スマブラvs実験台──後編──








 オモチャで溢れかえる子供向けの部屋だが、今は殺伐とした空間に支配されている。
 謎の赤い液体に体を蝕まれたと思えば、きゅうきょくキマイラはそれに寄り強化された様だ。唯でさえ、巨大な牙が目立つ大きな口を持つキマイラにやられれば、間違いなくアウトだと分かり切っているのに、更に凶暴化されてしまえば、奴を止められるのはかなりの困難になるだろう。
 だがマリオ達は、苦戦を強いられるのは覚悟の上でいる。何度やられても、何としてでもこの道を突破しなければ、前へ進むことは不可能なのだ。

「僕とフォックスはそれぞれのクローン、スネークとネスは、あのキマイラを。キマイラはもう見るからに手強そうだから、もしマズくなったら僕を呼んでくれっ」

 マリオはここの部屋の相手を把握した後、その場で素早く判断し、フォックス達に言った。

「分かった、俺はガフィを相手にする!」
「蛇のおじちゃん、行こうっ」
「既に準備は完了している。いつでも良いぞ」

 フォックスはガフィを睨みつつブラスターを両手に構え、スネークはキマイラに目線を向けながら手榴弾を片手に持ち、ネスはキマイラへ光る指先を突き付け、マリオはデークを見ながら拳を握り構えた。

「ふふ。そっちも準備出来たみたいだね──これより死闘の開幕だ!!」

 デークは拳を掲げ、声を上げた。
 きゅうきょくキマイラは声を荒げた後、目の前の獲物であるマリオ達に牙を剥きながら駆けて来た。見た目は、図体が大きい割りに短足だが、それにも関わらず、思った以上の速いスピードで襲い掛かってきた。
 マリオ達は半ば慌てる様にバラバラになって駆け出し、キマイラからの攻撃を回避した。かわされたキマイラの牙がガチィンと音を立てる。
 マリオ達はそのまま、それぞれのターゲットへ攻撃の照準を合わせた。

「覚悟しろ、デーク!」
「ふん、来たな!」

 青い目と赤い目のマリオ同士の拳がぶつかり合い、辺りに衝撃波が走る。
 マリオがパンチを何度も繰り出し、デークはそれを手や腕で防御する。そして隙を狙い、下からアッパーを仕掛けようとしたが、おっとと言いながらマリオはそれを避け、

「ミドルキック!」
「ぐっ!?」

 デークの腹部目掛け蹴り技を決める。相手の腹に当たり、デークはぬいぐるみが積み重ねられている所まで吹き飛ばされ、複数のぬいぐるみが床へと崩れ落ちる。
 頭を片手で抑えながら上半身を起こしたデークは、辺りに散らばったぬいぐるみを見ると適当に拾い上げ、マリオへ投げ付ける。デークに向かって駆けてた為、マリオの顔にぬいぐるみが直撃し、マリオは思わず怯んでしまう。

「うわっぷ!」
「隙あり!」
「ぐあ!?」

 ぬいぐるみが床へ落ちた直後、マリオの頬にデークのパンチがヒットする。マリオはその勢いで吹っ飛ばされ、プレゼントの山に突っ込んでしまう。その衝撃で未開封のプレゼントが崩れ落ち、マリオの倒れている所に新たなプレゼントの山が出来上がった。

「そのままプレゼントと一緒に燃やしてやるよっ」

 デークは右手に作ったファイアボールを、マリオが埋もれているプレゼントの山へ発射した。

「こんなことで、やられて堪るかっ!」
「!?」

 ファイアボールがプレゼントに当たる直前、プレゼントの山からマリオが飛び出し、マントを翻してはファイアボールを跳ね返した。デークは一瞬動揺するが、こちらへ戻って来たファイアボールを殴り消滅させた。

「蜂の巣になれ、フォックス!」
「くっ……!」

 ガフィはフォックスに狙いを定めブラスターを撃って行く。フォックスが逃げる様に走って行くと、彼の足元を光弾が追跡する。立ち止まればダメージは確実であろう。
 だがフォックスは隙を見つけると急ブレーキを掛け、リフレクターに手を掛けた。フォックスの周りに水色のバリアが貼られると、ブラスターの光線がガフィに向けて跳ね返される。

