悪しき心








「う、嘘だっ! ネスが、ネスが……っ!!」
「落ち着くんだ、マリオ! 怒りに任せても敵わない相手だ!」

 ネスを食べられた事に我を忘れ、きゅうきょくキマイラに突進しようとしたマリオを、フォックスとスネークが何とか抑える。マリオの気持ちは、二人にも痛い程分かっていた。特にフォックスは、マリオと同じく取り乱してしまいそうだった。
 だが、ネスの神の切りふだを使っても復活してしまう相手だ。そんなキマイラを何とかする別の方法を見付けない限り、手当たり次第攻撃しても何もならない。だからこそ、フォックスとスネークは、仲間を失った事に辛くとも冷静にならなければならなかった。幸いと言うべきかは分からないが、怒りを爆発させているマリオを見て、両者共逆に冷静になる事が出来ていた。
 きゅうきょくキマイラは、ネスを呑み込んだ後に舌なめずりをし、次の獲物であるマリオ達を目に捉えた。

(ネス……っ)

 マリオとフォックスは、何でも願いが叶う神様がいれば、例えお伽話でも縋りたい気持ちだった。スネークも、密かに握り拳を震わせていた。可能性が零に近くとも、マリオやフォックスはネスの死を認めたくないが為に、無事である以外信じることはしなかった。




 意識が徐々に戻って来た時は、自分は気付けば目を閉じていた為、瞼を痙攣させながら少しずつ開けて行った。
 ネスが彷徨っているのは、無音な闇の世界だ。地に足が付いていない感覚。まるで無重力の様に浮遊している状態だ。瞼は開いているが、意識は未だに眠っている気分で、それは夢を見ている感覚だった。
 暫くボーっとしていたネスだが、段々と記憶が戻ってきた。自分の身に何が起こったのかをも思い出して来る。

(そうだ。確か僕、きゅうきょくキマイラに……)

 力強く体当たりされた事で空中に放り出され、きゅうきょくキマイラの口の中へ入って行き──そして気付けばここにいた。その事を思い出した後、ここは死後の世界なのかと思い始めて来た。あんな凶暴なキマイラに食べられて、生きれる筈が無い。自分は死んでしまったのだろうと、心に『諦め』と言う言葉が刻まれ、それは膨らんでいった。フッと目を閉じ、出会ってきた仲間達や家族を思い浮かべていく。

 ──隊長、蛇のおじちゃん、狐のお兄ちゃん、皆……いつもわがままばかり言って、迷惑掛けちゃってご免ね。皆と一緒にまだ戦いたかったけど、僕はもう終わっちゃった……悔しいけど、寂しいけど、もう皆のとこに戻れないよね。
 リュカ……君の世界を救う為にここまで来たのに、ダメな先輩でご免ね。あんなに沢山泣いてたのに、最後まで力になれなくて……。
 ポーラ、ジェフ、プー、トレーシー、パパに、ママ……死ぬ前に、皆の所に帰りたかった。でも、もう帰れないみたい。今更ホームシックかな。ママ達に、また会いたかったなぁ。

 心で言葉が涙の様に零れていく。
 悲しみと諦めに心を支配されたネスは、ここの空間が次第に心地良く感じ始め、このまま永い眠りにつこうかと思い始めた。

「ぽえーん」

 と、その時、ネスのリュックの中からどせいさんが顔を出した。どせいさんの声に、ネスは意識をハッキリさせた。

「え。どせいさん?」
「ねすさん、ここはしごのせかいかとおもっているでしょうが、おそらくちがいます」
「えっ?」

 そう言われてネスは、辺りをキョロキョロと見回してみる。どこを見ても、黒で塗り潰された様な闇の世界。おまけに自分達の会話以外は全くの無音だ。

「ねすさんはたしかにきまいらにたべられましたが、まだしんではいません。きまいらをおおった、あのあかいえきたいを、おぼえていますか?」
「赤い液体……」

 ネスは、あの赤い液体を見る度に感じていた。聞き覚えのある声が、あそこから心に聞こえたのだ。そしてとても苦しそうで、助けを求めている声……。
 エンパイアビルの中にある子供部屋のメンバーを選んだのは、恐らくあの赤い液体だ。そのメンバーは、嘗てギーグと戦った時にいたメンバーと全く同じなのだ。そしてそこには、ネスの仲間であるポーラ達もいて──そして更にもう一人。
 あの子は死んだのではなく、ディバ達の手に戻っていて、そして様々な実験の為に液体化されたのだと、ネスは確信していた。

