Race Standby〜前編〜








「ブラックシャドー?」

 その名前を聞いて、マリオは口に付けていたカップを一端ピタッと止めると、言葉をオウム返ししながらカップを小皿に戻した。マリオに話したリュウは頷く。

「ああ。そいつは宇宙を支配しようとしているんだ。レースでは何度か阻止してきたが、またいつ現れるか……」
「こいつ元刑事(デカ)だからなぁ。それがレースの敗因の一つって訳」

 ジャックは呆れた笑みを浮かべると、リュウに指を差して肩をすくめた。マリオは目を細める。

「ファルコンに負ける原因?」
「おう、そうさ。キャプテン・ファルコンに勝つと言っときながら、ブラックシャドーを見掛けたらすーぐ目的を変えちまうんだ。ま、そうじゃなくても、ファルコンに勝った試しは無いけどな」
「そ、それは……」

 何も言い返す言葉が見付からず、結局黙り込むしかなくなったリュウに、バートとマリオは顔を見合わせ、こっそり吹き出した。

「じゃあマスター、俺達そろそろトレーニングに戻るよ」

 リュウは逃げるように慌てて立ち上がる。ジャックもニヤニヤしながら立ち上がった。

「ええ、頑張ってくださいね」
「じゃあな、マスター」

 リュウとジャックが店からいなくなった後、バートの目の色が急に変わった。

「! どうしたの、バート?」
「ピカ?」
「……何か感じませんか?」
「え……」

 何がと問い返す前に、マリオ達に一瞬の寒気が襲った。

(な、何だ、この変な感じ……)

 その時、この店にあるテレビからニュースが流れ始めた。

『緊急速報です。ミュートシティにある発電所が、ブラックシャドーに寄って襲撃を受けました。現在、宇宙連邦警察が現場へ向かっております』
「ブラック……シャドーだって!?」
「……どうやら、奴が本格的に動き出したみたいですね」

 バートはテレビを睨みながら呟く。

「ですが、それだけではありません。また違う気配も感じます」
「言われてみれば、前にも感じた気配──そうか、ギガ軍か!」
「ピィカ……」

 ピカチュウは威嚇するような体勢をとり、頬袋から電気をパチパチと鳴らす。

「ブラックシャドー。冷酷非道で、数多くのエフゼロマシンやパイロットを葬って来ました。そうして邪魔者を減らしていき、唯一の目的を果たそうとしています」
「宇宙征服か。同時にギガ軍の気配。何かあるな」
「リュウさんの話に笑っている場合ではありませんね」
「そこは芝居なんだから、仕方ないと思うよ」

 軽くウィンクしたマリオに、バートは笑みを溢した。

「クランクに留守番を頼んできます。その後、マリオさん達をマシン倉庫まで案内しましょう」
「ああ」
「ピィカッチュ!」

 立ち上がったマリオの肩にピカチュウが飛び乗った。




 バート基、キャプテン・ファルコンの使う愛機ブルーファルコンは、彼以外誰にも知られていない倉庫にあり、バートはマリオ達を連れて向かった。機械音が響く狭い廊下を出れば、そこでライトに照らされているもの。青いエフゼロマシンである。

「さぁ乗れ、マリオ、ピカチュウ」
「ん?」

 敬語から急にいつもの口調に戻ったと気になって振り向けば、既に青いパイロットスーツを身に纏ったC・ファルコンがそこにいた。顔はマスターのままだが、赤いヘルメットを着用すれば、マリオ達のよく見る姿となった。
 何とも素早い着替えに、マリオ達は気付けばポカンと口を開けていた。

「急げ。一刻の猶予もないぞ」
「あ……っ、お、おう!」

 C・ファルコンはブルーファルコンに飛び乗り、マリオも続いてそれに乗り込む。そしてその場でマシンが横に回転して止まり、目の前の扉が音を立てて開いてゆく。ブルーファルコンが動き出したのを合図にそれは物凄いスピードで倉庫から発進した。




 研究室への扉が開くと、白衣を着た人達が、広い室内をあちこち動き回っている。唯一白衣を着ずに静止している男は、扉の音を聞くとこちらを向いた。

「スチュワート、買い物にしちゃあ、随分遠くまで行ったな」
「何、少しイザコザがあったんだ。この子が不良に巻き込まれるのを見ていられなくてね」

 スチュワートが彼に顔を向けると、後ろにいたフォックスは彼の隣へ一歩動いた。
 スチュワートと話していた男は、サングラスの奥からその容姿をジッと眺める。すると少し眉をひそめてスチュワートを凝視した。

