Race Standby〜後編〜








 都内で人々が昼より騒いでいるのは夜だからだろうかと、カービィ達は思っていた。しかし、一般人達の表情を見ると、何故か慌ただしさが伝わる。

「また何か事件なのかな?」

 その場で浮遊しながら様子を見る二人。カービィは不安な目でメタナイトに振り向いた。

「ああ。しかし昼のとは違い、恐らく、この事態は尋常では無いな」

 メタナイトはこちらを向かずに返事をした。
 彼等の横の、電機屋のショーウィンドーに置いてある、サンプルのテレビ。その画面には、現在ニュースが流れていた。

『ミュートシティの住民は、直ちに避難してください。繰り返します。ミュートシティの発電所が、ブラックシャドーに襲撃されました。ミュートシティの住民は、直ちに避難してください』

 それを耳にした二人はテレビに振り向き、暫し釘付けになる。
 冷静に警告を呼び掛けているニュースキャスターの右上には、現場の小さな画面が表示されている。そこは、そのブラックシャドーと言う者に攻撃された後であろう、街から黒く大きな煙が何筋か上がり、正に絶望的な光景だった。カービィ達は、そんな一大事に気付かなかったことに悔やんだ。
 画面が別の場所に切り替わる。そこは巨大な発電所で、そこも燃え上がっていた。

「あの発電所……」
「あの様子だと、まだ爆発はしていないな。だが、それも時間の問題だ。あの中に人がいなければ良いのだが……」
「メタナイト! あれ!」

 メタナイトの言葉を遮ったカービィは焦って画面を差し示す。発電所へ続く道路だ。そこには、同じマシンが横転していたり、引っくり返っていたり、燃え上がっていたりしていた。

 ──同じマシン……。

 メタナイトはそれを見てハッと気付いた。カービィが何を言いたかったのかも理解した。

「あれは正か……昼に見たパトカー達か!」
「そうだよ! もしかしたら、ジョディ達も危ないかも!」

 カービィは今にも泣きそうだ。

「カービィ、ワープスターだ。現場に急ごう」
「うん! 来て、ワープスター!!」

 即座に頷いたカービィは、空に向かって叫んだ。空の一点がキラリと光り、ワープスターがカービィ達の前へ降下する。二人は素早くそれに乗り、現場へ向かった。




 そこは最早地獄画図と化していた。少し遠くにいても、機械の燃える酷い臭いがした。
 そしてカービィ達の見たマシン達は、案の定だった。
 その内の一人の男性がパトカーマシンの近くで倒れていた。カービィ達は急いでそこへ向かう。ワープスターから下り、倒れている人の側に駆け寄った。
 メタナイトは彼の首に軽く触れる。

「……怪我をしているが、命に別状は無い」
「良かったー」

 カービィは安堵の息を吐いた。

「うっ……」
「あ、気が付いたみたい!」

 メタナイトの隣に素早く近付き、意識を取り戻した男性を見守る。男は細い目をうっすらと開き、二人を交互に見た。

「大丈夫?」
「あ、ああ。だけど、ジョディが……」
「!」
「ジョディがどうしたの!?」

 メタナイトとカービィは彼女の名前にビクッと驚き、彼に問う。すると男は顔を横に向け、手をゆっくりと動かし、発電所を指差した。

「ジョディが、まだ、あの中に……」
「何だと!?」

 最初は驚いていた二人だが、次に考えることは一つだけだ。

「ここで休んでいてくれ」
「行こう、メタナイト!」

 男をそっと寝かせたメタナイトは、カービィを既に乗せているワープスターに乗り、高速で発電所を目指した。
 火や機械の塊等、様々な障害物を避け、発電所へ漸く近付く。

「おっと、行かせないよ」

 その時、発電所の入り口で黒いワープスターが現れ、カービィ達の行く手を阻んだ。カービィ達を乗せたワープスターは急ブレーキし、カービィとメタナイトは邪魔する相手に見開いた。

