恐怖のエンパイアビル








 太陽の色をした髪を持った少年──リュカは、丘の上に二つ並ぶ墓石の前に立っていた。左側の墓石は、自分の母親の名前である、ヒナワと言う文字が刻まれている大きめの墓。もう一つは、左の墓より一回り程小さめの墓だ。
 リュカは、そのお墓の名前を見ようとした。だが名前を読もうとしたその時、小さい方の墓石の上から、ビシッと言う音と共に大きな皹が入り、リュカが驚く間もなく、独りでに粉々に破壊されたのだった。

「ん……」

 空飛ぶリムジンの中で、気付けばリュカは眠りについている。その夢を見ながら僅かに声を漏らした事に、隣のネスは振り向いた。リュカはネスの方に寄り掛かって眠っているのだが、ネスは気に留めず、寧ろ寝かせてあげようとそのまま見守っていた。
 これからいよいよ最後の針の元へ向かう訳だが、今日で様々な出来事が起こった。ドラゴ、イオニア、そして──クラウス。悲しみの波が一気に押し寄せた為、疲れ切ってしまっては深い眠りに落ちている。そんな少年を起こそうと思っているスマメンは、一人もいなかった。

「可哀想に。疲れてしまったんでしゅね」

 気の毒そうな顔をしながら、リュカ達とは向かい側の席に着いているプリンはリュカを見守る。

「眠っている間は、心が整理されると言われてる。今はそっとしておいてあげるのが一番だ」

 マリオは腕と足を組みながら、彼に顔を向けて言った。
 ネスが膝の上に乗せているリュックがごそごそ動き出したと思えば、どせいさんが顔を出し、そのままリュックから外に出た。

「どうしたの、どせいさん? お腹空いたの?」

 ネスは、リュカを起こさない様に気を付けつつ、小声でどせいさんに話し掛けた。
 どせいさんはリュカのポケットに鼻を擦り付けている。リュカは時々声を漏らす程度で、起きる気配は未だ無い。その間に、どせいさんの鼻は、リュカのポケットからバッジを取り出したのだ。

「そのバッジは?」
「このばっじをぴかぴかにします。きっとなにかのやくにたちます」

 問うて来たマリオに対し、バッジを鼻の上に乗せたまま顔を向けるどせいさん。そう言った後はもう何も言わず、ゴソゴソとネスのリュックの中へと戻って行った。

「見えてまいりました。あちらがニューポークシティとなります」

 ハンドルを握り運転中の運転手は、話しながら後ろへ一瞥した後、再び前を向いた。
 ネスとリュカを除いたファンシーズが、好奇心に我れ先にと窓の外を見た。大人組もゆるりとした動作で、ファンシーズと同じく窓の外を見遣る。

「うわあああすごおおおおい!」

 ファンシーズは驚きと感動に声を思わず上げてしまった。
 ニューポークシティは、正に『都会』と言う言葉が合っていた。高層ビルが立ち並び、また、建物のネオンが輝いていた。更には映画館、レストラン、ゲームセンター、そして真ん中の奥には、空より高いとも言える程の超高層ビルが建っていた。

「……」
「どうしました、スネークさん?」
「いや、あの建物、少し気になってな」

 スネークは都会と言うものには見慣れているからか、気になった建物だけを見ていた。リンクがスネークの目線を追うと、ここから見てニューポークシティの少し奥に、白い長四角な建物があった。

「何かの研究所にも見えるんだ」
「……確かに、他の建物と少し雰囲気が違いますね」
「一見は都会。けど、敵もいるってことは常に覚えて置くべきだな」

 後ろから見ていたフォックスが言った。

「ん、ぁ?」

 丁度良いタイミングと言うべきか、周りの騒ぎに、リュカは夢から漸く覚めた。それに気付いたネスはリュカを見る。

「あ、リュカ。もう直ぐ着くよ」
「……あっ、いつの間にか寝ちゃってた! ごめん、ネス……」
「気にしなくて大丈夫だよ」

 眠ってしまったことに反省するリュカに対し、ネスはそう返事してはニコッと笑った。
 リムジンはニューポークシティの駐車場へゆっくりと降りて行き、僅かな振動を起こしつつ着陸した。運転手が降り、速やかにドアをカチャリと開いた。マリオが最初に降り、都会を眺めている間に、残りのスマメンも全員リムジンから降りた。

