未知の生命体








 マリオ達の訪れた場所は、うって変わって不気味な大地だった。オマケに空気も良いとは言えず、余り吸いたく無い故に、マリオら数名は鼻を腕で隠していた。

「何か変な空気ー」

 怪訝な目を作るカービィは見えない鼻を小さな両手で摘んでいた。

「……此処に長くはいられそうに無いな。気分が悪くなる」

 腰に片手を当てているスネークは、嗅覚を抑えてはいないが平気な訳でも無く、辺りを睨め回しながら若干眉を寄せそう言う。

「欠片のお導きなら仕方ねえが、此処にも俺達の仲間はいるのかねぇ」

 ファルコは、疑い眼で皮肉に近い言葉を吐きながら肩をすくめる。
 最近怖い系に敏感になって来たピチューは、耳をあちこち動かしながら辺りを警戒している。マリオの肩にいるピカチュウは、それ程で無いが、何か気配を感じるのは確かなのである。しかもそれは、自分達と同じ波長で、弱まっている気もした。

「此処にいても仕方がない」

 口を開いたのは、マントに包まれたメタナイトである。そして次にマーシスが口を動かす。

「とにかく前へ進むのだ。今の所殺気は感じないのだが、この世界の欠片は、もっと遠くにある」
「そうだね。何時までもこんなとこにいたら、何だか変になりそうだよ」

 マリオは気分悪そうに胸を抑えながら言った。
 だがそんな時、ピチューの耳がピンと立った。

「ピ、ピチュウ!」
「ピカ?」
「ピチュー? どうした?」

 ピカチュウとマリオに話し掛けられるもそれには耳を傾けようとはせず、ピチューは後先考えずに皆より先へと駆けて行った。

「あ! ピチュー!」

 マリオは手を伸ばし名前を叫ぶが、呼ばれた相手は振り向くこと無く奥へ向かう。

「ピカッ!」

 ピカチュウはマリオに呼び掛けた。振り向いたマリオに対し、真顔で頷く。マリオも頷き返してからピチューの後を追った。他のメンバーも吊られる様にその場から駆け出した。
 どんどん走るピチュー。軈て奇妙な色をしている岩の裏へ入り、其処から顔を出すと大きな声を上げた。マリオ達は嫌な予感を覚え、急いで岩の裏を見た。

「あ!」

 マリオは思わず声を上げてしまった。
 ピチューに心配そうな表情で声を掛けられているのは、オレンジ色をした機械の様なスーツを身に纏っている人物である。到る部分に皹が入っていて、本人自身は全く動かない。
 その姿には、マーシスを除いた全員に心当たりがあった。

「サムス!!」

 それは宇宙の女戦士、サムスであった。今の外見はロボットに見えるが、中身は生身の人間である。
 マリオはサムスの側で膝を付き、彼女の状態を急いで診る。暫くした後も、彼は険しい表情を全員に向けた。

「瀕死の状態だ。急いで手当てしないと間に合わなくなる! ネスっ」
「うん!」
「でも何処で手当てしたら? 此処じゃ確実に危険だと思うよ!」

 カービィは慌てながら言う。

「この辺にはサムスの船も見当たらない……ファルコンフライヤーを呼ぼう」

 C・ファルコンは首をあちこち動かしてから、手首に付けた装置を動かす。

「?」

 ネスがPSIで出来る限りの応急処置をしている間、マリオはサムスの体のある部分を見て思わず眉を潜めた。

(何だ、これ?)

 サムスに、少量だが、何やら粘度の高そうな液体がこびり付いていた。

(……考えすぎかな)

 マリオは首を傾げるも大した事は恐らく無いだろうと、ポケットから取り出したハンカチでそれを拭き取った。

「マリオ」
「おう!」

 マリオ達は、サムスをファルコンフライヤーまで運んだ。




「う……」

 ボロボロの機械スーツを脱がされ、ゼロスーツ状態の中、包帯を巻かれている最中にサムスは意識を取り戻した。重い瞼をゆっくりと開いて行くと、最初に目に映したのは、治療中のマリオである。

「……マリオ……?」
「あ。サムス! 気が付いたんだね?」

 マリオの声が全員に聞こえ、全員おおっと声を上げた。

「もう手遅れかと心配しましたよ」

 安堵を露にした表情でリンクは息を吐いた。

「無事で良かった」

 C・ファルコンも笑顔でホッとしていた。
 ファンシーズもサムスの周りに集まる。
 サムスは未だに状況が掴めなかった。マリオやネスの力を借りてゆっくりと体を起こし、彼等を見回す。