「!」
「とりゃあっ!」

 ガフィが光線を回避した後に、フォックスは相手の頭を狙い回し蹴りを仕掛けた。ガフィは片手でガードし、自分の片足を上げれば相手のもう片足に引っかけ転倒させる。

「うおっ!?」

 フォックスは床に頭をぶつけるが、幸いにもヘルメットのお陰で軽い脳震盪で済んだ。
 だが油断すれば命取りと、何とか意識を取り戻しては、相手からのブラスター攻撃を横へ転がってかわした。

「喰らえっ」

 スネークは手榴弾の安全ピンを外すと、手榴弾をきゅうきょくキマイラの口目掛けて投げ付けた。きゅうきょくキマイラの口の中へ手榴弾は投げ込まれるが、きゅうきょくキマイラがそれを齧っては食べてしまった。

「! 爆発物は利かない様だな」
「なら動きを止めてみようっ。PKフリーズ!」

 ネスは冷気の弾を相手へ向けて放った。こちらへ駆けて来たきゅうきょくキマイラの足に当たると、何とか相手の動きを暫く止めることが出来た。

「ガウ、グゥ……!」
「今だよ、蛇のおじちゃん!」
「よし」

 スネークはロケットランチャーを構え、近距離からミサイルを発射した。ミサイルはきゅうきょくキマイラに直撃し、キマイラの声が部屋中に轟く。

「グオオォ……!」
「何とかダメージを与えたな」
「でも、油断は禁物だよっ」
「手を抜くつもりは無い。このまま一気に片を付ける」
「グアアァァァ!!」
「!!」

 きゅうきょくキマイラに攻撃を仕掛けようとしたその時、暴れるキマイラの力に寄り、足を抑えていた氷がいとも簡単に砕けてしまった。
 動きを止め、更にロケットランチャーに寄って強力なダメージを与えた筈が、見た目はまだ平然そうに見える。
 きゅうきょくキマイラは口を大きく開きながら二人へ襲い掛かり、二人は素早く身を退いた。

「これは正に『究極』レベルだな」
「ど、どうしよう……!」

 二人がそう言っている間に、きゅうきょくキマイラは通り過ぎた二人へ振り返ろうと体を動かす。
 とその時、キマイラの目に、ネス達より先にクローン達とマリオ達が映った。キマイラは目を光らせると、そっちへ素早く向かう。

「!」
「あ、キマイラ! 相手は僕達だよ!」

 ネスがそう叫んでも、相手が聞く耳等持つ筈も無く、キマイラはそっちの方へ走って行く。
 マリオとデークが戦っているとこに、奴の牙が襲い掛かろうとする。いち早く気付いたのはマリオで、相手の狙いはこちらかと後ろへ跳躍する。だが、キマイラの狙いはマリオではなく、

「なっ、うわっ!?」
「えっ?」

 なんと、マリオの敵であるデークを喰らおうとしていた。予想外な事に驚愕したデークだが、素早い反射神経でギリギリ回避した。驚いたのはマリオ始め、この部屋にいる者全員も同じだった。

「ど、どうなってるんだ? きゅうきょくキマイラは、僕達の敵の筈じゃあ……」

 キマイラを止めに入ろうとしたネスとスネークも思わず足を止めてしまう。

「蛇のおじちゃん……」
「……もしかするとだが、奴は敵と味方の判断が出来ないんじゃないのか……?」
「て、敵と味方の判断がだと……っ?」

 着地したデークは、スネークの言葉を聞きながらキマイラへ目を細めた。
 そしてその目を、ネスへと向けて行く。

「隙だらけだぞ、デーク!」
「! くっ!」

 何かを考えようとした時、デークのとこへマリオが殴り掛かろうとし、デークは今はマリオへ意識を切り換えた。
 次に目に映ったネスとスネークへ噛み付きに戻るキマイラ。二人は何とか対抗するが、相手が倒れる気配は未だに無い。

「これじゃあ埒が明かないな」
「……じゃあ、一か八か、アレを使うよ。蛇のおじちゃん、キマイラが来たら合図をお願いっ」
「アレ?」

 スネークはネスを見ると、ネスが目を綴じ、意識を集中させてる様に見えた。そして少しすると、ネスの体から虹色のオーラが現れる。

(神の切りふだ、か……)

 キマイラがこちらを睨み、唸り声を上げながら身構えている。いつ奴がこちらへ来るかも分らない為、スネークは邪魔にならない程度の近距離でネスの隣に立ち、キマイラをその場から見張る。

(……力を貸して)