「リズ!」
「フビル……」
「ヤッホー。お久しぶりー」

 黒いワープスターから顔を出したリズは、友達感覚で手を大きく振っていた。

「ここから先は通さぬ。ここはメタナイト達の墓場になるのだ」

 フビルは話しながら、ギャラクシアを引き抜いて構えた。

「くっ」
「どうしよう、早く行かないとジョディが……」

 悩むカービィとメタナイト。ジョディだけではない、時間が掛かると、自分達の身も危ない。つまり、リズ達に構っている暇は無いと言う事だ。

「すまないが、こちらは生憎時間がないのだ」
「お先に失礼ー」

 カービィが友達感覚で手を大きく振ると、ワープスターはキラッと光り、あっさりとリズ達の横を通り過ぎていった。

「あ! ま、待て!」

 フビルは慌て、リズはポカンとする。そしてリズは、アッと我に帰ると、

「ワープスター!」

 と、黒いワープスターを動かし、カービィ達の後を追った。




 プリンとピチューを乗せたキュースリーのマシンは、ある公道を走っていた。彼女達も先程の事件を聞いて来たのである。

「あ、あそこじゃないでしゅかっ?」

 プリンがある場所を差す。プリンの目先には、発電所が燃えているのが遠くから見える。ピチューも驚いて見、キュースリーも少し顔を向けると前に戻した。

「場所ヲ確認シマシタ。直グニ向カイマショウ」
「了解でしゅっ」
「ピ!」

 キュースリーのマシンはスピードを上げて走ってゆく。

「?」

 プリンは何かを感じると顔を左右に動かした。

「ピッチュ?」
「何か感じましぇんか?」
「……ピチュッ?」

 ピチューは改めて警戒すると、プリンと同じく何かを感じ取った。これまでに無かった気配な筈が、自分達に似た感覚がする。一体何だと言うのだろうか。
 その時、キュースリーのマシンが、ドンと言う音と同時に上下に揺れた。

「きゃっ」
「ピッ!」
「! イ、一体何ガ!?」

 上から更に強い殺気。プリン達は素早く見上げた。

「初対面でしゅね」
「ピィチュウ」

 マシンの上にいるのは、自分達と姿形が全く一緒のポケモンだった。但し、彼女達の目は赤かった。

「プリン達のクローンでしゅか!?」
「ピィ!」
「ふふふ」

 そして二匹が力一杯跳び上がった反動でマシンが開く。プリン達は互いに頷き、マシンの上へ向かう。

「駄目デス! 外ニ出ルト危険デス!」
「キュースリーは運転しててくだしゃい。プリン達なら大丈夫でしゅ!」

 相手二匹はもう一台のマシンの上へ移動した。マシンの上で、四匹のポケモンが睨み合う。

「まじゅは自己紹介しましゅ。クーシーって言いましゅ」

 プリンのクローン──クーシーは、体を華麗に一回転させるとお辞儀した。

「しょして、この子はジッティと言いましゅ」
「ピィーチュウ!」

 ピチューのクローン──ジッティは手を上げた。

「……プリンで、こっちがピチューでしゅ」

 プリンは不機嫌そうに自己紹介をした。それについてはピチューも同様だった。

「ここでプリン達を倒せば、隊長も喜びましゅ」
「ピピッチュウ!」
「さあ、覚悟しゅるでしゅ!」

 クーシー達は技を構えた。プリン達も技を構える。

「しょれはこっちの台詞でしゅ!」
「ピチュウ!」
「……ぷりんサン、ぴちゅーサン、気ヲ付ケテ下サイネ」




「思ったより大きなコースだな」
「ふふふ。矢張り初心者の匂いがするのは相変わらずだな」

 ライトニングと言う場所に、マーシスが気になっていたハーフパイプがあった。
 ライトニングは大気汚染に寄る異常気象で常に雷が降り注いでいる。その雷をエネルギーに使うため、目の前には巨大な発電所の影があった。

(! この感触は何だ)

 マーシスは、発電所を眺めながら何かを感じ取っていた。

「レースリタイアは許さないな」

 それに気付いたらしい、ザ・スカルはマーシスを見た。マーシスはハッと振り向く。

「男と男の約束は守るんだな。何があっても、このレースには最後まで付き合って貰うんだな」
「ああ、分かってる」

 マーシスはハンドルを握り、エネルギー蓄積を始める。ザ・スカルはニッと笑い、彼もレーススタンバイを始める。
 目の前を巨大な雷が落ち、強い光と音を放った直後に二つのマシンがスタートした。
 ハーフパイプにはガードビームが無く、おまけに所々切れている部分がある。一度そこにハマれば一貫の終わりだろう。二人はその様な隙間を避けてゆく。しかしグリップが不安定な為か、カーブの時は危うくコースアウトしてしまいそうになる。

