DKアイランドの危機








 DKアイランドを浮かべた大海原。その水平線の向こうが白に染まり出し、それは夜明けが訪れることを意味していた。
 コング達やスマメンが寝ている家の屋根の上に、足と腕を組み腰を下ろしているファルコ。そこは、ジャングルや海全体を見渡せる程の高さである。ファルコは何も変わらない景色を眺める中、目を細めた。

「静か過ぎるな」

 昨日の敵だけでは無い。ギガ軍もこの世界に来、欠片を狙っているだろう。故に、余りにも静寂なのが、逆に落ち着かなかった。

「寝る前からいないと思ったら、ずっとここで寝てたんでしゅか?」

 プリンは、家から屋根へと顔を出した。その目は、心配と僅かな怒りの色に染まっている。

「風邪引くでしゅよ」
「……どーも寝付けなくてよ。美味い空気でも吸いながらと思ってな」

 ファルコは澄ました顔で目を閉じ、後頭部に手を回し仰向けに寝転んだ。プリンは誤魔化されたと見抜いたか、頬を膨らませながら彼へと近付く。

「寝付けなかったら、プリンが子守歌を歌ってあげましゅよ」
「もう子守歌で寝る程、俺はガキじゃねーよ」
「エンパイアビルでのプリンの活躍を覚えてないでしゅかっ?」
「ったく、分かった分かった」

 ファルコは苦笑に喉を鳴らし、相手の頭をぽんぽんと撫でた。実は島へ迫り来る気配に一晩中眠れていなかった。神経をピリピリさせていた彼だが、プリンが来たことで、彼女をからかう程度には落ち着くことが出来た。

(……けど、一応マリオ達には言って置いた方が良いな)

 自分達だけで無く、この島全体の命運が大きく変わる事態。そんな悪い予感がしていた。




「怪我の方は大丈夫かしら」
「包帯程度で完治出来たら苦労しないぞ。ま、お陰様で、動ける程度にまで気力は回復したけどな」
「一応、クランキーやファンキー達にみて貰いましょう」

 タイニーのその場の看病に寄り、漸く動ける様になったジャック。
 彼にとっては体の一部であろう、バネを使い箱を移動させている相手に合わせる様に、タイニーはゆっくりと歩を進めて行き、ドンキー達の家を目指す。
 その間にジャックは、横からタイニーを見る。
 もう捨てられたが、嘗てクルールに寄って作られた自分を、彼女は敵とか関係無く助けてくれた。ジャックは、処分されると分かった時からクルールに復讐を決めており、そして、同じく彼を倒そうと思っているタイニー達を仲間と認めた。そんな彼女達になら、クレムリン軍団の島破壊計画を話しても良いだろう。そう考え、話そうとした。

「タイニー、実はアイツら……」
「あら? あれは何かしら」

 タイニーがふと前方を向けば、浜辺の遠くで何やら動く影が見え、声を出してはジャックの言葉を知らずに遮った。遠すぎて何が動いているのかまでは確認出来ず、タイニーは額に手をかざしてしまう。
 話し始めようとしたジャックはそんな彼女に見開くも、仕方ないなとタイニーと同じ方向へ顔を向けた。すると、少しした後に驚く様に見開き、突如タイニーの体を大きな手で捕まえた。

「キャッ!? ち、ちょっとなん……」
「静かにしろっ」

 抵抗も無視し、自分の箱の中へと放り込んでは自分の体も箱の中に入り、蓋をした。そしてジャンプをしながら、近くの岩陰へと身を隠した。そして蓋を開くと、ボヨヨンと間抜けな音と共に、ジャックとタイニーが箱の中から顔を出した。タイニーは数秒間とは言え、箱の中は息苦しかったらしく、箱から出た瞬間に一気に酸素を取り入れた。

「ぷはぁっ。もう、いきなり何なのよっ」
「……見覚えのある影があったからな。もしかしたらクレムリン軍団かも知れない」
「クレムリン軍団ですって? 本当にアイツら懲りない……」

 岩陰から顔を出し、遠くを窺うジャックに続き、タイニーも喋りながら顔を出したが、遠くの者達の姿を見た瞬間、思わず言葉を止めてしまう。
 遠くからコング二匹が、こちらへ向かって歩いて来ている。その姿形は、タイニーも知っている。

「ドンキーに、ディディー? 二匹で散歩中なのかしら」
「タイニーの仲間か?」
「うん、そうよ。ドンキーコングとディディーコング。ジャックの言うクレムリン軍団が来るかも知れないなら、ちょっと注意して来るわ」
「待て」

