スマブラvs実験台──前編──








 ゴミと悪臭で満たされている一部屋では、カービィ達対リズ達の乱闘が繰り広げられている。

「ムオォオン……」

 ネンドじんは、そこら辺にあるゴミを適当に拾い上げる。掴んだ物は、空になっているペットボトルだ。それを片手にカービィ目掛け、ゆっくりとした動作で投げ付けた。
 両手に握ったファイナルカッターを、火花を散らしつつ交わらせるカービィとリズ。両者一歩も譲らない戦況だ。
 そこへ、横から何かが飛んで来る気配に、二人は同時にハッと気付く。リズはそれを見るや否や、カービィから素早く離れ跳躍する。一方のカービィはその場で、それが単なるペットボトルだと判断すると、

「何だ、ただのゴミじゃん!」

 リズに遅れながらも、その場から跳躍してはペットボトルを回避した。
 そしてペットボトルが壁にぶつかった瞬間、始めは見間違いかとカービィ達は思った。軽い衝撃が来たと思いきや、なんとペットボトルの形をした穴が壁に空いたのだ。正に強力な弾丸並の力で、カービィが万が一避け切れずに喰らっていたら、恐らく壁と同じ運命にあっただろう。

「ペ、ペットボトルで何て威力なの!? 避けて良かったぁ」

 カービィは本気半分、呑気半分でそう言いながら、額の汗を小さな手で拭う。ピカチュウとピチューは、冷や汗を流しながら暫くその場で固まってしまっている。
 クローン達はネンドじんのその威力を知っていたのか、その力を見てニヤッと笑みを浮かべている。

「クスッ。影虫はどうやら順調みたいだね」
「ピカ」
「ピッチュ」
「影虫?」

 カービィは、初めて聞いた言葉に、リズ達に振り向いた。リズはカービィを見ると、

「ああ、カービィくん達は知る必要無いよ。これから死ぬんだからね!」
「!」

 リズはカッターからソードに切り替え、カービィに飛び掛かった。カービィもリズと同じソードカービィになると、リズと剣を交わした。リズのソードの切っ先がカービィに向けて突かれようとしたとこで、カービィは間一髪で緊急回避を決める。その直後、カービィがソードで横に薙ぎ払ったが、リズがジャンプで避け、そのままソードを下向きにし串刺しにしようとする。カービィはその場を素早く後退した為に、相手からのソード攻撃はギリギリ免れたが、

「ほわっ!?」

 背後の気配にその時気付くも、ネンドじんのパンチをストレートで喰らい、壁をバウンドしては、床へポテッと落ちてしまう。

「ピカッ!?」

 ピカチュウは、カービィがやられた事に心配して振り向くと、そこへクルヴィの尻尾が視界に入る。それに気付いた時は吹き飛ばされてしまい、ゴミの山を、ゴミを散らしながら滑って行く。

「チャー……」

 ネンドじんに見つかったピカチュウはそのまま掴み上げられる。離れようとその場を暴れるピカチュウだが、力はネンドじんが上の為、ビクともしない。そしてそのまま呆気なく投げられてしまい、

「ピカァッ!」
「ピィッチュウ!?」

 ジッティと戦っていたピチューと、投擲されたピカチュウが激突してしまい、二匹共ゴミの山を転がって行ってしまった。

「ネンドじんの力、素晴らしいね。ゴミとして捨てられたのに、まだまだ役に立ちそうだよ」
「ピカ!」
「ピッチュウ!」

 壁へぶつかっては、星を散らしながら頭をクラクラさせているカービィ。そして、よろめきながら立ち上がろうとするピカチュウとピチューを交互に見ながら、リズ達は笑いを込み上げていた。
 ネンドじんはそのまま、ピカチュウ達の元へ、床を振動させながら近付いて行く。

(ピカチュウ達が危ない! 此処は一先ず、あの腕を何とかしなきゃ!)

 カービィはソードを握り直すと、一気にネンドじんとの間合いを詰めた。

「ピカチュウ達に手を出すなああぁ!!」

 ネンドじんは鈍い為か、カービィの声に気付くと、ゆっくりこちらを向いて来る。その間にカービィは素早くソードを振るい、相手の両腕をスパッと切断した。粘土らしい断面を残し、二つの腕がボトボトと落ちた。

