心の世界 「うーん……」 マリオは、気付けば閉じていた目を渋々と開いていった。目に差し込むのは、明るい光。もしやここは天国だろうか? あの時、マントの力が失って、そのまま落下していったが、あれからどうなったかは記憶になかった。ただ、体に痛みは無い。でもここに倒れていた。一体何があったと言うのだろう? 視界が慣れてきた頃、漸く周りを見渡すことが出来た。そこで彼は不思議な光景を目にする。 「何だ、ここ?」 今のマリオは、ハテナを何個か浮かべることしか出来なかった。 マリオが座っているのは草原で、空は様々な色にランダムで彩られている。そして前を見ると、色々な人達が不思議な白い建物で暮らしていたり、マリオと同じ草原をあるいていたりしていた。そしてそこの住人は、皆見覚えのある人々だった。キノコ王国の人達、そしてスマブラのメンバーの故郷にいる住人も何人かいた。 「どうなってんだ、一体?」 それに彼等はこんなとこで何をしているのだろう。何故、この不思議な世界に住んでるのだろう。 こんなとこで色々考えても無意味な気がしてきた。何も浮かぶ筈がないのだから。とりあえず、あそこへ行ってみよう。 そこへ行くと、あちこちにマリオの大好きなキノコが生えていたり、マリオにとって懐かしい人達を見掛けたりする。 キョロキョロと見回していると、横から赤ん坊の泣き声が聞こえた。白い風呂敷の上で泣き声を上げている赤ん坊。オムツをはいていて、マリオと同じ帽子をぶかぶかの状態で被っていた。 「これは、正か赤ちゃんの頃の……僕?」 膝に手を付けて少し屈み、赤ん坊を見る。明らかにマリオの面影があるから、思わず見つめてしまっていた。 そこへ横から足音が聞こえてきた。こちらへ近付いて来るが、それは馴染みのある足音で、警戒することは無かった。その足音の主は、彼等の側まで来た。 「あ、マリオさんっ!?」 「ヨッシー?」 緑の恐竜で、長年のパートナーであるヨッシーが来たのである。正かこんな所で会えるとは思わなかったから、驚きは隠せなかった。 「ヨッシー、何で君がこんなところに?」 「何を言ってるんです。当たり前じゃないですか」 「当たり前?」 「ここは、マリオさんの心の世界なんです」 「僕の、心の世界だって?」 マリオは改めて辺りを見回した。不思議な場所に不思議な空、不思議な建物。そしてそこに住む、今まで出会って来た住人達。言われてみれば、そんな気がしないでもない? しかし、なぜ自分の世界へ来たのだろう。確か自分は……。 「そうそう。マリオさんを呼んでいる人がいましたよ」 「僕を?」 「こっちです」 ヨッシーはマリオの前に背中を向けた。彼はこちらを向き、ジッと待っている。乗れと言いたいのだろうか。ベビィマリオはどうするんだとそちらを向くが、彼の姿は消えていた。 「……」 「さ、マリオさん、乗ってください」 一瞬ポカンとしてしまったが、ヨッシーに呼ばれ、首を傾げつつ彼の背中に飛び乗った。 ヨッシーが目的地へ向かって歩いている間、マリオは辺りを見物し始めた。 「あ。あれは……」 とある白い一軒家で、自分のオーバーオールやシャツを洗濯物として干している人がいた。彼は干し終えると、額を袖で拭っていた。 「兄さんとまた冒険したいなあ。僕はいつもダメダメな奴だけど、実は兄さんを凄く尊敬してるんだよね。いつか、兄さんみたいな、勇敢な冒険家になりたいよ」 そう言った我が弟は、家の中へ入っていった。 (もしかして今の言葉は、彼の心の言葉なのだろうか) 一緒に暮らしていても、彼はそんな言葉は滅多に口にしなかったからだ。 「くそ、毎回毎回なぜワガハイはマリオに負けるのだ!」 ある大きな建物の高い階の窓から誰かが顔を出している。それはマリオの宿命のライバルだ。何やら不機嫌そうに外を眺めている。 「あれやこれやの方法で邪魔しても、結局ワガハイの目の前に現れ、そしてワガハイは奴にやられてしまう。全く憎くてならんっ! ま、キノコ王国がワガハイ以外の奴に乗っ取られた時は、マリオと共に戦ったこともあるがな。キノコ王国の平和を乱して良いのはこのワガハイだけなのだからな。