「おそらくここは、そのあかいえきたいのいしきのなかです。いしきをしゅうちゅうさせれば、きこえてくるはずです、『かれ』のこえが」
「彼……」

 ネスは言われた通りに目を閉じ、意識を集中させる。

 ──ス……。

 心への声が微かに聞こえた。ネスは一瞬驚き、意識を更に集中させた。

 ──ネ、ス……。
(その声は……『ラフィット』?)
 ──来て、くれたの……?
(やっぱり、あの赤い液体の正体は、ラフィットだったんだねっ?)

 それよりもネスは、彼が生きていた事に、嬉しさの余り目頭を熱くさせる。だが、今は何とか堪えつつ話を続ける。
 自分はキマイラに呑みこまれた後だが、今、自分に出来る事をやり遂げたい。

(ラフィット、僕がいるから、もう大丈夫だよ。今助けに行くから)
 ──ネス……。
(大丈夫だから。だから、ラフィットも頑張って……)
 ──ネス……来ちゃダメ……。
(え?)
「ねすさん!」
「!」

 どせいさんに突如名前を呼ばれ、ネスは目を開いた。
 目の前に暗闇は無く、代わりに現れたのは、赤と黒が絵の具でかき混ぜられた様な光景。これは、夢の中で見た光景だと、ネスは思い出した。
 そして、その奇妙な背景に絡まれ、張り付け状態となっている少年がいた。ネスと同じ容姿、そう──紛れも無く彼だ。

「ラフィット!!」

 ネスは見開くと、彼の前まで駆けて行った。
 意識の中のラフィットは、ネスの声を聞いても目を覚ます気配が無い。近付いてって漸く分ったが、衰弱しているのか、彼の体が僅かに透けていて、向こうの赤黒い景色が微かに見えた。この姿は、ジェフの時と似ていた。そしてネスは思ったのだ、このままでは──ラフィットの命が危ない。

「ねすさん、ちょっとまつです」

 ネスが更に近付こうとした時、どせいさんがネスの肩を数回ジャンプした。

「どせいさん、今はそんな時間が……!」
「……」

 ネスは焦る様な声音でどせいさんに振り向いた。
 一方のどせいさんは何も言わずに、ただラフィットの方を見ている。ネスも釣られる様に、彼へと向き直した。ラフィットの体から黒い影が現れる。それは、彼と同じ形をしていた。それが三体現れ、押さえ付ける様にラフィットの体に触れ、赤黒い景色の中へ更に埋めようとしていた。ラフィットは気を失っているのか、集団で何をされても無反応だ。

「何アレ……っ?」
「……らふぃっとさんのわるいこころ、かもしれません。ぎがぐんのてにもどっているため、らふぃっとさんはせんのうしなおされてるのでしょう──もし、かんぜんにわるいこころになってしまったら……」

 ネスはそこまで聞いて、一気に悪い予感がした。ラフィットがこのまま悪しき心に呑み込まれたら、もう二度と、あの頃のラフィットが戻って来ない気がしてならなかった。

「そうはさせない!!」

 ネスはバットを引っ張り出すと、黒い影達へ向かってジャンプした。黒い影はラフィットを埋めるのを中断し、唯一黒以外の色を持つ──赤い目をネスへギョロリと向けた。そしてそれぞれバット、ヨーヨー、PSIを構え、一斉に向かって来た。
 ネスは一人一人の動きを見切っていく。相手が振り下ろして来たバットをバットで交わし、相手を一度押し退けると、バットで腹部を狙い突きを繰り出した。バットは簡単に相手の腹部を貫通し、そして影は消滅した。
 次はヨーヨーを投げて来る相手を見る。下へ向かって来たヨーヨーを跳躍で回避し、ネスもヨーヨーで応戦しようとしたが、キマイラに食べられた際に壊されたか、自分のヨーヨーが粉々に砕けた状態となっていた。

「……!」

 ならばと、相手のヨーヨーを踏むと糸を下からバットで引っかけ上へと引っ張る。すると影がこちらへ引き寄せられた為、ネスはバットでフルスイングした。見事にヒットし、影は飛び散った。
 最後の影は、PSI攻撃をしてきた。声は発していないが、小さな火を指先から出して来た為、ネスはそのPSIを把握すると素早く横へ移動した。彼がいた所に巨大な火柱が上がる。ネスは相手との間合いを一気に詰めると、PKサンダーの電流を浴びながら体当たりを仕掛けた。影は感電し、焦げたのか、その場でボロボロと崩れ落ちた。
 しかし、黒い影を三体倒したが、ラフィットの体から黒い影がまたもや複数現れ、ラフィットを再び埋めようとしていた。

