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ネスとポーキー ポーキーをカプセルに閉じ込めたロボットの猛攻撃は止む事は無い。ネスが反撃をしない限り、ロボットは活発に動き続けていた。 ネスはその攻撃をシールドで防いだり、跳躍等で回避したりしていく。だが、蓄積されて行くダメージと回避する度に溜まる疲労に寄り、戦う前より動きが鈍くなり出し、跳躍後の着地も上手く行かず、うっかり跪いてしまう事が増えて来た。 「うぐっ……!」 ネスは立ち上がろうとしたが、既に膝が笑っており、再び膝を付いてしまった。更に床に両手を付け、肩で息を繰り返す。 彼の行動に疑問を持ち始めたポーキーは、気付けば笑みを次第に消していっていた。代わりにその表情から、僅かに苛立ちの色を出していた。 「避けてばっかで、全然反撃して来ないじゃん。何で攻撃して来ないんだよ。ぼくから攻撃してばかりで、そのまま君を倒しちゃっても詰まんないよ」 「……ポーキー、は……」 特に負傷してしまったか、片方の肩を手で強めに抑え、ネスは言葉を発しながら、ゆっくりと立ち上がって行く。 「ポーキーは……何も悪くない、から……」 「──ふん。やっと分かったか。悪いのは君らスマッシュブラザーズって言うミジンコ者共なんだよ。 けど、今更命乞いしたってダメだよ。これは君とお別れする前のお遊びなんだからさ。けっけっけっ!」 「そう言う意味じゃない……っ」 体をボロボロにしながらも少し強気に言い放ったネスに、笑い上げていたポーキーは再び無表情になる。 ネスは、戦いで汚れた顔を上げ、ポーキーを見詰めた。 「ポーキーは……ポーキーは皆に愛されたかっただけなんだよね。だからギガ軍は、君のそんな心を狙ったんだよ……ポーキーは愛されていたんじゃない、あいつ等に唆され、利用されただけなんだよっ」 「……!」 ポーキーの顔が僅かに歪む。ネスの話にショックを受けたのか、それとも知っていたのか。 何れにせよ、ポーキーの心に僅かながらも隙が出て来たのを、ネスは確かに感じた。 「ポーキーがしてきた事は、許されないのは分かってる。でも、君をそんな風にしたギガ軍を、僕はもっと許さない。だから、あいつ等の所為でこれ以上悲しい事をしてしまう君を止めたい──いや、助けたいんだ、友達として……」 「う、うるさい! 『俺』はネスとは友達何かじゃない!!」 先程まで怪しく笑っていたポーキーが、今は怒りの形相となり声を荒げていた。 それに呼応するかの様に、ロボットはネスに急接近し、鋭い巨大な針を何本か突き出した。ネスはバットを引っ張り出し、全てそれを弾いた。弾く度に起こる僅かな振動が傷に響いた為に、こめかみから冷や汗が流れるが、今は気に留めていられなかった。 「いい加減反撃して来いよ! さっさと俺にお返しの技をして見せろよ!」 「……いや、ポーキーは何も悪くないから、何もしないよ。例え自分の命を落としても、僕は……」 「ネス、バカか、お前は……!」 ──ス……。 「!」 ネスが反撃を全くしないが故に調子が狂い出すポーキー。 その時、彼の心が乱れ始め、同時に心に立ち籠める闇が少しずつ薄れて行く。その心から僅かな声が、ネスの心に聞こえた。ネスは動くのを一端止め、相手の心へ一時意識を集中させる。 ──こんな姿、見られたくなかったのに……友達と言ってくれた、ネスにだけは……。 「……ポーキーに何を言われようと、何をされようと、僕はポーキーを友達だと思ってるよ。だから、そんなに怯えないで。ね」 「! お前に何が分かるって言うんだぁ!!」 ロボットの機械音に、ネスはハッと顔を上げた。しかし気付いた時は、既にロボットの鋭い足が目の前まで迫っていた。避けようとする間もなく、ネスはロボットの足達と共に倒れた。足は床へ深々と突き刺さり、同時にネスの服の両肩の部分と脇腹の部分を貫いた。生身自体は直撃では無く掠り傷だったが、倒れたと同時に鋭い痛みが走った。 「う、ああああぁぁぁぁっ!!」 刺さった部分に僅かながらも赤い染みが広がる中、ネスは痛みの余り目を強く閉じ、声を上げた。 「お前に友達だと思われるのが、いっちばん腹立つんだよ、俺は……!」 ポーキーはカプセルの中から、床へ張り付け状態にされているネスを見下ろす。 