ガハハハ!」 大きな声で言うものだからそれは十分に聞こえ、マリオは密かに苦笑していた。 「マリオ……あなたなら、きっとこの世界を救ってくれるって、信じてるわ……」 そして、マリオの大切な人が、建物の高い階の窓から祈りを捧げている。彼女も、無事だと良いのだけれど……。 出会って来た仲間達の心の声が聞こえる中、ヨッシーはある場所へたどり着いた。 「この先は他の人の心の世界へ繋がっていますので、僕はここまでです」 「サンキュー、ヨッシー」 マリオはヨッシーから降り、レインボーに輝く霧の世界を見つめる。その道に足を踏み入れる前に、ヨッシーに振り向いた。 「ヨッシー」 「はい?」 「……また、会えるよな?」 それを聞いたヨッシーは微笑んで頷いた。 「僕達を思い出してくれていれば、いつでも会えますよ」 マリオはそれを聞いて心から安心し、振り返ることなく、霧の世界へ入っていった。 ここも何だか不思議な感覚がした。目の前は霧ばかりで道も見えない程なのに、前へ進めば大丈夫だと、そう思えた。 向こうから気配がする。マリオの足の速さに合わせてではない。確実に向こうから来る。 「隊長ー!」 「ネス!」 気配の正体はネスだ。霧が掛かっているのにも関わらず、こちらへ真っ直ぐに向かってきた。 「ネス、怪我はないかっ?」 「大丈夫、心配は要らないよ」 「良かった……」 一先ずマリオは安堵の息を吐いた。 「狐のお兄ちゃんと先に会ったよ。僕の世界で、誰かが助けを呼んでる気がするんだ」 「? それは?」 「……とにかく今は僕んとこに来て。隊長達の力が必要だから」 マリオの腕を両手で掴んでぐいぐい引っ張る。ネスの静かな懇願を見て、マリオの表情が僅かに変わる。 「分かった」 マリオ達は、ネスの心の世界へ来た。そこはマリオのとこと大差は無いが、彼等のいる世界の人達が暮らしていた。そして先程マリオ達に倒された宇宙人までいる。驚かない訳がないが、ここら辺の住人は危害を加えないとネスに言われたので、マリオは額に流れる冷や汗を袖で拭った。 「俺は、本当はネスを友達だって思いたい」 あるソファに座っているのは、小太りしている金の短髪少年だった。そこを通り過ぎようとしたマリオ達は立ち止まり、彼に振り向く。 「ネスは皆に愛されてて、羨ましいよ……俺なんかこんな奴さ……本当はネスともっと仲良くなりたいんだけど、こんな俺だから、駄目だよな……」 「……隊長、彼がポーキー。毎回威張ってるけど、本当は良い奴なんだよ」 「そうなんだ」 「今、どこにいるか分らないんだけどね……」 「……」 ポーラ達から聞いた彼のイメージとは全然違うのにマリオは驚いた。外見でしか、人は相手を判断出来ない。心まで分かる人は、ほんの一握りなのだ、ネスの様に。 「隊長、行こう」 「あ、ああ」 フォックスとも再会し、助けを呼んでると言う場所へと彼等は向かった。 最初にいた場所とは雰囲気が全然違った。紫に輝く、洞窟内の海の水。ネス曰く、ここはエデンの海と言う場所らしい。ネスが場所に詳しいのは、一度来たことがあると言う。ギーグと戦う直前に来た世界らしい。 「と言うことは、この世界から抜けたら……?」 マリオが恐る恐る尋ねる。が、ネスはうーんと唸った。 「それは分からない。それに、どうしてこの世界に突然来たかさえ、まだ分からないんだ」 「そうか」 「マリオ、この洞窟の奥から妙な気配がする。行ってみよう」 「おうっ」 マリオ達はエデンの海へ入っていった。洞窟の中だからなのか分からないが、水はそれ程深くは無い。ネスの場合は腹の辺りまでの深さである。おまけに海は不気味に輝いていて、洞窟内をぼうっと照らしていた。 暫く進んでいると、何やら奥から金色の光が見えてきた。マリオはこの気配を別の場所で感じた気がした。気のせいとは言い難い程で、おまけに、あの輝きもどこかで見たと思った。 (そうだ、思い出した。あの時……) 彼等の前に立ちはだかるのは、スネークと一緒にフォーサイドを訪ねた時に見た、あの黄金像そのものだった。確か自分達の悪の心と言っていた。 