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悲哀の記憶 スマブラ、そしてディバと仮面の男が対峙する。 ディバはマリオ達を見ながら、眉根を寄せつつ、フッと鼻で笑った。 「この島の皇帝の機嫌を損ねるだなんて、君達は本当に空気読まないね?」 「皇帝?」 「偉大なる皇帝、ポーキー・ミンチ様のことだよ。彼はこの島を支配し、平和な世の中にしようとお考えだったんだ」 手の平を広げ、妖笑を口元で描きながら、ディバは語る。 「そんな素晴らしい皇帝に、僕達から沢山の『オモチャ』をプレゼントしたら喜んでくれたんだ。動くネンド人、ロボットの恐竜にライオン、鉄球を振り回すゴリラ、何でも食べるキマイラ……」 「!」 マリオはこの時察した、ギガ軍の言う『オモチャ』の事を。 ここまで向かう間、他のスマメンから聞いた、動物達を覆った『影虫』。あれは、サムスの世界でも同じものを見たと言う。そして、スネーク達が見た、研究所。エンパイアポーキービルで立ちはだかった動物達は、単なるポーキーへの贈り物では無いのだ。 「……違う、プレゼントじゃない」 頭の中でバラバラになっていた『謎』と言う名のパズルピースが、漸く完成まで近付いた。そしてギガ軍の企みが分かると、マリオは首を横に振り、ディバを思い切り睨み付けた。 「ギガ軍は実験していたんだろう、影虫と言うものを、この島の動物達を使って。それでポーキーへの贈り物と称して、実験をさせたんだ!」 「……ヒヒッ。それがどうしたって言うの?」 ディバは、マリオの考えは認めるらしいが、動揺など欠片も見せていない。寧ろ余裕に笑んでいた。 「実験台だろうと、皇帝はオモチャとして楽しんでくれてるんだよ。それの何がいけないの?」 相手が何も思っていないのは嫌でも承知しているが、それが言葉となると、マリオは握り拳を震わせ、怒り心頭に発した。 ネスとラフィットは、二人で大きな扉をゆっくりと開いていった。だが、そこには長い回廊が続いていた。凡そ五十メートル先には、再び同じ形の扉が彼等を待っている。 ネスとラフィットは一端顔を見合わせた後、回廊を歩いて行く。恐ろしい程静寂の中、響き渡るのは、彼らの靴音だけだ。 そして扉前まで来ると、ラフィットが口を開きながら、ネスから横へ一歩離れた。 「僕に残ってる記憶は所詮、ネスの記憶のコピーに過ぎない──この先は、ネス自身が決着をつけた方が良いと思う」 そう言われ、ネスは不安げにラフィットに振り向いたが、ラフィットはフッと微笑む。 「大丈夫、ネスがピンチになっても、僕がそうはさせない」 そう言ってくれたラフィットに、ネスも微笑を浮かべ、首を一度縦に揺らした。 ネスが一人で扉に両手で触れ、少しずつ力を込めていく。軋む音を立てながら、扉は重く開かれていった。 広々とした部屋の真ん中のソファに、深く腰を下ろしている男が一人いた。ギーグとの戦いの後、ネス達の世界から消えた男性──ポーキー・ミンチの姿と似ていた。 あの時の姿ではなく、髪の色は全て落ち、同じく白色の髭を持った、老人の姿となっている。故に、初めはポーキーではないと思ってしまったが、 「スマッシュブラザーズの奴らをみーんな地下へ落としたと思ったのに、随分としぶといんだね、ぶたのけつ君?」 声の色でネスはポーキー本人だと分かると、改めて彼の姿を見て驚愕した。 「ポーキー、どうしてそんな姿に……!?」 「ふん、驚いた? 驚くのも無理ないか。あちこちの時空を行き来している内に、歳の取り方がおかしくなったのかもね、頭は子供のままなのに」 ポーキーは手に頬を乗せ、説明するのも面倒臭そうに話した。 ネスは、彼が何故こんな事をしているのか、彼の心をテレパシーしようとした。だが、リュカの時とは違い、彼の心は完全に闇の中へ閉じこもっており、心を読むことが出来ない。 