 タイニーが彼らへ向かって駆け出そうとしたが、ジャックの大きな手が壁となり、鼻の頭を軽くぶつけた。ブリキが故か衝撃は小さくともかなりのダメージで、痛い余り涙目で鼻を両手で抑えた。

「もう、今度は何よっ?」
「お前、さっさアイツらをドンキー、ディディーって呼んだな……どうやらコング違いの様だぞ」
「何を言ってるの? 赤いネクタイと赤い帽子、どう見ても……」

 タイニーが言い終わる前に、遠くの者達が互いの名前を呼んでいるのが微かに聞こえた。

「この島が崩壊して行くのが楽しみだね、<ジェイス>」

 ドンキーに似たコングは、ディディーに似たコングをジェイスと呼んだ。

「これは遊びじゃ無いんだよ、<フォルズ>。任務は真面目にやってよね」

 そして、ジェイスはドンキーに似た彼をフォルズと呼んだ。
 フォルズはそう言われるも、ドンキーの様にニッと笑う。

「でも、ジェイスも任務前からワクワクしてたじゃない」

 言葉遣いは彼らそのものだが、両者共名前が違った。タイニーは、余りにも瓜二つな彼らに混乱せざるを得なかった。

「どう言うこと? ドンキーとディディーじゃない? 偽者?」
「可能性はあるな。見ろよ、奴らの後ろ」

 ジェイスとフォルズと言う名のコング達を後ろからついて来る者達がいる。トンボの様な虫の羽を持つ赤色のドラゴンと──アーミィ・ジローだった。

(! アイツ、ワタシ達が倒した筈じゃ……)

 だが驚いているのも束の間だった。

「フォルズ、影虫は頼んだよ」
「ジェイスは、アーミィ・ジロー達を任せたからね」

 二匹がそんな会話を交えた直後、全員一斉にジャングルの中へと消えた。

「! ジャングルへ……大変! 皆に知らせなきゃ!」

 ドンキー達に似たコング達が、クルールの手下達を引き連れている。そして、これから何かが始まろうとしている。それは悪い予感しかせず、一刻も早く仲間達に知らせねばと、タイニーもコング達の家を目指しジャングルの中へと急いで入って行った。

「あ。おい、待てよタイニー!」

 ジャックが言いたいことを伝える前に彼女は行ってしまった。そんな彼女に少しだけポカンと口を開けていたが、やれやれと軽く溜め息を吐いた後、箱の中へ自分の体を仕舞い込み、箱の状態で地面を跳ねながら彼女の後を追った。

「ワニ共が何を企んでいるのかはオレしか知らないからな。タイニーや彼女の仲間に、それだけは伝えて置かないとな」




「とにかく、警戒するに越したことは無いな」

 家の中にて、マリオ達はファルコの話を聞き、フォックスは真剣な表情で腕を組んだ。

「ギガ軍も来ているだろうし、もしかしたら、例のクレムリン軍団と手を組んでいる可能性も高い」
「ああ。皆で欠片を探しつつ、何としてでもこの島を守り抜こう」
「言われ無くとも!」

 マリオが拳を掌に当てながら言うと、その場にいる者全員が頷いた。

「じゃあ早速だけど、ディディー、メタナイト、マーシス、リンクは東に行って」
「分かった!」
「ああ」
「心得た」
「はいっ」
「チャンキー、C・ファルコン、スネーク、サムスは西を」
「うん……!」
「よし」
「了解」
「任せろ」
「ランキー、ピカチュウ、ピチュー、フォックス、ファルコは南に行ってくれ」
「任しとき!」
「ピッカ!」
「ピッチュウ!」
「良いぜ」
「了解だっ」
「後の僕達は北に行こう。じゃあ皆、出動ー!」

 マリオは元気に拳を振り上げた。

「……あ。そう言えばタイニーは?」

 マリオは地面に下りてから、タイニーが家にいなかったことに今気付いた。そんな彼に、同行するドンキーが即答する。

「浜辺の散歩じゃ無いかな。タイニーは浜辺を歩くのが好きだから、ほぼ毎日行ってるよ」
「そっか。じゃあタイニーは後で合流しよう」

 この後、スマメンやコング達──否、このDKアイランドで暮らす者達にとって最悪の事態が起ころうとは、今の彼らはまだ知る由も無かった。




 木々をへし折りながらジャングルを転がり移動する、鋼鉄製の巨大なタイヤの様なもの。それを外骨格とし、中から姿を現したのは、アーミィ・ジロー。彼の体からは、黒と紫の混ざった禍々しいオーラが溢れ出ていた。
 そして彼の後ろを飛んでいる赤いドラゴンも、彼と同じく怪しげなオーラを発していた。