「よぉし! これでもう何も掴めないよ!」
「……ふふ、そう簡単に勝てるとでも思ってるの?」
「え?」

 笑顔を止めないリズの一言に、カービィは思わず相手に振り返ったが、嫌な予感を覚えた為に再びネンドじんの方へ顔を戻した。

「──あっ!」

 見ていると、ネンドじんから切り落とした腕から無数の紫の虫──影虫が溢れ出している。そして、ネンドじんの断面からも、腕のと同じ影虫が泡の様に溢れ蠢く。腕は断面に向かい合わさって行くと、ネンドじんの両腕が元通りになってしまった。

「えええそんなぁ! どうしたら良いの!?」
「腕だけじゃない。足も頭も、どこをやられても同じく元通りになるんだよ。どう? もう降参するしか無いでしょ?」
「っ……降参なんてするもんか!」

 とは言っても、何度切っても、恐らくは潰しても元に戻ってしまうだろう。
 ピカチュウやピチューは、先程の攻撃で大分ダメージを蓄積されており、リズ以外のクローン達に遊ばれてしまっている。これでは、本当にこちらが敗北するのも時間の問題だ。
 時間が無い、と。カービィは必死で考えた。こんな時、隊長や、他のスマメンならどうするか。彼等の気持ちになって脳内を巡らせて行く。

(……そうだ、これだ!)

 我ながらナイスアイデアと、閃いたカービィはポンッと自分の手を叩く。成功するか否か考える以前に、行動に移すなら今しかないと、流石のカービィも切羽詰まっている。そして閃いたと同時に速やかにゴミ溜めへ向かい、ゴミを漁り始めた。

「何してるの? 絶望した余り頭が可笑しくなっちゃった?」

 リズはカービィの行動が理解不能でその場から見ている。
 だが後々、奴を倒せば、隊長のディバが褒めてくれるだろうと考えれば、ソードを片手に一振りしてから、ゴミ溜めで何かを探しているカービィの背後へと向かった。

「ピィカァ!」
「ピチュー!」

 クルヴィやジッティに弄ばれていたピカチュウ達だが、その間でもエネルギーを何とか溜めれば、力を振り絞り一気に放電する。クルヴィ達は目を見開き、素早く後退して行った。
 そして、ピカチュウとピチューは、カービィの方をふと見た。一見、カービィはゴミを漁っている様に見えるが、ゴミを一個一個取り出しては、

「……これでも無い……これじゃない……!」

 と、言いながら後ろに放り投げている。カービィはもしかしたら、ネンドじんを倒す何かの策があるのかも知れないと、二匹はその時思った。そして顔を見合わせ頷くと、カービィを背後から狙うリズに向かって10万ボルトを放った。

「ピィカアアァ……チュゥー!!」
「ピイィィィチュウ!!」
「! うわぁ!?」

 リズはカービィばかり見ており油断した為、二匹の電気鼠からの攻撃を真横から受けてしまい、ソードを手から離してしまってはゴミの山へ突っ込んでしまう。

「ぐっ……くそ! ネンドじん、ムカつくピカチュウ達を潰しちゃえ!」

 ゴミに塗れながら、リズは怒りを露にするとネンドじんに命じた。命じられたネンドじんは、ピカチュウ達にゆっくりと振り向く。

「粘土の塊! 君の相手はこっちだ!」

 声の主はカービィである。呼ばれたネンドじんは顔だけを彼へと向けた。
 カービィは何かを漸く見付けたのか、準備完了と言った様子で、キリッとした目で相手を睨み上げている。そして更に挑発する為に、両口端を伸ばしイーッと言ってやる。

「やーい! ここまでおいでーっだ!」
「ムオォォン……」

 そんなカービィに反応したのか、ネンドじんは標的をカービィに切り替え、のしっのしっと向かって行く。
 相手の様子を見た後、カービィはその場で思い切り息を吸い込んだ。だがそれは、相手を吸い込んで飲み込むと言う、カービィの得意技の一つである『吸い込み』ではなく、何かを吐き出す為の準備だ。そんなカービィに、ピカチュウ含めたリズ達は全員、何をするつもりだと思わず見てしまっている。

「喰らえ! アイスー!」

 カービィは声を上げた直後、ネンドじんに向けて口から冷気を思い切り吐き出した。ネンドじんはその攻撃に驚くが、動きが鈍いのが災いしたか、避ける時間も無かった。カービィからのアイスビームを諸に受けてしまった結果、あっと言う間に凍り付いてしまい、ネンドじんの動きは完全に止まったのである。

「やったぁ! 上手く行ったー!」
「ピカピー!」
「ピチュ、ピッチュー!」

 勝利を掴んだカービィ、ピカチュウ、そしてピチューは、その場で大はしゃぎしていた。
 そしてカービィは、口の中に手を入れ、中から、ゴミの山から見つけ出したクーラーボックスを取り出した。

