何が為に








 ベッド以外何も無い、暗い室内。
 クローンとして生まれたばかりの頃の二人は、ずっとこの中で、実験と言う怖い時間を待ちつつ、過ごしていた。

「ねぇ、いつまでここにいるのかな、僕達……」

 幼い子供の震えた声が、寒い部屋の空間に小さく響く。
 既に何度かの実験を繰り返され、今では立つ気力も無く、部屋の冷たい床の真ん中に座り込んでいる、二人の少年。
 実験以外の時間は、二人にとっては貴重な時間だ。慰め合うかの様に、お互い向き合い、言葉を交えていた。

「僕達の力が特別だからって、毎日実験をされて、疲れて来ちゃったよ……」
「何を言っているの。これもギガ様の為なんだよ? 僕達の力でギガ軍の戦力が大きく変わるのなら、頑張って尽くさなきゃ」
「それは分かっているんだけど……」

 金の髪の少年は赤い目を伏せ、次第に俯いていく。今回の実験で、大分体力を吸い取られてしまったのだろう、相当疲れている様子だ。
 黒髪の少年は、彼と同じ赤い目で相手を見た後、相手の手を両手で包んだ。そして、相手は仄かな光に一瞬包まれ、そして直ぐに光は消えた。すると、金の髪の少年の表情から疲れが消え去り、相手はハッと顔を上げた。

「ほら、疲れなんか無くなったでしょ?」

 自分が元気になったのとは引き換えに、今度は相手が疲れを溜めた様に見えた。笑顔を向けてくれて、それで疲労を隠しているのだろう。

(ラフィ……)




 ある日、黒髪の少年──ラフィットの実験の時間が終わり、いつもの様に部屋に戻ってきた。彼はいつもの様に、実験後の疲労を溜めてはベッドへ倒れ込んだ。

「ラフィ、大丈夫?」
「うん。今日はいつもより辛かったけど、大丈夫」

 相も変わらず笑顔を向けてくれる彼だが、呼吸がどこか苦しそうだった為、心配しない訳が無かった。
 以前、して貰った時の様に、今度は自分が、ラフィットの手を両手で包み、心でPSIの能力を唱えた。ラフィットの体が仄かに光り、そして消える。ラフィットは閉じていた瞼をパチッと開き、体を起こしては彼に目を見張る。

「『ムーヴ』……」
「……この間のお返し、だよ」

 感謝の言葉の伝え方が分からないが、こんな気持ちを抱ける相手は、彼だけだ。金髪の少年──ムーヴは、相手を見詰めながらそう言い微笑んだ。
 ラフィットは相手に対し何か言いたげだったが、まあ良いかと思うと、こちらも微笑み返し、そして、二人は笑い合った。




 丘の上の、小さな墓が壊される。
 その墓の前に立つのは、真・ハミングバードのタマゴを持ったディバと、ムーヴである。

「ムーヴ、これが最後の実験だよ」

 妖しげな笑みを絶やさないディバは、横に立つムーヴに言の葉を掛けた。

「この墓の中に眠る少年と一つになり、どれ程の力を得られるかのね。双子が故にパワーも同じ。これ程都合の良い材料は無い」
「……隊長……」
「何?」
「ラフィ……ラフィットはどこに行ったの? ずっと探しても、心で呼んでも、返事してくれないんだよ……」

 ムーヴにとって唯一の心の支えだったラフィットが、ある日帰って来なくなった。今回の実験より、そればかりが、気になっていた。
 ネスの世界でのギーグ戦時、ディバは彼らの『祈り』に寄ってギーグの場所を把握し、それを通じてラフィットを消える直前に回収したのである。あの激戦の後故に弱まり、赤い液体と化してしまってからも、ラフィットは大事な実験台である。
 しかしディバは、ラフィットが自分の手中にあるなど、言う訳が無かった。そのことを黙っている方が、ムーヴは確り働いてくれると分かっており、ディバは内心で秘かに笑んでいた。

「心配しなくて良い。ラフィットとは、ちゃんと会わせてあげるよ」
「! 本当?」

 希望が見えたかの様に、ムーヴはディバへ目を輝かせた。そんな相手に対し、ディバはクスッと意味ありげに笑んだ。

「僕の言うことをちゃんと聞いてくれたら、ね」

 そう言うディバに、ムーヴは首を何度も縦に振った。
 これまでも、どんなに辛いことがあっても、ディバ始め、ギガ軍の為に働いた。今回で、その実験も最後。これが終われば、ラフィットに会える。それが、今の彼にとって大きな励みとなった。
 ディバのもう片手からは、紫通り越してどす黒い色となっている影虫が溢れ出、地面へ次々と零れて行く。それが墓の中へ全て消え、暫くした後にそこから這い出て来る。そしてそのまま、ムーヴの体を這い上がっていく。ムーヴはぎゅっと目を閉じた。