「俺はネスが羨ましかったよ……妬ましかったんだよ!」 遂にポーキーの口から本音が、負の感情と共に吐き出されていく。 「周りからちやほやされてさ、愛されてさ。そんなネスを見る度に、俺の中では憎しみばかりが増して行った……例え偽りだろうと、俺だって色々な奴らから愛され、ネスと同じ気持ちになってみたかった。その望みが、この世界にあったんだ!」 ──ご免な、ネス。こんな俺でも、友達って言ってくれて。 「この世界を支配し、平和にすることを誓った。そしたら、沢山のオモチャを貰ったんだよ。俺は愛されてるんだよ、皆にね……!」 ──だけど、全然心が満たされないんだよ。変だなぁ……。 「それを邪魔しやがって。こんなとこまで来やがって! さっさとこの世界からいなくなっちまえ!」 ──だから、こんなバカな友達を、止めて見せろよ、ネス。 「うぅ……ポーキィ……っ」 (いけない……目が霞んで来た……) ポーキーの憎しみが悲しみに変わって来ている。そんな彼の為に諦めたくないのに、既にネスの体は悲鳴を上げていた。おまけに動きを抑えられている為に、ネスの体から力が少しずつ抜けていく。 (あの時、ギーグから精神攻撃を受けず、ポーキーの心を読めてたら、彼を違う運命へ導けたのかな……いや、今更そんな事を考えたって仕方無い。今目の前にいる彼を何とかしなきゃ。でも、ダメだ。力が、もう……) 握っていた拳が少しずつ解け、全身から力が全て抜けてしまいそうになっている。 その間に、ロボットのもう一本の鋭い足先が上がって行く。そして、ネスの腹部の中心に向けて振り下ろされた。 ──PKサンダー!! もう一人のネスの声が聞こえた。 それと同時に、ロボットの足に、PKサンダーに寄る雷攻撃が当たり、ロボットは反射的に引き下がった。同時にネスの動きを封じていた足も離れて行き、ネスはロボットの様子に目を見張りながら、何とか体を起こした。 ネスと同じ声だが、助けてくれたのは間違いなく『彼』だ。 ──ラフィット、有難う……! ──言った筈だよ、ネスがピンチになっても、僕がそうはさせないって。 そう言っているラフィットだが、ネスの命を救えたからか、その心の声には安堵も含まれていた。 ──さぁネス、君の心で、彼を……! ラフィットが絶好の機会を与えてくれた。全てを無駄にする訳にはいかない。ネスはラフィットに対し、その場で頷いた。 「ふん。命拾いしちゃったか」 攻撃を受けたロボットが、体勢を立て直そうと動いている。 「……」 ネスは足にPSIの力を溜めると、再度浮遊した。そんなネスを見上げ、ポーキーは小ばかにする様に鼻で笑った。 「さっきと同じ目に遭いたいんだ? 良いよ、これで終わりにしてやる! 今回は大サービスだ!」 ロボットは、床で支える意外ほぼ全ての鋭い針をネスに向けて来た。タイミングをずらせば、ネスは間違いなく針達の餌食になる。ネスはそこで、足に溜めているPSIの力を更に上げた。そして針が突き出されようとした瞬間、ネスは浮遊のまま、素早く前進したのだ。ネスがさっきまでいたところで複数の針がぶつかり合う。 ネスはそのまま、真ん中にある、ポーキーを入れたカプセルへ向かった。そしてあるアイテムを投げると、カプセルのガラスが粉々に砕け散り、ネスはポーキーへ更に近付いた。 「ひっ……!」 流石のポーキーも肝を冷やした様子だ。安全な場所と言われたカプセルをこうも簡単に破壊されたのだ。そこから、相手をしている者が目の前まで迫って来る。突如の事態に何が来るのかを覚悟する暇も無く、ポーキーは小さな悲鳴を上げた。 そして──、 「──!」 ネスは目を閉じ、ポーキーを抱擁した。 「もう、思い悩む必要は無いよ。君の苦しみや悲しいことは、全部僕が受け止めてあげるから……!」 抱擁される際、ネスの手に持っているものが、ポーキーの目に映っていた。それは、ポーキーにとってこれまでの何よりも大事にしていた、黄色いヨーヨーだった。 「ポーキーって言うんだ? 僕はネス。宜しくね!」 隣同士の家。その間で挨拶をする、今より幼いネス。 生まれた時に親から貰った赤い帽子が、少しぶかぶかだった。 無邪気なネスの笑顔に対し、同じく小さい頃のポーキーは、そんな彼の表情を見てから、そっぽを向いた。 「ふん。