「また……これじゃキリが無いし間に合わない……!」

 ネスはそう言うが諦めたく無かった。ラフィットが助けを求めている。自分の身に何があろうと、何としてでも彼を救い出したい。その気持ちは変わらなかった。
 しかし、先程と同じ様にバットやPSIで倒したが、またもや新しい影が複数か現れたのだ。
 良く見ると、現れた黒い影の手にはヨーヨーがあり、バットやPSIを使う影は、ネスが最初に倒した以降現れていない。ネスはその影を相手と同じやり方で倒したが、ヨーヨーは壊れてしまった為に別の方法で倒した。そして、その影だけが復活している。あの影を倒すには、ヨーヨーで対抗するしか無いのかも知れない。
 ネスは再度自分のヨーヨーを見た。見事粉々に砕かれており、どう考えても使えそうに無い。

「……っ、どうしたら良いんだよ……!」

 悔しい余り、ネスは、掌から血を流す程にヨーヨーを握り締めた。
 そこでふと、手から滴る自分の赤い血が目に入った。そして、Dr.スチュワートから貰った赤い液体の事を思い出した。クローンの洗脳を中和する効果があると言われている。

「そうだ、あの赤い液体を使えば……!」

 ネスは、ポケットから赤い液体の入った小瓶を取り出した。
 黒い影はそれを見て身の危険を感じたのか、その場で複数の影と合体し、何と巨大化したのだ。大きな手がラフィットを覆い、善き心を悪しき心で早めに蝕もうとしていた。

「ラフィットを離せ!」

 ネスはその小瓶を黒い影へ向けて投げようとした。
 その時、黒い影の口から黒い液体が吐き出され、ネスに襲い掛かった。

「うわっ!?」

 ネスは液体に捕まってしまうと、小瓶を手放してしまい、小瓶は遠くまで転がって行ってしまった。捕らえた黒い液体は粘着質があり、彼を地面へうつ伏せ状態で貼り付けている。辛うじて両手は動き、ネスは小瓶に手を伸ばすも、遠距離である為に全く届かない。しかもこの液体に覆われていると、次第に力を失って行く感覚に襲われた。PSIのパワーを吸い取られているのだ。

「そんなっ。あの液体を使わなきゃ、ラフィットが……!」
「ぷー」

 液体攻撃を避けていたどせいさんが小瓶へ走って向かう。そして小瓶を鼻の上に乗せ、ネスの代わりになろうとしたが──どせいさんもとうとう黒い液体に捕まり、小瓶を落としてしまった。捕まったどせいさんの足がその場でじたばたしている。

「どせいさん!」

 どせいさんのお陰で小瓶はこちらへ近付いてきたが、まだネスの伸ばした手では届かない。ヨーヨーなら何とか届く距離だと言うのに、こんな時にヨーヨーが壊れていなければと、酷く後悔してしまう。
 こうしてる間にも、ラフィットの体が段々と消えて行ってしまう。だがネスは、そんな彼を見守るしか出来ず、彼に手を伸ばしながら、涙を流し始める。

「っ……ラフィットォ……!」
(どんなに頑張っても、僕に彼を守る事は出来無いってことなの? ごめん。本当にごめんね、ラフィット……っ)

 ネスは伸ばした手を拳に変え、自分の無力さに悲しくなりながら地面を思い切り叩いた後、声を上げて泣き出した。




 マリオ達はキマイラの攻撃を避けながらそれぞれ攻撃を仕掛けるが、今のキマイラは傷跡一つ付かない。

「! さっきより大分鉄壁になっているぞっ! パワーも桁外れだ!」

 フォックスはヘルメットに付いているモノクルでキマイラを分析し、攻撃力と防御力を数値化した。すると、攻撃力と防御力が、最初の頃より数倍も跳ね上がっている事が分かり、フォックスは見開いてしまう。