「私は君達の悪の心」 黄金像は、全く動かないまま喋りだした。 「君達の悪に果たして勝てるか、試してやろう」 「望むところだ。行くぞ!」 三人は武器や技を構え、黄金像を睨む。 「PKファイアー!」 ネスは指を思い切り差すと、指から赤い光が放たれ、それが発射された。だが黄金像が体から光を放つと、ネスの技はそれに吸い込まれてしまった。 「くそ、サイマグネットかっ」 「こんどはこちらの番だ。PKキアイβ!」 黄金像から赤いオーラが溢れ、奴の目の前に黄色い光の塊が作られる。そして大きなビームになり、マリオ達めがけて発射した。 「二人とも下がれ!」 フォックスは前に出ると、懐にあるリフレクターの装置のスイッチを入れ、マリオ達をガラス上のドームで包んだ。PKキアイβはそれに当たり、見事跳ね返った。 「愚かな。そのままくらっていれば良かったものを」 そう呟いた黄金像は、自分もリフレクターを作り出した。 「何っ!?」 更にビームが跳ね返されるが、リフレクターは、射撃技を威力を上げてカウンターする技。パワーを上げてマリオ達を襲う。 「伏せろ!」 マリオが叫び、三人は身を屈めた。かわされたビームは天井に当たり、岩が彼等の近くへ崩れ落ちた。 「入り口が……!」 大きな岩が積み重なり、入り口への道が閉ざされてしまった。 「だから愚かだと言っただろう。ククク……」 動かないまま黄金像は苦笑した。 「……僕らは逃げる気はさらさらないけどねっ。ここで、必ずお前を倒してみせるっ」 マリオはニッと笑み、奴に指をビシッとつきつけた。フォックスとネスも同じ気持ちで奴を睨み付けた。 「行くぜ! パンチをくらえ!」 マリオはダッシュし、パンチを繰り出した。黄金像はその時、またシールドを貼った。シールドβと言う、打撃を反撃する技である。 「……と見せかけて!」 「!」 マリオが拳を前へ振った先からファイアボールが放たれた。ファイアボールは黄金像にヒットする。 「ぐお!」 「よっしゃ! 初ダメージ!」 マリオはガッツしながらその場を離れた。 「ク、ククク……やはり愚かな者共だ」 「何を! あっ」 黄金像が更なる黄色に光り出すと、マリオの攻撃で出来た焦げ目が綺麗に消えてしまった。ネスの持ち技である回復技である。 「くっそー、これじゃキリがない!」 「……勝てる方法は無くは無いよ」 「え?」 フォックスとマリオは、そう言い出したネスに素早く振り向いた。 「今は奴が技を出し続けるのに耐えよう」 「は? 急に何を言い出すんだっ」 理解できないフォックスは、つい変な言葉を発してしまう。だがマリオは黙っていた。 「フォックス、今はネスの言う通りにしよう」 「マリオ……」 「ネスはマジカントに来たことあるって言ってた。だから、マジカントのことも知っている筈。だよね、ネス?」 「うんっ」 ネスは自信を持って頷いた。 「僕を信じてっ。きっと、奴を倒せる筈だからっ」 「……よし、俺はお前を信じてるからな!」 「僕もだよ」 「ありがとう、隊長! 狐のお兄ちゃん!」 「何をごちゃごちゃと話をしている」 気付けば黄金像の頭上には巨大な光の塊が出来ていた。 「PKキアイΩ!」 「うわあっと!」 三人はバラバラの方向へ走り、三人の間にはビームが通り過ぎた。 (あいつ、パワーが強力な技しか使ってないな) マリオは黄金像の技を見て何と無く思った。そこで何かにピンと来た。 (……そうかっ、ネスの言いたいこと──そう言うことだったのか) それを考えると口端を上げた。ネスも彼の表情をふと見て、ニッと笑った。 「PKフラッシュ!!」 黄金像が叫ぶと、奴の体から強い光が放たれようとする。 「皆、顔を後ろへ反らすんだっ!」 フォックスはサングラスを掛けて二人へ叫んだ。マリオ達は慌てて顔を反らした。強い光が一気にはなたれ、背中を向けていても辺りの反射でマリオ達の目を襲う。 「うっわ! すっごい眩しいっ!」 「うぅ……!」 何とか光に目を潰されずに済んだが、妙に頭がクラクラしていた。 「ライフアップ!」 ネスは目を瞑りながら両手を広げた。体から水色の柔らかな光が溢れ、それはマリオとネスを包み込む。