「さーて、と」

 殻の外側からひょこっと顔を出したのは、ジェイスだ。殻の上に飛び乗り、その場から前方へ向け人差し指を突き付けた。

「アーミィ・ジロー、ドガドン、思う存分暴れちゃってよ!」

 その言葉を合図に、アーミィ・ジローの殻からは、完璧に修復された砲塔が顔を出す。そしてドガドンと呼ばれたドラゴンは、口端を僅かに歪めると、その場からハイスピードで飛んで行った。




「ここら辺で良いかな」

 フォルズは、ジャングルの中でも特に生息数が多い場所の近くで立ち止まり、茂みの中へと身を潜めた。
 象やキリン等の野生の動物達が、フォルズの気配に気付かず、のんびりと草や木の実を食べていた。
 フォルズは彼らを見ながら、グーにしていた手をゆっくりと開いて行く。フォルズの手から影虫が現れ、次々と地面へと落ちて行く。そして音も立てず移動を始め、悠々と生活を送っている動物達へゆっくりと近付いて行った。




 チャンキー、スネーク、C・ファルコン、そしてサムスは、西のジャングルを探索していた。

「……何だか、暑いな」

 C・ファルコンは、顎を流れる汗を手の甲で拭った。彼の言う通り、ここの気温が他より高く感じた。

「チャンキー、ここら一帯は気温が高いのか?」

 南の島が故に更に肌の露出を上げ、オレンジのショートパンツの姿になっているサムスだが、この場所の変化は流石に疑問に思い、チャンキーに問い掛けた。だが、この島で長いこと過ごしているが、そんなチャンキーでも困った様に小首を傾げ、鼻の頭を掻いていた。

「ここだけ特別に暑いってこと、無いと思う……」
「待て」

 スネークは警戒する様に辺りを見回している。そして、三人に振り向きこう言った。

「焦げ臭いんだ。何かが焼ける様な臭い……」
「! まさか……!」

 サムスがスネークに見開いた直後、上空から音がし、四人は一斉に顔を上げた。
 その時、火炎放射が牙を剥いてこちらへ襲い掛かって来るのが見えた。

「うぉっ!」
「くっ!」

 スネーク達は回避する為にその場から速やかに駆け出す。

「ひいぃ」

 チャンキーも怯えた声を発しながらもギリギリで避けたが、直後に頭に両手を置き蹲ってしまった。

「何てことだ、ジャングルが……!」

 先程の炎に寄り、C・ファルコン達のいるジャングルが燃え始めた。既にかなりの範囲まで燃え広がっており、人の力で消すことは不可能に近かった。
 サムスは悔しそうに歯を食いしばってから口を開く。

「気温が高いのは炎の所為だったのかっ」
「気付くのが遅いわ、間抜け共め!」

 上から声がし、その場の全員がその方向を見た。
 トンボとドラゴンが合体した様な、十メートルはあるであろう巨大な怪物が、彼らを見下しながら羽で飛んでいた。息を吐く度に、少量の炎が口から漏れ出ている。

「ワタシの名はドガドン。クルール様とジェイス様のご命令だ。この島を貴様ら諸共、ワタシの炎で灰にしてくれる!」
「クルール……クレムリン軍団の仲間かっ」

 C・ファルコンは拳を鳴らし、

「ジェイスだかジュースだか知らないが」

 スネークはスティンガーを構え、

「ジャングル、燃やす奴、許さない……!」

 チャンキーは、恐怖に身を少々震わせながらも拳を構え、

「私達で止めてみせる、必ず!」

 サムスはその場でパワードスーツを纏い、キャノンをドガドンへと向けた。




「むっ」
「!」

 急な殺気を抱き、その方向へ素早く振り向いた、マーシスとメタナイト。

「どうしました?」
「どうしたんだい、二人共?」
「!! ディディー殿! リンク殿!」
「危ない!!」

 声を上げたと同時、マーシスはディディーを咄嗟に抱き上げ、メタナイトはリンクの体を強めに押し退けた。
 するとその直後、一秒もしない内に、巨大な弾丸が横切った。少し奥で爆発した場所の木々が殆ど吹き飛び、地面も黒こげとなった。