「それよりぶたのけつ君……じゃなかった、ネス君だったっけ? 何でこんなとこまで来たのかな? こんなぼくを笑いに来たのか?」 自分でそう言った後、ポーキーはソファに手をぶつけながら、更に声を上げた。 「そうなのか! ぼくを笑うのか!」 「違うよ、ポーキー。友達として、僕は君を止めに来たんだ」 「……ぼくを止める?」 それを聞いたポーキーは、肩を震わせた後、突然笑い出した。 「キャハハハハ! ぼくを止めるって言う意味が分からないね! 止めるのは寧ろスマッシュブラザーズって言うミジンコ集団だろ!」 「なっ……どう言うこと……!?」 「聞いたよ、ヨクバからこの島の事を。嫌なことや悪いことがあったからって、皆の記憶を封印して零からやり直す? バカバカしいったらないね! どうせまた、皆同じ過ちを繰り返す。何度やり直したって同じ事だ。だからぼくがこの島を支配すれば皆平和になる。そしてぼくは愛され、その証に、沢山の『オモチャ』をくれた。全てが上手く行っている筈だった。 なのに、君らスマッシュブラザーズの所為で、この島の平和は滅茶苦茶だ!」 「違うよ! 滅茶苦茶にしてるのは──」 ネスはそこで唐突に言葉をストップさせた。彼の話の中に出てきた『オモチャ』と言う言葉に引っ掛かったのだ。オモチャって、まさか……。 「このぼくだって言いたいのか」 言葉を止めたネスに対し、ポーキーは次に来る言葉を予想しては皮肉たっぷりに口を動かした。 「何だったら最初に君が言った様に、このぼくを止めてみると良いよ。倒してみると良いよ。森やビルにいる『オモチャ』達は君達に倒されてしまったから、それなりに楽しませてくれるんでしょ?」 「!」 オモチャと言うのは、やはりエンパイアポーキービルで戦った怪物や、リュカ達と仲良くしてたが、突如メカとなり凶暴化したドラゴのことだったのだ。そしてオモチャと称して、ポーキーに実験台を預けた。そんなことをする悪人達は、アイツ等しかいない。 だがネスは、その場で思わず声を上げた。 「ドラゴ達はオモチャ何かじゃない!!」 「ドラゴ達は実験台でも、オモチャ何かでもない!!」 マリオは思わず声を上げた。上げ無い訳にはいかなかった。 「ヒヒッ。モルモットとかだってよく実験台にされてる動物だよ? 動物に対して一々怒ってたら長生き出来ないよ?」 ディバは苦笑いを顔に描きながら言う。 それでも、マリオは怒りの表情で言い放つ、ドラゴやクラウスを思い出しながら。 「大事な友達を利用されて、悲しんでる人達がいるんだっ! そして、それで犠牲になったものもいる……ギガ軍、お前達は、絶対に許さないからな!」 「やれやれ、暑苦しい奴程煩いバカはいないね」 ディバは腕を組み、溜め息を吐いた。 そして、まるで人形の様に、何も言わずにその場に立っている仮面の男へ目線を向けた。 「その怒りで僕を吹っ飛ばしたって、この仮面の男が後ろの針を抜いたら、この世界は終焉を迎える。今更何を言ったって、叫んだって、無駄に終わるよ?」 「……なら、仮面の男を倒すまでだ! この世界が終わるのを、止めて見せる!」 マリオは、仮面の男を指差しながら言った。 「……」 リュカは仮面の男を見詰めていた。顔は仮面で隠れていて、素顔は把握出来ない。心も空っぽな状態だと思われるが、何となく自分と似た様な感じもあった。この心は、一体どこから……? 「じゃあこの子を止めて見せな──楽しませてよね?」 ディバは仮面の男の肩に手を置き、ニヤリと口端を歪めた後、その場から姿を消した。どうやらマリオ達を片付けるのは、仮面の男で充分と見たらしい。 その直後、仮面の男が速やかに両手に武器を備え、戦闘体勢に入った。マリオ達も、相手からの殺気に僅かに鳥肌を立たせたが、こちらも武器や拳を構える。 そして仮面の男が、電流を浴びながら剣を振り上げる。 「! まさか、またあの雷攻撃かっ?」 マリオ達は見開いた。