集い








 ──サムス。

 遠くから、サムスを呼ぶ声が響く。
 とても懐かしさを抱いたサムスだが、まだ目を覚まさない。体も仰向けに倒れたままだ。起き上がれる力が上手く出ないのだ。

 ──目を覚ますのだ、サムス。
(……グレイ……ヴォイス……?)

 その言葉に、サムスは重い瞼を開いた。体を起こすと、目の前に鳥人が立っていた。
 サムスに鳥人族の遺伝子を与えた男──グレイヴォイスである。

 ──ここまでよく頑張った。
「……」

 サムスは微笑したが、すぐに無表情になると俯いた。

「けど、これで良かったのかな。私はマザーブレインを倒した代わりに、大切なものを犠牲にしてしまった……」

 暫く間を置いてから、グレイヴォイスに顔を上げた。

「これが正義なのか、間違っているのか、今の私には解らない……教えて。私、強くなった? 力も、そして……心も……」

 どちらにせよ、サムスはもっと強くなりたかった。これ以上、大切なものを失うのは嫌だった。

 ──サムスはまだ強くなる。

 しばらく無言だったグレイヴォイスの口が開かれる。

 ──そして、その失ったものが、事実がどうかは定かでは無い。
「えっ?」

 サムスは思わず声を上げた。

 ──行きなさい、サムス、仲間の元へ……。

 視界が、世界が、白くなる──。




「……ムス、サムス!」

 呼び声がしたが、それはグレイヴォイスの声ではない。しかし直ぐに解った、この声が誰なのかを。

「……マリオ?」

 名前を呟きながら、重い瞼を開いた。

「良かったぁ。気が付いたんだね、サムス!」

 ここは病室であることが解った。
 マリオは胸を撫で下ろし、それに気付いたスマブラが喜びの表情を乗せて集まった。

「サムスウゥ! 良かったよお!」
「カービィ……」

 カービィは彼女の胸に飛びつき、涙を零した。サムスは微笑し、カービィの頭を撫でた。

「もう駄目じゃないかって、心配で仕方なかったよっ」

 そう言ったフォックスにサムスはクスッと微笑んだ。
 そしてマリオに顔を向ける。

「でも、どうして?」
「……ワクチンだよ」

 腕を組んでいるマリオはそう言った。

「ワクチン?」
「実は連邦本部から出て一人にして貰っている間、ダイバンの研究所に行ってたんだ。そこで報告書を見つけてね。そして、僕が何気なくサムスから拭き取ったゼリーみたいなもの。これは危険な寄生生命体だったみたいだ。これに利くワクチンが──メトロイドのだって解ったんだよ」
「!」

 僅かに見開いたサムスに、マリオは優しい笑顔で頷いた。

「ずっと落ち込んでいると思えば、そうでは無かったんだな」

 壁に背中を預けているスネークは、その場で肩を竦めていた。

「サムス」

 病室へクリーツは入って早々、サムスへ向けて何かを投げた。サムスはそれを素早く受け取る。見てみると、緑の液体の入った小さなカプセルだ。

「それが、あのベビーちゃんのワクチンだよ」

 クリーツはウィンクをした。

「……ベビー……」

 サムスはそれを見つめながら目を閉じ、カプセルを優しく握った。

 ──ピィ……。
「!」

 サムスはどこからか鳴き声を聞き、思わず顔を上げた。

「どうしたんでしゅ、サムスしゃん?」

 プリンは目をぱちくりさせた。

(気のせい……か?)
  ──ピー。

 だが、また聞こえた。あの声を……。
 正かと、サムスはベッドから降り、病室を出て行った。

「サ、サムス!?」

 マリオ達も彼女を追いに部屋を出た。




「はあ、はあ、はあ」

 サムスは走り続けた。あの子の鳴き声が聞こえる場所を目指して、とにかく全速力で駆けていった。
 そして辿り着いたのが、以前、スマブラといた公園である。
 公園の真ん中辺りまで来ると立ち止まり、肩で息をしながら辺りを見回しつつ目を細める。だが、今度は鳴き声がいつまで経っても聞こえない。

「サムス!」

 そこへ彼等も到着した。

「どうしたんだよ、急に……」
「さっき、ここからベビーの声が聞こえたんだ」
「ベビー?」

 それを聞いたスマブラも軽く見回してみた。

「……気のせいじゃないかな?」

 マリオはサムスに首を振った。それでもサムスは諦めなかった。

「だが聞こえたんだ、はっきりとっ……」
「きっと疲れてるんですよ」

 リンクは眉をしかめながらも笑みを浮かべた。

「なら、俺も相当疲れているのか」

 不意にそう言ったのはスネークであり、マリオ達は「えっ?」と、彼に振り向いた。
 スネークはそこで、とある方向を人差し指で差し示した。その先には、一本の巨大な木と──緑色の小さな浮遊生命体。

(まさか……嘘、だろう……?)