「まだコピーを覚えてなかったのが幾つかあるんだ。その一つが『アイス』。一か八か試してみたけど、大成功! 切ってもペチャンコにしても復活しちゃうなら、動きを止めれば良いんだからねっ」
「な、何だってぇ!? 正かそんな手があっただなんて……!」

 喜びに満ち溢れているカービィ達とは対照に、リズらクローンズは驚きを隠せないでいた。
 カービィは敵を吸い込み、敵の能力をコピーする力を持っているが、今回はそれらしき敵はどこにもいない。
 後は物から似た様な能力をコピーするしか無いのだが、成功率は非常に低い。おまけにその能力は、仮に成功しても覚える事は不可能である。
 だがカービィは、今はそれしか方法は無いと思い、全てをこの方法に賭けたのである。

「ぐぅ……所詮ゴミだもんね……次はこうは行かないから……!」

 リズは、固まってしまったネンドじんを睨みながら、歯を食いしばり体を震わせている事から、非常に悔しい思いをしているのが分る。クルヴィやジッティもその気持ちは同じで、怒りの顔をカービィ達に向ける。

「うー……もう、あったま来た! ここで君達を戦闘不能にしちゃうから!」
「ピカッ!」
「ピチュー……!」

 諦めの悪いリズはソードを構え直し、クルヴィとジッティもその場でバチバチと電気を溢れ出させていた。

「負け惜しみしちゃってぇ──ま、諦めが悪いって所は、僕と似ているかも知れないけど!」
「ピカッピ!」
「ピィチュウ……!」

 ネンドじんを倒した故に、勝機が見えて来たとカービィ達は余裕ある笑みを浮かべつつ、リズ達と睨み合った。




 メカライオンは身構え、暫く唸り声を上げた後、サムス達へ向かって飛びかかった。三人はバラバラになっては相手からの噛みつき攻撃を回避し、其の儘それぞれ自分のクローンへ攻撃を開始した。
 サムスは相手が生身だろうと、敵である事に変わりはないと、ヴェンテに向けて速やかにチャージショットを連射した。ヴェンテは相手からの攻撃を見れば軽やかに跳躍し、サムスの背後に着地した。背後を見せてはいけないと、サムスは素早く振り返っては、相手からの鞭攻撃を身を屈めて避ける。
 そこへ、メカライオンが鋭い牙を剥いてはこちらへ駆けて来るのを、ヘルメットの向こうから気付く。改造されたとは言え、相手は元々は普通のライオン。サムスは反撃しようとメカライオンへキャノンを向けたが、その時、ベビーメトロイドが一瞬脳内を過ぎり、サムスは攻撃するのを思わず躊躇ってしまう。

「くっ!」

 サムスはその場で前転をし、メカライオンの攻撃をかわした。

「……」

 パワードスーツ越しでもサムスの感情を見通したヴェンテは、そんな彼女に対し苛立ちを覚えた。そして鞭を再び振るおうとする。
 サムスは体を起こすと、警戒心をヴェンテへ速やかに向けた。相手は鞭攻撃を仕掛けて来るだろうと防御体勢に入る。
 ──だが、サムスは相手の行動に見開いた。ヴェンテの鞭はサムスでは無く、何故か真横へ向かって振るわれた。この時のヴェンテの標的は、サムスでは無かったのだ。

「ガウゥッ!」
「!」

 何故かその攻撃はメカライオンへ向けられ、メカライオンは鞭の痛みに声を上げる。そんな悲鳴などまるで聞こえていないかの様に、ヴェンテは鞭で容赦なくメカライオンを叩き付ける。
 サムスはそんな彼女の行動に驚くと同時、敵なのにクローンが故か、それをしているのが自分自身にも見えてしまうと、様々な怒りを覚える。
 攻撃を続けているヴェンテの赤い目が彼女へ向けられる。その目が、僅かに歪められた様に見えた。

「やめろっ!!」

 サムスの怒りを込めた一声が部屋の空気を揺るがすと、他のスマメンやクローンは、思わず乱闘を止めては彼女達へ顔を向ける。プリン達が見たのは、大怪我を負いながら身を震わせているメカライオンに、鞭を握るヴェンテ。そして、庇うかの様にメカライオンの前で片膝を付いたサムスだった。