(……まだほんの僅かだが、欠片の気配を確かに感じるな)

 マーシスは降りた後に意識を集中させれば、欠片の気配を感じていた。
 恐らく、リュカ達の住む世界では、ここが全ての終着点となるだろうと、マーシスは思った。

「ポーキー様は、エンパイアポーキービルにおられます」

 運転手は、エンパイアポーキービルと言う場所を手の平で指し示した。マリオ達が全員同じ方向を向けば、奥に建てられている超高層ビルが目に映った。ビルの屋上は雲に隠れており、如何に高いかを物語っている。

「それでは私はこれで。ご武運をお祈り致します、スマッシュブラザーズ様」

 丁寧にお辞儀をした後、運転手は異常に長いリムジンを浮かばせ、そのまま行ってしまった。

『ようこそ、おバカな集団の皆さん』

 その時、上空から再び放送が入った。お馴染み、ポーキーの声である。

『ぼくは百階にいる。ここまで来れたら褒めてあげるよ。その後にお仕置きがあるけどね。ケッケッケ! ゴホッゴホッ』

 何回かの咳を残し、ポーキーの放送は終わった。

「挑発のつもりか? 乗ってやろうじゃん!」

 マリオは半目で腕を組み、エンパイアポーキービルをその場から睨み上げた。

「……」

 一方、ネスやリュカは思い詰めるかの様に、ただ静かに、マリオと同じビルを見上げていた。

「よし、行くぞ、皆!」

 全員の返事を聞く前にマリオは既にビルに向かって走り出していた。だがスマメンも直ぐに彼に続いたのだった。
 そして、エンパイアポーキービルの玄関前まで来た。スマメンは全員その場で一端立ち止まり、マリオはその場からビルを見上げた。首が痛くなる程に思い切り見上げてみれば、かなりの圧倒的高さに見開く。

「近くで見ると本当凄いな……」
「百階か。何か待ち受けていることは確かだろう」
「気を引き締めて行かないとな」

 スネークとC・ファルコンも軽く見上げながら言った。

「ヒヒッ。お待ちしておりましたよ、スマッシュブラザーズの皆様?」

 この聞き覚えのある、皮肉った声。いつからそこにいたのか、マリオ達とビルの玄関の間に、ディバが優雅にお辞儀をしながら歓迎していた。

「ディバ! やっぱりギガ軍も来ていたんだな!?」

 マリオが声を上げると、ディバは顔を上げればクスリと苦笑を零した。

「予想はしてたんでしょ? ま、そんな事より、だ。僕の部下達が、早く君達をぶっ倒したくてウズウズしてるんだよ、キマイラ達と共にね」
「! キマイラ……?」

 この世界に来て初めて聞いた言葉に、マリオ達は僅かに動揺した。

「それはこのビルに入ってからのお楽しみだよ。思う存分に楽しんで、百階を目指してってね──どうぞ百階に到達する前に死なない様に。皇帝様も退屈なされるだろうからね。ひひひっ」

 ディバはそう言いながら、眉根を寄せ嫌味ったらしい笑顔をマリオ達に向けた後、マントを翻す。その瞬間、ディバの姿は無くなった。

「……上等だ! 遊んでやる!」

 マリオも、消え去ったディバに向けて同じく嫌味含んだ笑みを返した後、武者震いをしつつ、スマメン達と共にビルの中へと突入して行った。
 広々としたロビーに広く敷かれた赤い絨毯。赤い絨毯の先には、大きなエレベーターがあった。

『おバカなスマッシュブラザーズの諸君、そこから百階までお越しくださーい。成る可く早く来るんだよ? ぼくが退屈で死にそうになるからさ。アハハハ!』

 挑発しているのは分っているものの、マリオは思わずムッとした顔になってしまう。だが、今は上を目指さねばと頭を振った。
 全員がエレベーター前まで来ると、エレベーターが自動的に開いた。中には誰もいない。そしてスマメン達が吸い込まれる様にエレベーター内へ入ると、チンッと言う音と共に扉が閉まり、上へ上へと上がって行った。
 だが、二十階まで来たところでエレベーターは止まってしまう。