 自分達を助けてくれた彼。そして、助けてくれた後に現れた欠片に寄って、授かったこの力。
 この切りふだの失敗は許されない。必ず、この力でキマイラを……そして……、

「来たぞ!」

 キマイラがこちらへ駆けて来るのを見たスネークが合図を送った。
 ネスは目を開くと、拳を握り締め、体中にエネルギーを溜めて行き、

「はああぁっ!!」

 声を上げて両手を上へと突き出した。キマイラの真上に光が集まりながら現れ、幾つもの流星がキマイラ目掛けて降り注ぐ。その時の大きな衝撃波にネスの周りのオモチャ達は吹き飛び、眩い光にスネークは目が潰れない様、腕で目を覆う。マリオ達もその時の大きな振動に驚いては一端戦いを止め、今は自分達の体勢を何とか保とうとした。

「うわあ!?」

 その時、流星は敵であるデークとガフィにも降り注いだ。
 軈てネスの切りふだが終わり、光が消え、振動も収まり、暫く静かな時間が続いていた。
 キマイラは、相手からの猛攻撃には流石に耐えられなかったか、頭に乗せてあったヒヨコと共に、若干焼け焦げた状態で横に倒れ動かなくなっていた。おまけにクローンの二人もかなりダメージを受け、デークは蹲ってしまっており、ガフィはその場で気絶してしまっていた。

「やったぁ! キマイラ達を倒したぞ!」
「くっ……」

 マリオ達が喜ぶ中、デークはネスを睨み付けていた。マリオと言う邪魔者が入った為にネスに対する思考は中断されていたが、今改めて考えていた。

(『赤い液体』に覆われたきゅうきょくキマイラが僕達を狙う筈は……クロコマイヤーの実験結果と同じ結果か。やっぱり、『あの少年』の所為で調子が悪いんだな……なら、あの少年を……)
「隊長と副隊長、加勢しよう」

 スネークは、銃器を片手に言った。
 マリオとフォックスも一端集まり、勝機を掴んだと、互い顔を見合わせてから笑んで頷くと、その場で相手に対し構えた。

「今度はこっちが有利になった。覚悟しろ!」
「……ふっ。ふふふふ……」
「! 何が可笑しいんだっ」

 突然不気味な笑い声を上げるデークに、マリオ達は疑問を持った。その時、デークはダメージを受けながらも立ち上がると、ネスに向かって素早く跳躍した。

「うぁっ!」
「! ネス!?」

 ネスは、あっという間にデークに腕で拘束されてしまった。デークは左腕で相手の首を押さえ付け、右手からは僅かな炎をちらつかせている。

「そっちが負けを認めなければ、この超能力少年の命は無いぞ」

 デークは口端を怪しく吊り上げた。

「隊長……っ」

 ネスは抵抗したくも、神の切りふだを使った為に疲労を溜めており、相手から離れる力さえ無くなっている。今の彼の運命は、マリオ達の選択で決まる事態となってしまっていた。

「さあ、どうする。降参する? それとも、この子の命を消してでも僕らと勝負する?」
「く、くそ……っ!」
(どの道、この少年には消えて貰うけどね。ふふふ……)

 企みを含んだ笑みを、デークは秘かに浮かべていた。




「PKファイヤーγ!」

 幻想的な部屋で、クマトラの声が響き渡った。クマトラの指先から燃え盛る炎の魔法が放たれる。その炎はヨクバに命中した。

「やったかっ?」
「──否、この気配、ヨクバは弱ってもいなさそうだ」

 マーシスは剣を構えながらダスターに言う。

「ヌヘヘヘ、そんな攻撃、痛くも痒くもないぞ!」
「! な……あれは……!」

 攻撃した時に発生した煙が晴れて来ると、そこには、サイコシールドを貼っているヨクバがいた。

「そんな! ヨクバもPSIを使えるの!?」

 リュカは見開いて声を上げた。それに対し、ヨクバは不気味な苦笑を零す。

「良く見ておけ。攻撃と言うのは、こうやるのだ! PKファイヤーΩ!!」

 ヨクバは片手を上げ、赤い光を出しては大きくさせる。そして片手を思い切り縦に振るうと、強烈な炎がリュカ達へ牙を向いた。

「うわあぁ!?」

 相手からの炎攻撃を喰らい、同時に発生した熱風に寄りリュカ達は吹き飛ばされる。床や壁へ叩き付けられ、体力を一気に削られてしまった。
 倒れた状態から、両腕で体を少しででも何とか起こすクマトラは、ヨクバを見上げる。