「マーシス、安全運転だけじゃ、エフゼロに参加する資格は無いな」
「何だと?」

 隣に並んだザ・スカルをマーシスは睨んだ。それを見たザ・スカルは喉を軽く鳴らした。

「オレは親切に言ってるんだな。安全ばっか気にしていると、即あの世行きなんだな!」

 ザ・スカルはマシンで思い切りマーシスのマシンに体当たりした。

「うおおおっ!」

 マーシスのマシンは思い切りコースから飛び出した。

「残念だな。できる奴だと思っていたが、オレの見込み違いだったみたいだな」

 と、ザ・スカルはやれやれと息を吐いた。そしてハーフパイプをカーブした時、そこにはマーシスのマシンがあった。

「何っ!?」
「私はまだ走れるぞ」

 口端を上げるマーシスはそこからマシンを走らせた。

(……そう言うことなんだな)

 ザ・スカルは前のマシンを見つめ、顎を軽く擦る。

(カーブを使って上手く向こう側へ渡れるように、空中でコントロールしたんだな。初心者にしては中々だな)

 そしてマーシスが次第に慣れ、二台のマシンがスピードを競っている時、

「結構楽しそうじゃん」

 横から突如殺気を抱き、マーシスは素早く横を向いた。ザ・スカルとは反対側から現れた別のマシン。それにはディバが乗っていた。

「ディバ!」
「僕も仲間に入れてよ。退屈なとこだったんでね」
「ほう、お前さんの友達?」
「……前から少し、な」

 マーシスが嫌悪を込めて返事をすると、ザ・スカルはフッと笑った。

「相当な激戦を繰り返してきたんだろうな。血の匂いがぷんぷんするんだな」
「骸骨は見物してな。死にたくなければな」

 ディバは見下した視線をモニターのザ・スカルに向けた。だが、それを聞いた本人は笑いを上げ、ディバの笑みが消える。

「死にたくなければ……か。オレは既に肉体は無いんだな。黒魔術でよみがえった、二百年前の悪魔なんだな」

 ディバは無表情で彼を見ていたが、プッと吹き出した。

「面白いな。なら、僕達と遊ぼうじゃないか。死を恐れない戦いを、是非とも楽しもう」
「望むところだ」
「ザ・スカル殿!」

 マーシスは彼も参戦するとは思わずうろたえる。だが、ザ・スカルの表情は変わらない。

「マーシスもレーサーになれる素質があるんだから、一々他人の心配するな」
「……」

 マーシスはザ・スカルを見た後、ディバを睨む。

「私は私なりの戦いでそなたに挑む」
「そう来なくっちゃな」

 ディバはいやらしげな笑みを浮かべ、マシンの上に立つ。マーシスも躊躇わずにマシンの上へ向かった。

「面白そうなルールだな」

 ザ・スカルも便乗してマシンから出た。
 マシンの上に立つ三人が睨み合う。

(『奴』を捕える時間を稼げば、こっちのもんだ)