「さて、この世界の皆さんの記憶をちょっといじらせて頂くか。ヒヒッ」

 ディバは、クラウスの姿となったムーヴからタマゴに目を移した後、ニヤリと笑みを浮かべた。




「クラウス兄ちゃん、外で遊ぼうよ!」

 クラウスに成りすましたムーヴは、自分のオリジナルであるリュカに腕を引っ張られていく。
 自分の敵と一緒にいるだなんて少し複雑な気持ちだが、これもギガ軍やラフィットの為だと、ムーヴはクラウスの芝居を続ける。

「何しようか?」
「そうだなぁ……じゃあ、ドラゴに乗ってオソヘ城を目指そうよっ」
「わぁ、良いね。楽しそう!」

 その時のリュカの明るい笑顔を見た瞬間、ラフィットの笑顔と重なった。ムーヴは僅かに反応しそうになったが、何とか堪えた。
 そして、短い時間ではあるものの、敵なのにも関わらず、ムーヴはリュカに対し、少しずつ罪悪感を抱き始めた。
 実験用クローンは、デークやミエールと言った戦闘用クローンとは違い、言葉通り、実験を幾度となく繰り返されている。ギガ軍に寄って洗脳はされているが、実験される度に、心が安定しなくなっては少しずつ弱まっていく。リュカの記憶や心が一部コピーされていることもあり、敵対する相手だろうと稀に同情してしまうことがある。自分のオリジナルだったら、尚更だ。
 自分はクラウスと言う姿になって、リュカの側にいる。敵と言うことも知らずに、リュカは本気で自分のことを双子の兄だと思って接してくれている。実の兄は既に死んでいると言うのに……これ以上の罪悪感と言うものがあるだろうか。

(……)

 ムーヴは、リュカに本当のことを話そうか迷った。だが、それを話し、リュカの傷付く顔を見るのも僅かに辛い。それに話せば、ギガ軍を裏切ることになる。
 更には、ラフィットと会う事も出来なくなるのだ。

(ごめん。ごめんね、リュカ……でも、ラフィットの為に僕は……)

 謝罪の言葉を口に出してしまいそうになったが、今は堪える以外に無かった。





「っ……!」

 地下へ到着した途端、自分の心が突如ズシリと重くなり、ラフィットは思わず片膝を付いた。

(! ムーヴ? まさか……そんな……)

 この世界にムーヴもいることは、ディバ隊長から聞いていた。
 でも、彼の心が、壊れて来ている? 何で……。
 僕がいない間に、何があったんだろう……。

「ラフィット、どうしたのっ?」

 ネスは驚き、ラフィットの傍まで寄った。

「……大丈夫だよ、ネス。さあ、急ごう!」
「うんっ」
(……ムーヴの心が悲鳴を上げている。僕が何とかしないと……っ)

 ラフィットとネスは、針のある場所へ向かって駆け出した。マリオ達やクマトラ、ダスター、そして、リュカやムーヴの為に。




 この世界の運命を決する最後の戦い。
 ムーヴの体の状態は、魂の無い体の負担も含めており、マリオ達より先に限界が来ようとしていた。それでも、相手からの攻撃を受けようとも、膝を震わせながら立ち続け、PSIの技を発動しようとしていた。

(この戦いガ終わッタラ、やっとラフィに会エる。この戦イガ終ワッタラ……コノ戦イガ……)

 唯一その気持ちが、ムーヴを動かしていた。ディバの言葉に唯々盲信し、戦い続けている。

「クマトラ、大丈夫か……っ」
「ダスター、足が悪いんだろ。もう休めっ。後はオレがやる!」

 ムーヴの攻撃は、普通ではない威力だった。マリオらスマッシュブラザーズは、これまでの戦いの中でも苦戦をより強いられている。
 そんな攻撃を容赦なく繰り出される度に、ダスターはクマトラの盾となっていた。だが、クマトラより体力はあるものの、足が良くないのが災いし、遂に膝をつき、立てない状態となってしまった。
 クマトラはこういうことを言っているが、大事な仲間故に、幾らその様な役割だからとは言え、本気でダスターにはこれ以上動かないで欲しいと思っていた。