それは、彼らを一瞬にして倒す程の力だったことを、オソヘ城で思い知らされた技だ。 その時、リュカがスマメン達の前に出た。 「マリオさん達に、手出しはしないで!」 「リュカっ!?」 「……」 リュカは仮面の男を真っ直ぐに睨んだ。僅かに体を震わせているが、勇気を振り絞る。 ヨクバとの戦いで、サンダー攻撃は克服したと、リュカは確信を持ったのだ。一体なぜあんなことが起こったのかは分からないが、リュカは自分自身を信じていた。 仮面の男はリュカを見詰め、そのまま剣を振り下ろし、そしてオソヘ城の時と同じく雷攻撃を浴びせようとした。リュカは強く目を閉じる。すると、リュカの胸に付けているバッジが光り、リュカに襲い掛かる雷を全て跳ね返したのだ。仮面の男は驚いたか、一歩後ずさったが、雷攻撃を全て諸に喰らい、顔を両腕で覆った。 「リュカが雷を跳ね返したっ!?」 「ぷー」 驚愕を隠せないマリオ達の元へどせいさんが向かい、そしてクマトラの肩の上に乗った。 「あれは、ふらんくりんばっじが、さんだーこうげきをはねかえしたのです」 「フランクリン、バッジ……」 それを聞いたマリオ達は、リュカが拾ったバッジを思い出した。そしてどせいさんがそれを綺麗にし、リュカへ返したのだ。そのバッジが、仮面の男の雷攻撃を全て跳ね返したのだと言う。 と、言うことは……? マリオ達は仮面の男の様子を見た。リュカも瞼をそっと開き、相手を見る。 サンダー攻撃が当たった際に発生した大量の砂埃が、次第に薄れていく。その向こうからシルエットが現れ、それは次第に色付いて行く。 仮面の男は片膝を付き俯いており、体のあちこちから小さな電気を発している。 フラフラしつつ立ち上がろうと動いた時──男の仮面には大き目の皹が入っているのが見えた。その皹が、ピシッと音を立てて増えていく。そして遂に仮面が壊れ、地面へと全て崩れ落ちたのだ。 仮面の男の素顔が、現れる。 「!?」 「なっ……」 「──え?」 スマメン達がその顔を見て動揺する。リュカも見開き、眉根を寄せた。 現れた顔は──血の様に赤い目を持った、リュカだった。否、髪の色はリュカと同じ金色なのだが、ウィッグの様に所々がオレンジの色──クラウスと同じ髪の色を持っていたのだ。 その男は無表情……と言うより、虚ろな赤い目をマリオ達に向けながら、ボロボロになっている体を震わせながらも立ち上がらせた。 「あれは、リュカなのか?」 「……いや、クラウスにも見える。一体、『どっちなんだ』?」 ダスターとクマトラは目を見張りながら言った。 「何言ってるんだ、クマトラっ。リュカならここに……」 マリオはそこで言葉を止めた。リュカは目の前にいる。しかし相手もリュカだ。だが一つ違うのは、目の色が赤いと言うこと。 (まさかアイツは……っ) 「……」 男は電気を漏らしながらも、マリオ達に向かって駆け出し、剣を再び振るう。今度は氷点下の冷気が彼等を襲った。 「うわぁっ!?」 マリオ達はPKフリーズΩを受け、地面を滑る。 「くっ! 何て力だ……っ」 仮面の男は休まず片手にPSIの光を溢れさせ、マリオ達へ向かう。そして、追い討ちとしてPK LOVEΩを容易に繰り出して来たのだ。強力な技がマリオ達に襲い掛かる。 「うわああああ!!」 ダメージを多めに蓄積され、全員、立っているのもやっとの状態だ。だがマリオは諦めず、体を震わせながらも立ち上がる。 「つ、強い……でも、ここで負ける訳にはいかないっ……!」 「マリオ、俺からの炎を受け取れ!」 「クマトラ……よっし!」 クマトラは倒れてしまっているが、何とか顔を上げ、右手を突き出す。 マリオが拳を作ると、クマトラはマリオの拳へ向けてPKファイヤーΩを放った。マリオがそれを拳で受け止めると、拳から大きな炎が上がる。 「喰らえ、仮面の男!」 マリオは相手との間合いを一気に詰めると、炎を纏ったパンチを鳩尾に向けて喰らわせた。