「……俺と同じ格好をしているじゃないか。ギャラクシードッグのユニホームの数は限られているぞ」
「まあまあ。今は自己紹介が先だぞ」

 スチュワートがこちらに頷くのを見たフォックスは、サングラスの男の前まで来た。

「初めまして、フォックス・マクラウドと言います」

 彼の名前を聞いた男は静かな驚きの声を出した。フォックスは今の彼の反応には気付かず、握手を求めようと手を差し出した。
 男はスチュワートを見る。スチュワートはニヤッと口端を上げ、頭を縦に小さく揺らす。
 男はフォックスの手を見て慌てて握った。

「宜しく──ジェームズ・マクラウドだ」
「!?」

 フォックスはそこで、彼が驚いていた気がしたのは気のせいではないと分かった。
 よく見れば、彼の格好は明らかに自分のと似ていて、それに彼の名前、何て言っていた?

 ──ジェームズ……マクラウド……?
「失礼だが、フォックスの生まれた星はどこだ?」

 ジェームズの質問をうっかり聞き流すとこだったフォックスは、ハッとして彼を見た。

「……パペトゥーンだけど、ジェームズは?」
「俺はコーネリアだ」
(! 正か……!)
「俺、やとわれ遊撃隊スターフォックスのリーダーなんだけど」
「俺はやとわれ遊撃隊ギャラクシードッグのリーダーだ」

 名前は違うが、職は一緒だと分かった。
 彼は、やはり……。

「おい、スチュワート! これは一体……」

 スチュワートを睨むようにしてジェームズは言う。スチュワートはフッと笑みを浮かべた。

「ここではドクターと呼んで欲しいな。
 そして、私は何も仕掛けてはいないよ、ジム。私もこの子と会ってまだ間も無い。これで私の理論は正しいと、いい加減認めたらどうだね?」
「……はいはい、分かったよ。ドクターの言う通りだ。目の前にいることが確かな証拠だしな」
(どう言う意味だ?)

 フォックスは、彼等の話についていけなかった。一体何の話をしているのだろう。

「さて、私は遺伝子の研究に戻るとしよう。君達はまだ会ったばかりだ。屋上で話でもしていなさい」

 スチュワートは、研究員の一人から受け取った白衣を身に纏うと、彼等から離れていった。
 ジェームズは顔を一度振ってから研究室を出ていこうとする。まだ少しポカンとしていたフォックスだが、慌てて彼の後をついていった。




 研究所の屋上に出ると、そろそろ日が暮れる頃だった。研究所を森が囲み、更に森の向こうの山の奥へ沈む夕陽は絶景だった。

「わあ」

 フォックスは思わず感動した声を漏らしていた。
 二人は金網フェンスの前に立ち、夕陽を眺める。

「同じ魂を持つ者……か」
「え?」

 不意に呟いたジェームズにフォックスは振り向く。

「ドクターが前に言ってたんだよ」

 ──この世には未知なる世界があり、そこには我々と同じ魂を持つ者がいる。

「最初はそんな馬鹿なって笑ったよ。いくら古い仲でも、遂に頭がおかしくなったかって思った程だった」
「俺、ドクターの言うことは正しいと思う」

 フォックスの素早い返事とその内容に、ジェームズは目を丸くした。

「実は俺の父さんもジェームズ・マクラウドって言うんだ。今はもういないけど、ここに貴方がいると、とても安心出来るんだ。初対面の筈なのに、血は繋がっていない筈なのに、どこか懐かしい感覚がして。ドクターとミュートシティで会わなかったら、俺、未だにどこか寂しい思いをしていたよ」
「……世の中には不思議なこともあるもんだな。親近感がわいて、何でも話してしまいそうだよ」
「ジェームズの家族は?」
「妻と幼い息子が一人」
「その息子は、ジェームズ似?」
「そうだな。俺より強いパイロットに育てるのが、俺の夢なんだ」
「きっとなれるよ。俺も父さんの後を継いでリーダーになったんだ。ジェームズの息子さんも、俺みたいになるさ」
「──そう言ってくれると嬉しいよ。何だかフォックスは、俺の未来の息子って感じがするな」
「俺も、ジェームズが本当に父さんに見えてきたよ」