「なっ……大砲!?」
「ウキャー! オイラ達のジャングルに何するんだよ!」

 爆発に寄る地響きがおさまった後、その光景にリンクは見開き、ディディーはマーシスの腕の中で拳を上げては怒りの声を発した。
 やがて彼らの前に現れたのは、アーミィ・ジローである。

「ア、アーミィ・ジローじゃん!」

 ディディーは、現れた相手に驚きながら指を差した。

「あいつが……ディディー殿達が相手をした、クルールの手下か」
「そうだよっ……あれ? でも、何だか様子が変だ」

 相手を見ていると、彼の体からは妖しげな色をしたオーラが発されているのが分かった。ディディー以外は初対面であるが、彼らでさえ、相手からの異常な殺気に警戒した。

「やあ、もう一匹のオイラ」

 互い睨み合っている時、ディディーと同じ声が聞こえたが、方向からして、その声の主はディディー本人では無い。
 相手を見ると、殻の向こうから何者かが顔を現した。その顔は、ディディーそのものである──目の色以外は。

「どうだい、新生アーミィ・ジローのこの姿。最高だと思わないかい?」
「え、ええっ? オイラがもう一匹!?」
「……目の色が赤い。貴様は、ディディーのクローンか」
「ジェイスだよ、宜しくね」

 メタナイトの問いに対し、ディディーのクローン──ジェイスはニッと笑んだ後、アーミィ・ジローの上で小さな手を振り挨拶をした。

「やはり、クレムリン軍団とギガ軍は手を組んでいたんですね」

 リンクは盾とマスターソードを引き抜き、構えながら相手を睨み上げた。
 他の者達もそれぞれ武器を取り出すが、ジェイスは恐れる様子も無く、その場から彼らを目線のみで眺めた。そして、これから始まる楽しい行事に期待するかの様なにやけ顔となって行く。

「へへへー。影虫の実験には持って来いな連中ばかりだからね」
「影虫……」

 マーシスは呟く様に言った。

「そうさ。影虫は、簡単に言うと操り人形の糸だよ。しかも操られた奴は、普段よりも力や能力が倍増している。凄いと思わないかい?」
「……そうか、大分分かったぞ。これまで各世界で、ギガ軍に操られていたもの──全て影虫の仕業だったのか」

 マーシスは剣を構えながら言った。

「幾らパワーアップしてようが、オイラは全然恐くないもんね!」

 ピーナッツ・ポップガンを両手に持つディディー。
 アーミィ・ジローに寄り燃やされた木々や地面を背後に、彼の目は、怒りの色を露わにしていた。

「どんな奴だろうと、オイラ達の大好きな島を滅茶苦茶にする奴は、絶対に許さないぞ!」
「メタナイト、リンク殿、行くぞっ」
「ああ」
「これ以上やらせるものかっ!」

 三人と一匹は、ジェイスとアーミィ・ジローを真っ直ぐに睨んだ。ジェイスは彼らを眺め、クスッと微笑を零した。

「精々楽しませてよね」




 影虫にやられた動物達は、一度意識を失い倒れてしまっていた。やがてゆっくりと瞼を開くと、その場にいる動物達が全員、瞳を黄色に光らせていた。
 フォルズはこの島の者達の心を全員支配しようと、生物を見掛けては影虫をばらまいて行く。

「あら? あれは……ドンキー?」

 ジャングルの中を歩いている、キャンディーとクランキー。キャンディーがふと奥を見れば、ドンキーの姿が目に映った。

「む。ドンキーじゃと? 他の仲間はどうしたんじゃ」
「……見当たらないわ。はぐれたのかしら」
「全く、ジャングルで迷うなどドンキーらしくないぞっ」

 少し叱って来るかと、クランキーは杖をつきながら、相手へゆっくりと近付いて行く。
 クランキーの気配に気付いたか、ドンキーの姿をしたものはこちらを向いた。彼の目の色が違うこと、そして様子が変と言うことに、キャンディーは悪い予感がした。

「クランキー、ちょっと待って!」

 キャンディーが駆け出したと同時、ドンキーらしき人物は掌から影虫を溢れ出させる。それらは全てクランキーをターゲットに地面を這っていく。
 クランキーはそこで異常な事態に漸く気付き、目を見開き立ち止まった。

