オネットへようこそ!








 青空を雲が気持ち良く流れる昼頃。
 とある町にて光が現れ、そこからスマブラが現れた。

「……おお? 中々良い町だな」

 マリオは目の上に手をかざし、辺りを見回した。車や人々が通り、緑豊かで、様々な店やデパート、ホテル等が建っている。

「何かダイヤモンドシティ思い出したよ」
「えーダイヤモンドシティの方が賑やかだったよー。寧ろトキワシティに近いよー」

 マリオが呟くとカービィが返事をした。

「ま、それは置いとこうぜ」

 ファルコは腕を組んで軽く溜め息をついた。

「ここは一体誰が暮らしているのかな?」
「あ、看板がありましゅ!」

 ふと横を向いたプリンはファルコの肩から下り、看板へ向かった。序でにピチューもプリンについてゆき、一緒に看板を見る。

「えーと、『オネットへようこそ』って書いてありましゅね」
「オネット? オネットと言えば……」

 とマリオが思い出そうとしていた。
 スマブラはデパートの直ぐ近くにいる。そのデパートの入り口から誰かが現れた。パンやら何やらを詰め込んだ茶色の大きな紙袋を、重そうに両手で持っている。見たところ少年の様だ。

「──ん?」

 その少年は彼等を見ると、直ぐに笑顔になった。

「おーい、皆ー!」
「ん? この声は……」

 聞き覚えのあるスマブラはその声の方を向いた。デパートの前で、買い物袋を片手に手を振っている、赤帽子の少年がいた。

「ネス! ネスなんだな!?」

 マリオ達も笑顔になり、彼のとこへ駆ける。

「久しぶりでしゅね!」
「ピィッカ!」
「ピィチュー!」

 スマブラの中でも特にファンシーズは嬉しそうだ。ネスはニコッと笑う。

「……あ! 狐のお兄ちゃんも来てくれたんだね!」

 そしてフォックスを見付けたネスは更に嬉しそうな表情を作った。フォックスは優しい笑顔で返事をする。

「ところで隊長、何で皆この世界へ来れたの? 普通は来れない筈じゃない?」
「あ、そうだった。実は……」

 マリオは、これまでのことを簡潔に説明した。

「じゃあ、ここにも欠片があるってこと?」
「うん、間違い無いと思うんだけど」
「その時は何かが変わってることとか良くあるんだけど、そこんとこはどうなんだ?」

 と、フォックスはネスに聞いた。ネスは顎に人差し指をあてると顔を上げ、うーんと考える。

「そうだなぁー……何にも変わってないと思う」
「そっか」

 マリオは軽く息を吐いた。

「直にその時が来るかも知れん。なるべく警戒はしておいた方が良い」

 一番後ろにいるマーシスが言った。

「? あの人は誰?」

 ネスは彼を見ながらマリオに聞いた。マリオもチラッと彼を見る。

「ああ、確かネスは彼とは初対面だったよね。彼はマーシス・シンサー。メタナイトの親友で、プププランドで知り合ったんだよ。ディバと互角で戦う凄い剣士なんだ」
「そうなんだ! 頼もしいね!」

 ネスはパッと明るい笑顔で彼を見た。
 マーシスはキラキラするネスとマリオの紹介の仕方に少し驚いた様子で、そして戸惑いながら隣のメタナイトに振り向く。メタナイトはこちらを向くと、フッと笑いを溢していた。

「良いではないか、マーシス。彼の言うことに間違いはない」
「……まあ、自分で言うのもあれだがな。あんな風に紹介されたのは初めてなのだ」
「宜しく、仮面のお兄さん! ネスって呼んでね!」

 ネスは大きな声で挨拶をした。マーシスは彼を見て、次第に微笑んだ。

「こちらこそ、宜しく頼む」
「それにしてもでかい買い物袋だねぇ」

 カービィはネスの側まで浮遊し、買い物袋をジロジロ眺める。やがてパンを見ると、口から少量の涎を流していた。

「凄い美味しそうー。少しでも良いから食べても良い?」
「ダーメ」

 舌舐めずりしながらねだるカービィだが、ネスは買い物袋を、カービィとは反対側の方へサッと動かした。

「えー? ケチー。何でぇ?」

 カービィはブーイングな顔をして頬を膨らませた。それを見たネスはクスクス笑う。

「家に帰ったらいっぱい食べさせてあげるから。これは別の用の為に買ったの」
「何かパーティでも開くの?」

 それを聞いてマリオは気になった。問うてみると、ネスは彼を見てコクリと頷いた。

「今日の夜、隣の町ツーソンの中央にあるヌスット広場ってとこでダンスパーティが行われるんだ。参加者は皆料理とかお菓子とかを持って集まるんだよ」
「ほう。まるで誰かさんの誕生日パーティみたいだな」