 ジェームズとフォックスは、自然と笑顔になりながら話していた。その二人は、本当の親子みたいだった。
 フォックスはその時、何かを感じると、表情を百八十度変えた。とっさにフェンスをガシャッと握り、出来る限り辺りを見回す。

「どうした、フォックス?」
「……何か来る……」
「え」
「ジェームズ、ドクターのとこへ戻ろう。何か、物凄い嫌な予感がするんだ」
「俺は何も感じないが……成程、動物の勘って奴か。分かった、行くぞ」

 二人は急いで屋上を後にした。




「そうだな。ついさっき、衛星が何かをキャッチしたみたいだが、測定不能のようだ」

 スチュワートはモニターを見ながら顎を軽く擦った。その後ろにいる二人も見る。

「良い知らせとは言えないな」

 ジェームズは腕を組んだ。

「ドクター! ミュートシティより北の方角で爆発が!」
「何!?」

 別のモニターを操作している女研究員が声を上げた。三人はそちらへ向かう。

「爆発の規模はどうだ?」
「小さいですが、連続爆破です。あそこには発電所がありますし、このままだと大爆発に繋がる可能性があります」
「急いで行かなければならないな。仲間も向かっていれば良いが……」
(ん? そう言えば……)

 フォックスは不思議そうな目でドクターを見ながらジェームズに聞いた。

「ジェームズ、ドクター・スチュワートって医者……だよな?」
「ん? ああ」
「医者が何でこんなことをやってるんだろうって、何か変に思って」
「……実は俺も良く分からないんだけど、ドクターは過去の自分への戒めだとか言ってたな」
 ──戒め?
「俺もそれ位のことしか言われてない。きっと取り返しのつかないことでもしたんだろうな。ま、そこは問い詰めたりしないさ。今は俺達、正義のエフゼロパイロットの仲間だからな」
「ジェームズ……」

 フォックスはジェームズに密かに微笑んだ。俺の父さんも、そんな人だった。やっぱりジェームズはジェームズだなと思った。

「フォックスはここにいなさい」
「えっ?」

 白衣を脱ぐスチュワートの言葉にフォックスは目を丸くした。

「ここにいれば安全だからな。私はジムと現場へ向かう。行くぞ、ジム」
「ああ。じゃあな、フォックス。事件が解決したらまた会おう」

 ジェームズまで……!
 研究室を出て行くまで二人を見ていたフォックスだが、一人首を横に振ると声を上げた。

「俺も行きます!」

 立ち止まった二人だけではなく、ここにいる研究員も驚いて彼に振り向いた。

「俺もジェームズと同じパイロットです。こんな事件、放っておけません!」
「しかし、ここへ来たばかりの君を危険に巻き込む訳にはいかないのだよ」

 スチュワートは肩をすくめた。彼に同感のジェームズは頷く。

「スチュワートの言う通りだ。それに、まだフォックスと話したいことが沢山あるしな」
「ジェームズ……」

 フォックスはジェームズの言葉に胸を締め付けられる。言葉遣いが少し違っても、やはりジェームズはジェームズなんだ。
 ──でも、ここで退く訳にはいかない。それにはちゃんとした理由がある。

「この事件には、俺も関わってる可能性があります」
「! 何?」
「さっきの気配は、俺達と長年戦っている軍のものかも知れないんです。だから、この事件に俺は無関係とは言えませんっ」

 二人は暫く顔を見合わせるが、更に真剣な表情になるとフォックスへ顔を戻す。彼にこれ以上何を言っても無駄だと判断したのだろう。

「仕方がない。ジムのマシンに乗せて貰いなさい」

 ジェームズは無言で頷いた。

「ありがとう、ドクター」

 そして三人は研究所を後にした。




「ここが俺達のトレーニング場、レッドキャニオンだ!」
「うわあ! すっごーい!」

 デジボーイのマシンからおりたネスはそこの景色に感動した。見渡す限りの峡谷に、乾いた空が広がる。

「オレの父ちゃんもよくここへ来るんだ。今はどっかに行っちゃってるけど」
「ダイゴローのパパもパイロットなの?」
「そうだぜ。あのキャプテン・ファルコンと互角で戦える凄いパイロットなんだからな!」
「へえ! 凄いんだね!」