「……そう簡単に百階には行かせてくれないでしょうね」

 リンクは軽くため息を吐いた。それでも何が待ち受けているかはまだ分らない為、マリオ達は扉を睨みつつ、気を引き締め身構えた。
 そして扉が開いたと同時に酷い悪臭が襲い、マリオ達は思わず口と鼻を抑えてしまった。

「うっぷ……何だこの臭い!?」
『ゴミ溜めのとこに来ちゃったみたいだね? そこにいるゴミと戦う物好きさんは誰かな? 退屈させるなよ?』

 ロビーと同じ位に広々とした場所だが、床のほぼ一面が大量のゴミしか無く、所々ゴミの山が出来ており、おまけに蝿が何匹か集っている。
 ポーキーの言う通り、とにかくゴミ溜めと言わざるを得ない部屋だった。

「……ゴミ溜めでも食べ物とかあったら良いなぁ」

 と、呑気にそんなことを言いながら最初に入り込んだのはカービィだ。
 カービィは最初はマリオ達の様子を見ていたが、誰も入ろうとはしない(それは仕方無いと思われる)と分ると、先に自らこの部屋へと入った。
 この部屋に行く者が出て来ない限り、エレベーターはこれ以上上へは行かないだろうと、これまでスマッシュ戦士としての戦いが長くなると少しでも頭がさえたのか、カービィはそう思ったのである。

「ピッカ?」
「ピィチュ!」

 ピカチュウやピチューも、何故か吊られる様に部屋へ入ってしまう。
 その瞬間、まるで何名かが出て行くのを待っていたかの様に、エレベーターの扉が閉まってしまった。その音にカービィ達は驚き、反射的に振り返った。

「ピカ!?」
「あれ? どうやら僕達がこのゴミ溜めで戦う事になっちゃったみたいだね」
「ピチュー……」

 態とらしく頭を掻きながら言うカービィに、ピチューは呆れて耳を垂らすしか無かった。
 そしてゴミだらけの部屋を眺めていると、ふと、見覚えのある物体が倒れているのがカービィ達の目に映る。カービィ達は一度見合わせ、タッタッタッと近付いた。
 近付いてみると、それは粘土の塊だった。あちこち汚れが目立ち、見た目は良いとは到底思えなかったが、何故かカービィ達はそれに見覚えがあった。

「この粘土、もしかしたら、ネンドじん……?」

 カービィは更に近付き、粘土の塊を手で軽くつつきながら言った。

「ようこそ、カービィくん達?」

 そんな時、上辺りから声がした為、カービィ達はハッと上の方を見た。
 粘土の塊の後ろは、この部屋で最も高いゴミの山。その頂上に現れたのは、カービィ達のクローンだ。
 カービィは彼等を見ると目を丸くしながらこう言った。

「リズ! 後は誰だっけ!」
「ピッ!?」
「ピィッチュウ!」

 どうやら頭がさえていたのは一時だけだった様だ。カービィは、自分のクローンであるリズの名前は覚えているが、リズ以外のクローンはどうでも良いらしい。その為、リズ以外の名前は覚えていない様だ。
 それを聞いて怒ったのは、ピカチュウのクローン──クルヴィと、ピチューのクローン──ジッティである。そんな二匹に構わず、リズは口端を上げながら続けた。

「僕の名前だけでも覚えててくれて嬉しいね。それより、君達にやられ、ヨクバ達にまで捨てられた、このネンドじんの怨念、とくと味わうが良いよ!」

 リズはその場から、粘土の塊に小さな手を向ける。するとその手から、紫の粒の様な虫が無数に溢れ出し、蠢動しながら粘土の塊へ近付いて行き、全身を包み込んでいく。

「な、何あれ? 虫?」

 虫系が少し苦手なカービィは、顔に青筋を引き一歩退きながら様子を見る。
 全身を覆った紫の虫が、やがて粘土の塊の中へと消えていった。すると、粘土の塊が次第にネンドじんへと形を変え、目を黄色く光らせた。独特の低い唸り声を上げながら、ネンドじんがゆっくりと立ち上がった。