やがて目眩が無くなった。 「ふうっ。サンキュー、ネス!」 「いつまで耐えられるか楽しみだな」 黄金像は笑んだ声を出していた。 「あれが俺達の悪魔だなんて信じられないな」 フォックスは黄金像をジッと睨む。 「負けちゃダメだ、悪魔に」 マリオは言った。 「……自分自身に負けてはいけないんだ!」 ダッシュして行き、ジャンプすると、ファイアボールを連射していく。 「マリオ!」 「隊長っ!?」 二人は、彼の予想外な行動に驚くしかなかった。 「愚かな真似を。貴様はもう、己の悪魔には勝てぬ!」 黄金像はリフレクターを発動させ、ファイアボールを次々と弾き返す。マリオは体を捻ったり、回転したりしてそれらを避けていった。 「まだまだっ!」 マリオは着地すると今度は走り出した。そしてファイアボールを何個も発射させる。 「狐のお兄ちゃんっ」 「! 何だ?」 気付けば観戦していた二人だが、ネスは顔の方向を変えないまま、隣のフォックスに話し掛けた。 「援護しようっ」 「え、だってネス……」 フォックスが何かを言い掛けたとこで、ネスはこちらを向き、マリオみたいな勇ましい笑みを見せた。 「因みに言うけど、技には耐えようって言ってたけど、攻撃するなとは言ってないよ」 「……」 フォックスはそれにキョトンとしてしまったが、一本取られた気がし、クッと喉を鳴らした。 「言われてみればそうだよな。よし、マリオが何を考えてるのか分からないけど、奴を倒す為なら、お安いごようだっ」 「どりゃあ!」 ネスとフォックスが射撃をしている間に、マリオは黄金像へ近付いていった。そして拳を繰り出そうとする、が、奴がリフレクターを改めて発動して来た瞬間、それに当たったマリオは、バチィッと弾かれてしまう。 「くっ!」 倒れることなく、何とか着地に成功した。 「くそ! 後少しなのに……っ」 (後少し……?) フォックスはブラスターを両手に目を細めた。 (……) ネスはマリオの心を読んでいた。いきなりで最初は驚いたが、テレパシーを使ってみると、彼の突然の行動も理解出来た。 本当はこのまま耐えるつもりだったのだが、彼の考えにも一理あり、これは援護しなきゃと思わせられた。 「あいった!」 再び吹き飛ばされたマリオは水にバシャッと飛び込んでしまう。 「隊長!」 「大丈夫か、マリオ!?」 「あ、ああ、何とかな」 頭を抑えながらマリオは立ち上がった。 「そろそろとどめをさすとするか」 黄金像の頭上に光が生まれる。またもやPKキアイΩを繰り出すつもりだ。マリオ達は身構え、防御を固める。 「自分の悪魔にやられるが良い! 死ねえ!」 そして強力な技を繰り出す。 ところがである。マリオ達に、あの技の衝撃が来ない。目を強く瞑っていたマリオは、そっと瞼を開いた。そこには、技の消滅に珍しくポカンとしている黄金像がいた。 「な、何だ? も、もう一度だっ」 そして同じ技を出そうとパワーを溜め始める。だが今度は発動させる前に、そのパワーは失われてしまったのだ。 「そ、そんな馬鹿な!? なぜ技が出せん!」 「ふふ、強力な技を出しまくってたのが裏目に出ちゃったみたいだね」 ネスはニッと笑った。 「サイポイントって言ってね、僕みたいなPSIの持ち主でも、超能力を使うのには限度があるんだ。強力な技を使えても、サイポイントが無きゃ無能同然なのさ!」 「くっ! おのれえぇぇ!」 「僕は、きっとこの力に頼ってばかりだったんだ」 ネスは呟く様に話し始めた。 「強力なPSIがあれば、どんな人でも守れると思ってた。でも、違う、そうじゃないんだ」 ネスの脳内には、看病していた頃のラフィットが浮かび上がっていた。ネスが守ると言う誓いに抱き締めたら、ラフィットはそれに頷いてくれたこと。偽りの無い、声無き言葉を返してくれた。 「どんな人でも守れる、本当の超能力は、誰にでもある、このココロ自身にあるんだって!」 「素人の心に超能力などない!」 「でやああ!」 「な!」 マリオはファイアボールを手の中にまたもや特攻してきた。 「ふん。ならば、これならどうだ!」 