「いや、俺はクマトラを守らなきゃならない。分かるだろ、クマトラ姫」
「っ……役割が何だ! そんなこと関係ない! これ以上動こうとしたら、オレが許さないからな!!」
「! クマトラ……」

 クマトラは、自分でも知らない内に涙を滲ませていた。ダスターはそんな彼女を見ると、これ以上何も言えなくなった。

「クソッたれ! 何てタフな野郎だ……!」
「これじゃ、本当に、俺達はここで……っ」

 ファルコやフォックスも、体力が底を尽きそうになっており、手からブラスターを遂に落としてしまう。

「く……ムーヴ……っ」

 攻撃を受けては倒れてしまったマリオだが、ムーヴの様子が気になり、肩を片手で押さえながら何とか立ち上がる。

(ムーヴは、本当にディバ達だけの為に戦っているのか? だけど、この感じ……何か別のことの為に動いてる様にも……)
「……コノ、戦イガ、終ワッタラ……」
「えっ?」

 その時、ムーヴが息を荒らしながら、何かを独り言の様に呟く。その声が、マリオにふと聞こえた。

「コレガ終ワッタラ、僕ハ、アノ子ニ……」
「! ムーヴ、誰だ、あの子って……」
「ウアアアアア!」

 力を振り絞るかの様に、ムーヴはマリオの声を遮る程に声を上げ、PK LOVEを発動した。マリオ達はその攻撃から、何とか防御をはかろうとした。
 しかしリュカは、あれから目を覚ます気配が無い。その上、衰弱して行き、体温も徐々に下がり始めていた。そんな中で、強力な攻撃技を受けてしまえば、リュカの命は絶望的となる。

「リュカ!!」

 サムスはボロボロな状態ながらも、リュカの元へ駆けて行った。




 リュカが目を覚ますと、先程とは全く違う光景が目の前に広がった。先程の場所とは違い、今瞳に映るのは、青く澄んだ空。
 柔らかく流れる風に乗る花の香りが、リュカを優しく包んだ。まるで、それは母親の腕に抱かれている様で。一体それが何なのかが気になり、リュカは上半身を起こし、辺りを見回した。
 リュカの目の前に広がっているのは、向日葵畑だ。太陽の様に力強く輝くも、暖かさがある黄色い絨毯が、境界線まで敷かれている。それ以外の景色は無い、青空と向日葵だけの世界だった。

「凄い……」

 リュカは思わず声を上げた。
 そしてその後、自分は今何をやっていたのかを思い出そうとした。
 そうだ。自分に、奪われていた記憶が戻ったのだ。だがその記憶は、余りにも残酷な現実だった。記憶を奪われていた間のクラウスは、自分のクローンであり、本当は、クラウスは自分の所為で……。
 その結果、リュカの心が記憶と反発しては暴走を起こし、そして、何も感じなくなったと思えば、気付けばここにいた。
 どうしてここに……。

(そう言えば……)

 リュカは向日葵を見て、ふと思い出したことがあった。向日葵は、亡き母親の大好きな花だったと言うことを。

 ──リュカ……。

 その時、どこからか自分を呼ぶ声が聞こえた。それは、母親──ヒナワの声だった。リュカはハッとし、彼女を見つける為に慌ててキョロキョロ見回した。

「お母さん、どこ? どこにいるのっ?」
 ──リュカ。
「! クラウス……!?」

 ヒナワの次は、双子の兄であるクラウスの声が聞こえた。
 リュカは立ち上がると、涙を溢れさせながら、彼等がどこにいるのかをその場で見回した。
 そして、遠くに二人の人影があるのを見付けた。とても、懐かしい姿だった。

「っ……お母さん! クラウス兄ちゃん……!!」

 リュカは、母親と兄を見ると涙を零し、気付けば足が動いてた。向日葵を掻き分け、二人に抱き付きたい余りに、リュカは駆けて行く。
 だが、

「リュカ、来ちゃダメだ!」

 彼等との距離まで十メートル程のところで、クラウスに凄い剣幕でそう言われると、反射的にその場に立ち止まった。クラウスの表情を見ると、これ以上来てはいけないと言う心情が伝わる。

「……リュカ、あなたは、まだ『こっち』へ来てはダメ……」

 ヒナワも辛そうな表情を乗せながら、リュカを見詰めてはそう口を動かした。
 リュカはそれでも走り出したい気持ちだったが、二人に止められてはこれ以上行けず、その場に立ち尽くし、次第に顔を俯かせていった。