「ネンドじんが動いたっ!?」
「ピッ!」
「ピィチュウ!」

 カービィが驚いている横で、電気ネズミの二匹は既に身構えており、頬からバチバチと放電させていた。

「思う存分遊んであげな!」
「ムオオォン……」

 リズは小さな手を思い切り前へと振った。ネンドじんが声を上げながら、カービィ達へ向かってゆっくりと歩いて来た。




 カービィ、ピカチュウ、ピチューを部屋へ残し、マリオ達を乗せたエレベーターは上へと上がって行く。

「……先程の部屋に敵の気配を感じた。この先も、恐らく……」
「そうだな。ギガ軍も待っているそうだから、油断しちゃ駄目だ」

 マーシスとマリオは、そんな話を交わした。
 エレベーターは四十階の所でゆっくりと停止して行った。

「やれやれ、今度は何が待ち受けてるってんだ」

 ファルコは肩を竦め、溜め息を吐いた。
 そして扉が開くと、鉄の壁以外は草や池が広がっている場所へ出た。

「……カービィ殿達の時の様に、誰かが降りないと上へ行かない様だな」
「へっ! なら、俺が相手してやるぜ」
「ファルコしゃんが行くなら、プリンも行きましゅ!」
「私も行こう」

 四十階へ降りるのは、ファルコ、プリン、サムスとなった。
 マリオ達に見送られる中、リュカは彼等を心配な表情で見守る。サムスはそんな彼を見ると、エレベーターから出る直前、彼の頭に手を置いてから降りた。リュカは、頭に手を優しく置かれた事で不思議と安心感が込み上がった。絶対彼等は大丈夫だと。頭に両手で触れながらリュカは微笑む。
 三人が部屋に入った直後、エレベーターの扉は閉まった。

「はん。おめえらが来たか」
「待ち草臥れたでしゅよー!」
「……」

 上から三人の敵が現れる。ファルコ達の目の前には、三人のクローン。ファルコのクローン──ジビンダー、プリンのクローン──クーシー、そして……、

「! 私のクローンか……っ」

 サムスは自分と同じ姿をした相手に対し僅かに見開く。遂に自分のクローンも現れたかと思うと、いつもより警戒心を深めた。

「……ヴェンテだ」

 一方サムスのクローン──ヴェンテは、血の色の瞳で鋭く見下ろし、冷めた声でその一言を発したきり後は何も言わず、鞭を一度振るっては戦闘態勢に入った。

「クーシー達と一緒に相手をしてもらうのはコイツでしゅ。出て来るでしゅよ!」

 クーシーは赤い目を池の方へと向けた。
 ザバァッと水しぶきと共に水の中から現れたのはライオンだった。だが、体の所々が機械化されている。そんなライオンは唸り声を上げ、ファルコ達を睨み付けながら近付いて行く。

「何だコイツは。半分メカになってるぞ」

 ファルコはブラスターを片手にぶら下げながらライオンを見る。

「……」

 サムスは目を細めながらそのライオンを見つめ、とあることがふと脳内を過った。

「この姿……まるで話に聞いた、機械にされたドラゴの様だ」
「お前の言う通り、ドラゴと同じ実験をされた動物だ。無機物と有機物を合成させ、どこまで使えるか、のな」

 動物への扱いを何とも思っていないらしく、ジビンダーは淡々と説明する。それを聞いたサムスの心の底からは、怒りの炎が沸々と沸いて来ている。
 無論、他の二人も怒りを心頭させた。それを代表するかの如く、プリンが怒りの形相のまま一歩前に出ると、