 スネークは笑んで呟いた。

「あっ……蛇のおじちゃん……」

 ネスは未だに彼に少し怯えていた。だがそう言うのは既に慣れているスネークは、笑みをやめぬまま、溜めていた息を軽く吐いた。マリオは一端彼を見てからネスに顔を戻した。

「大丈夫だよ、ネス。意外と良い奴なんだよ、あいつは」
「そうなの?」
「意外とは少し余計な気もするが?」

 スネークは笑んだまま腕を組んだ。マリオはハハッと笑う。

「じゃあ皆、僕んちにおいでよ。お腹空いたでしょ?」
「言われてみると、何にも食べてなかったな」

 マリオは自分の腹を軽く擦った。暫ししてグウッと腹が鳴いた。

「パーティではご馳走になると思うから、手軽な料理でも大丈夫?」
「大丈夫だよ。ただカービィは除くかもな」

 とカービィを見ると、正にそうですと頭を掻いて舌を出すピンク丸がいた。




 オネットのある路地裏は、ジメジメした薄い闇だった。
 倒れたゴミ箱の中身を、やつれた猫やカラスがついばんでいる。だが何者かの殺気を感じると、そこから一目散に逃げ出した。
 そこにはネスのクローン──ラフィットがいた。相変わらず機嫌は良い方では無い。赤い目を下へ向けたまま、ゆっくりと歩いている。

 ──ラフィット、本物の君の故郷だと。奴らを消す前に一度拝んで見るのも構わない。だが任務は確りやれよ。

 オネットに着く前に話していたディバの言葉が頭をよぎる。
 彼等もこの町にいるが、住民に気付かれることはない。あの狼リンクも勿論一緒で、別の任務を与えられている筈だ。
 例え別の場所にいても、恐らく彼等はラフィットを見ているだろう。彼の性格はギガ軍にふさわしくないが、実力は認められているから任務を与えられる。ラフィットは任務イコール神の試練だと思い込んでいるので、それは必ず実行させる。そう、必ず──。

(そろそろ始めた方が良いかな)

 ラフィットは時を待った。任務を本格的に実行させる為の時を……。




 オネットの町から少し離れたとこにネスの家があった。ネスの家は見た目普通の一軒家だが、中に入ると中々広かった。少なくとも今いるスマブラは全員入れた。

「わあ! このシチュー、とっても美味しいでしゅ!」

 プリンは笑顔でスプーンを掲げた。

「ピッカピ!」
「ピチュピチュ!」

 ピカチュウとピチューは、半分に分けたパンをかじった後、嬉しそうに笑っていた。

「このカレーも凄くいける! 料理上手なんですね」

 口をモゴモゴさせながら、マリオは料理を運んで来たネスの母に言った。金髪であるネスの母は、優しい笑顔をにっこりと浮かべた。

「ありがとう。本当に嬉しいわ。腕を振るって良かったっ」
「メタナイト達が渡した数枚の干し肉も料理しちゃうとは凄いですね」

 フォックスは言った。

「あれは中々挑戦的だったわねぇ。ママの特製手料理も気に入ってくれて何よりだわ!」

 ネスの母は益々嬉しそうだった。そしてネスが買ってきた買い物袋の中身を見た。

「……あら、ネスっ」
「何、ママ?」

 少し驚いた声で呼んだ彼女に、スプーンをくわえたままネスは彼女に振り向いた。

「小麦粉買い忘れたでしょう。入ってないわよ?」
「あれ? 確かにメモに書いた物全部買ってきたと思ってたのに」

 と、ポケットからちゃんと折り畳んである一枚の紙切れを取り出し広げて確認する。隣に座っているマリオも、ひょいっと覗いてみた。

「……あ、ホントだ! これまたちっちゃく書かれてるなぁ」

 マリオが言うと、ネスも本当だと納得した。

「通りで預かったお金がまだ多い気がしたんだよ。じゃあ、また買いに行って来るね」
「じゃあ俺も行くよ」

 ネスが立ち上がるとフォックスも立ち上がった。

「狐のお兄ちゃんはここでゆっくりしててよ。来たばかりだから疲れたでしょ?」
「いや、沢山買い物してきたネスも疲れてるだろ? 小麦粉は重そうだし、俺が持ってやるよ」
「ゴメンね、ありがとう」