「苦しませてごめんね。リュカ、君に本当のことを、僕達からも話すよ」

 リュカはクラウスの声に、既に涙で汚れている顔を上げた。

「リュカに戻った記憶は確かなものだよ……だけど、一つだけ違う部分がある」
「え?」
「僕はリュカの手に寄ってじゃない。自分の意思で、自らこの命を絶った」

 クラウスは、リュカへ向けて指を差した。リュカの胸に付けいるフランクリンバッジが光り、リュカはそのバッジに目線を落とした。

「そのバッジが、僕の雷攻撃を跳ね返したのを、戦いの時に知った。だから、最期はそのバッジの力を借りたんだよ」
「クラウス……」

 この時、更に思い出したことがあった。
 以前の記憶で自分が針を抜き、今の世界になった後。
 ヒナワの墓の隣に作られた、クラウスの墓。その墓の前に、このフランクリンバッジを供えたのだ。クラウスがギガ軍に寄って甦る際、そのバッジがクラウスの懐へ入ったのだろう。拾ったときは汚れてしまってて分からなかったが、綺麗にして貰ったのを見た時、とても懐かしい気持ちを抱いた。

「……」

 ヒナワはリュカの目を見ながらふわりと微笑み、静かに口を開いた。

「大きくなったわね、リュカ」
「……お母さん……」

 自分の子供を抱き締めたく、両手を広げそうになるが、彼をこちらへ連れて来てはいけないと思うと留まり、そっと両手を下ろした。

「どんなに辛いことがあっても、人々が間違った道を歩んでも、それに背中を向けてはいけないわ。今の現実と向き合い、これからの道をどう歩んでいくかを考えなければならない。そうしなければ、苦しい歴史を繰り返すだけ……私はそう思っている」

 死んだ後も、ずっとリュカ達を見守って来たヒナワ。皆の記憶を封印されても、ヒナワは亡き者故に知っていた。これまでの世界を、そして、今の世界を。この世界の人々の喜びや、悲しみを。

「だから、どんなことがあっても、前に進むのよ、リュカ」
「お母さん……」

 そしてヒナワは、何かを思い浮かべるかの様に、空を仰いだ。

「……『あの子』は偽りの姿をしていたけれど、リュカを大切にしていたのは、私にも分かる」
「あの子?」

 リュカが問い返したその時、リュカに吹く風が次第に強さを増しているのに気付いた。向日葵の花びらが舞い、リュカを包もうとする。

「わっ!」

 花びらの数が増して行き、二人が視界から消えそうになっていく。

「! お母さん! クラウス兄ちゃん!」
 ──リュカ。大丈夫だよ。
 ──私達はいつまでも、見守っているわ。

 最後に見たのは、リュカの心を暖めてくれそうな、クラウスの明るい笑顔と、ヒナワの優しい笑顔だった。




 リュカは意識を取り戻し、瞼をそっと開いていった。まるで現実へ一気に引き戻されるかの様な、地面の焼ける臭いが鼻についた。
 それと同時に、自分は誰かに抱き締められている気がした。一瞬、母親の様な温もりを感じたが、顔を上げると、

「リュカ、気が付いたの……っ?」

 ヘルメットの向こうから、サムスの優しい眼差しが見えた。自分はサムスに抱き締められてるのだ。しかし、何故こんなことに……。
 良く見ると、サムスのパワードスーツがボロボロな状態だった。

「サムスさん! もしかして、僕を庇って……」
「……リュカ、怪我は無い様ね。良かっ、た……」

 サムスの瞳が安心したかの様に緩められた直後、彼女の体が次第に脱力して行き、そして、リュカの横へ倒れてしまった。

「サムスさんっ……!」

 リュカはそこで、自分が気を失ってしまってる間に何があったのかを目の当たりにした。
 激戦だったのか、スマブラの殆どが負傷した状態で倒れており、まだ倒れていない戦士も、立っているのがやっとと言った様子だ。

「皆!!」
「! リュカ殿、意識を取り戻したのかっ」

 同じく、戦いで顔や服を汚している中、剣を構えているマーシスは、リュカの声に振り向くと、安堵に寄り笑みを零した。
 だが、そんな事も気にしていられず、リュカは今の状況に焦るばかりだ。




「……」

 ディバは別の所へ移動しており、手の中にある、魔法で作り出したスクリーンで、彼等の戦いを見ていた。思った通りの成果が出ているからか、ディバの口端はつり上がった状態だ。