自己紹介したからって、直ぐに仲良しになれると思うなよ」 「自己紹介だけじゃ仲良くなれないの? それじゃあ、これ」 「? 何だよ、それ」 「僕の宝物、ポーキーにあげる。友達の証だよっ」 それは、最近買って貰ったばかりの物だろう。ピカピカな黄色いヨーヨーだった。ポーキーは、ヨーヨーとネスを交互に見た後、小首を傾げた。 「何で自分の大事な物を俺にくれるんだ? 宝物なら、誰にもあげられないだろ」 「大事な物だから、持ってて貰いたいんだよ。ポーキーは僕の大事な友達になるんだから」 ニコッと笑い、ネスはポーキーに自分の宝物を持たせた。ポーキーは少し戸惑ったが、暫くした後、軽く溜め息をつき、自分のポケットにそれをねじ込んだ。 「正直、お前の考えてること良く分かんないけど、とりあえず持って置いてやるよ」 「わぁ、有難う!」 「待て、友達になるって言ってはいないぜ。今日からネスは俺様の子分だからな!」 子分と言われたが、まだ幼いネスにはその言葉が理解出来ておらず、ネスは最初キョトンとしてしまったが、直ぐにいつもの笑顔に戻った。 「うん、僕はポーキーのこぶんだ!」 「……ネス、自分の言ってること分かってるのか?」 「分かんない」 きっぱりと言い放ったネスに、ポーキーは少しこけた。 「でも、ポーキーと仲良く出来るならそれで良いや」 「……やっぱお前の考えてること分かんねえわ。まあ、子分て言葉は俺もよく分かってないんだけどな」 「えー、そうなの?」 そんなやりとりをしている内に、ネスの笑顔に釣られ、気付けばポーキーも歯を見せながら笑顔を浮かべていた。今までこんな気持ちを抱いたことは無かったが、ポーキーは、彼といることで、初めて『楽しい』と言う気持ちを知ったのだ。 ──これが、『友達』って言うものなんだ。 二人でオネットのあちこちに出かけたり、洞窟を探検してみたり、野球で遊んだり、親のお小遣いで買ったパンを一緒に食べたり。 ポーキーはこの時、友達として接してくれる彼から温かみを感じていた。 忘れ掛けていた幼き頃の思い出が、脳裏に蘇る。 あんなに仲良くしていたのに、ネスは他の人々にも愛されている。自分は、その中の一人に過ぎないと思っている内に、気付けば彼から離れて行っていた。今では、ネスに対しては憎しみしか生まれていなかった。 だが本当は、そんな自分を否定したいと言う事に、ポーキーは今気付いたのだ。 その証拠に、時空を彷徨い、何百、何千年も年月が過ぎた感覚なのに、ヨーヨーだけは、遠い昔に貰った、凄く大事なものだった気がした。それだけは、忘れられなかった。だから、今も大事に飾っていたのだ。 自分は皆から愛されたかったのでは無い。彼に、友達としてずっと想って欲しかっただけなんだと、心の奥底にあった気持ちに、漸く気付いたのだ。 「っ……」 ポーキーの体が震えているのが分かった。ネスは傷付いた様な顔を乗せ、抱き締める腕に力を込める。 「ごめんね、ポーキー、そこまで追い詰められていただなんて……僕なんか友達として失格だよっ。でも、だからってこのままにしたく無い。君の心が治るまで、僕はずっとここにいるから……」 「……なせ……」 「え?」 「離せ! 俺から離れろよ!!」 何を思ったのか、ポーキーはネスを力強く押したのだ。ネスは彼から離れてしまい、床へ落ちてしまった。 「いたっ!」 「ネス!」 いても立ってもいられなくなったラフィットがネスの元へ駆け寄った。既にボロボロな状態になっているネスにライフアップを掛ける。 そして、ネスは彼に支えられながら体を起こし、二人でポーキーを見上げた。 「どうせそうやって隙をつくつもりなんだろ? そうは行くかよ!」 ポーキーは自分の気持ちを押し隠すかの様にニヤリと笑うと、ネス達に攻撃を仕掛けようとした。 ──その時、鼓動が高鳴ったと同時に、一時的に息が出来なくなった。 「っ!? ゴホゴホッ! ゲホ! ゴホッゴホォッ……!」 「! ポーキー! 大丈夫!?」 さっきより咳が酷くなっている様に聞こえ、ネスは見開き立ち上がった。 胸を片手で必死に抑え、暫く咳き込んでいたポーキーだが、少しずつ落ち着いて来るも、苦しそうにぜぇぜぇと息を荒らしている。 「……こんな老いぼれた体だ。