「サムスしゃん!」
「……」

 プリンに名前を呼ばれても、サムスは肩で息をしながら、ヴェンテだけを真っ直ぐに睨み上げている。

「……やはり気に食わない」

 ヴェンテは氷の様に冷たい目線をサムスに向けながら、両手で鞭を引っ張りビシッと鳴らす。

「たかが実験台に対し、何故そこまで必死になる」
「……なら、何故こんな風に扱う。実験台なら、手出ししてはならないだろう」

 罪の無い動物をこんな姿にされた上、こんな事を言っては自ら心を痛めてしまうサムスだが、ヴェンテに再びその心を狙われるかも知れない。更にスマッシュ戦士達の足手まといになりかねないと、この言葉を選ぶ以外になかった。
 だがヴェンテは、納得しない顔で相手へ目を細めた。マザーブレイン、そしてベビーメトロイドとの戦いを観ていた為に、オリジナルの本心は分かりきっていた。

「その言葉は本心からでは無いな──下らない。ゼロスーツ等敵でも無い筈のパワードスーツが泣いているじゃないか」
「これはただ戦う為だけのものでは無い。守るべきものを守り抜く為に授かった、パワードスーツだ!」
「戯れ言を抜かすな!」

 そして右手を動かせば鞭を踊らせ、メカライオン目掛け再び振り下ろす。だがサムスが反射的に、キャノンのある右腕に鞭を巻き付かせた。ヴェンテは構わず引き寄せようとするが、サムスはその場で踏み留まる。

「貴様の武器は封じた。これでも弱い者を守り抜くと?」
「くっ……」
「グゥルル……」

 そんな二人の様子を見ているメカライオンは、どうするべきかと、前足を動かしながら悩んでいる。このメカライオンは改造されていながらも、まだ心は機械に浸食され切れていなかった。

「あーもう! 焦れったいでしゅね!」

 クーシーはメカライオンの様子を見ると、中々サムスを倒さないと見て怒り、風船の様に僅かに膨らむ。

「へっ。残念だったなぁ、ギガ軍。どうやら実験は失敗した様だぜ?」

 メカライオン達の様子を見た後、ファルコはジビンダーにブラスターの銃口を向けながら、余裕ありげに口端を吊り上げた。既に勝った気でいる様だ。ジビンダーも銃口を相手の額に向けるが、相手の言う通りだと認めざるを得ないが故、静かに舌を打つ。

「ちゃんと洗脳仕切れて無い様だぜ、ヴェンテ」
「……ならば、奴にチャンスをやるとしよう」

 サムス達を睨みながらジビンダーの言葉を聞いたヴェンテは、その一言を放った直後、鞭は持った儘高々とジャンプし、メカライオンの頭を蹴り飛ばす。

「ギャウッ!」
「!」

 獣の痛々しい悲鳴にサムスは見開き振り返ると、恐らく攻撃を喰らった時に吹き飛ばされたからであろう、少し離れた距離でメカライオンが気絶をしてしまっていた。
 メカライオンの直ぐ傍に着地したヴェンテは、メカライオンの頭に片足を乗せた後、クーシーを見やった。
 クーシーは、彼女のアイコンタクトを即座に理解すると、ニッと怪しげな笑みを浮かべた。そしてプリンとの戦いを止め、身が軽い為に一度跳躍すれば、其の儘彼女もメカライオンの胴体の上へと降りた。

「コラー! まだ戦いは終わって無いでしゅよ!」

 途中で戦いを放棄された事に、プリンはその場から怒りの表情を向けた。それに対し、クーシーはクスッと笑った後、

「終わらせましゅよ──今直ぐに!」

 軽く息を吸い込むと、歌声を奏で始めた。プリンと肩を並べる程の上手さで、それを聴いてしまったプリン、ファルコ、そしてサムスは、彼女の歌声の余りの心地よさに眠気が一気に襲い掛かる。

「く……!」
「チッ。俺としたこと……がっ……」
「サ……ムス……しゃん、ファルコ……しゃ……」

 プリンは、このままでは全員がやられてしまうと感じた。そこで、完全に眠りについてしまう十数秒前、プリンは最後の力を振り絞り、一番近くにいるファルコの元へ急いで向かう。
 クーシーが歌い終わった頃は、三人共その場に倒れているのが、クローン達の目に映った。三人共寝息を立て、深い眠りに落ちている様子だ。

「へっ、実に滑稽だなぁ?」

 ジビンダーはニヤニヤし、腕を組みながら三人を見る。
 ヴェンテはその後、未だに気を失っているメカライオンへ身を屈めると、相手の口元へ手を差し出す。そこから影虫が幾つか現れ、メカライオンの開いた口の中へと入り込んで行った。その時、開かれたメカライオンの目は黄色く光り、あれ程ヴェンテに痛めつけられていたのにも関わらず素早く立ち上がり、ライオンらしさ溢れる雄叫びを上げた。メカライオンのそんな様子を見て、ヴェンテは表情は笑ってはいないものの、鼻で笑ってはいた。