「な、何じゃ、これはっ?」
「逃げましょう、クランキー。あのドンキー、どう見ても様子が変よ」

 キャンディーはクランキーに逃げる様提案する。クランキーは戸惑っていたが、彼女の言うことは確かだとその時思った。
 迫り来る影虫から逃げようと、ドンキー擬きとは反対の方へキャンディーと走った。
 逃げている内に、次第に息が上がって来たクランキーとキャンディー。それでも影虫は休まず追って来る。そして、やがて二匹の前を崖の壁が立ち塞がった。

「しまった、行き止まりじゃ!」

 二匹は顔を見合わせた後、後ろを振り返る。影虫は変わらないスピードでこちらへどんどん接近して来る。捕まったら何をされるのかなど見当もつかない。最早絶体絶命かと覚悟した。
 その時、突如強風が吹き荒れ、影虫達はその風に僅かながらも吹き飛ばされた。二匹も風に対し腕で顔を覆っていると、彼らの聴覚にプロペラ音が響いた。その音の正体はタルで出来たジェット機で、クランキー達の横へと着地した。

「ヘイ! 大丈夫かい、クランキーにキャンディー!」
「ファンキー!」

 ジェット機を操縦しているのは、ファンキーだった。ジャングル故に、着地する前に機体が木々へ軽くぶつかったが、彼は気にも留めなかった。
 影虫が、再び彼らへと近付いて来ているのである。

「早く乗るんだっ」
「ええ」
「助かったぞい」

 二匹が半ば慌てる様にジェット機へ乗り込んだ後、ファンキーは巧みな操縦さばきで速やかにジェット機を発進させた。その直後、彼らがいた所が影虫でいっぱいになった。
 三匹は上空から、その様子を眺めながら話を交える。

「ふぅ、間一髪じゃったのう」
「有難う、ファンキー。アナタが来てくれなかったら、私達はどうなっていたか……」
「偶々二匹のコングが何かに追いかけられているのが見えたからね。ミーのファンキープレーンにかかれば恐いもの無しだぜっ」

 ファンキーは彼らに顔だけ振り向き、親指を立てて見せた。
 そして、その手を額へ翳しながら下を見る。

「しかし見たことの無い虫だったぜ。クランキーにキャンディー、何か知っているかい?」
「私もあんなの初めて見たわよ。流石にちょっと気味が悪かったわ」
「……ワシは虫よりもドンキーが先ず気になるのう」

 クランキーは難しい表情をしながら腕を組んだ。その言葉に同感を示す為、キャンディーも真剣な表情で頷く。

「ドンキーがどうしたんだ?」
「あの虫達を放ったのはドンキー……いや、ドンキーそっくりのコングだったんじゃ」
「そっくり? ドッペルゲンガーか何かかい?」
「始めはドンキーかと思ったわ。でもドンキーがあんなことする筈無いし、それに……目が赤く見えたの」
「……これはドンキー達を探し出し、真相を確かめねばならんな」

 ファンキーは彼らの話を黙って聞いた後、ファンキープレーンを方向転換させ、物凄いスピードで飛行し始めた。

「そうと決まれば、探し出すぜ、ドンキー達を!」




 ランキー、ピカチュウ、ピチュー、フォックス、そしてファルコは、南の海岸を探索兼見張りをしていた。

「ピカッ?」

 そんな時、遠くで爆音が聞こえた気がし、いち早く気付いたピカチュウは耳をピクッと動かしてから、ジャングルの方へ素早く振り返った。

「……今何か聞こえなかったか?」

 続いてフォックスも何かの音を聞き、耳を動かした。

「ピチュッ?」
「同時に僅かな地響き……何か起こったことは恐らく間違いねぇ」

 ファルコは腕を組み、ピカチュウ達と同じ方向を向いた。

「何や何や? 事件でも起こったんか?」

 ランキーも振り向き、心配そうな表情を作る。
 暫くして、ジャングルの方から黒い煙が上がっているのが見え、フォックス達は見開いた。

「わわわっ。何が起こっとるんや!」

 ランキーはその場で短い足をバタバタさせ、頭を抱えた。

「ジャングルに何かあったのか? マリオ達は一体どうしたんだ……!」

 フォックスは目を細め、ピカチュウやピチューは怒り顔の中、頬袋から電気をパチパチさせていた。
 そして、ファルコは腕を組んだまま、フォックスに振り向く。

「どうする、スマブラ副隊長?」
「……行こう。何か、途轍もなく嫌な予感がするんだ」
「ああ、俺もだぜ」

 フォックス達はジャングルへと引き返し、ダッシュする。

「あ! 待ちーな、フォックス! 皆!」

 置いて行かれたランキーはその場で慌てふためいてから、彼らの後を追った。
 彼らが去った後、大きなハリセンボンの様な生き物が海から覗く様に現れたが、暫くしてから再び海の中へと潜った。