「超能力少年を食べたことでパワーアップでもしたか?」

 片膝を付きながらスネークはそう言ってみるが、フォックスは首を横に振る事で否定した。

「否、キマイラを覆った赤い液体のエネルギーが拡大してるんだ」
「一体、キマイラの中で何が起こってるんだ?」

 マリオはフォックスに振り向いた。

「分からない。もしかしたら、ネスが中で何かと戦っているのかも……」
「……」

 フォックスは自信なさげに言葉を放ったが、ネスを信じているが為に言った言葉である。マリオ達もそれは分かりきっていた。ネスが、きっとキマイラの中で何かしようとしているんだと。

「なら、こっちも頑張らなきゃなっ! ってうわっ!?」

 一時取り乱していたマリオだが、今は先程より大分冷静さが戻っていた。
 その場で気合を入れ直したが、直後にキマイラがこちらへ牙を向いて来た為、慌てて緊急回避した。
 マリオが避けた事で、部屋の物達の中で唯一大事に飾られている物を覆ったガラスが、割れた音と共に砕けた。そのままガラスの中の物が、キマイラの口の中へと吸い込まれて行った。




 ──コオォン……。
 俯いているネスの直ぐ傍から、何か硬い物が落ちてきた音が聞こえた。素早く顔を上げると、自分の言葉が天に届いたか、そこには、散らばるガラスの破片の中に、ヨーヨーがあったのだ。

(! これって……)

 ネスは、そのヨーヨーに見覚えがあった。自分が今よりまだまだ幼かった頃、自分の友達にあげたものと同じなのだ。格好良い黒いマークの入った黄色いヨーヨー。何年も前のだからか、多少の汚れが目立つ。
 なぜそれがここに落ちてきたのかは分からないが、今は考えている暇は無い。この奇跡を、決して無駄にしてはいけないのだ。ネスはヨーヨーを取ると、小瓶に向かって素早く投げる。器用にも小瓶に当たり、小瓶はネスの手に渡った。液体に押さえ付けられつつも出来るだけ体を起こし、小瓶を持つ手に力を込め、黒い影目掛けて思い切り投げ付けた。

「いっけえぇ!」

 小瓶は回転しながら宙を舞い、影に当たると小さく割れた。中の赤い液体を、巨大な黒い影に浴びせる。すると黒い影が、辺りの空間に轟く程の呻き声を上げた。体中が泡になって行き、消えるのを繰り返しながら、影は小さくなって行き、やがて跡形も無く消滅した。クローン特有の悪しき心が、消え去る瞬間だった。
 ラフィットを貼り付けていた物や、ネスやどせいさんを覆う黒い液体が消えて行く。ラフィットは解放され、地面にドサリと倒れ込んだ。

(ま……間に合った……良かっ……た……)

 ネスは、彼が解放されたのを確かに見ると安心感に満ち、涙を滲ませ心からの笑顔になった後、液体に力を奪われていたからか、ヨーヨーを握ったまま気を失った。気を失っていても、彼の表情は微笑んでいた。
 どせいさんは立ち上がり、ネスの傍まで歩み寄った。
 そして、もう一人も歩み寄り、どせいさんは彼を見上げた。




 スネークは立ち止まった。
 自分の心に、別の者の声が聞こえた。さっきまでずっと聞いていた仲間の声色だが、少し懐かしい呼び方をしていた。

(……死んでいなかったんだな)

 その声の主を把握すると、スネークは密かに口端を上げた。

「隊長」
「どうした、スネークっ?」
「ここは俺に任せろ。隊長達は隠れてるんだ、なるべくキマイラの視界に入らない様にな。それと、吹き飛ばされない様に何かにしがみついてるんだ」
「? ああ、分かったっ」

 マリオ達は、スネークに何か考えがあるのかも知れないと、素直に聞き入れる事にした。二人が素早くキマイラの視界から外れると、代わりにスネークがキマイラの目の前に現れた。キマイラは視界に入った獲物を目に映すと、大口で喰らおうと駆け出す。
 スネークは奴が来る前に、キマイラがあちこちの壁にぶつかった跡を見回す、その中で最もダメージが大きい跡を見つけると、キマイラを連れてそこに向かった。壁に背中を付け、キマイラが目の前まで近付くまでその場から見守る。タイミングが少しでもずれれば、自分も巻き込まれるだろう。

「スネーク!」

 ガラスがあった台に手を付けながらマリオ達は彼を見守っていたが、流石に心配になり、声を上げた。
 キマイラがジャンプし、スネークに牙を向ける。そして攻撃が当たるギリギリの所で、スネークは横へ素早く転がった。まさに間一髪。そしてキマイラが壁に当たると、壁が崩壊され、キマイラはビルの外へと飛び出した。