「失敗作として捨てられたく無ければ、スマッシュブラザーズの三人を食い殺すのだ」

 三人を順番に見ながら、ヴェンテは隣に立つメカライオンに命令を下した。
 メカライオンは低い唸り声を上げ、涎を垂らしながら、三人の獲物をねめ回す。どの獲物から喰らうかを考えている様だ。
 そして標的は、ファルコに決まった。ファルコは他の二人と同じく、俯せになりながら目を閉じたまま動く気配も無い。メカライオンは獲物を狙うかの如くゆっくりと近付いて行き、そして声を荒げながら飛び掛かった。

「……おらぁっ!!」
「!?」

 その時、ファルコは目をパチッと開くと、その場で手を軸にし足を思い切り回転させた。足技は見事メカライオンにクリーンヒットし、メカライオンは驚きつつ、相手から一歩後退した。

「え!? しょ、しょんなバカな! クーシーの歌を聴いたら深い眠りに落ちて、早くても7時間は起きない筈なのに……!」

 クーシーは、丸い目を更に丸くし、驚きを隠せないでいた。それはジビンダー、そしてヴェンテも同じだった。
 そんな三人と一匹を見て、今度はファルコがニヤッと笑った。

「睡眠時間に最適だな。けどな、俺達は今寝ている暇ねえんだ!」

 ファルコは指でブラスターを数回回した後、ヴェンテの鞭に向けてブラスターの光線を放った。光線がヴェンテの光る鞭に命中すると鞭が緩み、捕らえているサムスのキャノンから鞭が離れた。

「……」
「荒療治だが我慢しろよっ」

 ファルコは、未だに眠っているプリンとサムスに向かって言った後、ブラスターでクローンやメカライオンを威嚇しつつ、もう片手に持つリフレクターを起動させ、二人を痺れさせて起こす。
 二人は目を覚ますと、それぞれのクローンに素早く攻撃に掛かった。今度はクローン達が圧される番である。

「ファルコしゃん! 良かった、無事目ぇ覚ましてたんでしゅね!」
「……助かった」
「へ! 礼はコイツ等を退場させてからにしろよ」
「むう、しぶといスマブラでしゅね! メカライオン! さっさとコイツ等をやっつけるでしゅ!」
「グアオオオォ!!」
「! メカライオンの様子が変だぜっ!」

 メカライオンの目が黄色く輝き、先程とは全く違う程の異様な殺気を漂わせていた。情け等欠片も無く、牙や爪を剥き出しては容赦なくサムス達に飛び掛かって来た。

「どぉわ!? 遂にこのライオンも破壊兵器となっちまったかっ……!」
「……こうなったら、メカライオンを大人しくさせるでしゅっ」
「プリン……」

 サムスはプリンへ顔を向けた。プリンは、彼女の表情と感情を見ると、大丈夫でしゅと片目を閉じた。そしてクーシーがやった時と同じく、プリンは一度跳躍すると、メカライオンの背中へと足を付けた。

「ガルルル……!」
「何をする気だ」
「止めるでしゅ!」

 三人のクローンは、メカライオンの背中に乗っているプリンに攻撃を仕掛けようとした。
 その時、ヴェンテの真横をサムスのチャージショットが掠り、ジビンダーはファルコに足払いを喰らい、更にブラスターから放った光線が、クーシーの足元の直ぐ間近に当たり、一人は立ち止まり、二人は転倒した。

「させるかよ!」
「お前達の相手は私達だ!」
「メカライオン、大人しくするでしゅよー」

 プリンは、相手が暴れ回るも振り落とされない様にしながら呟き、口を開くと『うたう』を使った。クーシーと同じ歌い方だが、プリンの歌声は母性が溢れていた。メカライオンはそれを聞くと、次第に大人しくなる。そして目をトロンとさせ、軈て体から力がぬけて行き、その場に倒れ込んだ。
 彼女の歌声はクローン達の耳にも入り込み、彼等に眠気がドッと襲い掛かる。