「む。あそこにおったぞ!」

 ファンキー達を乗せたファンキープレーンの下は広大なジャングル。クランキーは双眼鏡を使い上から眺めていると、ドンキーの姿が見えた為に咄嗟に指を差し声を上げた。

「……また偽者ってことは無いかしら」
「心配要らないぜ。何かあったらミーの出番だ!」
「では行くとするか。頼むぞ、ファンキー」

 ファンキーは親指を立てて返事をした後、ファンキープレーンをドンキー達のいるとこ目指し飛行させた。
 マリオ、ドンキー、ネス、ラフィット、プリン、そしてカービィが歩いていた。
 ネスは辺りを見回すと、ジャングルに住む生物達が妙に騒がしいのが気になった。

「隊長、生物達が何か怯えてる」

 マリオの隣へ移動するとそう口を開いた。

「生物達が?」
「うん。何かから必死で逃げている様な気がして……」
「僕も、確かにそう感じる」

 ラフィットは、ネスの言葉に頷いた。

「……あ!」
「ん。ドンキー?」

 ドンキーがふと上を見上げると不意に声を発し、マリオ達は彼に顔を向けた。全員見上げると、ファンキープレーンがこちらへ向かって飛行して来ているのが、全員に見えた。

「ウッホ! あれはファンキーの乗り物のファンキープレーンだよ!」
「一体何があったんだろう?」

 木々にぶつかっていた為に、ファンキープレーンのあちこちが傷だらけなのをマリオは見、ただ事じゃないと見ていた。
 そしてファンキープレーンが彼らの横へ着陸すると、三匹のコングが降りて来た。

「ヘイ、マリオ達! 怪我は無いか?」
「怪我? いや、僕達は大丈夫だよ」
「ドンキー! 一つ聞きたいことがある」
「……ボクに?」

 クランキーからの突如の質問に、ドンキーは目を丸くしながら自分に指差した。クランキーは真剣な表情を見せ、杖の先端を相手へと向けた。

「……出発した時からずっとマリオ達といたか?」
「? うん、いたよ」

 ドンキーは躊躇い無く、首を縦に大きく揺らした。

「ドンキーしゃんはずっとプリン達といたでしゅよ」

 プリンからもハッキリと言った。彼女達の言うことに、嘘偽りは無い様である。

「やっぱり、あのドンキー……ドンキーみたいなコングはそっくりさんか、偽者なのね」
「偽者? ちょっと待って、キャンディー。それってまさか……」
「ギガ軍のクローンかも知れないね」

 マリオの問いに答えたのは、ラフィットだった。

「どうして分かるんでしゅか?」

 そんな彼に、プリンは見上げた。

「さっきネスも感じてた、生物達の怯え様……その答えが今、お出ましだよ」

 ラフィットが人差し指で指し示した方向に、全員が振り向いた。
 森の奥に幾つかのシルエットがあり、暴れ回っている様に見えた。象やサイ等が木々に突進してはなぎ倒し、鳥等の小動物は木の実を地面へ次々と落としては潰して行く等、驚愕せざるを得ない事態をマリオ達に見せていた。

「ウホー! やめてよ! 何てことするんだよー!」

 怒り顔のドンキーはその場で地面を踏み鳴らしていた。

「……なんかあの動物達、変な色してない!?」

 カービィが声を上げた。
 暴走している動物達は皆体から紫色のオーラを発し、目は黄色に怪しく光っていた。
 それを見て、ラフィットは目を細める。

「間違いない。彼らは、ギガ軍が作り出した影虫を取り込まれたんだよ」
「影虫……」
「それを取り込まれた生物は操られるだけじゃない、力も増幅されてしまうんだ」
「あいつらは影虫と言うのか。ワシらももう少しで、あの動物達と同じ様にになっていたと言うことなのじゃな」
「ええっクランキー達もっ?」

 カービィはそう言ったクランキーに驚いた。

「ラフィットしゃん、どうしたら影虫を動物達から追い出せましゅか?」

 ラフィットに問うプリンの表情もまた、怒りの色に染まっていた。
 生物達が自分の意思を乗っ取られ、ギガ軍のオモチャの様にされている。そんな光景を目の当たりにし、悲しみとギガ軍に対する怒りに、全員が満ちていた。
 ラフィットは考える為に暫く無言でいた後、口を開いた。