「あなた達は、動物を……生き物をなんだと思ってるんでしゅか!!」

 そう言われたのにも関わらず、クローン達は涼しい顔で相手を見下ろす。

「ふん」




「機械化されても生きてるんだから別にいーだろうが」
「それでも苦しんでいるのは事実だ! お前達を絶対に許す訳にはいかないぞ!」

 六十階の部屋は、雪が積もっている、真っ白な部屋だった。雪は全て人工雪に寄るものだが、まるで極寒の世界である。
 だが、これまでの経験を重ね、心身共に鍛えられたスマッシュ戦士達は、これ位平気でいられるであろう。
 その部屋に降りたのは、C・ファルコン、メタナイト、そしてリンクだ。
 三人が降りた後、C・ファルコンのクローン──フーディアン、メタナイトのクローン──フビル、そして、リンクのクローン──ミエールが現れた。
 互いの間に現れたのは、両手に鉄球を持った、メカ化されたゴリラである。C・ファルコンと同じ位の身長だが、両手に持っている巨大な鉄球は、振り回され餌食となれば、流石のスマッシュ戦士も一溜まりもないだろう。メカゴリラも元は極普通のゴリラで、メカへ改造された生き物だ。その説明を聞き、サムス達と同様、C・ファルコン達も怒りの感情を露にし、C・ファルコンが言い放った。

「だけど、そんな実験台を相手にするのは貴方達ですよ?」
「! っく……」

 ミエールが相手を見据えながらお返しにと言わんばかりに言い放てば、リンク達は言葉に詰まってしまう。そんな彼等を見ると、ミエールは勝ち気に鼻で笑い、皮肉たっぷりに続ける。

「この哀れな実験台を貴方達の手で倒すか、それとも実験台に倒されるか、御好きに選ぶと良いですよ。正義の味方の皆々様方」

 ミエールが指を鳴らすと、それを合図に、雪の所々から紫色の虫が大量に現れ、メカゴリラの方へ集まって行き、軈て全身を覆って行く。

「なっ……何ですか、アレは……っ?」
「……以前、サムスの世界で見た事があるが……」

 リンクがぎょっとして訊き、メタナイトはそれらを凝視しながら言った。
 そう、この紫の虫達は、以前サムスの世界での怪物達を強化させたものと同じなのである。

「あの時と一緒にされては困りますね」

 ミエールは怪し気な笑みを描きながら呟く様に言った。
 そして紫の虫が消えた瞬間、メカゴリラは目を黄色に光らせ、声を荒げながら、C・ファルコンの倍程に巨大化した。それにリンク達は驚き、咄嗟に戦闘体勢に入る。
 メカゴリラは目を光らせ、鉄球を両手に、振動を繰り返しながら三人へ近付いて行った。

「ハァッハハハ! この真っ白い部屋を貴様らの血で真っ赤にしてやる!」

 舌なめずりをしているフーディアンの狂気な笑い声が、部屋中に響き渡った。




 マリオの仲間達が、エレベーターが止まる毎に減って行く。これも、リュカの前に道を作る為だ。
 案の定と言うべきか、エレベーターは80階間近でスピードが下がり始めていている。マリオ達は、気を引き締めた。

「!」

 その時、ネスは何かを感じ取った。それは心に直線話し掛けている様で、誰かが呼んでいる感覚だった。

「……隊長、この部屋に入る人、僕が決めて良い?」
「えっ?」

 ネスの唐突な言葉に、マリオは思わずキョトンとしてしまった。フォックス達の目線も、ネスに集中する。

「何でだ?」
「お願い、僕に決めさせて」

 ネスがそう言いながら真剣な顔を向けてくる。マリオはジッと彼を見て、何か事情があるのかと思い、

「……まあ、良いけど」

 腰に手を当てながら言い、それからはネスに任せる事にした。
 ネスは一度目を閉じた。心に聞こえた名前達を思い出して行く。そして瞼を開くと、指定するスマッシュ戦士に一人ずつ顔を向けた。

「隊長、狐のお兄ちゃん、蛇のおじちゃん、そして僕で行きたい」
「……どう言う法則でそうなったんだ?」

 フォックスは疑問を抱き、腕を組んだ。
 そう言われるネスだが、本人も分かっていない……と言う訳でも無いが、それは勘違いかも知れない為に、答える自信も無く、首を横に振るしかなかった。

「それは、分らない……けど、この扉の向こうから、誰かが僕達を呼んでるんだよ……このメンバーでね」
「……何だか良く分らないけど、どの道誰かが行かなきゃならないしな。それじゃあ僕とフォックス、スネーク、ネスで行くぞ!」