「……チッ。此処は、退散するぜっ」
「ライオン何か、もうどうでも良いでしゅ……っ」
「……」

 眠りにつく前に、クローン達は部屋から消えた。
 その直前に、ヴェンテがこちらを鋭い目で一瞥して来たが、サムスは逸らす事無く見たのだった。

「……」

 寝息を立てているメカライオンの横に降りた後、プリンは急に黙り込んでしまった。

「? プリン、どうした? 急に黙り込んで」
「俺達が勝ったんだぜ。素直に喜べよ」

 二人はプリンのとこまで歩み寄り、そしてファルコはプリンの頭に手を置いた。プリンは、そんな彼を何故か潤んだ瞳で見上げる。

「ファルコしゃんを叩いてしまったでしゅ……止むを得ないとは言え、胸が痛かったでしゅ……本当にご免なしゃい……!」

 プリンはファルコに頭を深々と下げて謝罪する。
 クーシーの『うたう』に寄って酷い眠気に襲われた三人。そこでプリンが咄嗟に考えた事は、眠る前に誰かを叩き起こすことだ。一番近くにいたのはファルコ。プリンの想い人であるが、迷っている暇は無いのと、『彼』であることから、ファルコの頬を小さな手で思い切りはたいたのである。
 お陰でファルコは目を覚ましたが、今はチャンスを伺おうと、その後は眠った振りをしていたのである。

「謝る位なら、自分を叩き起こせば良かったんじゃねーのか?」

 謝られたファルコだが素でそう言った後、サムスは呆れ気味に息を吐く。

「『うたう』で眠らされたら、自力で目を覚ます事は出来ないんでしゅよ。し、しょれに……」

 そう言っているプリンに対し、サムスはヘルメットの中から、小さな微笑を彼女へと向けた。

「プリンの気持ちは分かるぞ。大切な人をやられたくなかったんだろう」
「サ、サムスしゃん……!」

 ストレートに言われたプリンは顔を赤くしながら慌てふためく。ファルコは一度サムスに見開くが、暫くしてクッと笑むと、プリンの頭を改めて撫でた。

「どの道助かったぜ、プリン。ありがとよ」

 ファルコの笑顔を見上げ、プリンは僅かながらも照れ臭く笑った。




 冷気が篭る白い雪の部屋にて。

「ファルコンナックル!」

 C・ファルコンは腕に炎を纏わせ、フーディアンへ向かい駆け出し、フーディアンは防御体勢を取ろうと腕をクロスさせる。C・ファルコンのパンチがクロスした相手の腕に思い切りヒットすると、フーディアンは力負けし真上へ吹っ飛ばされるが、床に両手を付き自らジャンプしては体勢を立て直す。圧されている様子でも、フーディアンはずっと笑みを絶やしていない。

「てやぁ!」

 リンクとミエールは盾と剣で交戦している。互い一歩も引かず譲らずで、相手からの攻撃を避けては攻撃を繰り返している。

「中々決着がつきませんね」

 ミエールがそう呟いた後、一瞬だけリンクから目線を外す。それは、もう一方の誰かを見ている様だ。

「リンク! 後ろ!」
「!」

 帽子の中から現れたナビィが咄嗟に声を上げた。リンクは背後からの強い殺気に気付くと、即座に膝を付いてしゃがんだ。彼の頭上を、メカゴリラの巨大な鉄球が通り過ぎた。鉄球攻撃を避けられたのが気に食わない様で、ミエールは軽く溜め息をつく。

「やれやれ、妖精が余計な事を言わなければ、頭が粉砕されるとこを見れたのに」
「皆の世界に平和が戻るまで、俺は死ぬ訳にはいかない」
「グオオォ」
「そんなことも考えさせられない様にしてあげますよ!」

 そうは言うリンクだが、ミエールの技を避ければ今度はメカゴリラの鉄球が襲い掛かる。リンクは攻撃のチャンスを見出さなければと、避けながら様子を見ていた。

「リンク!」
「余所見はするな」
「!」

 リンクが二人を相手にしている為に思わず振り向くメタナイトだが、フビルに呼ばれると素早くギャラクシアを交わらせる。

「そんなに仲間が心配ならば、そなたも味わってみるか? メカゴリラの鉄球をっ」
「相手にするのは構わぬが、鉄球を味わうのはご免だ」
(しかし、このままではリンクがやられてしまう……っ)
「うわっ!?」

 体をくの字にしては鉄球をギリギリで避けたが、その直後にミエールが足へ向かって剣を振るうのが目に映る。リンクはその場を跳躍して避けたが、着地するとバランスを崩し、その場に思わず倒れてしまう。

「ってぇ……っ」
「ゴアアア!」
「!」

 リンクが痛みに顔を引き攣らせていると、そこに巨大な影が現れる。見上げると、鉄球を振り上げているメカゴリラが、此方を見下ろしていた。

「とぉっ!」

 C・ファルコンは、身を屈めてはフーディアンから繰り出されるパンチを回避した後、下から思い切りアッパーを食らわせる。流石のフーディアンも怯んだ。
 C・ファルコンがふと、リンクの方へ振り返る。彼は今最大のピンチになっているのが分かると、自分の足が動いた。そしてメカゴリラの鉄球が振り下ろされる直前にリンクの前に立つ。