 ダイゴローの父がどんな人かは分からないが、キャプテン・ファルコンと互角で戦える程とは、きっと相当な実力者なんだなとネスは期待していた。

「それは単なる息子の思い込みだね」
「え?」

 しかしデジボーイが見事裏切らせた。ネスは目を丸くし、どせいさんも彼のリュックから顔を出した。デジボーイはコンピュータをいじりながら語る。

「ダイゴローの父、サムライゴローの実力は確かにある。だけど、キャプテン・ファルコンの足下にも及ばないね。勿論、ボクにも敵わない」

 と、デジボーイは眼鏡をクイッと上げ、縁をキランと光らせた。

「へ、それはお前のコンピュータがバグってんだろ?」

 ダイゴローは腕を組んで鼻で笑った。

「じゃあダイゴローくんはサムライゴローの走りを見たことあるのかい?」

 デジボーイのその問いに、ダイゴローは何故かギクッと肩を上げて青筋を作る。それを見たネス達は、疑問マークを浮かべていた。

「あ、あれはまだ本気を出してないんだ! 本気を出せば、キャプテン・ファルコンなんて目じゃないんだぜ!」
「……ま、君がそう言うんなら、このデータはまだ本気じゃないモードと言うことにしとくよ。今度のレースで本気モードを出したら是非教えてね」
「良いともさ! 驚くんじゃねえぞ!」

 そう言うデジボーイだが、きっとそうは思っていないだろうと、ネスはどせいさんと顔を見合わせた。

「んなことより!」

 ダイゴローはこの話をさっさと終わらせると本題に移る。レース形になっている峡谷に改めて振り返った。

「ここ、レッドキャニオンは、右の崖にはガードレールが無く、左の崖からは岩がたまに転がり落ちてくる。つまりここは単に走るだけじゃなく、精神も鍛えるんだ」
「……さっきデジボーイにエフゼロマシンのことを教わったけど、確かに神経も集中させないと、気付けばぺっちゃんこ、もしくは真っ逆さまだね」
「君も中々良いトレーニングをしている様だね。ボクにはいつも負けるけど」

 さっきまで偉そうに構えていたダイゴローだが、デジボーイの今の言葉にずっこけてしまう。

「お、オレもまだ本気を出してねーんだよ!」
「ま、まあまあ」
「ふたりとも、おちついてください」

 ネスとどせいさんは、また始まりそうな二人を何とかなだめた。

「と、とにかくだ」

 と、ダイゴローは咳払いをした。

「今からシルバーラットの走りっぷりを見せてやるぜ! オイ、行くぞ、赤帽のチビ!」
「僕はネスって言うんだけど……」
「折角だからボクも付き合うよ。少し興味があるからね」

 デジボーイは自分のマシンであるコズミックドルフィンに乗り込んだ。ダイゴローもネスを強引に引き、二人(と一匹)でシルバーラットに乗った。
 左の崖から小さな石がパラパラと落ちる。
 マシン達はエネルギーを溜め、高速スピードで一気に発進した。

(うわっ。さっきとは全く違うスピード感だ)

 重力制御装置のお陰で圧されることは無いが、前方の景色は線を引いている様に見える。只の素人では乗りこなせない訳だ。

「からだではかんじませんが、ものすごいすぴーどです。まるでせかいがかわったようです」

 と、どせいさんはリュックからネスの肩へ飛び乗った。

「へ。これだけで凄いと言うのは早いぜ」

 ダイゴローはニヤッと笑う。

「ブーストを使えばもっと凄いんだぜ。見てな」

 横にあるレバーを一気に後ろまで引く。するとマシンは、電流を走らせながら更なるスピードを出した。

「うわあ! 速ーい!」

 ネスは興奮し、横目のダイゴローはヘヘッと鼻を指で擦った。

「但し、あまりブーストを使うと、その分マシンに負担が掛かる」

 小さなモニターが現れ、そこにデジボーイの顔が表れた。

「ボクの場合は最低限しか使わないよ。ボクは計算を武器に戦っている。力より頭を使った方が早死にしないからね」
「うるせえ、電気頭! オレは算数が大っ嫌いなんだよ!」

 ダイゴローはモニターに向かって怒鳴り、デジボーイはやれやれと首を横に振った。そんな二人に、ネス達は乾いた笑いを溢した。

「そろそろ岩が来るぜ」
「え?」
「確りつかまってな!」

 と、ダイゴローはハンドルを改めて握り直す。デジボーイもコンピュータを更に駆使していた。どせいさんはリュックに戻り、ネスは気を引き締めた。

 ──!?