 ネスは申し訳無さげに微笑んだ。

「本当ごめんなさいね」

 ネスの母は困った顔をする。

「本当は私が行くべきなんだけど、夜のパーティの為に今からご馳走とか作らなきゃならないから」
「良かったら僕手伝いますよ」

 そうマリオは立ち上がる。すると、他の仲間も次々と席を立つ。

「では私も手伝おう」
「プリンも手伝いましゅっ」
「俺に出来ることなら何なりと」
「じゃあ僕も!」
「カービィは味見ばっかするから駄目だよ」

 カービィだけはあっさりとマリオに断られた。カービィはまた頬を膨らました。

「カーくんは二階にいる僕の妹と遊んでてよ。きっと楽しいよ」

 と、ネスは言った。それにカービィは暫ししてから頷いた。

「うん、分かったよ」
「来て頂いたばかりなのに本当すみません。でも嬉しいわ」

 彼女は笑顔で頭を下げた。

「じゃあ行ってきまーす!」

 改めて身支度を済ませたネスとフォックスは家から出る。

「気を付けていってらっしゃいね」

 母の言葉を聞いた後に扉は音を立てて閉まった。




「うわっ、重いなぁ……」
「だから言わんこっちゃ無いよ。俺も来て正解だっただろ?」

 体を震わせながら運ぼうとするネスの腕から、フォックスはひょいと小麦粉を取り上げた。ネスが確かにそうだねと返事をすると、二人は笑い合った。
 そして談笑をしながら帰路を歩いている時だった。

(……!?)

 ネスは何かを感じた。それは突然やってきて、思わず立ち止まってしまった。

「? どうした、ネス?」

 彼の異変に気付いたフォックスも立ち止まり、ネスに振り向いた。それにハッとしたネスは慌てて顔を横に振り、何でもないとジェスチャーする。
 だがやはり何かが気になる。それはかなりの殺気を漂わせているからだ。それだけでも何とかしなければならない。

「お兄ちゃん、先に帰ってて。デパートに忘れ物して来ちゃったのがあるから」
「そうなのか? 分かった。早く帰って来るんだぞ」

 フォックスは頷き、先に帰った。ネスは彼がいなくなったのを確認した後、デパートでは無く、ある路地裏へ向かった。
 そこは滅多に人が通らない、じめじめした場所だ。昼間なのにも関わらずここは影の世界そのものである。

「確かこっから嫌な気配を感じたな……」

 ゆっくり歩を進め、顔をあちこちに動かす。
 するとその時、ガタッと言う音が直ぐ近くで聞こえ、ネスはビックリして肩を上げながら止まった。

「だ、誰っ?」

 辺りを見回すと、そこにあるのは青いゴミ箱。良く見るとたまにそれはカタカタと揺れている。
 少し気味が悪いなと思いながらも、気になるものは気になってしまう。ネスは緊張に唾をゴクリと飲み込み、恐る恐る蓋に手を伸ばす。そして思い切りそれを開いた。

「……えっ?」

 ゴミ箱の中身を見て目を丸くしてしまった。中にいたのは、小さな丸い体で、一本の毛にリボンをつけ、太い眉毛を持つ肌色の生き物だった。

「ぽえーん」

 と言う言葉を使って来た。

「どせいさん! こんなとこで何してるの?」

 どせいさんにはちゃんとした場所があり、そこにどせいさんが沢山暮らしている。正かこの町にいるとは思いも寄らなかった。

「ぽえーん。わたしはさすらいのたびびとなのです」

 どせいさんが話し始めた。

「旅人?」
「あちこちをたびしているうちにつかれて、このはこでひとやすみしていたです」
「……良くそんなとこで一休み出来たね。一応ゴミ箱だよ、これ」

 ネスがゴミ箱に指を差すが、どせいさんはまたぽえーんと言葉を発し、

「たびびとがやすむのにばしょはかんけいはないです」
「そうかな……」

 そんな話を交わしている内に、ネスは本来の目的を思い出した。

(? まだ気配は消えてない?)