「ファルコン……パアァンチ!!」

 構えた拳が繰り出され、鉄球も振り下ろされる。互いの強力なパワーがぶつかり合った瞬間、鉄球に皹が入り、粉々に破壊された。メカゴリラは攻撃を外したその拍子に、床を振動させながらうつ伏せに倒れてしまった。

「な、何だと……っ?」
「あの鉄球が破壊されるとは……」
「へーぇ? やるじゃねぇか」

 ミエールとフビルが驚いている一方、フーディアンは感心しているかの様に顎を擦っている。

「有難うございます、ファルコンさん。助かりました……!」
「……」

 体勢を立て直したリンクが感謝の言葉を言ったが、C・ファルコンは自分の手を見下ろしながら、何故か黙り込んでいる。

「……ファルコンさん?」
「! あ、あぁ。リンク、怪我は無いか?」
「俺なら大丈夫です」

 C・ファルコンはそれを聞いて、良かったと安心した微笑みを見せる。だが、リンクはそんな彼に対し僅かな疑問を抱いていた。

「ハァッハハハ! 俺も仲間に入れろぉ!」
「! フーディアン!」

 フーディアンは笑いを上げながら、C・ファルコンへ拳を繰り出して来た。ファルコンは右腕を構え、相手からパンチを防ごうとしたが、

「っ!!」

 何故か悲痛そうな声を漏らしたと同時に、パンチを防ぎきれず吹き飛ばされ、壁へ背中を激突させた。

「ぐぉっ!」
「ファルコンさん!」
「こっちも相手してくれなきゃ困りますね」
「くっ!」

 ミエールは口端を歪めながら、リンクへ剣を振るう。リンクはそれを避け、マスターソードで対抗する。

「……」

 フビルの剣を剣で抑えながら、メタナイトはC・ファルコンの様子をその場から見た。
 C・ファルコンはダメージを受けながらも、右手首を抑えながら立ち上がった。

「ファルコン……もしやそなた、右手を?」
「えっ? 正か、さっき鉄球を殴ったから……」
「……これ位、どうって事は無い……っ」

 そうは言う彼だが、ヘルメットに隠れていない部分を、寒い部屋なのにも関わらず冷や汗が流れているのを、リンクは見逃さなかった。
 フーディアンは相手の様子を伺うとより笑みを深め、C・ファルコンの右半身へ向けて回し蹴りを仕掛ける。C・ファルコンは再び防御を固めようとしたが、右手の痛みが先程より悪化すると冷や汗を流し一瞬怯む。その間に、C・ファルコンの右脇腹に相手の足技がヒットする。

「ぐぁ……!!」
「ハハハハ! どうしたファルコン。貴様の力はそんな程度だったのか? もっと楽しませろよ! ゴリラも遊んでやりな!」
「グァオオオ!」

 メカゴリラは命に従い、もう片手に持つ鉄球を振り上げ、C・ファルコンに攻撃を仕掛けていく。そしてフーディアンは、怪我を負っている相手の右手ばかりを狙っていた。今のC・ファルコンは、足技で対抗したり、避けたりする事でいっぱいいっぱいだった。
 更に手から赤い血が滴り、白い雪を赤に染めて行く。それを見て、フーディアンはニタァッと笑った。

「これだ、これを見たかったんだ。貴様の血をもっと見せるんだ!!」
(くっ! このままではやられるのも時間の問題だっ……!)
「ファルコンさん……!」
「右手や体の右側を狙ってばかり……何て卑怯なの!?」

 ナビィは怒りを込み上げながら言葉を放った。

「戦いに卑怯等関係ない。相手を倒した者が勝利だからな」

 淡々と言うフビルに、メタナイトはギャラクシアで突きを繰り出す。フビルは自分の剣でそれを受け流すが、メタナイトは休まず相手を横へ薙ぎ払う。フビルは密かに舌打ちすると、翼を使って一端飛び立った。
 フビルの言葉は、敵ながらも尤もだと認めざるを得ない。どちらかがやられるまで、この戦いは終わらないだろう。

(ファルコンさん……)

 リンクは罪悪感を抱いてしまった。自分がドジを踏まなければ、C・ファルコンは恐らく負傷せずに済んだ筈だと。
 だがメカゴリラは、ドラゴと同じく、元々は実験台にされた動物だ。相手を倒す事に、スマブラは躊躇ってしまっている。
 しかし、メタナイトはこう言った。