 その時、ネスは何かを感じた。今まで感じなかったのに、悪寒が急に背中を走った。

(変だ。でかい岩が転がり落ちようとも、ここまで寒気は普通しない筈……)

 そこでハッとした。この気配は殺気。そして嘗て感じた殺気と一緒なのだ。

(正か!)
「ダイゴロー、マシンを止めて! デジボーイも!」
「はあ? 急に何を言い出すんだ」

 機嫌を損ねたダイゴローは思い切りネスを睨む。一方のデジボーイは、無言で眉をひそめた。どせいさんも分からず、ネスのリュックから顔を出す。それでもネスは構わず二人に呼び掛ける。

「これ以上進むと大変だよ!」
「岩が転がってくるのは分かってるよ」

 ダイゴローが話している途中で、ネスは慌てて首を横に振っていた。

「違う、そうじゃない! 何か変なんだ! とにかく止まってよ! このまま走ると本当大変なことに……」
「うるせえな! ちゃんとベルトしてろ!」

 ダイゴローはネスをドンと押し、強制で元の位置に座らせた。

「大変大変って、オレ達は毎回死と隣り合わせなんだ。今更言われたって退けやしないんだよ!」
「ダイゴロー……」
「来るぜ!」

 崖の上から岩が転がり落ちてくる。それも巨大で、次々と転がってくる。二台のマシンは、あちこちに無駄なく動いてそれらを避けていく。

「す、凄い」
「……確かに今日の岩の数はかなりあるな」

 驚いているネス達の隣で、ダイゴローは漸く彼の言うことを理解したようだ。

「しかも、崖の上より生物反応があるね。レッドキャニオンにこれほど生物がいたら、確かにおかしいね」

 デジボーイは言った。それはネスにも感じていたことだ。そして崖の上を見上げる。

(やっぱり、あいつらか!)

 そこにいたのはザコ敵軍団で、次々と岩を転がしてきていた。




 路地裏を出たスネークは暫く歩いていると、賑わいを見せる場所に来た。そこにはマシンや車等は一台も通ってなく、逆に周りの道は人々で溢れていた。仮にマシンが来ても、そこだけは避けて通っていた。

「何が始まろうって言うんだ?」

 その場でスネークが腕を組んでいると、彼の隣に一台のマシンが現れた。

「よお、兄弟」

 そこから顔を出したのは、殺し屋のピコだ。

「俺は殺し屋と兄弟になった覚えはない」
「そう言うな。仲良くしようぜ」

 スネークは不機嫌になってよそ見をする。そんな彼を見て、ピコはクッと喉を鳴らした。

「これからお前に、噂の熱いレースを体験させてやるよ」
「レース……エフゼロか」

 こちらを向いたスネークに、ピコは更にニタリと笑む。
 そして不意に銃を向けてきた。

「今更断わるなよ。オレと会った時から、お前の運命(さだめ)は決まっているんだからな」
「……どうやらその通りのようだな」

 辺りを見ると、スネーク達は既に様々な人達に囲まれていた。皆雄叫びを上げ、興奮のあまり手を何度も振り上げ続けている。皆、ピコとスネークに期待しているのだろう。

「ノーと答えて面倒事起こすよりは、参加した方がマシだな」
「お前もバカでは無いな。さあ、オレのマシンに乗れ」

 二人で一つのマシンに乗り、横断歩道の前の白線をスタートラインにする。後に他のマシン達も彼等の近くで止まる。

「他の参加者も大分集まったな。良いデスマッチレースになる」
「デスマッチだと?」

 目の前の信号機が青になった瞬間、マシンは走り出した。それと同時に一段と歓声が大きくなった。

「ミュートシティを一周すれば勝ち。それまでなら、他のマシンに手出ししても構わない」
「手出し……うおっ!」

 ピコのマシンが急に横に揺れた。横を向くと、別のマシンがこちらへ何度もぶつかってきているのが目に入った。

「早速来やがったな。スネーク、やれ」
「何をだ」
「邪魔なマシンをぶっ壊してやるんだ。どんな手段を使っても良い。お前の好きなように料理してやれ」
「──このレースはならずものの溜まり場だな」