 マリオはエレベーターにいる者達に振り返ると、全員、隊長の言葉を受け入れた。

「ぷー」

 ネスが背負っているリュックが動くと、どせいさんが顔を出した、鼻の上にバッジを乗せて。
 どせいさんは、その場からリュカをジッと見上げている。リュカはどせいさんとバッジを交互に見た後、ふと自分のポケットの中を探り始める。

「……あ。バッジがいつの間に……!」
「かってにあずかっていました。ぴかぴかになったので、おかえしします」

 どせいさんに言われたリュカは、拾った時よりピカピカになったバッジを受け取った。白いバッジに黒い枠が入っており、真ん中には稲妻が描かれていた。

「だいじにしてください」
「うん。有難う、どせいさん」

 リュカは微笑んで感謝すると、どせいさんの頭に手をぽんぽんと置いた。
 どせいさんはネス達に振り向き、がんばるです、と一言残し、リュックの中へと戻って行った。
 それと同時のタイミングで、エレベーターが待っていたかの様に、チンっと言う音と共に止まった。

「皆、気を付けるのだぞ」
「無事に勝って、追って来いよなっ」
「皆、頑張ってねっ」
「おう!」

 残りのメンバーである、クマトラ、ダスター、マーシス、そしてリュカに見送られ、マリオ達は扉が開いたと同時にその場から飛び出した。
 そこは、真っ暗だった。完全な闇でも無く、仄かに青色っぽい空間で、何やら色々な物が置かれていたり、天井から何かをぶら下げている様にも見える。が、今の視界ではそれらはただのシルエットに過ぎず、結局何があるのかが判断出来ないでいた。

「うっ、暗いな……」
「何かあるっぽいけど良く解らない……」
「皆、油断するな」
「……」

 スネークがその場で赤外線ゴーグルを取り出し、罠等の仕掛けが無いかどうか確認しようと思ったその時、暗闇が電気に寄って消え去り、部屋の様々な色がマリオ達の視界を刺激した。
 この部屋は、オモチャで溢れ返っていた。床に無造作にあるぬいぐるみ達の中には、ライオンにゴリラ、ネンドじん、そしてドラゴのぬいぐるみもある。天井に吊されたオモチャの飛行機は円を描いて延々と飛行し、部屋の隅っこには、未開封である数多くのプレゼントが放置されている様に見える。

「な、何だここ?」
「子供部屋か? 何でこんな部屋が……」

 マリオ達が話す中、ネスは、ある物が目に映った。部屋の奥にあり、その場からでは判断出来かねるが、それはガラスの中に飾られており、他のオモチャよりも大切に扱われている様だ。ネスはそれが気になり、もっと良く確認しようと一歩歩き出そうとした。
 だがその時だ。どこからか恐怖を感じさせる唸り声と共に、のしっのしっと重量感のある音が聞こえて来た。マリオ達は警戒心を一気に高め、その場で素早く身構える。
 沢山積み重なったプレゼントの山を崩しながらそれは現れる。天井に付くか付かないかの巨大な何かだが、一目見たマリオ達の脳内は「ヤバい」の一言しか出なかった。
 全身ピンク色だが、殺意溢れた黄色く光る鋭い目を持ち、紫のコウモリの様な翼を持ち、口は巨大で鋭い歯が並んでいる。頭に何故か小さなヒヨコが乗っているが、それ以外は凶暴な怪物に見えた。

「この世界での実験台で最も凶暴と言われている、『きゅうきょくキマイラ』だ」
「食らいつかれたら、あっと言う間に最期を迎える」
「!」

 突如怪物の後ろから聞き覚えのある声が聞こえ、マリオ達はきゅうきょくキマイラと同時に睨み付ける。

「デーク……!」
「そしてガフィかっ!」

 隠れる気も無いらしく、きゅうきょくキマイラの後ろから、フォックスのクローン──ガフィと、マリオのクローン──デークが、ニヤリとした笑みを乗せて現れた。

「都会にあるあの白い建物はどうやら、あの化け物達を作る為の研究所だった様だ」

 スネークは呟いた。

「さあキマイラよ、スマッシュ戦士達を骨まで喰い尽くせ!」

 デークはそう言いながら握り拳を開いた。すると、そこから赤い液体がビシャビシャと床へ零れ落ちるが、それは独りでに蠢てはそのままキマイラへと近付き、全身を覆って行く。