諸に受けた男は少量の血を吐き出しながら吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。倒れてから少しして、体のあちこちから煙を出しながらも、奴は起き上がろうとしていた。 マリオはふと疑問に思った。この様な技でも、少しのダメージを与えるのでいっぱいいっぱいだと思っていた。が、相手は攻撃が強力な代わりに、体は脆く感じるのだ。手応えがあり過ぎて、逆に不気味である。 「やったー! この調子で行くでしゅよ!」 「ピッチュ!」 ポケモン達は、勝利が見えて来たとはしゃいでいる。 「……ピィ、カ?」 ピカチュウだけは、マリオの様子にハテナを浮かべていた。 「あーあ。折角成功したと思ったのに、もっと頑張って貰わないとダメじゃん、『ムーヴ』」 息を荒らしている男の横に、ディバが現れた。ディバは片眉を上げ、ムーヴと呼ばれた仮面の男を見下ろしている。 マリオ達は、彼の今の名前が気になった。 「ムーヴ……?」 「……それとも、『とっくの昔に死んでるクラウス君』、って言った方が良いかな?」 「えっ、クラウス……?」 彼が今言った名前にリュカは目を丸くした。彼が、クラウスだって? でも、彼は確か……とっくにって一体……。 ディバはムーヴと同じ高さまでしゃがむと、相手の顎を掴み、引き寄せながら冷ややかな目を向ける。ムーヴは相手の目を見ても無表情に見えるが、目には怯えの色が滲み出ているのを、リュカは見逃さなかった。 「ディバ、説明するのだ。彼が一体何者なのかを……」 マーシスは仮面の奥から相手を睨みながら言い放った。ディバは、彼から質問が来るとはと僅かに不機嫌な顔になるが、直ぐにいつもの怪しげな笑みを浮かべると、ムーヴの顎から手を離し立ち上がった。 「ヒヒッ。そう、こいつも実験台……『オモチャ』の一つだよ。見れば分かる通り、二人の人間を一つに合わせたものだ」 「何だと……!?」 「但し、それぞれ全く異なる者と合成させても、それは実験の意味にはならない。同じ力を持つ者同士が必要なんだよ。そこで、リュカのクローンであるムーヴと、今では魂が無く墓の中で眠っていた、リュカの双子の兄のクラウスの体を使い、二人を一つにした」 「……墓?」 マリオ達は眉根を寄せた。 「クラウスの墓なんていつからあったんだ? 第一、クラウスはドラゴとの戦いで……」 「お間抜けだね。本当にそいつがクラウス本人だと思っていたのかな?」 ディバは目を細め、フッと笑みながら言った。 「まあ、強ち間違ってはいないかな。だけど、それはクラウスではあって、もうクラウスでは無いんだ」 「っ……!」 リュカはその話を聞くと、唐突な頭痛に襲われ、思わず頭を抱えた。何か封印されていた記憶が思い出される様な……夢の中で見た、あの光景。破壊された、あの小さなお墓は……。 「! リュカ、どうしたの? 大丈夫?」 サムスは彼の様子に最初に気付くと彼の傍まで寄り、片膝を付いては相手の様子を見た。サムスの言葉で、マリオ達もリュカの様子に気付いた。 だがリュカは周りを気にしていられない程、脳内を巡る、忘れられていた記憶に頭を酷く痛めている。 「……か……の……」 「え?」 上手く聞き取れなかった為に、サムスが聞き返す。 「夢の中で見た、丘の上の……小さいお墓……もしかして……」 「ヒヒッ。夢で見ちゃうとは凄いなぁ、ムーヴのオリジナル君は」 ディバは肩を震わせながら笑いを込み上げていた。まるで、頭痛に苦しむリュカを眺めるのを楽しんでいるかの様だ。 「クラウスの墓を壊した後、島の奴らから『クラウスの死』の記憶を封印し、クラウス、否、クラウスに成り済ましたムーヴが、リュカ達に近付いたんだよ。今回の実験、そしてドラゴにやられた事で、精神ダメージをとことん与える為にね。ムーヴはナイスな芝居だったよ。 ──そうだよ、本物のクラウスは、以前の記憶で『とっくに死んでる』んだ」 「以前の記憶……まさか……!」 イオニアからの話を思い出すと、クマトラはハッとし、ディバの方を見た。恐らく以前と記憶とは、やみのドラゴンに寄って今の世界に生まれ変わる、その前の世界……。 そして、リュカが仮面の男から感じていた、まるで自分と似た感じと、空っぽの心。それは、リュカのクローンであるムーヴの心と、死んだ為に何も残っていないクラウスの心だったのだ。 「墓を壊し、クラウスの亡骸を実験に……だと。何て非道な真似を!!」 サムスはヘルメットの中から怒りの表情を露にし、ディバへ突撃しようとした。ディバは余裕な笑みの中で足技を繰り出し、サムスの腹部へ足を減り込ませた。 「ぐぅっ……!」 「サムス!」 サムスはパワードスーツ越しでも大きめなダメージ受けてしまい、地面に倒れてしまう。そんな彼女に、C・ファルコンとスネークは駆け寄った。 「以前の、島の記憶で……?」 リュカは頭を抑えたままうわ言を零した。 リュカにとって大事な双子の兄であるクラウスは既に死んでいた。その後にずっといたクラウスは、リュカの偽者だったのだ。リュカの記憶は、始めから上書きされていたと言うことになる。 ディバは、ムーヴへ目線を下ろした。 「ヒヒッ。二つのパワーが一つになった時、普段より数倍ものパワーを感じた。この実験は成功だね──けど、抜け殻と生き物の合成は上手くいかなかったね。壊れやすくなってる」 ムーヴをその場から見下し、足で相手の頬を蹴る。ムーヴは抵抗無く地面に倒れ、その場に蹲ってしまう。 「! ディバ、自分の仲間を……!」 相手が敵とは言え、そんな光景を見てしまうと、マリオは握り拳を震わせた。 「なぁに。実験台とは言え、まだ消しはしないよ。針を抜く役目が残ってるんだからな。その為にも甦らせたと言っても良いしね」 ムーヴの顎に爪先を軽く当てながらディバは口端を釣り上げ、目線をマリオ達に向けた。そして、未だに頭に手を置いているリュカを見た。 「そう言えばリュカくん、記憶に苦しんでいるみたいだね。何なら、記憶を全部返してあげようか?」 「!!」 ディバの手にいつの間にかあったものを見て、マリオ達は驚愕した。それは、真・ハミングバードのタマゴだ。 「な、何でそのタマゴを、お前が持ってるんだ!?」 「あれ、知らなかったの? このタマゴ、元々は裏切りのマジプシーであるヨクバが管理してたんだよ。オソヘ城にあったのは、良く出来た偽物って訳。あのイオニアも見抜けなかったみたいだね。そんな事も知らず、皆で必死に守ろうとして、見ていて面白かったなぁ」 「くそっ! 何て事だ……!」 「あのタマゴを使い、リュカ殿達の記憶を操作していたのか……この島の記憶は、ギガ軍に踊らされていたと言うことなのだな……っ」 フォックスは悔しい余り、その場で拳を思い切り振った。マーシスも歯を僅かに食い縛っている。 そしてディバのさっきの言葉に、マリオ達は酷く嫌な予感を覚えた。クラウスが死んでいると言うことは、その時の心情も思い知らされると言うことだ。リュカが今の状況でそれを受け入れてしまったら……、 「ディバ、やめるんだ!!」 「……さぁ、リュカくん。楽しい楽しい、ショータイムの始まり、だ!」 ディバは、真・ハミングバードのタマゴを掴む手に僅かに力を込め、最後の一文字と共に、パキィッと音を立てながら皹を入れた。皹の隙間から光が溢れ、外へと漏れ出す。リュカの脳内に、それと同じ光が映った。 リュカの記憶の中に、まだ今より小さかった頃の自分がいた。 双子で仲良く、一緒のベッドで気持ち良さそうに眠っている。 そんな二人の頭をそっと撫でる優しい母と、見守っている父が、そこにいた。とても幸福な時間だった。 記憶の場面が切り替わった。 凶暴なメカドラゴが暴れている。その牙が、クラウスとリュカへ襲い掛かろうとした。