 そう吐き捨てながらも武器を用意するスネークに、ピコは苦笑した。そして彼の武器を見る。

「良い武器を揃えているな。今の時代じゃ中々手に入らない高価物ばかりだ」
「俺はこの時代の人間じゃないんでな」

 そしてスネークは煙草をくわえるとマシンから顔を出す。相変わらずぶつかって来るマシンだが、激しい振動が来てもスネークは耐えられた。

「タイヤの無いマシンならやむをえない」

 スネークは、そのマシンの前に向かって小型ミサイルを発射した。前方からの小さな爆発の衝撃でマシンが真後ろへ吹っ飛んだ。

「うおおおおお!!」

 すると観戦者達は益々興奮し、更なる雄叫びを上げていた。

「やるじゃねえか」

 ピコが満足げに微笑むが、スネークは何かを感じとると振り返った。
 ピコのマシンが再び強い衝撃を受けた。

「! こいつも邪魔するつもりか」

 さっきとは反対方向からもマシンがぶつかって来た。それだけでは無い。後ろや前にもマシンが現れ、スネーク達は見事囲まれてしまった。

「こいつら、オレ達しか料理の材料がねえってのか」
「……ピコ」
「何だ」

 スネークは囲むマシン達を睨みながらピコを呼んだ。するとこう言った。

「ピコのマシンと比べて、こいつらのマシンの動きがおかしい。囲む様に微調整しているにしては、動きが大袈裟だ」
「スネークも気付いているみたいだな。オレも変だとは思った。病気や怪我なんか忘れる位にフィーバーしている筈の奴らが、今回は何かがおかしい」

 ピコは顎を撫でる。
 スネークは一先ず周りを武器で離れさせたり、吹き飛ばしたりした。すると、何と新たなマシンが現れ、ピコのマシンを再び囲んだのだ。スネーク達は舌打ちする。

「殺気は強いが、面白くねえ。こいつら本当にパイロットなのか?」
(──本当にパイロット……?)

 ピコの言葉にスネークは別の何かを感じた。それは前にも感じた気配。

「……そうか、そう言うことか!」
「スネーク?」
「こいつらはギガ軍だ! おっと、俺の宿敵とでも言っておこう。奴らはマシンを俺らごと木っ端微塵にするつもりらしい。それまでは恐らく、しつこく狙ってくるだろうな」
「ほう? そう言われると、何だか楽しくなってきたぜっ」
「うぉっ?」

 ピコのマシンが急に回転を始めた。スネークは慌ててマシンにつかまる。回転しているマシンは周りのマシンを一掃した。

「いくぜ、デスマッチレースはこれからだ!」




 日が暮れ、空が闇に覆われる。
 高速道路にて音速並に駆け抜ける数十台のマシンがあった。一台はとがったマシンで、ファルコがそれに乗っていた。それ以外は背中をいくつか尖らせたマシンばかりだ。その中の一台はオレンジ色で、マイケルが乗っていた。

「オラオラァ! どんどんブッ飛ばせえ!」
「イヤッホー!」

 暴走族のマシンの中にはあちこち動き回っているのもあり、妨害されているファルコは苛立つ。おまけに自分の操縦しているのはババのマシンだ。

「人様のマシンは走りに癖がついちまってるな。だが、慣れればこっちのもんだっ」

 動き回るマシンを避けつつ先を行く。かなりの時間を費やしたが、ファルコも大分慣れてきたようだ。
 一番前にいるマイケルは、後ろのファルコを見るとニヤリと笑む。

「来た様だな。そろそろか」

 その時、ファルコの隣に、マイケル達のマシンと同じ形だが、唯一赤いマシンが現れた。

「な、何だこいつは!?」

 ファルコが隣に見開いていると、前のモニターからある顔が表れた。

「よお、久しぶりだな」
「! てめえは……ジビンダー!」

 そこに映し出されたのは、ファルコのクローンであるジビンダーだ。

「随分いかしたマシンに乗ってるじゃねーか。今度乗せてくれよ」
「生憎、これは借り物なんだ。又貸しすると、あのおかまに怒られる」
「そうか、残念。まあ怒られる以前に、てめえには死んで貰うぜ。覚悟しやがれ!」