 ディバは武器を抜きながらそう思っていた。




「もうすぐ空中公道だ」
「大分空気が変わったなぁ」
「ピカッ」

 ブルーファルコンは地上から遥かに高い公道を走っていた。かなりの距離があっても、遠くで燃えているような光景は目に入る。

「ブラックシャドーはまだ近くにいる筈だ。なるべく警戒しよう」
「了解っ」
「ピカチュー!」

 と、一人と一匹は額に手をビシッと当てた。

『キャプテン・ファルコン!』

 モニターに突如映し出された人物がいた。その者は、喫茶店で一緒だったリュウだった。

「リュウ!」

 マリオは声を上げて名前を呼んだ。

『オレも忘れんなよ』
「ジャックも!」
「ピッカァ」

 マリオとピカチュウは嬉しそうに笑った。

『! マリオにピカチュウが何でブルーファルコンに乗ってるんだ?』

 リュウに言われるまですっかり忘れていたマリオ達はドキッと肩を上げた。そう言えば、C・ファルコンは普段は正体を隠す為に、喫茶店のオーナーをやっているのだ。

「彼等もブラックシャドーを倒すと誓った仲間だからだ」

 C・ファルコンはニッと微笑んでリュウに答えた。

「ファルコン……」

 マリオ達は、咄嗟にフォローしてくれたC・ファルコンに感謝した。と言っても、今の理由は最もだ。

『……マリオ達は只の観光客じゃ無かったのか』

 リュウは不思議そうな表情でマリオ達に見開いた。

「うん。僕達も色んな悪い奴らと戦ってきたからね。今回の事件も、放っておけるかっての」
「ピカーピー!」

 マリオは拳を握り、ピカチュウも元気良く返事をした。

『──そうか。なら、一緒にブラックシャドーを叩きのめそう!』

 拳を上げるリュウに、マリオ達は笑顔で返した。

『マリオ! ピカチュウ!』

 その時、別のモニターが表れた。そこに映し出されたのは、フォックスである。マリオ達は思わず身を乗り出した。

「フォックス、来てくれたのか!」
『君がマリオくん、そしてピカチュウくんか』
『話はフォックスから聞いている』

 次に現れたのは、スチュワート、そしてジェームズだ。

『紹介するよ、マリオ。ドクタースチュワートに、ジェームズ・マクラウドだ』
(ジェームズ……マクラウドだって?)

 宜しくと話す前に、後者の紹介には、矢張りマリオ達も驚かない筈がなかった。

「フォックス、ジェームズって……」
『話は後だ。今はブラックシャドーを探すことが先決だろ?』

 フォックスは気にしていない様子だ。随分前に会ったのかなと、マリオ達は思った。

「そうだな。宇宙を支配しようと企む極悪党は、僕達でブッ飛ばそう!」
「ピカ!」

 マリオの言葉に、C・ファルコン達は頷いた。

 ──そうはさせないよ。
「!!」

 声と共に、直ぐ近くで殺気を感じた。気付けばギガ部隊のメンバー達が、いつの間にかC・ファルコン達のマシンの上に立っていたのだ。

「お前ら! 正か気配を消して現れるだなんて!」
「ブラックシャドーばかり気にしているから油断したんだろ?」

 C・ファルコンのマシンにいるデークが言うと、彼の肩にいるクルヴィはクスクス笑った。

「何をする気だ!」

 フォックスはジェームズのマシンにいるガフィに怒鳴る。ガフィはニヤリと笑むと答えた。

「何をする気だって? そんなのは分かりきったことだろ? お前達には、ここで死んで貰うんだよ」

 デークが指を鳴らすと、周囲から素早い影が現れる。そして一体ずつ各々のマシンをバウンドする勢いで飛び越えた。

「うわ! くっ!」

 マリオはつい声を出してしまった。

「!? ピカッ! ピカーチュ!」
「な、何だ、ピカチュウ?」

 ピカチュウは顔を上げると急に青ざめ、マリオの服を引っ張り、上へ顔を向かせる。マシンに仕掛けられた黒い物体。それに取り付けてあるランプが赤く点滅していた。

「な、これは……!」
「……」

 C・ファルコンは上の機械物を分析した。それが何なのか判明すると、クッと呟いた。

「これは……爆弾だ!」
「な、何ぃ!?」
「その通り」

 腕組みをしているデークは口端を上げて答えた。

「時速八百キロ以下になると直ぐにドカンさ。スリルが大好きなお前達にはたまらないゲームだろ?」

 デークの笑みに吊られ、周りからも不気味な笑い声が響く。

「じゃ、延々とゲームを楽しむが良いさ」
「ピカチュ」
「くたびれたら、あの世で永遠に休めば良いよ」

 そして、笑い声と共に去って行った。

「くっ、デークめ!」
「ピカァ……」

 マリオは拳を震わせ、ピカチュウは耳を垂らして怯えてしまう。

「マリオ、爆弾の解除法を探ろう」

 と、フォックスは言った。

「分かってる。でも……」

 前を一般車が何台か走っており、C・ファルコン達はそれらを避けていく。前の車もたまに避けてくれていた。

「他の車を巻き込む訳にはいかんな」

 スチュワートが言った。

「……今はこの高速道路を出なきゃな」

 と、ジェームズ。

「こりゃあ、面白くなって来たぜ」

 ジャックはニッと笑った。

「生きてここを出たら、真っ先に奴らを捕まえてやる!」

 と、リュウは言った。

「行くぞ、マリオっ」
「おう!」
「ピッカピィ!」

 マリオ達は爆弾を背負ったまま、果たしてここを出れるのだろうか。










 ──to be continued──