と、背後からマントを出し、マリオの攻撃を跳ね返そうとした。 「……と見せかけて!」 「!?」 「マント頂きい!」 技を引っ込めたかと思わせれば、マリオは奴から見事マントを奪いあげた。 「序でにリフレクターも没収させて頂いたぜ?」 笑むマリオの手には、黄金像から奪ったマリオのマントと、フォックスのリフレクター装置があった。 「僕の狙いはこれってことだ。これで反撃は出来ない!」 「お、おのれえええええ……!」 「くらえ、悪魔! ファイアフォックス!!」 フォックスは体にパワーを溜め込む。すると、彼の体から炎が噴き出す。炎に包まれたフォックスは、黄金像に突進した。 「ぐおあ!」 「PKキアイβ!!」 今のネスの技は黄金像程では無い力だが、奴のと同じパワーを溜め、一気にそれを発動させた。見事大ダメージ。 「ぐはっ!!」 「とどめだ、悪魔!」 マリオは拳に力を込める。すると、拳から光が幾つか放たれた。 「ファイア掌底スマアアッシュ!」 黄金像にパンチを当てる瞬間、そこから強力な衝撃派が放たれた。しかもレベルはスマッシュ。大分反撃を受けた黄金像にとってはひとたまりもなかった。 「ヌォアアアアア!!」 そして黄金像は悲鳴を上げながら消滅していったのだった。 「ふう。反射技をかなり使って来たから倒すの苦労したよ」 深い溜め息をついたマリオは、額に流れる汗を腕で拭った。 「それにしても」 と、フォックスは腕を組んだ。 「どうして俺達はこの世界へ来たんだろうか。確か崖から落ちた気がするんだが、天国にしちゃ妙だし」 「僕もそれについては未だに疑問だね。ネス、何かわか……」 ネスに聞こうとしたとこでマリオは言葉を中断してしまった。 「マリオ?」 フォックスは彼に眉根を寄せる。マリオが見ているのは勿論ネスだが、ネスは何かを見ている様に固まっていた。 ──ぐす、うぅ……。 暫くすると、どこからか声が聞こえてきた。その声は幼く、すすり泣いているにも聞こえる。 「誰? 誰なの?」 ネスは不意に口を開いた。 ──えぐ……ぐすん、ぐす……。 「お願いだから、泣かないで? 君は誰なの──?」 「……ネス?」 マリオとフォックスは一端顔を見合わせ、彼を凝視する。ネスは周りの声は聞こえていないらしく、たった一つの声に耳を傾けている。 「! マリオ、あれ!」 フォックスはある方向を指差した。その先は黄金像がいた小さな岩場で、彼等を背に、丸まって座り込んでいる少年がいつの間にかいた。その子の容姿は、ネスそのものだった。 「正かあいつ……!」 フォックスが歩き出そうとしたとこをマリオの手が制した。 「マリオっ」 「……」 ネスが彼に向かってそっと歩んでいく。マリオは真剣な眼差しで、そんなネス達を見ていた。 ネスは歩みながら、何だかデジャヴを感じていた。前にも見た光景で、記憶もちゃんとある。 ──そうだ、あの夢だ。 僕と彼との初めての出会い。それは僕の夢の中でだった。 暗闇にいて、目の前には泣いている自分がいた。いや、それは僕じゃない、もう一人の僕である人間だ。 なるべく優しく話し掛けると、彼はこちらを向いた。そこで僕は初めて見た。目が血の様に真っ赤で、恐怖を抱いてしまった。その記憶が、鮮明に蘇る。 でも、今は違う。彼を助けたい。その気持ちは曲げられない、例えどんなに信頼し合った仲間でも。相手は敵なのは分かってる。お人好しと言われても良い。 彼だけは、放っておく訳にはいかないのだ。彼は敵側にいてはいけない存在なんだって、分かったから。 「こっち向いて?」 彼の後ろへ来ると、今度は恐れることなく身を屈め、彼の肩にそっと手を置いた。彼は泣くのをやめるが、未だにすすりながらこちらを向いた。夢と変わらない、血の色をした瞳に、ネスの姿が映る。 これは夢の続き。長い時間を掛けて、やっと見付けた道。その先には、きっと、彼の思いを見付けられる。彼の本当の心が、語り掛けて来る。 「……君は誰? 僕?」 「そう……かも知れないね。僕はネスだよ。君は?」 「……」 「怖がらないで? それに、僕は自己紹介したんだから、君も言うべきでしょ?」 