流石にもう、保たなくなって来ているのかもね……生命維持装置も、そろそろ限界みたいだ」 ネスはその場からヒーリングを試みようとしたが、ポーキーは彼に向けて片手を出しそれを制した。 「そんなことしても無駄だっての。俺の体は、俺が一番良く知ってるからね」 「ポーキー……」 「……但し、ゲームはまだ終わってはいないよ。だから俺は、一端避難することにする」 その時、ポーキーを乗せたロボットが動き出した。だがそれは攻撃では無く、単に横へ移動しただけだ。そして彼の背後にいつの間にか置かれているものがあった。ロボットと同じ位の大きさを持ち、球体の形をした、カプセルの様なものである。 「このカプセルに入ってれば、どんな攻撃も受けやしない。この島がやみのドラゴンに寄って滅んでしまっても、俺はへっちゃらだもんね。けっけっけっ」 「……皇帝、いや、ポーキー、そのカプセルが、一体どんなものか分かってるのっ?」 「ラフィット?」 ポーキーに向かって言葉を発したラフィットに、ネスは驚いた顔で振り向いた。 それを聞いたポーキーだが、まるで全てを諦めたかの様に、小さく溜め息をついた。 「分かってるか分かってないかなんて、そんなことはもうどうでも良い。俺はこのカプセルの中から、この島の、この世界の最後を見届けるんだ。誰にも邪魔されずにね」 そして、カプセルが浮かび上がり、ポーキーの上まで来ると、そのまま彼を入れる様に降りて行った。その直後、ロボットが独りでに破壊され、床へ崩れ落ちた。が、ポーキーの言う通り、カプセルは傷一つ付いていないまま、その場に残っていた。まるで寂しく佇む、墓石の様にも見えた。 「この中にいれば絶対安全だもんね。あっかんべろべろべー!」 唯一ある丸い窓の向こうから、ポーキーが悪戯っ子の様にあっかんべーをしているのが見えた。それをネス達は、ただ黙って見ていた。 「あのカプセルは、キマイラと同じ所で作られてた。作った人が言うには、あれは一度入ったら、二度と出る事は出来ないんだって」 「! そんな……」 そう話したラフィットにネスは顔を向けるが、ラフィットはカプセルを、哀れんだ瞳で見ながら言葉を零していく。 「でも、ポーキーにとってはこれで良かったと思う。自分の体はもう限界だから、これが彼の望んだ最期、なんじゃないかな──大事な友達なら、受け入れてあげよう、ネス」 「……」 そう言われたネスは黙り込んでしまった。 だが、握り拳は震わせ、そして、顔も俯いていく。 ──僕は、ポーキーを救えたのだろうか。それとも、何も出来ないままだったのだろうか。 その気持ちだけが今、頭の中をぐるぐるしていた。 「バケモノが針を抜くのを止めたいんだろ?」 その時、ポーキーの声が二人に飛び込んで来、二人はカプセルへ顔を上げた。 窓の奥には、後ろを向いたままの彼がいた。 「なら、さっさと行けば良い……その代わり、二度と俺の前に現れるな」 「……」 ネスは最後の最後で、ポーキーの心の声を聞いた。そして、溢れ出そうな涙をぐっと堪え、彼に背中を向けた。 「……うん。ありがとう。僕はいつまでも、君の友達だからね」 そう言った後は、ポーキーに対してはもう何も言わず、ネスは背中を向けると扉に触れた。 「さあ、ラフィット、リュカ達の所へ行こう。もう、時間が無いからね」 部屋を後にする際のネスの横顔は、涙を零している様に見えた。だがネスは、振り返る事無く、部屋を後にしたのだった。 『ありがとう』 ネスの今の言葉、それは、今のポーキーの言葉に対してか、別れの際の台詞なのか、彼の心へなのかは、ラフィットには分からなかった。だが、今のネスの心には、喜びの色が見える、と、その時のネスの心を覗いてみてそう思った。 ラフィットは、ポーキーを入れたカプセルを一瞥した後は背中を向け、何も言わず、部屋を後にしたのだった。 (ムーヴ、今行くからね) リュカのクローンであるムーヴを想いつつ……。 「……」 部屋に独りとなったポーキーだが、ポーキーの心の中は、もう独りぼっちではないと言う気持ちで満たされていた。 ネスが此処に来なければ、どうなっていたかも分からない。そんな彼が来たお陰で、もう悔いは無くなったのだ。 ──こんな俺を最後まで友達だと言ってくれたのは、お前だけだよ、ネス。 今までごめん……そして、『ありがとう』な……。 ──to be continued── |