そこへ一緒だった母親が子供達を咄嗟に庇い、その牙は──彼女の心臓を貫いた。 死んだ母親の仇をとる為、村から出て行こうとするクラウスの背中を、頬に涙の跡を残しながら、幼きリュカは黙って見送っていた。自分は、何て無力。そんな気持ちを、胸に抱きながら……。 再び場面が切り替わる。 今いる、ここに似ていた場所。 まだ抜かれていない針。 そして、自分の腕の中にいる、ボロボロになったクラウス。クラウスは、悪い奴らに操られていた。だから、倒してでも止めるしかなかったのだ。 それでも、正気に戻ったクラウスはリュカへ優しく微笑み、そして──永遠の眠りについた。 記憶が一気に、且つ鮮明に蘇った。クラウスは、大好きな兄は、自分の手で──。 「ぃ、や……っ」 「! リュカっ?」 「いや、いやだ、いやだぁ! 死んじゃやだあ!! 嫌だあああああぁぁーっ!!」 リュカはその場で突然泣き叫びながら、暴れ始めた。マリオやクマトラ達は驚くも、リュカを何とか抑えようとした。だが、リュカは必死で抵抗する。抑える人を叩いたり、引っ掻いたりしていた。 「リュカ! どうした! 何が起こってるんだ!」 「っ……これが、リュカに戻った、本当の記憶なのかっ?」 ダスターが声を上げ、クマトラは辛そうな表情を描いた。 「ヒヒッ。そう、その通りだよ」 ディバはリュカを見ながらニヤリと笑んだ。 「リュカから抜き取った記憶が、今戻ったんだ。だけど、それを心が認められず、暴走を起こしてる。知らなきゃまだマシだったのにねぇ」 「っ……その記憶を無理矢理盗んだのはお前だろっ!」 マリオはディバを思い切り睨んだ。 だがその直後にリュカの叫びが再び響き渡り、マリオは思わず振り返る。そんな彼等を見据えながら、ディバは喉を鳴らした。そして、リュカの心に直接響く様に、その場から囁く。 「クラウスは殺されたんだ、君に。君の心がもっと強かったら、クラウスは殺されずに済んだだろうに」 「っや……」 「君の心が弱かったから、クラウスはああなった。そして、悪い奴等に利用され、彼も悪い奴になっちゃったんだよ」 「やめて、やめ……!」 リュカは彼の言葉を必死で否定し続けたく、首を横に激しく振った。分かっている記憶だが、今は心が乱れてしまっている。戦士と言えど、まだ子供が故、その現実を受け入れるには、心に想像以上の負担が掛かる。 それも構わず、ディバは更に声を上げた。 「いい加減認めなよ、君の大好きなお兄ちゃんは──君が殺したんだってな!!」 「!! うああああああぁぁぁぁーっ!!」 リュカが叫んだその時、リュカの頭の中で何かがプツンと音を立てた。すると、リュカは急に何も喋らなくなった。そして、操り人形の糸が切れたかの如く、全身から力が抜け、その場にドサリと倒れてしまったのだ。 「リュカーッ!!」 「!」 ネスは、ハッと顔を上げた。自分の心に突如襲った不安感、そして絶望感。この感じは、ポーキーでは無い。 (リュカ……!) リュカの叫びが飛び込んで来たのだ。だがその直後、心に何も感じなくなった事に、ネスは不安を掻き立てられる。彼に、一体何が……。 そんな時、心に別の声が聞こえた。ラフィットである。 ──ネス、自分が今やるべき事をやらなきゃ駄目だよ。 ──それは分かってるけど……。 ──あの人達も戦っているんだよ、命を懸けて。針を抜かせない為に。 ネス、君が今、やるべき事は何? ──……。 マリオやリュカ達が今どうなっているのか気にならない訳では無い。が、自分が今やらねばならない事は、ポーキーを止めることだ。 (隊長、リュカ、皆……この戦いが終わったら、必ず行くからね……!) 振り切る為に首を何度か思い切り振った後、ポーキーを改めて真っ直ぐに見ながら、身構えた。 「けけけっ。大事なお友達だと思ってたのに、やっぱりネスくんはぼくを倒そうと思ってるんだね──良いよ。