「メカゴリラの両方の鉄球を壊せば、恐らくメカゴリラの攻撃力は半減される。しかし、ファルコンが右手を負傷した為、もう片方の鉄球を封じる事は、現時点では不可能に近い。ならば、メカゴリラ自体を戦闘不能にする以外にない」
「戦闘、不能……」

 心を鬼にしなければならないと言うのに、リンクの『優しさ』と言う気持ちが邪魔をする。しかしこのままでは、C・ファルコンがやられてしまう。
 リンクは握り拳を振るわせた。身も心ももっと強くなりたい。そして、皆を守りたい、誰も悲しませたくないと。その気持ちが溢れ出たその時、リンクの体が輝き出し、姿が変わっていく。

「獣リンク……」

 ミエールは憎悪込めた表情で呟いた。

「ウオォーン」

 狼となった獣リンクは一度吠えた後、メカゴリラへ素早く接近した。メカゴリラは獣リンクへ振り返り、鉄球をぶつけようとして来たが、獣リンクはジャンプするとメカゴリラの顔へ飛びついた。

「グオォ!?」
「んっ?」

 フーディアンがメカゴリラに気を取られたのを見ると、C・ファルコンはチャンスと考え、左手でフーディアンの胸ぐらに掴み掛かった。

「うおっ! しまった!」
「とあっ!!」

 C・ファルコンは左腕に力を込めると、フーディアンを片手で持ち上げれば後ろを向き、雪が浅い床へ思い切り叩き付けた。右手より力は無いものの、フーディアンは打ち所が悪かったのか、暫く動くことは無かった。

「獣リンク、次こそは貴様を……」

 ミエールが剣を握り直し、メカゴリラにくっついている獣リンクへ斬り掛かろうとしたが、彼と獣リンクの間にC・ファルコンが現れる。

「くっ!」
「リンクの邪魔はさせないぞっ」
「ファルコン、ミエール達から離れるのだ!」

 メタナイトの声を聞くと、C・ファルコンは言われた通りにその場から離れた。

「はあ!」
「うっ、これは……!」

 虹色の光を体から放っているメタナイトは、フーディアンとミエールへ近付くとマントを翻し、二人を目隠しした。

「思い知れ!!」

 ギャラクシアを構え、斬撃でダメージを与え、風圧で二人をまとめて真上へ吹っ飛ばした。

「うああぁ!?」
「ぐおおお!!」

 切り裂かれた二人は床へ落ち、メタナイトは背中を向けた儘ギャラクシアをしまった。

「グアウゥッ!」

 メカゴリラは獣リンクを振り落とそうと暴れ回るが、獣リンクは相手にしがみつき離れようとしない。そしてメカゴリラが鉄球を使い、獣リンクをその場で潰そうとした。

「Hey! リンク!!」

 ナビィの呼び声に獣リンクは耳を動かすと、素早くその場からジャンプした。

「グギャア!?」

 周りの予想通りと言うべきか。獣リンクが避ければ、メカゴリラの目の前に飛んで来たのは自分の鉄球。それが顔に見事減り込み、メカゴリラは暫く停止状態になった後、そのまま仰向けに倒れ気を失ってしまったのだった。
 獣リンクはメカゴリラの様子を見た後、人間の姿へと戻って行った。

「やったな、リンクっ」
「はい……すみません、ファルコンさん。俺の所為で右手が……」
「否、この拳が無ければ、リンクの身が危なかった。無事で何よりだ」

 C・ファルコンはフッと微笑み、リンクの肩に左手を置いた。リンクは、常に前向きな彼に勇気を与えられた気がした。

「くっ! しかし、『影虫』は順調の様ですね……」

 ミエールは震えながら上半身を起こし、倒れたメカゴリラを見ながら、秘かに口端を釣り上げた。
 差し出す様に左手を上げ、倒れているフビルとフーディアンを赤色に液体化させるとそれらを手中へと収め、部屋から消え去った。

「ファルコン、ネス達と、っく……」

 言っている最中に、メタナイトは体をガクッとさせてしまう。

「メタナイト!」
「心配するな、神の切りふだを使った為に疲労を溜めただけだ……っ……ネス達と合流したら、ファルコンは、ネスやリュカにライフアップを頼んだ方が良い」
「ああ。そうして貰うとしよう。そして、メタナイトの方もな」
「……」
(ミエールはさっき、『影虫』って言っていたな。影虫とは一体なんなんだ……)

 リンクは、ミエールが消えて行った場所を見ながら、そんな考え事をしていたのだった。










 ──to be continued──