 サムスはそれを見る。ただただ見る。夢の続きかと言う思い込みに浸っているのである。

「ピイィ」

 その生命体は、ゆっくりとこちらへやって来た。そして、彼女やマリオ達の周りを飛び回り、また、彼女の前で止まった。
 サムスは、掌サイズとなったそれを両手で包み、優しい表情になると、宝玉の欠片を手にした時の様に、ギュッと抱き締めた。

「一体これは、どう言うっ?」

 フォックスは目を皿の様にしてしまった。

「やられたと思いきや、俺達はとんだ勘違いをしていた──って事になるみたいだ」

 と、スネークは喉を鳴らした。

「そうかも知れないねっ」

 ネスは満面の笑顔になった。
 スマブラやクリーツ達も、皆笑顔になっていた。

(グレイヴォイスの言っていたこと、こう言うことだったのか……)

 サムスは抱き締めながら、夢の中に現れた、彼の言葉を思い出していた。




 あれから数日後。

「もう行かなきゃな」

 マリオは青空を見上げた。

「残念だなぁ。もう行くのかぁ」

 クリーツは頭に腕を回すと、大袈裟に溜め息をついた。

「大分体力も回復したし、いつまでもお世話になったら迷惑だしな」
「もう一日いて貰ったら、もっと都市を案内してやったのに」
「……また来たら、その時に」

 マリオが──また来れるか解らない為、密かに控え目に──そう言うと、ふてくされていたクリーツの表情に笑顔が戻った。

「ああ勿論!」
「皆には頑張って貰いたい。皆の故郷の為に」

 モークは言った。

「モーク達こそな。頑張れよ」

 C・ファルコンはモークの肩に手を置いた。モークはC・ファルコンの顔を見て頷いた。

「じゃあね、ピョンチー。元気でねっ」
「ピチッ」

 ネスは、ピョンチーをギュッと抱き締めた。

「サムス、ベビーはどうするの?」

 マリオは彼女に問うた。サムスは、側にいるベビーメトロイドを見ながら、

「ベビーをこれ以上危険な目に遭わせたくはない。だから……」
「ここに残す……って訳だね?」
「なんなら、俺に任せろっ」

 クリーツは親指を立てると片目を閉じた。サムスは最初は驚いたが、フッと笑みを零すと、首を縦に振った。

「クリーツ、頼んだ」

 ベビーは名残惜しそうにサムスから離れ、クリーツへと向かった。

「ピィッ!」

 そしてサムスに振り返ると一声発した。サムスはベビーに微笑み、一言言った。

「またね」
「よぉし! 行こうか、サムス! 次の世界へっ」
「ああ」

 サムスとマリオの手元から欠片が離れ、合体すると更に形良いものとなった。その欠片は光輝き、マリオ達を包む。

「じゃあなー!!」
「武運を祈るっ」
「ピチッ」
「ピイィ」

 彼等の言葉にマリオやサムスが手を振る。
 そして、欠片と共に消えた。




 公園の木の高い所に立つ、布に覆われた人物。その者は、消えていったマリオ達の中にとある人物がいた事を確認する。

「『マーシス・シンサー』……チャンスが巡ってきたその時に、仲間達の仇、とらせて貰う。この手で、必ずや貴様の首を……」

 その者の手が布を剥ぎ取ると、大きな体を持った何者かが姿を現すが、太陽の逆光の所為でまたもやシルエットとなり、正体を捉えられない。
 その人物は高々と跳躍し、姿を消した。




 一方、スマッシュ王国では……。

 ──マスターハンドよ。

 マスターハンドは玉座にて誰かからの声を聞いた。声の主が誰か解ると、彼はまるで慌てる様に即座に立ち上がった。

「この声はっ……」
 ──久し振りだな、マスターハンド。
 ──やっと繋がったか。どうなるかと思ったよ。

 二人の声が聞こえる。その声と、そして目の前の出来事にマスターハンドは更に驚いた。
 白の布に金の装飾を施した、神々しいフードとマント。声の主であるその二人はマントを全体に覆い、フードを深々と被っている為、姿が解らない。唯一解るのは、一人が口端を上げていて、もう一人が口を横に引いている、口元のみだ。二人共、ホログラムの様に半透明であり、向こう側が透けて見えた。
 マスターハンドは玉座から下りると二人の前で片膝をつき、腹部に手を当てお辞儀をした。

「お久しぶりで御座います」
「もうそんな堅苦しい挨拶は無しにしようよ、マスターハンド」

 口端を上げる方がそう言った。
 マスターハンドは顔を上げる。その表情は、少々暗い様子だった。

「連絡が途絶えたままだったので、もしや何か遭ったのではと……やはり……」
「我々は、ある者に寄って捕らわれの身となっている」

 無表情な雰囲気の方は言った。
 二人共誰かに捕らわれており、実際ここにはいない。自らの残りのパワーを使い、姿だけでもここに映すことが辛うじて出来たと言う。

「一刻も早く宝玉を元に戻さなければ、我々だけではなく、マリオら『ファイター』達の世界も危険に晒されてしまう」
「……承知、致しております」

 マスターハンドは表情を変えずに返事をした。予感はしていたが、案の定となってしまい、マスターハンドは悔やむ余り、腹部に当てている手で拳を作った。

「──そろそろ時間か」

 口端を上げている方は言った、今は笑顔等無いが。その言葉と同時、二人の姿はみるみる内に薄くなっていく。

「俺達の『仲間』のことも頼んだ。また来るかも知れないけど、それまでしっかり頼んだよ、マスターハンド」
「ははっ!」

 強い光が一瞬だけ放たれたと同時に、二人はその場から姿を消した。
 そして、マスターハンドは言った。

「スマッシュブラザーズにお任せを──空間神様、神官様」




 マリオ達の冒険はまだまだ続く。
 これからは益々苦しく、より厳しい戦いが待っているだろう。
 だがそれでも、マリオ達は立ち向かうであろう。どんな運命が待っていても──。










 ──第二章:了──