永遠にバイバイする前に、存分に遊んであげるよ、この『オモチャ』でね!」 ポーキーの座っているソファが少しだけ浮かび上がると、その場で変形を始めた。ソファの皮を破って現れる数本もの巨大な針。それが蟹の足の様な形になって床に立つ。ソファはカプセルへと変わりゆき、ポーキーをそのままカプセルの中へと閉じ込めた。 「ぼくは安全な場所から見物させて貰うよ、やられて無様になって行く君の姿をねっ! ゴホゴホッ!」 ポーキーは咳き込みながらも、不敵な笑みだけは絶やさない。 ポーキーを入れたロボットが、ネスに向かって突進して来る。 「ふんっ!」 ネスは足にPSIの力を溜めるとその場をジャンプし、超能力を使って浮遊した。彼の下をロボットが通り過ぎる。 ロボットは振り返ると、ネスに向かって針で連続突きを繰り出して来る。ネスは浮遊しながらシールドを貼り、防御を仕掛けるが、ポーキーはその時、秘かにニヤッと笑った。 「!!」 連続で仕掛けてきたからか、シールドはガラスが割れた様な音を立てて破壊され、ネスはそのまま連続攻撃を受けてしまう。 「うわああっ!!」 着地も失敗し、床に体を叩き付けてしまった。 「キャハハハ! 君の力はそんなものか。もっと楽しませてくれると思っていたのに」 「ぐっうぅ……」 「もう疲れちゃった? でも、休まないでくれよ、まだまだ遊び足りないんだからさ」 ネスが立ち上がろうとしている所に、ロボットが近付いて来る。そしてその場から攻撃のビームを放って来、ネスはそれに気付くと、怪我に体を痛めながらも何とか立ち上がり、その場から駆け出しギリギリで回避した。 「そうだ、その調子だよ。どんどん動き回れよ」 ロボットの頭の部分から、ポーキーの形をした人型ロボットが何体か現れた。頭の上にアンテナの様なものが付いており、ネスを追い掛け始める。 「遊ぼう。遊ぼう。僕と遊ぼう」 ポーキーと同じ声色で言葉を発しながらこちらへ来る。ネスは振り返ってから立ち止まると、指先からPSIの光を溜め始める。 「PKファイヤー!」 一体ずつ指先を向け、炎攻撃を放って行くと、ポーキーのロボットは、次々と爆発しながら破壊されて行った。だが、直ぐ近くまで来たポーキーのロボットを破壊した瞬間、爆風に襲われ、ネスは思わず尻餅をついてしまう。 「いたっ!」 「隙だらけだなぁ、ネス」 ポーキーがそう言っている間に、ポーキーを乗せたロボットは浮遊し、ネスの真上までやってきた。その気配に、ネスはハッと見上げる。ロボットの全身にエネルギーが蓄積されて行くのが見えた。ネスは立ち上がり、その場から駆け出す。それと同時に、ネスのいた所に無数のビームが放たれる。そこで再び爆発が起こり、まだ近くにいたネスは呆気なく吹き飛ばされ、床を滑って行った。 「あぐっ……!」 直撃は免れたものの、受けたダメージは少なく無く、ネスはその場で蹲ってしまった。 「ほら、反撃するならして来いよ。モニターに寄ると、ネスはもっと凄い技を持っているんだよね? それで攻撃して来れば良いじゃん。さあ、来いよ!」 まるで壊れて行くオモチャを弄ぶかの様に、ポーキーはネスに対する攻撃を止める事はしない。ネスはそれを防御したり、回避したりしているが、ダメージは小さくとも、ネスの体への負担は次第に大きくなって行く。 ネスには、ポーキーの心を救う為、ある考えを持っていた。だがそれは、下手したら自分の命をも落としかねない考えだった。しかし、ラフィットが仮に助けに来たとしても、ネスは彼を止めるだろう。 「……」 ラフィットは、部屋の外からネスの様子を見ていた。 ネスの考えは読めたが、彼が本当にマズくなった時まで、動かないでいた。ネスの考えを信じてこそ、その場でグッと堪えていた。 (ポーキー……っ) 片膝をつきながら、ネスは、カプセルに入っている、邪悪に笑っているポーキーを静かに見上げていた。 ──to be continued── |