「どうしてマリオ達が此処に?」
「それは後で説明するよ……それよりサムス、何であんなとこで倒れてたんだ?」
「凄い怪我してたんだよ!」

 マリオの後に、彼の目の前でカービィがピョンピョン跳ねる。
 サムスは前を向くも誰とも目線が合わず、何処かを見ながら口を開いた。

「そうだ。私はあの時、メトロイドの破壊の為に、この星へ来たんだ」
「メトロイド?」
「生物の生体エネルギーを吸い尽す生命体だ」

 オウム返ししたマリオにサムスが答えた。

「しかしその任務中に、私は迂濶にも背後を生き残りの敵に許してしまった。そして……」
「襲われ、何とか退却するも、意識を失った」

 サムスはその声に肩を上げ、其所へ素早く顔を向けた。マリオ達も振り向く。サムスの言葉を割り込んで繋げたのは、壁に背を預けて腕を組んでいるスネークだった。スネークは彼女に目線を向け、フッと微笑する。

「そんなとこかな、お嬢さん……いや、サムス・アラン」
「ス、スネーク!! なぜ貴様まで……うっ……!」
「あ! まだ動いちゃ駄目だよ!」

 サムスがその場で後退りすると、身体中の傷に響いてしまい、顔を引き攣らせうつ向かせた。マリオ達に心配されるも、サムスは顔を上げてはスネークを憎悪含んだ眼で睨み上げていた。スネークはやれやれと溜め息をつく。サムスは、様々な血の匂いを持つ彼に、勝手ながら憎悪を抱いてしまっているのである。

「サムス、まだ安静にしていろ」

 C・ファルコンが前に出るとサムスを再び寝かす。

「ファルコン……」

 サムスは少し安心して彼を見ていた。

「サムス、彼の言った事は……」
「……ああ、その通りだ。私も少々迂闊だった様だ……そう言えば、マリオ達は……」
「あ、そうそう。僕達が此処に来たのも、欠片を集める為なんだよ」

 そしてマリオは事情を全て話した。

「なるほど。だから欠片は次なる場所──即ちここへマリオ達を導いたと言う事か」
「欠片の場所は詳しくはまだ解らない。けれどこの世界の何処かに有る事は確かだ」
「……スマッシュ王の宝玉を元に戻す為ならば……」

 言葉を濁すと、サムスは今度は自ら体を起こした。マリオ達は静かに驚くも慌てる者は一人もいなかった。

「私も出来る限りの協力はしてやりたい。マリオ、良いだろ?」
「それは有難いけど……無理は禁物だからな?」

 少し遠慮した困った笑顔をしてしまうマリオにサムスはフフフと微笑を溢し、肩をすくめる。

「こんな傷位、直ぐに完治する。心配するな」
「でも、やっぱり心配しちゃうよ」

 ネスは悲しい目を向けて来た。

「隊長の言う通りだよ。無理はしちゃ駄目だからね」

 子供にまで言われると戸惑いを隠せずにいるサムスだが、ネスらファンシーズには母親の様な優しさで微笑み、ネスの頭に手を置く。ネスは思わず頬を熱くする。

「解った」




「ふーん? これが噂の人工生命体か」

 サムス達がいた場所よりも奥の奥。うようよと例の生命体が浮遊していて、それをにやついた眼で眺めているのはディバである。
 未知の生命体。それは海月の様な頭に牙が付いている。海月頭の中には、赤い核の様な物が幾つか入っている。
 生命体達は卵から孵化し、ディバに何故かなついていた。ディバは特に気に留めず、奴らを使い、手を組んだ『彼奴ら』と共にスマブラを抹殺しようと考えていた。
 未知の生命体は、一匹の怯えている昆虫らしき小さな怪物へ近付いてゆく。怪物は岩壁を背に近寄る生命体を体を震わせながら見る。ディバは助けるつもりも無く、それどころか、その生命体の能力を見る為にジッと観察をしていた。
 生命体は怪物の体に牙で噛みついた。怪物は暴れ始め、その生命体を離そうとする。孵化したと故に小さいが、然し軈て他の生命体達もその怪物に集まってゆく。
 そして何かを吸い出し始めた。怪物は次第に体力を失い、体も無意識の内か、時折痙攣している。それでも容赦無く何かを吸い続けている生命体達。そして動かなくなった怪物はその場に倒れる。その姿は余りにも無惨。何十年もミイラ化していたが如し。
 吸い終えた生命体達が離れて行くと、ミイラになった怪物の体はボロボロと崩れて行き、風化していった。