「……ラフィット……」 まだ体が小さく震えているが、名前だけは上げた。あの時の夢だったら、彼はいつの間にか消えていた、名乗りもせずに。 「……お願い……」 ラフィットはネスの服をギュッと掴み、彼を見上げた。 「ネス、お願い。僕を……僕を助けて」 「ラフィット……」 「僕の手で、これ以上の犠牲者を出したくない。だから、お願い……」 「こ、これは一体……」 フォックスは、二人の様子に唖然としていた。一方のマリオは表情一つ変えず、ネス達を見ている。 「ラフィット、大丈夫。必ず助けてあげるから」 ラフィットと同じ目の高さまでしゃがみ、彼の目を確り見る。 「……本当……?」 泣いた後だから涙目を向ける。ネスは元気付ける様、首を縦に振った。 「君を助け出してあげる、この暗闇の籠から」 その言葉を聞いたラフィットは、安心した笑みを浮かべながら、やがて光を残して姿を消していった。 「ネス」 後ろから呼ぶマリオの声。ネスは名残の小さな光をギュッと握り締めると、立ち上がり、マリオ達に振り向いた。 「隊長、今のが、ラフィットの本心だよ。マジカントの世界だから、間違いない」 「……ああ、分かった」 マリオは眉を潜めながら苦笑いをしてみせる。フォックスは未だにポカンとしていたが、漸く理解出来、軽く溜め息をついた。 ネスの前に更なる光が溢れだした。柔らかな光で、心が洗われる様な気持ちになった。 その光の中から誰かが姿を現した。金髪の長いウェーブで、紫色の美しいドレスを身に纏い、頭には光輝く金色の冠を被っていた。顔立ちも、この世のものとは思えぬ程に美しかった。 「あ、貴女は?」 マリオは見開きながら尋ねた。 「私の名はマリア。語り継がれている、伝説のクイーンマリー」 「クイーンマリー……」 確かどせいさんが彼女の名前を言ってたなと、ふと思った。 「貴方達の活躍は天国から見ているわ。ギーグがまたこの地へ現れ、世界を滅ぼす前に、貴方達をこの国へ呼び寄せたのも私」 そこで言葉を止めると、マリアは表情を悲しみに染め、静かにうつ向く。 「貴方達を巻き込んで、本当に申し訳無く思っているわ。ギーグがこの世界へ戻ってきたのは、世界征服だけではない。貴方達を消す為でもあるのよ」 「! 俺達を消すだってっ?」 フォックスはギョッとした。 「知恵の林檎がギーグに予言したの、『PSIを持つ少年とその仲間達がギーグを消しに来るだろう』と。だからギーグは、邪魔な存在である貴方達を消しに来た。それのせいで、多くの被害と犠牲者が出てしまった……」 簡単に壊れてしまいそうな顔の中、今にも涙を流しそうだったが、顔を上げると改めて話す。 「ギーグを止められるのは、貴方達しかいない。だから、歌と共に貴方達に呼び掛けたの」 「大宇宙人を倒した時に現れた一時の幻は、マリアが呼んでいた証拠だったんだね」 納得したネスは、少し驚いて言った。マリアはネスに女神の微笑みを向けたが、表情を再び暗くし、フッと目を閉じた。 「貴方達が崖から落ち、命からがら助けたのが、私の最後の力。私が消滅すると、マジカントも消滅し、二度と現れないでしょう」 良く見ると、マリアが透けて来たのが目に見えた、向こうの壁が少し見える位に。 「お願い。ギーグを止めて。あの子は本当は良い子なの」 「……あいつにも闇の心があるんだな、ラフィットの様に」 マリオは辛い気持ちを胸にマリアに言った。マリアは一筋の雫を作った目で彼を見つめる。そして涙を軽く拭い、悲しみの中の微笑みを作った。 「ギーグは苦しんでる。まだ心があるラフィットとは違い、既に闇に全てを捧げてしまった。どうか、倒してあげて。私は夫のジョージと共に、天国から見守っているわ」 「……うんっ……」 「分かった」 「任せてくれ、マリア!」 ネスは達笑顔で頷いた。マリアも微笑みながら、完全に姿を消した。 やがてマジカントも白の世界へと変わり、マリオ達も白に覆われる。 マリオは、悪魔から奪い取った道具をエデンの海へ捨てた。 「悪魔の道具は、使いたくもないね」 自分達の闇に勝利した彼等は、現実の世界へと向かって行った。 ──to be continued── |