「素晴らしいね。まさかこれ程の威力とは。良くやったよ、ムーヴ。この実験は、大成功だ」

 ディバは嬉しい余りくつくつと喉を鳴らしたが、その笑顔は一瞬だけ消える。

(しかしムーヴが心身共々壊れて来たのは、抜け殻の損傷だけじゃない様だ。矢張り、普通だとリスクが高過ぎるって訳か)

 そう思った後も、ディバはムーヴ達の戦いをその場から見ていた。
 実験は成功と言ったが、このまま行けば、マリオらスマッシュブラザーズをこの場で完全に戦闘不能にするのも時間の問題。ディバはそうなって行くのが楽しみでならず、最後まで戦いの様子を見守ろうと決めたのだ。




 リュカは次々と倒れて行くスマッシュ戦士や仲間達を見て、一瞬だけ希望を失い掛けた。だが、この世界の為に、欠片の為に、諦めずに最後まで戦っていたのが、彼等を見て分かる。今のリュカも、大好きなこの世界や皆の為に、諦めたくない気持ちに満ちていた。

「ムーヴ! 今度は、僕が相手だっ!」

 マリオ達を傷付けられたことで、リュカは怒りに震え、相手を思い切り睨み付けた。同時に、涙を溢れさせていた。

「マリオさん達や、タツマイリ村の皆、ドラゴ達、イオニア……そして、クラウスを苦しませて……僕は、僕は絶対に、君を……!」
「……」

 ボロボロの体となっているが、ムーヴの戦闘能力は、まだ衰えていなかった。

 ──相手モ、後一人ダ。彼ヲ倒セバ……倒セ、バ……?

 ムーヴは、最早自我を失いつつあった。リュカは大事な人達の為に戦うが、自分は今、何の為に戦っているのか分からなくなってきた。ただ、目の前にいるのは敵だと、クローンが持つ悪しき心──ギガへの忠誠心が、彼を支配した。

「PKファイヤー!」

 リュカの声と共に、こちらへPKファイヤーが向かってきた。ムーヴは素早く横へ動き、その技を回避すると、片手にキャノンを構えては相手へ向けて何発か放つ。

「シールド!」

 リュカはシールドを貼り、相手の攻撃を防御した。だがその時、ムーヴが気付けば目の前にいた。

「!」

 リュカが驚く間、ムーヴの剣が振り上げては振り下ろされる。リュカは咄嗟に木の棒で相手の剣を弾いたが、弾かれても剣は生きているかの様に隙を与えず振り払われ、リュカはあっさりと餌食となってしまう。

「うぐ……!」

 幸い急所は外れているものの、間近で受けてしまった為、リュカは斬られた腕を抑え蹲ってしまう。更に追い討ちを掛けるかの様に、ムーヴのキャノンが相手へ牙を向く。

「うわああぁっ!」

リュカは全ての攻撃を受けてしまい、ボロボロとなってしまっては、その場で両膝を付いてしまった。

「リュカ……っ!」

 マリオは頑張って立ち上がろうとするが、負傷に寄り体が酷く重たく感じ、もう立つ事が出来なくなっていた。
 弱々しく呼吸を繰り返すリュカの元へ、ムーヴがゆっくりと近付いていく。とどめを差そうとしているのだ。

「ムーヴ、や、めろ……っ」
「……」
(畜生……っ! もう、誰もアイツを止められないのかっ? このまま世界が終わってしまうのを、待つしかないのか……?)

 相手の強さが異常過ぎる。今のマリオ達では、その力の前ではどうしようも出来なかった。悔しくてならず、マリオは握り拳を地面に何度もぶつけていた。
 ムーヴは、リュカの目の前まで来た。そして相手の首を掴み、少しだけ体を持ち上げる。リュカは息苦しそうだったが、抵抗する力は残っていなかった。
 そしてムーヴは、剣をその場で振り上げ、そして、振り下ろそうとした。

「PKフラッシュ!!」

 その時、少年の高らかな声と共に、ムーヴとリュカの元へ、PKフラッシュに寄る強い光が放たれた。ムーヴはその光に目が眩み、リュカを手放した。リュカは地面へドサリと倒れたが、意識はあった。首を軽く抑え、酸素を欲したく咳き込みながらも、何があったのかと、倒れながらも相手の様子を見る。

「何とか、間に合ったっぽいね」

 意識がまだある一部のスマブラは、その声に振り返った。
 そこにいたのは、ムーヴへ、PSIを発動したばかりの人差し指を向けているネス。そして、

「……!!」
「……」

 ムーヴとリュカの間に、ラフィットが現れた。










 ──to be continued──