 モニターが消えると、隣のマシンがぶつかって来た。

「うおっと!」

 ファルコのマシンが一気にスライディングし、危うく高速道路から飛び出すとこで踏ん張った。

「いきなり宣戦布告かよったく」

 ファルコはハンドルを操作し、負けじとマシンをぶつけ返した。

「チッ」

 ジビンダーも力を入れ、どちらとも力比べをする。周りからは、暴走族の男達が叫びながら観戦していた。




「こっちよ、リンク! 早く早くー!」

 都内をはしゃぐプリンシアは少し遠くにいるリンク達に手を振る。リンクは買い物の袋や箱を沢山持たされていた。

「あの時頷いた自分に腹立つ……」

 リンクは体を震わせながら呟いた。

「でも、お姫様に迷惑掛けるよりは大分マシよ。最悪の事態になりかねなかったかも知れないんだから」

 と、ナビィはリンクの周りを飛ぶ。

「……ナビィは女に優しいなぁ。この大量な荷物を抱える俺なんか眼中に無いんだろ」
「そ、そんなこと無いわよ! でも私は非力だから、力になりたくても無理なのっ」

 それは分かりきっていても、つい放った言葉であわてふためくナビィにリンクは微笑んだ。
 プリンシアは早歩きしながら都内の店や建物を見回す。そしてあるホテルの屋上を見上げた。

(? 誰かしら?)

 ふと見た屋上に人影があり、プリンシアは目を細めてそれをよく見た。

「!!」
「この気配……っ」

 リンクとナビィは同時に同じ気配を感じとり、その気配はプリンシアに集まっているのも感じとれた。荷物やらは持っていられず全て手放し、彼女に向かって走り出した。
 屋上の人影はその場から消え、プリンシアの目の前に現れた。目を見開いて酷く驚くプリンシアに、上げている剣が振り下ろされる。そして、ガキイィーン……と、固いものがぶつかりあった音が反響していく。
 目を覆い隠した腕を、プリンシアは恐る恐る離していった。

「! リンク!?」

 プリンシアの前には、二人のリンクが剣を交していた。
 その騒ぎに、街の人々も彼等を見てはざわめいていた。

「こんばんは」
「ミエール……!」
「ゼルダ姫ではない姫様のお側におられるとは、貴方も随分変わりましたね」

 哀れむミエールに、リンクの頭に血が上る。力任せに彼の剣を弾き、間合いをとった。

「俺は今、守る人を守らなければならないんだ。ミエールみたいな奴とは違うんだよ」
「……それもそうですね」

 ミエールは笑んだまま、フッと目を閉じた。

「俺は何を守るかなんて聞かれたら、自分の身としか言いません。他の奴らも、他人の命より自分の命をもっと大事にすべきですよ」

 ミエールは剣をしまうと素早く弓矢を構えた。リンクは身構える。だがよく見ると、ミエールの矢の先が明らかにリンクからずれている。

 ──!

 リンクはハッと気付くと振り返り、後ろにいるプリンシアを力強く押した。

「キャッ!」

 プリンシアはその場で尻餅をついてしまう。彼女の真上を矢が通過し、建物の壁に突き刺さった。
 ミエールは外したことと、リンクの行動に苛立ち、舌打ちした。

「相変わらず愚かですね。自分に刺さったら、そこで倒れている姫はもう守れませんよ」
「……ミエールには分かるまい」

 リンクは彼をゆっくりと睨み付けた。

「人は何かを守る為に強くなる。宿命を背負って生まれてくるんだ」
「守ると言う名の宿命? バカバカしい。そんな宿命を抱えなきゃならない理由でもあるのですか?」

 ミエールは鼻で笑った後、ククッと喉を鳴らした。リンクは顔を伏せ、握り拳を震わす。

「誰でも人は一人では生きていけないんだ。俺も生きる為に、沢山の人に守られてきた。だから、今度は……」
「!」

 プリンシアはリンクの目を見てドキッとした。まるでそれは、狼のようなのである。

「俺が人々を守る!!」

 リンクの姿がみるみる変わってゆく。身体中から動物の毛が生え、遂にはリンクの顔も変わり、その姿は……、

「リンクが、狼に……!」
「……」

 プリンシアは驚き、ミエールは目を冷ややかに細めた。
 獣リンクはプリンシアに近付き、彼女を素早く背中に乗せ、その場を走っていった。

「ふん、逃げるんですか?」

 ミエールの背後には、いつの間にかザコ敵軍団が並んでいた。ミエールは彼等を連れ、リンク達の後を追う。

「奴らを追え。殺しても構わない!」










 ──to be continued──