「うおっ!」
「く……!」

 八十階である為に、部屋内と外の気圧差に寄り突風が発生する。スネーク達も外へ放り出されない様、台や柱等にしがみつき、何とか踏ん張った。
 壁を突き破り落ちていくキマイラから、少年の声が聞こえた。

「PKサンダー!!」

 その声が発されると同時に、落ちていくキマイラの口から、電気の大きな塊が飛び出した。ビルの部屋の中に入ると、電気が解放され、そこに二人の少年と小さな生き物が現れた。

「……!!」

 マリオ、フォックスは見開き、スネークは逆に目を細めていた。
 気を失っているネスを抱え、肩にどせいさんを乗せた、赤い目を持つネスのクローン──ラフィットがそこにいた。

「ラフィット……っ!」
「生きていたのか!」

 マジカントで彼の本当の心を見た事と、ギーグと戦っていた時に一緒だった為に、マリオ達はラフィットの事を良く知っていた。彼等以外のメンバーだったら、恐らくラフィットの存在に驚いてしまうだろう。
 マリオ達は彼が生きていたことに、心から喜んでいた。
 ラフィットはマリオ達に微笑みで返事をした後、床へネスを横にした。

「キマイラを外へ誘き出したのは、そうする様ラフィットが俺の心に話し掛けたからだ」
(俺を『蛇のおじちゃん』では無く、『スネーク』と呼ぶのは、ラフィットの方だからな)
「そうだったのか」

 スネークがそう言い、マリオ達は納得した。
 デークに僅かながらも意識が戻ると、スマブラ側にいるラフィットの姿を見た。

(ラフィット……この、裏切り者め……っ)

 ラフィットから悪しき心を全く感じなくなったと分かると、デークは喋る気力が無くなっている代わりに心で怒りの言葉をぶつけた。そして側に倒れているガフィの服を掴むと、二人揃ってその場から消えた。

「ん……」

 ライフアップを掛けられ、体が楽になってくる。
 目元が一瞬だけ震えた後、漸くネスに意識が戻った。目を覚ますと、こちらを心配そうに覗き込んで来るマリオ達がいた。

「隊長……?」
「ネス、気がついたんだなっ」
「あれ? 僕は確か……」
「キマイラに喰われたが、それから脱出出来たんだ。良かった、ネス、生きてて……っ!」
「! 狐のお兄ちゃん……」

 フォックスは彼が無事であることを再確認すると、僅かに涙を滲ませそうにしながらネスを強く抱き締めた。ネスは少しだけ驚いたが、彼等とまた会えたことに心から嬉しいのは事実。そのあまり溢れそうになる涙を堪えながら、フォックスの体温を感じていた。

「『彼』も助けられたからね」
「え?」

 そう言うマリオにネスは顔を向けると、マリオはネスに笑顔を見せてから、その『彼』に振り返った。マリオの目線を追い、ネスが見たのは……、

「──っ!」

 フォックスは気持ちを察すると、ネスから離れた。
 ネスは『彼』を見ながら立ち上がると、彼の前まで歩み寄った。

「ネス……」
「……」
「……ネスがいなかったら、僕は間違いなく、悪しき心を持った僕に生まれ変わってた……僕自身を──僕の心を、助けてくれて、えっと……ありがとう」
「……」

 ネスは笑顔の中、涙を一粒零した後、彼を優しく抱擁した。

「お帰り、ラフィット」
「……うん」

 心から嬉しそうに微笑みながら抱き締め合うネスとラフィットを、マリオ達は優しい目で見守っていた。

「確かに、ラフィットからは邪悪なデータが無くなっている。もう大丈夫だろう」

 フォックスはラフィットをその場で解析して言った。

「……あ。そうだ。コレ……」

 ネスはラフィットから離れた後、自分の右手にヨーヨーを持っていることに気がついた。

「キマイラの中にいた時、このヨーヨーが突然落ちてきたんだよ」
「それってもしかして……」

 心当たりがあるらしいマリオに、ネス達は顔を向けた。

「あそこに飾られていた奴じゃないか? 僕が避けた直後、キマイラがあのガラスの中の物を食べたのを、僕は見たんだ」

 マリオが指を差した先には、破壊された後のガラスと台があった。

「一瞬だったからその時はちゃんとは見て無かったんだけど、ネスが今持っているのを見て思い出した。そのヨーヨーで間違いない」

 この部屋にある沢山のオモチャとは違い、誰にも触れさせない位に大事にしてる物に見えた事をネスは思い出す。
 ネスはそれがこのヨーヨーだったと知ると酷く驚き、動揺した。