「!」

 ネスはこの時、再び心へ掛ける声が聞こえた。

 ──……。

 やっぱり、僕らメンバーを呼んだのは、君だったんだねと、ネスは周りから気付かれぬ程度に僅かに表情を和らげた直後、きゅうきょくキマイラをキッと睨んだ。
 そして、ドラゴを苦しませてしまったのも……あの時、ドラゴにクラウスをやられ、泣いていたリュカの心を読んだら、『ドラゴが一瞬赤い液体に塗れていた気がした』と言っていた……もう何もかも苦しませない、必ず助け出して見せる。
 赤い液体が消えた直後、きゅうきょくキマイラは目をギラリと光らせ、牙を剥き出しにしながら、空気を揺るがす程の雄叫びを上げた。マリオ達はそれに思わず圧されそうになる。

「くっ……あんな巨大な牙にやられたら、一巻の終わりだぞ!」
「でも、負ける訳にはいくもんか! 絶対倒し、皆でリュカ達の後を追おう!」

 マリオ達はきゅうきょくキマイラを睨みながら、拳や武器を構えた。




 狭い箱は、リュカ達を乗せながら、最上階を目指す。
 これからどんな事が待ち受けているか分からない故、リュカは偶に不安に身を震わす。だが、マリオ達や島の皆の思いは絶対無駄にはしないと言う気持ちは、誰にも変えられないものだった。
 だがそんな時、エレベーターは、何と九十階で止まってしまったのである。

「なっ! 百階に行くんじゃねーのかよ!」

 此処にいる者全員が思っている事をクマトラが言葉として発した。だが、エレベーターは聞く耳を持たないかの様に、いつもの如く扉を開いたのである。

「……どうしても行くしか無い様だ」

 マーシスは静かに言った。
 仕方がないと、リュカ、クマトラ、ダスター、そしてマーシスは、エレベーターから部屋へと移った。
 そしてエレベーターの扉は閉まるが、上へは行かない様子だ。恐らく、この部屋にいる敵を倒せば開くのだろう。
 リュカ達の入った部屋は、紫やピンクが混ざり合っているかの様な、幻想的な部屋だった。そして更に淡い色の霧が立ち込めており、近くのものなら見えそうだが、遠くを見渡すのは困難であろう。

「不思議な部屋……」

 リュカは部屋を見回しながら言葉を零した。
 そしてこの空間の雰囲気や空気、以前どこかでも同じ様に感じた事があると、リュカ達は思った。あれは確か──、

「ヌヘヘヘヘ。ようこそ、九十階へ」

 彼等の考えをかき消すかの様な下品な笑い声が、幻想的であるこの部屋中に木霊した。その笑いの主は、霧の向こうから現れた。

「ヨ、ヨクバ!? ドラゴにやられたんじゃ無かったのか!」

 クマトラが声を上げてそう言う間に、マーシスは剣の柄を掴み、ダスターは拳を握りながら身を少し屈め、リュカは、相手へ突きつけた人差し指の先からPSIの光を僅かに溢れ出させ、クマトラ以外の三人が、攻撃のスタンバイに即座に入った。
 彼女の言葉に、ヨクバは鼻で笑う。

「あんなんで簡単にやられる訳が無いだろう。あの方のいる百階へは行かせん。このヨクバ様にやられ、ここで死ぬ定めなのだ! ヌヘヘヘ、ヌヘヘヘヘ!!」

 そう笑い声を上げているヨクバへ、床を這って近付くものがある。それは紫の虫達だ。それはその儘、笑い続けているヨクバの下から這い上がり、やがて全身を包んで行く。

「何だ、アレは」

 ダスターは思わず言った。リュカ達も彼と同じ気持ちで、冷や汗を流しながら思わず見守る。
 やがて蠢いていた虫達が、ヨクバの体へ染み込む様に消えると、そこに現れたのは、メカとなったヨクバだった。鼻からラッパを二本出し、背中から炎を噴射させて浮遊している。そして、顔は一部が機械となっていた。
 その姿を見たリュカ達は見開いた。驚きの余りか、リュカは指先の光を一瞬消してしまう。