「まだ産まれ立てだと言うのに、中々役に立つ能力だな」

 その様を眺めたディバは苦笑を溢し、顔辺りにまで上げた手には生命体が一匹寄り添う。

「ハッハ! でかしたぞ、ディバァ……!」

 ディバの前に現れたのは、手足のある翼竜の様な生物で、皮膚は紫色だ。ディバよりもかなり大きな体をしていた。

「こいつらさえいれば、サムス・アランなんぞ即お陀仏よ。これで銀河征服に一歩近付いたぜ」
「銀河征服? 欲が小さいよ、リドリー」
「……何だと?」

 呆れた笑顔で溜め息を吐き落としながら言ってやるディバに対し、リドリーと呼ばれた彼の片目が、気に入らないと言わんばかりにピクリとわななく。
 ディバは、手元から離れて行くその生命体──メトロイドを見届けてから、リドリーへ横目を向け口元を妖しく歪ませる。

「それを聞いてガッカリだね。銀河征服位で、君達スペースパイレーツに、僕達ギガ精鋭部隊が協力するとでも? 脳味噌血まみれな者同士なんだ。逸そ『全ての宇宙』を手に入れる位まで欲望を掻き立てなきゃ」

 夢を語る者の様に両手を広げ自らゾクリと鳥肌を立たせれば、その見開いた目を今度は向ける。リドリーはぼんやりと口を開けてしまっていたが、目を瞑り顔を伏せれば、クックッと喉を鳴らしながら、ディバと同じく体を笑いで揺るがす。

「お前達と手を組んだのは間違い無かった。寧ろ感謝してる。
 そうか、銀河では確かに規模が小さ過ぎる。パイレーツなら、果てしない欲望を求めなきゃなぁ!」
「そう、その意気だよ、キャプテン・リドリー」

 高らかな笑いを周囲に響かせているリドリーに滑らかな発音で静かな声の儘発した後、ディバの妖笑は、今度は先程とは色が僅かに変わっていた。




「此処は一般の者が無闇に動き回っては危険だ。だけど、マリオ達の様な鍛え抜かれた戦士なら、数日はいられる」
「数日、ねぇ」

 全員が外に出た後、顏だけ出したパワードスーツを着たサムスが第一に話した。マリオは納得する様なしない様な、妙なとこでモヤモヤ感を抱き、腰に片手を当て、片目を閉じ、鼻の頭を軽く掻いた。ファンシーズも不安を拭えず、心配な目をするばかりだ。

「心配するな。後は残されたメトロイドの掃討だけだからな」
「その後にこの星から速やかに脱出し、報告をすると言う訳か」

 マーシスが言えばサムスは彼に振り向き、首を一度縦に動かす。

「よっし、掃除ならお安いご用。メトロイドだかオモロイドだか知らないけど、どんな敵でも掛かって来いや!」

 マリオは強く拳を握り締め構え、奥の闇を睨む。他のスマメンも各々の武器やらで戦闘体勢のスタンバイを整えてから、マリオと同じに目を熱くしていた。
 サムスが駆け出せば吊られる様にマリオも駆け出す。スマメンはどんどん彼等の後に続き、一歩も退かず唯々前を見ながら走行した。

「あれだ!」

 走っている間、全てがパワードスーツに包まれたサムスがその中から叫んだ。
 奥から数匹のメトロイドが牙を向けて襲い掛かる。

「遅い!」

 そこでリンクとフォックスがメトロイドへ向かい、瞬時の内に奴らの後ろにて片膝を付いていた。メトロイドは瞬時の内に斬り裂かれ、撃ち抜かれ、消滅した。

「何だ。意外にも呆気無いな」

 余裕そうに腕を組んでいるスネークが呟く。

「こいつらはまだ産まれ立てだ……好都合だ。今の内に奴らを一掃しよう!」

 サムスが片腕からミサイルを撃ち放しながら言う。

「ただ、この辺は一人で戦うのは危険だ。なるべく固まるんだ」
「よし、了解だ! ほんじゃ行くぜ!」

 マリオ達は更に駆け出し、次々に襲い掛かるメトロイド達を消して行く。

「さっすがスマッシュブラザーズだねぇ。否、メトロイドがまだ弱いだけだな」

 天井に近い岩場から見物しているのはディバである。

「お、おおおおぉ? アイツは……アイツはにっくきサムスじゃねーかあぁ」

 彼の背後から顔を出したリドリーは、マリオ達と共に戦っているサムスを見て黄色の目を見開く。
 リドリーからの余りにも強い怨念を感じ取れば、ディバは密かに苦笑を溢した。