「こ、これって一体……っ」
「え。ネス?」
「これ、僕が小さい頃、ポーキーにあげた物なんだよっ」
「なっ、何だって!?」

 そこでネスが驚いている理由を漸く理解し、マリオ達も驚愕してしまう。

 ──ポーキー、どうして……。
 ──リュカ達の世界でこんな酷い事してるのに、どうして僕のヨーヨーは大事に飾ってくれているの……?




 ──ネスは皆に愛されてて、羨ましいよ……俺なんかこんな奴さ……。




(ポーキー……君はもしかして……)




 エンパイアビルの最上階である百階の部屋で、グラスが割れる音が響いた。

「面白くない。すっごい面白くない!」

 床に、破片となったグラスと中身のジュースが広がる。
 ポーキーは用意した自分の『オモチャ』が全員負けた事と、ネスが生きていた事に非常に腹を立てていた。
 それとは逆に、ディバは密かに笑んだ後、モニターを見ながらポーキーに問うた。

「如何されますか、皇帝」
「……もう良い。さっさと針を抜いて、こんな世界を終わりにしてやるよ。勿論、ぼくは安全な場所へ避難してね」

 ポーキーはそう言った後、仮面の男に振り向く。

「針を抜きに行くんだ」

 その一言の命令に、仮面の男は無言で一礼し、その場から消えた。

「……」

 ディバは、モニターに映っているラフィットを見ていた。

(ラフィットはギガ軍から抜けるか。ギーグ戦で死んだと思いきやしぶとく生きてたし、実験用クローンからこのまま戦闘用クローンに変えようと思ってたんだけどなぁ──まあ、所詮『影虫』のサンプルだったし、どこへ行くなり好きにすると良いよ。ヒヒッ)
「皇帝、僕も針の元へ行く許可を頂きたい」
「……勝手にしろ。この世界が終われば、もうどうでも良い」

 『ゲーム』が詰まらなかったからか、ポーキーは半分投げ遣りな気分だった。許可を貰ったディバは、仮面の男と同じ仕草でポーキーに一礼した後、姿を消した。
 ポーキーはその後、暫くモニターにいるネスを見ていた。そして、ヨーヨーも睨むように見た後、心の中で呟いた。

(──さようなら、ネス)
「おバカ集団の皆さん、これより最後のゲームを始めるよ。やみのドラゴンを目覚めさせるあの針を、誰が先に抜くかのゲームをねっ」

 ポーキーが数あるモニターの前で両手を広げながら言った後、床の一部が開き、赤いボタンのある台が上がってきた。そしてポーキーは、そのボタンを押した。




「ん? ディバ隊長から、一時撤退命令が来ちゃったか」

 カービィ達と戦っていたリズが突然そう言う。

「ふふふ。じゃあね、スマブラの皆さん。この世界の終わりを共にすると良いよ!」
「あっ!」

 カービィはファイナルカッターを振るおうとしたが、リズはその言葉を放った直後にクルヴィ達と共に消え去り、ファイナルカッターは空を切るだけに終わった。

「に、逃げるだなんて卑怯だよー!」
「……ピカッ?」
「ピチュっ……」
「ん?」

 ピカチュウ達の様子にカービィはハテナを浮かべた。
 じっとしていると、どこから何かの機械が作動する音が響き始めた。




「な、何、この音?」

 リュカ達は、響き渡る機械音に警戒心を高めた。どこから何が来るか分からない為、不安が募っていく。

「……」

 マーシスはその場で身構えながら、何かを感じ取った。

(欠片が近い……いよいよか……)




「!」

 マリオ達も辺りの異変に気付いた。

「何か、嫌な予感がするな……」
「油断するなっ」
「ネス!」
「え? わっ!?」

 ラフィットはネスの腕を咄嗟に掴み、走り出してはテレポしてしまった。本来なら長距離を走る必要があるのだが、ラフィットは短距離でその技を使うことが出来た。そしてテレポした拍子に、どせいさんはネスの肩からうっかり落下してしまう。

