LAP2.アンジェとリンリー グランプリ当日。 今回のグランプリには、あの凄腕のパイロットが参加していた。彼の名は『キャプテン・ファルコン』。ポートタウン出身と言うこと以外は全てが謎に包まれている男だ。その男は、必ずと言って良い程に、グランプリで優勝を持っていくのである。 彼が参加することで、観客達の歓声に更に火がついた。 そのレースでも待機命令を受けていたリュウだが、自分のマシンテクニックを見つけたことで勝手に参加したのである。 「! リュウ? 何で……っ」 同じく待機しているアンジェが驚くのは無理も無い。 熱いレースの結果、C・ファルコンが一位、リュウが二位になったが、代わりにジャックのマシンがクラッシュし、彼は怪我をしてしまったのである。 慌ててリュウ達はジャックのとこへ向かった。 「ジャック! 大丈夫か!?」 「リュウ! 何故命令を聞かなかったの?」 「そ、それは……」 「そう悪く言うなよ、ジョディ」 ジャックが珍しくもジョディを宥めていた。 彼は幸い足の骨折だけで命に別状はないが、そんな彼の口から出た、驚くべき一言。ジャックが、リュウのマシンに細工をしていたと言うことだ。 これを聞いた皆は勿論、怒らない筈が無かった──二人を除いて。ジョディとアンジェは、彼らしいやり方だと思っていた。周りは悪い印象に違いないが、細工に使ったプラグをよく見ると、ジャックのマシン──アストロロビンのプラグに似ていた。C・ファルコンに優勝を取らせない為に、リュウのマシンに細工をしたのであろう。 ジャックが入院している病院へ、アンジェは果物を持って向かった。 彼のいる病室へ入ると、片足をギブスで固めているジャックがベッドで寝ていた。 「ジャック」 「よお、アンジェ。アンジェも俺を叱りに来たって訳?」 アンジェは、サイドデスクに果物の入ったバスケットを置いてから、ジャックに振り返る。 「リュウと本気で戦って勝ちたければ、早く治すことね」 「これ位平気だって。もう足は治ってるっての」 「……」 アンジェは無言になると、ジャックのギブスを軽く指で弾いた。 「ぎゃああああ!! いってえええ!!」 「全く。リュウとどこか似てるわね、ジャック」 「──え?」 「良いライバル──もしくは良いコンビになりそうね、貴方達は」 「へっ。誰があんな奴と……」 「直に解るわよ。早く治して、またリュウと熱いレースを見せて頂戴。今度は正々堂々とね」 軽くウィンクをして、アンジェは病室を後にした。 その扉が閉まってから、ジャックは「へいへい」と、口端を上げていた。 本部へ戻る為にハイウェイを走っていた時だ。 アンジェのマシンの後ろから、ラッパの音と共に現れた多数のマシン。彼らはあっと言う間にアンジェのマシンを囲んだ。 「! 暴走族ね?」 横目でアンジェはそう言った。 周りのマシン達は、アンジェのマシンへ攻撃を開始した。幾らボディ性能が高けれど、これ程アタックされては、デビリッシュエンジェルがいつ破壊されるかは時間の問題である。 「随分なめた真似をしてくれるじゃないっ」 アンジェは思い切りマシンをスピンさせた。殆どのマシンを払うことは出来たが、ボディ性能の強いマシンが後一台あり、アンジェのマシンを再び襲う。 「く! しつこい男は嫌われるわよ!」 『アンジェ!』 その時、通信が入った。その声はリンリーだ。 「リンリー!」 『今助ける!』 リンリーはバイクに乗ってこちらへ向かって来ていた。リンリーはマシンにも乗るが、外出の時はバイクに乗る方が多いのだ。 リンリーは後ろに全体重を掛け、前のマシンへ乗り上げた。 「うわ!?」 「どけええ!!」 リンリーのバイクでマシンがヘコみ、バイクが道路に戻ると、マシンはガードレールに衝突し、クラッシュした。 「どうしてここに?」 「お母さんのとこへ行った帰りにね」 「……ありがとう、リンリー」 アンジェが笑顔で感謝すると、リンリーは親指を立ててみせた。 そして二人はハイウェイを後にした。 そんな二人の様子を、建物の屋上から見ている者がいた。それはC・ファルコン。彼は、彼女達がハイウェイから姿を消すまで見守り続けていた。 「ドクター、何の研究を?」 「ん? ちょっとしたテストをしようと思ってね」 ドクターのいる研究所にて、ドクターの助手をしているアンジェは、彼のいる研究室に入ると、彼が気になることをしているので聞いたのだ。ホルマリン入りカプセルに入った人間の一部の細胞。機械の腕や体を使い、何かを研究しているらしい。 「人間の細胞の一部を使い、果たして蘇らせられるのかどうか……」 「それは……所謂クローンてことですか?」 「簡単に言うとそうなるが、そう言う訳でも無い。ただ、一人でも多くの命を救う技術を生み出せればと思ってね」 「……銀河警察の専属医師から代わっても、ドクターはドクターですね」 「何になっても、私は医者だからね」 アンジェが笑顔で言うと、ドクターも笑顔で返した。 「後は私に任せといて構わないよ。