「アイツだけは気にくわねえ!! 『ご家族』揃って散々俺らの邪魔をしやがって!! 今直ぐ細切れにしてやりてえぜ!!」

 鼻息を荒らし興奮しながら言い放ってゆくリドリーに、ディバはククッと喉を鳴らす。

「楽しみは後に取って置いた方が良いよ。コクがより良く出るってもんだからさ……それに、苦しみながら死んで行く方がゾクゾク来ると思わない?」

 リドリーは未だに興奮しているが、ディバの今の言葉にピクリと反応すると、落ち着きを少しだけ取り戻す。

「……フン、そう言うことか」

 リドリーは考える間に無表情になっていたが、ディバの言葉を漸く理解すればニタリと口端を吊り上げ目を歪めて行く。

「俺達パイレーツは、恐怖に怯える奴らの肉を裂き、血を浴び、悲鳴を心地好く聞く、残虐な暴れんぼうだ。サムスはたっぷりと可愛がりながら八つ裂きにしてやるぜぇ」

 だらしなく唾液を垂らしながらサムスに目を細めた。

「ん?」

 サムスは彼等のいる方向を見上げた。然し其処には誰もいなく、先程までの殺気までもが消えていた。ヘルメットの奥で眉根を寄せるサムスだが、今は任務だと気持ちを切り替えた。

「?」
「……」

 C・ファルコンはサムスの様子の変化に気付き彼女を見るも、ハテナしか浮かべなかった。一方のスネークは、サムスに対し密かに目を細めた。

「うわあぁ!?」

 少し奥から子供の叫び声が響いた。紛れも無くネスの悲鳴だ。

「ネス!?」

 逸早く気付いたマリオがとっさにそちらへ向かって駆け出した。スマブラも後に続いて走り出す。

「ネス!」
「た、助けて、隊長っ……!」

 見ればネスが倒れており、彼の足を幼生メトロイドが噛みついていた。ネスは鍛え抜かれた体故に意識は正常だが、メトロイドに食い尽されるのは時間の問題だった。

「コラ、海月! ネスを離せー!」

 カービィがカッターを構えて飛び掛かり、メトロイドを難無く破壊した。

「あ、ありがとう、カービィ……」
「ネス、一人で行っちゃ駄目じゃないか!」

 マリオが後からネスのとこへ行くと叱った。

「ご、ごめん、隊長。でも、あっちから感じたんだ」
「何を?」
「メトロイドだよ。でもまだ何も力を発揮していないみたいだから、チャンスだと思ったらとっさに体が動いて……」

 それ以上何も言うこと無く、ネスは反省の意を込めた悲しい表情を静かに伏せた。
 マリオはやれやれと息を吐いたが、苦い顔で微笑するとネスの頭に手を置いた。

「ネスは昔の僕と似てるな」
「隊長?」
「ネス達は此処にいて。僕がサムスと行く。行くぞ、サムス!」
「解った」

 サムスが頷いたのを確認すると、マリオは彼女と共に奥を目指し駆け出した。

「その『昔』と今も変わらない気もするがな」

 マリオ達の背中を見ながら、何気無くスネークが呟いた。




「サムス、力を発揮してないメトロイドって言うのは……」
「恐らく、まだ孵化されていない事を意味するのだろう。そして、そいつでメトロイド全てをかたせる」
「なら、さっさと片付けよう!」

 そして二人は急ブレーキを掛けた。
 地面から生えた台座の上にある奇妙な卵を目にしたのだ。その卵は間も無く孵化しようとしていた。
 マリオ達は技を構え、何時でも準備万端だった。
 そして卵の薄い膜の様な殻が割られ、小さなメトロイドが現れた。素早く技を繰り出そうとしたマリオ達だが、それよりもそのメトロイドはマリオ達に素早く浮遊して来た。

「!」

 マリオ達はしまったと思ったが、その気持ちは一瞬の内だった。
 そのメトロイドは一切攻撃しようとはせず、どう言う訳か、サムスの回りを幾度も飛んでいるのだ。キュウッと、言ってはあれだが、何とも可愛らしい声を上げてサムスに身を擦り寄せる。その行為は、どう見てもなついているにしか見えない。

「……」
「サ、サムス……」

 サムスは武器を構えていたが、その腕は軈てスウッと下ろされる。マリオも攻撃する気が起きなくなり、力ませていた拳を緩めた。

「……これを研究所へ提出する」

 サムスは言った。

「研究所へ?」
「メトロイドの詳しい情報は未解明だからな。研究する側も喜んで引き受けるだろう……大丈夫だ、責任は私が取る」
「……責任は僕も取るよ。どうしてか、攻撃出来なかったんだもん」

 そう言っても良いのかと内心で自らを責めるマリオだが、今のそのメトロイドから攻撃する気配が全く無いとすると、此方からも攻撃する気は無い。

「皆に説明して、共にこの星を出よう」
「了解だ」

 マリオの言葉にサムスが頷くと、二人はその場を後にする。無論、そのメトロイドもサムス達の後をついて行った。










 ──to be continued──