」

 彼をポカンと見ていたピカチュウは、マリオの命令に反応し、自分も電気エネルギーを溜める。子リンも改めて弓矢を構えた。

「行くよ、マリオさん!」

 子リンはオドルワに向けて矢を放った。
 そしてマリオは、両手に溜めた炎を最大出力させた。

「くらえぇぇっ!!」

 両手を前へ思い切り突き出した。そこから巨大な炎の光線が放たれる。

「ピッカアアァ!!」
「な、何? 今度はピカチュウまでがあのオーラに……!?」

 チャットは酷く驚いていた。ピカチュウの体から、黄色と虹色のオーラが溢れ出ているのである。
 子リンの矢はマリオの炎に押され、炎の矢と化してオドルワへ向かう。同時にオドルワも剣を振り下ろし、同じく炎の光線を放った。二つの光線が音を立ててぶつかり合い、激しい攻防戦と化している。
 その時、ピカチュウがいきなりジャンプした。

「ピイイイィィカアアア!!」

 オーラを連れて空中回転を始めた。そして、回転していると電気が身体中から溢れる様に現れ、やがてピカチュウの身を包み、そして、巨大な電気ボールとなったのだ。

「何だあれ!? あんなピカチュウの技、初めて見るぞ!?」

 子リンは見開いてピカチュウを見る。

「どうやらあれがピカチュウの『神の切りふだ』みたいよ」

 チャットは子リンの近くまで行くとそう言った。

「ピィカアアァァ!」

 電気玉はマリオ達の作り上げた炎の矢へぶつかった。そして爆発的な炎になり、オドルワの炎技を難無く消し飛ばした。

「な、何だと!?」

 オドルワが驚く間に、爆発的炎の矢が奴に向かう。
 そして、奴の胸をその大技が一気に貫通した。

「ヌオアアアアアァァァ!!」

 オドルワは森中響き渡る程の叫びを上げ、体を煙を上げながら消滅させていった。やがて顔だけが仮面となって残り、地面へポトリと落とされた。
 ピカチュウは切りふだを解除して地面へ着地した。だが、歩き出そうとした途端、突然ふらつき、その場へ倒れ込んでしまった。

「ピカチュウ!」

 子リンは慌ててピカチュウのもとへ向かった。
 マリオも向かいたいが、自分もかなりの体力を消耗してしまい、気を失うことは無くなって来たが、気持ち悪い程に酷く疲れきり、跪いて激しく深呼吸をしていた。

「大丈夫か、二人とも」

 白猿はマリオ達のとこへ来た。
 後に、コタケがマリオ達のもと、コウメがピカチュウ達のもとへ、赤い液体入りの瓶を片手に下りてきた。

「マリオや、体力回復の薬じゃぞ」
「飲まんなされ」
「ありがとうございます、コタケさん」

 瞼半開き状態のマリオだが、赤い薬は受け取れた。子リンもコウメから受け取るとピカチュウに飲ませてやった。

「──ん?」

 薬を飲み終え、体力を直ぐに回復したマリオは、ふと、オドルワの遺した仮面を見付けた。素早く走り寄り、仮面を拾い上げる。

「オドルワって、仮面をつけていたのか?」

 マリオは少し首を傾げた。後にチャットが飛んで来て、マリオの手に持っている仮面を見る。
 その時、オドルワの仮面が輝きだし、そのまま天へと昇っていってしまった。空へ仮面が消えてゆき、そしてこの空が明るくなろうとした時、巨大な足が分厚い曇り空の上から突き抜けて現れた──まるでホラ貝が遠くへゆっくりと響き渡る、低い雄叫びを上げながら。

「な、何だあれ?」

 マリオは少し身を退かせながら巨大な足を見上げる。

「あれが恐らく、トレイルの言っていた四人の人達の一人ね」
「そうか。オドルワはきっと、姫だけじゃなく、巨人も囚人にしていたんだ……それにしても……」
「何?」

 巨人が上げ続ける声にマリオは目を細めた。

(何だろう。何だかとても悲しさを感じる……)

 そして巨人は向こうへ歩いて行き、やがて消えていった。
 やがて、影から見ていた王様達がこの場へ現れた。

「な、何だったんだっピ? あの化け物と良い、炎の魔法と良い……君達は何者なんだっピ!」

 白猿はマリオ達のとこへ行くと、瓶の蓋をポンッと開け、瓶を逆さまにして縦に振った。その中から姫が飛び出、元の大きさに戻った。
 その者は、葉っぱの様な髪をポニーテール系に縛り、同じく葉っぱをモチーフにした王女の服を纏った、女デクナッツだ。