「ど、どうして、アイツなんかがPSIを……っ」
「くっ……こうなったら……」

 ダスターは他のメンバーより立ち上がるとカベホチを幾つか取り出した。その道具でヨクバを止めるつもりなのだ。
 その後にマーシスも立ち上がると、ダスターの前に立ち、剣を素早く上へと翳した。

「マーシスっ」
「分っている。ダスター殿は、その道具を手に目を閉じているのだ。リュカ殿達も!」
「は、はい!」

 リュカが返事をした後、マーシスとヨクバ以外は目を腕で覆ったり、目を強く閉じたりした。

「どんどん行くぞ! 覚悟ぉ!」

 ヨクバはボムを両手に取り出し、容赦無い追い討ちを仕掛けようとした。
 その間にマーシスは剣を上へ掲げると、剣へ光が集まる。そして振り下ろせば、目が潰れてしまう程に、辺りに光が放たれた。

「うおぉ!?」

 ヨクバはその光に目が眩み、手からボムを落としてしまう。幾つものボムがその場で連続爆発し、ヨクバは浮遊している為ダメージは少ないものの、勢いの良い爆風に寄りよろめいてしまう。

「おわわぁ……っ!?」
「今だ、ダスター殿!」
「よし!」

 ダスターは息を吸いながら両手にカベホチを構えた。そしてヨクバへ向かって投擲する。すると、ヨクバの腕に片方ずつ命中し、壁へ貼付けられた。

「なっ! 動けん……!」
「クマトラ!」
「おう!」

 リュカはクマトラは隣同士に立つと、同時に相手へ向けて指を突き付け、PSIを叫んだ。

「PKフリーズΩ!!」

 二人の超能力者から放たれた氷攻撃がヨクバに直撃した。

「ぬおああああ!?」
「手応えあった! かなりのダメージを与えた筈だ!」
「……ぐぬぬ……まだ……まだ終わっては……」

 攻撃の衝撃でカベホチが外れ、ヨクバと共に床へ落ちる。ヨクバの体のあちこちから小さな電気が漏れているが、ヨクバは、どこにしまっていたのか、バナナを片手に立ち上がった。そしてそのバナナを一本、大きく開いた口に頬張る。すると、ヨクバの体の電気が消えて行き、見る見る体力が回復して行ったのだ。

「なっ! バナナで全回復……!?」
「ヌヘヘ……俺は完全体なのだ。どんなにヤバい攻撃が来ても、無限に用意出来るバナナがあれば無敵も当然! あの方に会う前に、おまえ達はここで死ぬのだ! ヌヘヘヘヘ!」
「どうしよう……もう、どうにも出来ないの……?」

 リュカは、今にも泣きそうな表情で悩んでいた。クマトラやダスターも、このままでは幾ら攻撃しても無駄に終わると思っていた。最早、これまでか……?

「……諦めるのはまだ早い。完全体と名乗っているが、どんなに無敵と呼ばれるものだろうと、何かしら弱点はある筈だ」

 そう言ったマーシスに、リュカ達は顔を向けた。

「リュカ殿達の攻撃がヨクバに効果があったのは間違いない。となれば、ヨクバを回復させるあのバナナを何とかしなければならない」
「……確かアイツは、無限にバナナを出せるって言っていたな」

 クマトラは眉間に皺を寄せた。そしてマーシスに目を細める。

「バナナを出す装置か何かを探せとでも言うのか?」
「否、それだと時間を無駄に費やしてしまうだろう……こうなれば、『回復させるのを止める方法』を考えるしか無い」

 それを聞いたダスターは、顎を軽く擦りながら考える。

「止める方法、か……」
「そろそろ作戦会議は止めにして貰おうか」

 ヨクバは肩を竦めて言った。

「幾ら作戦を練ろうが、俺の前では無意味だがな! そろそろトドメを喰らうが良い!」

 ヨクバは両手を上へ翳すと、そこから電気の塊が生まれ、それは徐々に膨張して行く。ヨクバを何とかせねばと考える時間があまり無い。

「ヌヘヘヘ、黒こげになれ! PKサンダーΩ!!」

 ヨクバは巨大な電気の塊をマーシス達に向けて放って来た。クマトラ達は、こちらへ向かってくる巨大電流に、最早これまでかと思ってしまった。
 リュカはこの瞬間、ドラゴやクラウスの事を思い出した。自分が未熟の所為で何も出来ず、どちらも救う事も、守る事も出来なかった。そんな自分を呪ってしまいたくなった。
 ──もうこれ以上、大好きな人達を失いたく無い。