「僕、影虫を扱ったこと無いんだよ。でも、この影虫を放った奴を見つけ出せば、きっと……」
「そっか。それじゃあ……」

 マリオは口を開いた。

「僕とドンキー、ラフィットで、影虫を放った張本人を見つけ出そう」
「ウッホ! 分かった!」
「分かったよ」
「プリン、カービィ、ネスは、影虫に操られてる動物達を頼んだ。但し、倒すんじゃなく、あくまで全員気絶状態にすること。分かった?」
「了解でしゅ!」
「よーしっ」
「隊長達も気を付けてね」

 マリオは口端を緩く上げては仲間達に頷いた後、最後にキャンディー達に振り返った。

「キャンディー達はどこか安全な場所を見つけては避難して。今の所、ここのジャングルは危険だからね」
「オーケーっ。ミーのファンキープレーンで、なるべく人が来なさそうな場所へ二匹を連れて行くぜ」

 ファンキーは白い歯を見せ笑顔を見せた。マリオはそれに微笑んだが、悲しげな感情が顔に少しずつ出て来ているのに今気付いた。その感情は、関係無い者達を巻き込んでしまったことに寄る罪悪感だった。

「……この島に平和が戻ったら、皆で改めてバナナパーティを開きましょう?」

 キャンディーは彼の心境を見抜いたか、片目を閉じるとそう言った。

「そうじゃのう。あのワニ共の所為で、パーティを中断させられてしまったからのう」

 クランキーは顎髭を撫でながら何度も頷いた。
 マリオは自分が頑張らなければならないのに、危険に曝されている島に暮らす者達に励まされるとはと思ったが、その言葉に、お陰様で元気を取り戻したのも確かだった。

「わーいっ。じゃあ早速行動開始だーっ!」

 バナナパーティと聞いてカービィは更なる張り切り振りを見せ、一足お先に走り出した。

「ち、ちょっとカービィ! 先に行かないでくだしゃい!」
「……いい、プリン。このまま作戦開始だ。一刻の猶予も無いからね」

 マリオはそう言うが、カービィが先に行ってしまったことに寄り、半ば慌てた喋り方になっていた。
 そして、マリオ達も行動を始めた。




 フォルズは影虫を手から無限に出し、次々と動物達を洗脳して行く。その最中、遠くから複数の人数でこちらへ駆けて来る足音が聞こえ、そちらへ振り返った。

「やめるんだ!」

 マリオ達が到着したのである。
 そしてドンキーは、自分の姿そのものであるフォルズを見て目を真ん丸にさせた。

「!? えええ、ボクがもう一人? ボクって双子がいたの?」
「……ドンキーのクローンだよ。あの目の色──間違い無い」

 ラフィットは相手の目の色を、その場から見定めた。

「……君達もこの影虫を味わってみる?」

 フォルズは体をマリオ達へ向かせた後、相手へと指を差すことで、彼の傍で蠢く影虫達の矛先をマリオ達へと変更させた。クランキー達の時の数倍ものの速さで向かって来る。
 その時、驚きの顔を乗せているマリオ達の前にシールドが現れ、影虫はそのシールドにぶつかっては次々と消滅して行った。その様子に、シールドを貼ったラフィットへフォルズは目を細めた。

「ディバ隊長やデークから聞いたよ。マリオ達の味方になった、裏切り者のクローンがいるって」
「……君は確か<フォルズ>だね?」
「ラフィットを退治したら、きっと隊長から沢山のバナナを貰える。だから、ここでマリオやドンキーごと倒すよ。覚悟しておいてね」

 フォルズは、大きな拳同士をぶつけ合いながら彼らを睨み上げた。

「覚悟? それはこっちの台詞だ!」
「ボクのクローン、キャンディー達を危険な目に遭わせたことは、絶対に許さないよ!」

 ドンキーはフォルズと同じ仕草をし、ラフィットは光を溢れさせる指を突き付け、マリオは拳を構えた。




 マリオ達がクローンやクルールの手下達との激戦を繰り広げている間、タイニーはドンキー達を探していた。ドンキー達の家に戻っても誰もいなかった為、広大なジャングルをひたすら走っていた。