 殺気が未だに消えないのだ。このどせいさんでは無いとすると、この気配は一体誰のだろう。

「PK……!」
「!!」

 遠くから誰かの声がした瞬間、殺気は上から一気に感じた。ネスはどせいさんを抱き上げ、上へ指を差した。

「サイコシールドα!」

 声を上げると、指先から淡い色のシールドが現れ、ネス達をボールの様なバリアで包み込む。その直後に上から炎が落下して来た。バチィッと弾ける音を立て、シールドはネス達を守る。攻撃の威力は大きく、ネスは指を掲げながら歯をくいしばった。何とか防ぎ切れ、シールドを消すと上を見た。

「! あの子……」

 建物の壁に設置されてある、大きなパイプの金具の部分に片足を掛けて乗っかっている少年がいた。
 彼はネスと同じ姿で、血の色をした目でネス達を見下ろしている。
 ネスは彼を見て過去のことを思い出した。夢の中に出てきた、泣いていた自分。只、その子の目は赤いと言う印象が強かった。
 もしかして、彼が?
 赤い目をした彼はネスを見て少しハッとした顔をしてしまったが、直ぐに真剣な表情になり、そこから飛び下りた。
 ネス達の前で、PSIを使って容易に着地した彼は即座に構える。

「き、君は誰っ?」

 ネスは問う。少年は睨んだまま答えた。

「僕は君のクローン、ラフィット。ギガ様のしもべだっ」

 それを聞いたネスは、ハッとした。

「ラフィット、君が夢に出てきた子なんだね?」
「……何のこと?」

 ラフィットはそう言うが、僅かに動揺している。

(ごめん、狐のお兄ちゃん。やっぱり、放っておけないよ)

 内心でフォックスに謝罪したネスは冷静に続けた。

「泣いてたでしょ、僕の夢の中で? その場面は今でも覚えてる。本当は争いなんかしたくないんじゃないの?」
「な、何を言ってるんだよ! 知らないよ、夢の中でなんて」
「知ってる筈だよ。思い出して、ラフィット!」

 ネスは彼の心を読んでいた。彼は嘘をついているのが分かる。
 だがラフィットは認めない。

「例えその通りでも、君は僕の敵だ! さっさとやられてしまえ!」

 ラフィットが手を合わせ、少しずつ離していくと、中から水色の光が現れる。

「ラフィット……!」

 本当はこんなことやりたくは無かったが、ネスはやむをえず、手から小さな電気を溜め出す。

「これで終りだ!」

 ラフィットの指から冷気の光線が放たれる。

「パラライシスα!」

 同時にネスも技を繰り出す。彼のは電気の光線で、ラフィットの冷気ビームをあっさりと打ち砕いた。

「うわあぁ!」

 冷気は電気を通し、電撃がラフィットへそのまま直撃した。彼の体は電気を浴び、そのまま倒れて気を失ってしまった。

「ぽえーん。ねすさんはほんとうにつよいです」

 ゴミ箱に避難していたどせいさんが顔を出した。
 ネスは彼の前で膝を付き、彼を支えながら立ち上がった。

「このまま帰ったら皆にバレるかな……」

 他に方法は無いのか悩むが、一つしか思い付かなかった。それは一時だがバレない方法だ。

「何か被せる布とか無いかな」
「ねすさん、こういうのどうです」

 ネスがそう呟いてみると、後ろからどせいさんの声がした。どせいさんはゴミ箱の中から破れている布を引っ張り出し、それを見せる。

「おお良いね」

 その布は人一人は余裕の大きさである。ゴミ箱と言うのはどうだが、今はそれは気にしていられなかった。ネスは、早速それを使うことにした。




「ネスの奴遅いなぁ」

 ファルコは、壁に飾っているアナログ時計を見て呟いた。料理を作っているネスの母と、それの手伝いをしているスマブラは、ファルコの一言に、確かにと思った。

「忘れ物位でこんなに時間掛かるもんなのか?」
「もしかして……事故に遭ったとかでしゅか!?」
「ピカ!?」
「ピッチュ!?」

 プリンが慌ててそう言うから、ピカチュウとピチューは酷く驚いてしまった。

「事故に遭う様な子に育てた覚えは無いんだけど……」

 ネスの母の今の一言にスマブラは少しこけた。

「……じゃあ僕が行ってくるよっ」

 マリオは身支度をし、家を出ようとドアを開けた。

「わ!」

 目の前に人がいたのでマリオは声を上げてしまった。ドアの前にはネスが立っていた。

「ネス、遅かったじゃないか。今から探しにいこうとしてたんだよ?」
「えへへ、ごめんごめん。序でにどせいさんも一緒だから」

 ネスはニッと笑った。そして肩に乗っているどせいさんが少し跳ねる。
 どせいさんを見た後、マリオの目に、ネスが背負っている何かが入った。それはネスと同じ位の大きさで、布を被せている。