「危ない!」

 仲間達を守りたいと言う一心が彼を動かした。彼等を庇うかの様に前に出、そして小さな両手を思い切り広げたのだ。

「盾になるつもりか。まあ良い、おまえから真っ黒くろすけにしてやる!」
「リュカ!」
「リュカ殿!」
「っ!!」

 電流攻撃が目の前まで迫る。リュカはこの先の運命も覚悟し、強く目を瞑る。そしてリュカに、PKサンダーΩが直撃した。
 ──その時、リュカの胸に付けているバッジがキラリと光った。どせいさんがピカピカにしてくれた、あのバッジである。そして、バッジはリュカに一ダメージも与えずに、PKサンダーΩをそのままヨクバへ跳ね返したのである。

「な……っ!?」

 ヨクバは驚く間もなく、自分のPKサンダーΩを思い切りくらった。最大のパワーだった為に一溜まりも無いであろう。体の大半が焦げたヨクバは、その場に蹲った。

「……あれ?」

 もう駄目だとリュカは思っていたが、自分は何とも無い事に目を丸くしてしまう。その場で体のあちこちを見るが、PKサンダーΩを受けた際の傷が一つも無い。

「リュカが、無事? 一体、どうなってるんだ?」

 クマトラ達も、リュカはやられたと思っていた為に、何が起こったのか分らなかった。

「……」

 ダスターも驚いてはいたが、リュカが命を懸けて自分達を守ってくれた事は確かだ。だから、彼の勇気を無駄にさせてはいけないと思った。
 そして、奇跡的にも考える時間が出来たお陰で、今思い出せたことがあった。正かアレをここで使うとは思わなかったが、これがあれば、マーシスの言っていた通りに『回復させるのを止められる』かも知れないと、ダスターはそれに賭ける事にした。
 PKサンダーΩを跳ね返すことは出来たが、リュカ達は安心出来ていなかった。そう、ヨクバの回復アイテムであるバナナがある。あれを止めない限り、何度やっても振り出しに戻ってしまうだろう。そして案の定、ヨクバは懐を探った後、バナナを取り出した。

「な、中々やるな……だが、何度攻撃を跳ね返そうが、それは無駄と言うものだ。このバナナで何度でも回復してやるもんねー! ヌヘ、ヌヘヘヘヘヘヘヘヘ!」

 そしてヨクバが、バナナを食そうと口を大きく開いた時だった。

「今だ!」

 ダスターが、ヨクバの口目掛けて何かを投げ付けた。それは──オソヘ城で幽霊から貰った、腐ったエクレアである。

「むぐっ!?」

 ヨクバの口の中に見事に放り込まれた腐ったエクレア。ヨクバは思わずそれを噛み、飲み込んでしまう。

「ぐおっ! な、何だこれは! ゲホッ! グホォッ!」

 ダスターの狙い通り、ヨクバは腐ったエクレアを食べてしまった為に、その場で咳き込み悶えていた。仮に落ち着いたとしても、暫くはバナナなど口に入らないだろう。

「まさか、あのエクレアがこんなとこで役に立つとはな」

 クマトラは驚きながらも、口は笑んでいた。その表情でダスターに振り向くと、ダスターもニッと笑み、一度首を縦に振った。
 そしてダスターはリュカに言った。

「さあリュカ、今の内に、奴に止めをさすんだ!」
「! うん!」

 リュカは頷き、ダスター達の前に立った。そして目を閉じ、意識を集中させる。リュカの体から黄色い優しい光が溢れ出る。

 ──大好きな島、大好きな人達。皆の為に……僕は、もっと強くなりたい……!
「PKぇ……LOVEΩ!!」

 リュカは片手を素早く上げ、PK技を試みた。リュカの特別な技をフルパワーにし、ヨクバに向けて繰り出したのだ。

「ぐあああああぁぁぁぁ……っ!!」

 バナナで回復出来ずに心身共にダメージを受けた状態で、更なる大ダメージを受けたヨクバ。断末魔を上げながら、体中のあちこちから、メカが壊れたことに寄り電流がバチバチと走る。そしてその場で自爆し、真っ黒焦げになりその場に倒れた。