「はぁ、はぁ……皆、どこにいるのよ……!」

 大分走った所為で息が上がり、大声で発する気力も無くなってしまっていた。

「他人が心配なのは分かるが、自分の心配もして置いた方が良いぞ」

 追い付いた箱から、ジャックがビックリ箱の如く顔を出し、タイニーを見下ろす。

「でも、早く皆伝えなきゃ……っ」
「……いや、既に始まってると思うぞ。見ろよ、あの煙」
「煙?」

 ジャックが指を差した先を見ると、少し遠くで、広範囲で黒い煙が上がっているのが見えた。それが視界に入ると、タイニーは驚愕した。

「酷いわ、ジャングルが燃えてるじゃない!」
「あんなに目立った煙に気付かない奴は恐らくいないな」
「このままじゃ、ワタシ達の故郷を全部燃やされてしまうわ! 何とかして止めなきゃ……っ」
「炎はかなり拡大してる。止めるなんて時間の無駄だぜ」

 ジャックの今の言葉はタイニーの耳にしっかりと入り、タイニーはジャックに振り返ると、思わず声を上げてしまった。

「何よ、その言い方……それに、時間の無駄? どうしてそんなこと言うの? ここはジャックの故郷じゃないからそんなこと言えるって訳なのっ?」

 彼女の言葉を気にせず、ジャックは島の本当の危機を伝える為に言葉を続けようとした。

「タイニー、良く聞け。この島は……」
「聞きたくないわ。アナタがそんな人だっただ何て……いえ、元々はクルールの手下だったものね。ワタシ達の島はどうだって良いのよね!」

 彼の言葉に深く傷付いたタイニーの目からは涙が滲み出ている。ジャックは彼女の涙に少しだけ驚いた。
 そんな彼に構わず、タイニーは背中を向けた。

「もう良いわ。皆と一緒にこの島を何とかするっ。アナタはどこかに避難でもしてると良いわ!」
「タイニー、待てよっ!」
「放って置いて!! たかがオモチャの癖にっ!!」
「!!」

 ジャックは彼女の言葉に寄り、心に重石が急にのし掛かって来た感覚に陥った。タイニーは思わず口から出てしまった言葉に一瞬ハッとしたが、何一つ言わずに走り去って行ってしまった。
 初めて出来た<友達>。初めて味わった<絶交>。確かにジャックはオモチャなのに変わりないが、彼女の言葉で初めての気持ちを抱いた。

(タイニー……)

 顔に似合わないのは分かっているが、今のジャックは顔を伏せる以外にする気力も無くなっていた。




 タイニーは仲間達を目指し足を動かしていたが、ジャックに対する罪悪感は引き摺っていた。

(少し言い過ぎちゃったかな……)

 感情的になってしまい、酷いことを言ってしまったことにタイニーは後悔していた。だが、あの言い方はどうかとも思い、彼女の心境は複雑だった。
 暫く走っていると、遠くから誰かの話し声が聞こえた。仲間の声では無く、初めて聞く声で、タイニーは思わず足を止めては木の影に隠れた。

「ここら辺の動物達は何とかなったな」
「フォルズ様、見た目は間抜け面だが、仕事は早い方からな」

 ワイヤーで作られたかの様な、見たことの無い人物が二人、何やら話を交えている。タイニーはその場で耳を傾け続けた。

「後は憎きマリオやドンキー達を吹っ飛ばせば良いんだな……しかし、まさかクルール様のブラストマティックが壊れるとはなぁ」
(ブラストマティック……?)
「まぁ良いじゃないか。影虫に慣れる良い機会だ。この島丸ごとぶっ壊せると言うブラストマティックの修理が終わるのも、時間の問題だしな。それまでは、クルール様の手下や影虫を使って時間稼ぎだ」
(! この島を壊せるもの……ですって……!?)

 タイニーはとんでもない話を聞いたと、鼓動を激しく動かしていた。
 そしてまた、気付いたことがあった。

(もしかして、あの時のジャックはこのことを伝えたかったの?)

 そう考えれば、今の島への敵襲はただの囮だと分かる。ジャックは、今の島を何とかするより先にやらねばならないことを伝えたかったのではと、タイニーは漸く理解した。
 ジャックの言い方には思わずカチンと来てしまったが、あれは彼なりの言い方だったのかも知れない。タイニーは、今すぐ謝りたい気持ちでいっぱいだった。
 だが──、

(ジャック、ごめんね。皆にこのことを伝えたら、必ず貴方に会って謝るから……!)

 今は一刻を争うのだ。
 罪悪感と後悔に滲み出る涙を小さな腕で拭った後、タイニーはマリオ達に伝えるべくその儘ジャングルを駆けて行った。










 ──to be continued──