「ヨ、ヨクバまで改造されてる……!?」
「どこからでも掛かって来い。オソヘ城での恨み、晴らさせてもらおう!!」




 ──最上階。
 広めの部屋なのは変わらず、一部を除き、特に何の変哲も無い、寧ろ何も無い場所であった。
 そこには、二人の男がいた。豪華な赤いソファの隣に立つディバ、そしてソファに座っているのは──白髪で老いた姿となっている、皇帝のポーキー・ミンチだった。

「皇帝、如何でしょうか?」

 二人は、天井から設置されている数多くのモニターを目の前にしている。一つ一つ、キマイラとスマブラの姿が監視されていた。ディバはモニターを見ながら、その場からポーキーへ向けて身を屈める。

「我々からの献上品である、新しいオモチャ達です。皇帝の軍であるブタマスクと協力して作りました」

 飲み物の入った大きめのグラスを片手でゆっくりと揺らしながら、ポーキーはモニターを見ていると、次第に笑みを深めて行く。

「オモチャは楽しくなくっちゃつまらないからね。どんな風にぼくを楽しませてくれるのか、楽しみだ」
「お気に召して頂き至極光栄。ごゆるりとお楽しみを」

 ディバは緩やかな動作で腹部に手を当てた。

(命無きモノを操る力、巨大化、そして、能力強化……ここは『影虫』の実験のし放題だ。しかも、どれも上手く行きそうだ。
 ──後は、『あの実験』が上手く行けば良いんだけどね……)

 皇帝に対し畏まる振りをしながら、ディバは目元と口端を僅かに歪めた。
 そんな彼に気付かない儘、ポーキーは娯楽を楽しむかの様に、一つ一つモニターを見ていく。
 だがあるモニターを見ると、思わず二度見をした。

(なっ! ネスッ!? どうしてネスまで……っ)

 きゅうきょくキマイラとスマッシュ戦士達が睨み合っているモニターに、思わず見開いてしまうポーキー。ギーグと共に消滅したと思っていたが、全員生きていた事に驚き、更にはネスまでいる事に心臓を跳ねらせ、老いた体故か思わず咳込んだ。

「ゴホッ、ゴホゴホッ……!」
(しかも『その部屋』に来るだ何て……どこまで俺の傷を抉る気だよ……!)
「皇帝、お気を確かに」

 ディバは眉根を寄せ心配そうに彼を見守りながら背中をさする。ポーキーは暫く息苦しい様子だったが、少しした後、漸く落ち着いて来た。

「……ぼくのことは心配しなくて良いよ。それより、最後の『針』はまだ見つからないのか?」
「仮面の男が探しております。ご安心を。皇帝が命を下さない限り、仮面の男は探す以外の事はさせない様にしていますから」
「当然さ。ゲームは楽しんでやるもの。最後にどんな結果が来るか分らない。それが、スリルあるゲームの醍醐味だからね」

 弱々しい様子なのにも関わらず、ポーキーはニヤリと笑った。
 そして、ポーキーの隣に立っているディバとは反対側に、仮面の男が瞬間移動で現れた。

「『針』ヲ見付けまシた」

 どこかぎこちない口調で、仮面の男はゆっくりと言葉を繋いで行く。ディバは、そんな彼に対し、赤い目を細めた。

(……こんなものか)
「そうか、ついに見付けたか。ご苦労だったね、ぼくの可愛い可愛いバケモノちゃん。今直ぐ抜きに行って貰いたいところだけど、あのバカ集団がここまで来れるかどうか、今はゆっくり見物しようじゃんか」
「御意」

 そして三人は、モニターを見続け始めた。
 ポーキーは、ネスも映っているモニターを見ながら、秘かに考え事をしていた。

(ネス、君までこんな世界に来ちゃうとはね……こんな俺を知る前に、せめて楽にしてやるよ……ククッ、ケッケッケッ……!)










 ──to be continued──