「ネス、誰かをおんぶしてるの?」

 そして布の裾を摘んだ。

「あ! 隊長、駄目……」

 ネスが慌てて止めようとしたが遅かった。マリオは、ネスが背負っている人物の顔を見てしまったのである。

「! ネス、この子……んぐっ」

 マリオの声を上げようとした口をネスは片手で何とか抑えた。目を丸くした彼にシーッと静かに言う。ポカンとしてしまったマリオだが、ネスが口から手を離すと静かになる。

「ネス、この子って正か……ギガ軍の手先じゃないよな」

 内緒話の様にヒソヒソした声で聞くマリオに、ネスは一瞬黙る。

「話は後にして。僕の部屋にこの子を連れて行くから」
「……分かった」
「何をこそこそ話してるんだ?」

 コンロの火を止めてファルコは彼等を見る。二人は即座に首を横に振った。

「な、何でもない。道端で倒れてる子を連れてきたんだって」
「だからおしょくなったんでしゅか。偉いでしゅね」

 プリンが感心して目をキラキラさせると、後のポケモン二匹も微笑む。

「この子を寝かせにいくから一端抜けるね」
「分かった。一端じゃなくても良いぞ、お医者さん」

 と、フォックスは言った。
 マリオとネスは頷き、二階のネスの部屋を目指した。
 布の中の子──ラフィットは、ネスのふかふかなベッドの中でスヤスヤと眠っている。マリオは、冷水で濡らしたタオルを折り畳み、彼の額の上にそっと置いた。

「気絶してるだけだね。暫く寝かせておけば、直ぐに回復するよ」
「良かった」
「まりおさん、さすがです」

 一度安心し、改めると、マリオはネスを軽く睨んだ。

「さあネス? どう言う訳か、説明して貰おうかな?」
「……ご免なさい……」

 ネスは頭を下げて最初に謝罪した後、彼にこれまでの事情を正直に話した。

「その話の一部は確か、スマッシュ王国にいた時も聞いたな」

 マリオは腕を組んだ。

「でも、罠ってことも考えられるんじゃ……」
「そんなこと無いよっ!」

 思い切り否定するネスにマリオとどせいさんは驚いた。
 ネスは怒った表情をし、マリオを睨んでいる。

「僕には分かるんだよ、ラフィットの気持ちを、一番に。本当は、この戦いを嫌っているに違いないんだ……」

 目を悲しい色に染め、眠っているラフィットを見る。

「ネス、君は争いが好きじゃない戦士だ。それは皆も分かってる」

 マリオは今度は優しく話す。

「でも敵にも同情していたら、戦士としてかえって危ないよ?」
「分かってる……分かってるけど……」

 ネスは握り拳に力を込め、次第にうつ向く。そして、暫く黙っていたが、漸く顔を上げる。

「でも、この子だけはちが……」
「入っても良いか?」

 ドアの向こうから、ノックと共に誰かの声が聞こえた。マリオ達は焦り、ネスは慌ててラフィットの顔の前に立った。
 まだ断っていないのにも関わらず、スネークがトレイを片手に部屋に入って来た。

「ス、スネーク! 僕が返事してから入ってよっ。ビックリしたなぁ」

 マリオがそう言うと、スネークは扉の前で冷静に返事をする。

「それは悪かった。用件はあれだ。ネスの母が、今そこで眠ってる人の為にスープを作ってきてくれたから、持ってきてやった。それだけだ」
「ママが?」

 ネスはそこから動かず、トレイに乗っている、温かいスープの入った器を見た。

「ありがとう、スネーク。この子が起きたら食べさせるから、もう戻って良いよ」
「分かった」

 マリオが、扉の前にいるスネークからトレイを受け取った後、スネークは部屋から出ていった。
 どうやら気付かれていない様で、二人は長い溜め息をついてしまった。
 マリオはトレイを、ベッドの近くにある小さな台に置いた。