「あ、ちょっとラフィ……」

 マリオが名前を呼ぼうとしたその時だった。
 床一面が、突然消えたのである。

「!? うわああああああ!?」

 百階を除いた全ての床が消え、マリオ達はビルの更なる地下へと真っ逆さまに落ちて行ってしまった。




「いててっ。皆、無事か?」
「何とかな。だがこの様子だと、生きているのが奇跡と言うより、死んでいる方が奇跡って感じだな」

 マリオが起き上がり、スネークは笑えるのか分らないジョークをかました。だが彼の言う通り、大分高い所から落ちて来たと言うのに、スマブラやリュカ達は無傷だった。
 改めて辺りを見回すと、先程のビルとは全く違う場所にいた事が分った。黒い地面の所々から不思議な光が放たれている、不気味だが、どこか幻想的な場所にも思えた。そしてこの場所の奥の奥から、何か巨大な力を感じた。オソヘ城の針と同じ程の巨大エネルギーにも思える。

「この場所に針が……」
「恐らく、欠片もここのどこかにある……ん?」

 マーシスは立ち上がると、ふと疑問を抱いた。

(? 欠片の気配が遠くなった……もしや、欠片は針と同じ場所にあると言う訳ではないのか……?)
「マーシス、どうした?」
「……いや、何でも無い、マリオ殿」
「リュカ、大丈夫か?」
「う、うん」

 心配そうに言葉を掛けてくれたクマトラに対し、リュカは頷きながら自分の体を起こした。
 その時、リュカの心に誰かが呼び掛けいるのを感じ、リュカはハッと顔を上げた。それは馴染み深い声で、遠くから呼ばれている気がした。まるでリュカに……、

「皆、針の場所はあっちだよ」

 リュカは、針のある方角へ指を差した。

「分るのかっ?」
「針のある場所から、誰かが僕を呼んでるんだ。皆、僕について来て」
「そうか……でも、何かが待ち受けてるのは確かだ。皆、気を引き締めて行こう!」

 マリオがそう言った後、スマブラ、そしてダスターとクマトラは、リュカの後について行く事になった。

(しかし、凄く高いところから落ちたのに、何でボク達全員無事なんだろう……)

 マリオは、何となくそんな疑問を抱きながら、皆に続きその場から去った。
 彼等がさっきまでいた場所に、赤い服を着た女性がふわりと現れた。優しい眼差しで、走って行くリュカ達の背中を見守る。

 ──リュカ……どうか、自分の心に負けず、強い子に……。

 そして、小さな光を残して消えて行った。

(そう言えば、ネスとラフィットは……)

 マリオは走りながら、どこかへテレポしていった彼等を思い出していた。始めは二人で逃げたのかと思ったが、

 ──ポーキーは僕達に任せて。

 落ちる直前に、ラフィットの言葉が心に響いていた。彼は既に善人となっている。マリオは、ポーキーの事はネス達に任せることにし、自分は針と欠片の為に戦おうと固く誓った。
 最後の針が地面に深々と刺さっている広い場所に出た。針の刺さっている部分からエネルギーが僅かに漏れている様にも見える。この針を抜いた者が、この島の運命を変える。そう思っただけで、リュカやマリオ達は戦慄いた。
 その時、針の前に立ちはだかる者が現れた。仮面の男である。そして、

「ようこそ、最後の針へ」
「ディバ……!」

 仮面の男の横に現れたディバが、笑顔を乗せながら両手を広げ、マリオ達を歓迎していた。




 百階の部屋の扉前。
 不気味な程に静かな場所へ、二人の超能力少年がテレポで現れた。

「ラフィット、一体何を……」
「ネス、君なら、分っている筈でしょ」

 ラフィットは、ネスの手にあるヨーヨーに目を向けながら言った。向けられた先を見て、ネスはハッとする。そして、そのヨーヨーを持つ手を、もう片手でそっと包んだ。

「僕のコピーされた記憶にもある。ポーキーを止めたい気持ちは、僕も同じだから」
「ラフィット……」
「さっき部屋の音を聞いて嫌な予感がしたから、チャンスは今しかないだろうって思って、ここにネスを連れて来た。マリオ達なら大丈夫。彼等は針と欠片の為に戦ってくれる。だから僕達は……」

 ネスは、ラフィットの目を真っ直ぐに見、何も言わずに頷いた。
 そして、ポーキーのいる部屋の扉を見上げた後、そっと開いていった。










 ──to be continued──