「やったな、リュカ!」
「皆のお陰だよ、ありがとうっ」
「リュカの勇気が、俺達にも勇気を分けてくれたんだ。感謝したいのはこっちだ」

 クマトラと片手でハイタッチをした後、ダスターにそう言われ、リュカは頭に手を置き照れ臭く微笑んだ。マーシスは、そんなリュカにフッと笑った。

「ヌヘヘ……」

 しかし、喜んでいるのも束の間。倒した筈のヨクバから不気味な笑い声を微かに聞き、リュカ達は驚いて振り向いた。
 破壊された機械の如くボロボロな状態のヨクバだが、顔だけを辛うじてリュカ達に上げると、再度怪しげな笑みを描く。

「所詮、俺達は、キングさまのオモチャに過ぎ無い……俺は、ボロボロになったオモチャとして排除されるだろう……憎きリュカ達もキングさまにボロボロにされ、捨てられてしまえば良いのだ。ヌヘ、ヌヘヘヘ、ヘ……」

 笑い声を残し顔が床へ再び落ちる。ヨクバはそれきり動く事は無かった。

(完全体と言っていたが、ヨクバも結局は、実験台の一つに過ぎなかったのだろう……)

 マーシスは哀れんだ表情でヨクバを見ていた。

「ん?」

 ヨクバの側にコロリと転がる小さな何かを見た。それに近付き、それを拾い上げる。それを見ると、マーシスは驚きの声を静かに上げた。

「どうしたの、マーシスさん?」
「リュカ殿、クマトラ殿、ダスター殿、これを見るが良い。何処かで見覚えがないか?」

 マーシスがリュカ達に見せた物。それは、口紅と髭剃りだった。色は違えど、形はそう、イオニアが愛用していたものと同じだった。それを見て、リュカ達は直ぐに察した。

「もしかして……」
「信じ難い事だが、イオニア殿の言っていた裏切りのマジプシーは、ヨクバの事だったのだろう」
「ヨクバ……」

 この部屋は、イオニアの部屋の雰囲気と似ていた為、始めはまさかとは思っていた。だが彼の落し物で、今、ハッキリした訳である。マジプシー故に、PSIが使えたのも納得が行く。
 リュカ達はただ静かに、倒れているヨクバを見つめていた。




 デークとマリオ達が睨みあっている間、彼らに恐ろしい事態が忍び寄ろうとしていた。
 倒れているきゅうきょくキマイラから少し離れた場所で倒れているヒヨコ。キマイラの頭の上に乗っていたものだ。ヒヨコは立ち上がると、小さな羽をパタパタさせながら、キマイラの背中のボタンに降り立つ。ボタンがカチリと押されると、キマイラの目がギラリと光った。

「汚いぞ、デーク!」
「何とでも言え。どの道マリオ達が降参しないと、この少年は死ぬ事になる」

 デークは抑えている腕に力を込め、ネスの首を更に締め上げた。ネスは苦しさの余り顔を苦痛に歪ませる。

「や、やめろ!」
「じゃあ、降参する?」
「っ……」

 相手のやり方に腹立だしい事この上無いが、一刻も早く決断を下さねば、ネスの命が危ない。ここは矢張り、降参する以外に無いのだろうか。
 そう思ったマリオを、スネークは軽く睨みながら口を開いた。

「隊長、奴の思う壺だ。降参したとこで、ネスを解放すると思うか?」
「でも、このままじゃネスが……」

 だがそんな時、デークとネスの背後に巨大な影が現れた。マリオ達は思わずそちらに目を向けると、倒した筈なのにと驚愕してしまっている。
 デークがマリオ達が自分から目線をずらしているのが気になったその時、背後から恐怖の怪物の雄叫びが襲った。空間がビリビリする程の咆哮にデークは嫌な予感を覚えると、恐る恐る振り返った。

「グアアアオオオオ!!」
「う、うあああ!?」

 キマイラは、目の前のデークとネスに向かって思い切り体当たりをかました。デーク達は呆気なく吹っ飛ばされ、デークは壁に背中と頭を思い切りぶつけると、その場で気を失ってしまった。
 そしてネスは、体当たりされたことに寄り宙を舞ってしまう。空中では避ける事も出来ず、おまけに今の時点では力も出ない。そしてキマイラの目が──ネスを捉えた。

「! やめ……」

 マリオが止めに入ろうとしたが、それはもう遅かった。

「た、隊長……っ」

 助けて、とネスは手を伸ばすがそれも空しく、そのままきゅうきょくキマイラの大きな口の中へ落ちて行き、そして──キマイラに呑み込まれた。

「ネスウウウゥゥゥゥーッ!!」










 ──to be continued──