「まあ、ネスがそこまで言うなら、今んとこは目を瞑ってあげるよ」

 そう呟いたマリオに、ネスの表情が明るくなる。

「本当っ?」
「但し、これは僕とネスだけの秘密だからね? ラフィットが本当にそう言う良心を持ってたら皆に話すから」
「分かった。流石隊長だね! ありがとう!」

 ネスがニコッと笑うと、マリオは眉をひそめながら頬を緩めた。




「ラフィット、これ飲むと温まるよ?」

 マリオが見守る中、起き上がったラフィットにネスはスープを差し出した。ラフィットはネスを軽く睨み、顔を反らす。

「て、敵なんでしょ、君達は? 敵から食べ物だなんて、怪しいよ」
「ラフィット……」

 ネスは悲しい目をしたが、何かを思い付いた。木製スプーンを持ち、スープを掬い上げると自分の口に入れて毒見をしたのだ。その様子を、ラフィットはチラリと見ていた。ネスはこちらを向くと微笑む。

「ほら、毒なんか入ってないよ。ママの作る料理はとっても美味しいんだっ」
「ママ……」

 その言葉にラフィットは少し反応する。

「何か食べないと体に毒だよ? 一度でも良いから食べてみなって」

 ネスは、子供らしい優しい微笑みを見せ、スープを手渡す。ラフィットは、疑いの眼を向けながらも渋々それを受け取り、膝の上にそっと乗せた。スプーンで少量を掬い上げ、口に運んだ。

「どう?」

 ネスは心配そうに、口を動かしているラフィットを少し覗き込む。
 ラフィットは恐る恐る味わっていて、それをコクンと飲み込んだ。そして少しすると、先程の表情が僅かに一変する。
 少しだけ明るさを取り戻し、更にそのスープを掬い上げ、また口に入れる。そして、ラフィットは器を空にしたのだ。ネスとどせいさんとマリオは目を見開いた。その中でもネスは直ぐに笑みを綻ばす。

「ね、美味しかったでしょ?」

 ラフィットの手から器を持つ。
 ラフィットはうつ向きながら頷いた。

「こんな食べ物、今まで実際に食べたこと無かった」
「実際?」

 マリオとネスは同時に口にした。今の言葉に変な疑問を抱いたのである。
 ラフィットは彼等に向くとその理由を話した。

「こう言うのを食べた記憶はあるんだ。でも、本物は知らなくて、寧ろ何でそれを食べた記憶があるのかが分からないんだ……どうしてなんだろう」

 頭を抱え、曲げた膝に額を付け蹲ってしまう。

「隊長、これってどう言うこと?」

 ネスが慌てて問い、マリオは難しい顔をしながら腕を組んだ。

「クローンは遺伝子から生まれた訳だしな。ギガ達の技術だと、その記憶も一部コピーされているのかも知れない。まあ、これは僕の勘だけどね」
「……何か嫌だね、記憶はあるのに知らないだなんて……」

 ネスは傷付いた顔を作った。
 そしてマリオは何かをピンと浮かんだ。

「そうだっ。ラフィットに色々と話をして貰うのはどうかな? ギガ軍のこととか、精鋭部隊のこととか」
「あ、それは良い提案かも知れないね。ラフィット……」
「それはっ……言えない……」
「! ラフィット?」

 それを聞いたラフィットが急に顔を上げた。ネスが驚いて彼を見ると、ラフィットの顔色が妙に悪かった。

「ギガ様は、ギガ様はいつも僕達を見てる。裏切りは死に等しいと思えって、ディバ隊長が言ってた。だから……言えない」
「……ご、ごめん……」

 マリオは頭を掻いて反省した。ネスも顔を下げて謝罪する。
 そしてネスは、ラフィットを悲しい目で見つめ、彼の肩に手を回し、そっと抱き締めた。彼の体が小さく震えているのが、腕を通じて感じる。

「でもラフィット、怖がらないで? 僕がいるから。僕が守ってあげるからっ」
「……」

 ラフィットは最初は躊躇っていたものの、暫くすると、ゆっくりと首を縦に振った。無論、ギガ軍については話すことは無かったが。

(ラフィット……本当に……彼は……?)

 マリオは眉間に皺を寄せながら考え込む。未だに半信半疑だが、ラフィットを見ていると、ネスの気持ちが段々分かって来た気がしないでも無かった。










 ──to be continued──