「フー。やっとあの狭い瓶から出てこれたっピ……」

 彼女を見てデクナッツ達はオーッと揃えて声を上げた。

「おお娘よ! 無事だったのか! 安心したぞ!」

 と、王が王女へ抱きつこうとしたが、王女は王の顔に思い切り蹴りを入れたのである。

「お父様のバカ! 無実の人達を無理矢理捕えて……いい加減にしてっピ!」

 怒鳴りながら、仰向けに倒れた王の腹を沢山踏み付ける。それを見ているスマブラ達はポカンとしてしまった。
 やがて、王女はマリオ達の前まで来ると、優雅なお辞儀をした。

「貴殿方の活躍はあの瓶から見ていたっピ。私達を救って下さり、感謝の極まりないっピ」
「いえ、姫様。貴女方も、ご無事で何よりです」

 マリオ達は微笑み、跪いてお辞儀をした。

「まあ、わしらには分かっておったわい」

 コウメが言った。

「のう、コタケさん」
「そうじゃな、コウメさん。水晶玉の予言は絶対じゃ。『呪いの仮面がタルミナを滅ぼさんとする時、緑の勇者と異世界の者達がこの世界を救いに現れん』とな」

 そしてマリオ達へ話し掛ける。

「この先も様々な困難が待ち受けてるじゃろうが、自分達の力を信じて戦うのじゃぞ、お前さん達」
「……ありがとうございます、コタケさん、コウメさん」

 マリオは頷き、二人に頭を下げた。

「お陰で毒にまみれた沼も元に戻るでしょうっピ。貴方達なら、きっとあの月を止められるっピ」

 気を失って家来に看病されている王を背中に王女はそう言い、それを聞いたスマブラは顔を上げた。月はかなりのどアップで、思い出した様に地面の揺れもかなり生じた。おまけに今は夜で、タルミナ滅亡まであと一日と少ししかない。

「じゃあ、クロックタウンへ戻るか」
「ピィカ!」

 薬ですっかり元気になったピカチュウはマリオの頭の上に飛び乗った。

「ああ。皆、無事に帰って来てると良いけど」
「帰って来てるさ。スマブラの隊長命令は絶対なんだから」

 自信満々に語るマリオに、子リン達は笑いを密かに堪えていた。

「ありがとなー! マリオ、皆! 恩に切るぜー!」

 城の出口で白猿が手を振っていた。他にもいる王女や王、動物達にも見送られ、マリオ達は森の闇へと消えていった。




「……!」

 クロックタウンの路地裏の小さく小汚い扉から、ラフィットが血相を変えて外に出た。夜空を見上げて暫くすると、顔を下げ、目を閉じる。テレパシーを使うと、他のクローン達がその場へ姿を現した。

「間違い無いな、ラフィット」

 デークが問うと、ラフィットはゆっくりと首を縦に振った。自分の剣を眺めているディバにデークは振り向く。

「隊長、スマブラが四人の巨人を解放したとの報告です」
「そうか」

 返事と共に剣をしまい、ラフィットの元へ行く。
 隣へ来たディバにデークは目を細めた。

「いよいよですね」
「ああ。ご苦労だったね、ラフィット。後で褒美をやろう」

 ニッと口端を吊り上げ、ラフィットの頭に手をポンッと置いた。だが、ラフィットは嬉しそうでなく、目線を下げてしまう。

「さてと」

 ディバが後ろを向いた目線の先には、フォウとミエールに縄で首を縛られている狼リンクがいた。狼リンクは未だに唸るが、スマブラがいない間に彼等に調教された為、大分大人しくなっていた。

「手間かけさせたな」
「いーや? 捕まえた時はかなり体力を消耗していたみたいだから、お安いご用だよ」

 フォウはニヤリと言った。だがミエールは、今の無表情を変えない。

「ミエール、後は任せたからな」
「ああ」

 フォウはその場から離れ、ミエールは隣の狼リンクを見下ろした。狼リンクは彼の視線に気付き、睨み上げて来る。

(やっと、憎たらしいこいつに潜む闇の力を手に入れた。だけど何故だ。この不満は……)

 ミエールは、未だに彼に対する苛立ちを覚えていた。目的は果たされたのにも関わらず。

「さぁてと」

 ディバは巨大な月を見上げてニヤリと笑む。

「良い月だな。ヒヒッ! 宴はこれからだよ、スマッシュブラザーズさん……」










 ──to be continued──