後、この事は外部には漏らさないで置いてくれ給え」 「はい……何かありましたら連絡を……」 「解った」 アンジェは一度会釈をしてから、研究室を後にした。 「あら? リンリー」 研究所を出、近くの公園へ来たとこで、ベンチにリンリーが座っているのが見えた。彼女の声に顔を上げると、リンリーはベンチから立ち上がり、彼女のとこまで駆け寄った。 「アンジェ、ドクターは?」 「ドクターはまだ研究所よ。私はもう終わったから、今から帰るとこ」 「そっか──じゃあ、今からファルコンハウスへ寄らない?」 「ファルコンハウス……リュウ達が行ってる喫茶店だったかしら?」 アンジェが言うと、リンリーは首を縦に振った。 「確か初めて行くよね、アンジェは。とても素敵なお店だから、一緒に行こう?」 そう言うと、リンリーはアンジェの手を引く。無邪気な子供が、親の手を引くかの様に。アンジェはそんなリンリーに密かに優しい笑顔をすると、二人でそれぞれのマシンへと向かった。 ミュートシティの一角にある喫茶店──ファルコンハウス。中々小洒落た店である。 チリンチリンと、お洒落な音と共に扉が開かれ、リンリー達は店へと入った。 「いらっしゃいませ」 早速現れたのは、紫のオールバックをしたウェイターだ。 カウンターにいるマスターも顔を上げると、アンジェ達の方を見た。彼の名はバート・レミング。茶髪に逞しい体つきで、左眉辺りに傷がついていた。 「いらっしゃいませ、リンリーさん。そちらの方は?」 マスターの低く優しい声が響く。さらにその穏やかな笑顔に、アンジェは人柄が良さそうと言う第一印象を持った。 「彼女がアンジェだよ、マスター」 「ほう。貴女がリンリーさん達の言っていた……」 「アンジェリーク・ブルームです。初めまして」 アンジェが頭を下げると、マスターも「これはご丁寧に」と礼をした。 そして二人はカウンター席につき、コーヒーを注文した。 「オイル、お入れしましょうか?」 二人の前にコーヒーが出されたとこで、そう言ったのは、先程の紫の男だ。アンジェはそれを聞いて思わずポカンとしてしまうが、一方のリンリーは首を横に振り、遠慮の仕草を取っていた。 「彼はR3と言って、ロボットなのですよ」 「そうなんですか」 バートが軽く説明したとこでアンジェは漸く納得した。 そしてR3が油さしを片手に返事を待っている所を気まずい笑顔で返し、 「悪いけど遠慮しとくわ」 「そうですか」 R3は少しガッカリした様だ。それを見てアンジェは「ごめんなさいね」と呟いた。 コーヒーに口をつけながら、周りを少し見回してみる。テレビにはFーZEROの中継映像が映し出され、壁にはFーZEROに関連する写真等が飾られている。 「マスターはFーZEROファン?」 「ええ。FーZEROが開催される日には、R3に店番をお願いして行くんですよ」 「熱狂的なのね」 そしてマスターはテレビを見ながら口を開いた。 「そう言えばこの前のレース、リンリーさんとアンジェさんも出ていましたが、本当に息が合うのですねぇ」 「え?」 「二人はとてもいいコンビになるんじゃないでしょうか?」 そう言われて二人は顔を見合わせると、自然と微笑み合った。 二人が店を後にし、ハイウェイを走っていると、二人は前を見て驚いた。この前の暴走族らしき集団。奴らは前の乗用車を蹴散らしながら爆走しているのだ。 アンジェとリンリーは目を合わせ頷き、マシンを加速させた。 「なんだぁ、あのマシンらは?」 「構わねえ、やっちまえ!」 「イヤッホー!」 暴走族は二人に気付くと、自分達のマシンで彼女達を囲み、攻撃を仕掛けた。リンリーは挟み撃ちを仕掛ける二台のマシンを交互に見る。そして迫って来たとこで一気にスピードアップさせてはかわした。するとその二台はぶつかり合い、大破した。 「チッ! なめやがって!」 リンリーのマシン──ミステリーパラサイトと同じ位に速いマシンが現れ、彼女のマシンにぶつかる。 「くっ!」 その時、相手のマシンの後ろから思い切り体当たりをしては弾き飛ばしたのは、アンジェのマシン──デビリッシュエンジェルだ。 「アンジェ!」 「大丈夫、リンリー?」 「大丈夫だよ。ありがとう」 それからも、アンジェはリンリーを、リンリーはアンジェをフォローし、暴走族を相手に活躍する。 「ちぃ! 何者なんだこの女共は……!」 流石の暴走族の一人も彼女達に驚いている様子だ。それが癪に障ったのか、バズーカを肩に担ぎ、マシンから顔を出したのである。 「女だろうが関係ねえ!! 今すぐ地獄へ送ってやらあ!!」 「不味いわ! この儘じゃ、ハイウェイにも危険が……!」 「く! 血迷ったか!」 何としてでも阻止せねばと、二人は奴の元へ向かおうとするが、奴はかなりの距離にいる為、間に合うか解らなかった。 だがその時である。そのマシンに思い切りぶつかったマシンがあった。 「うわぁ!?」 「!?」 その青いマシンは彼等の前で止まると、暴走族やアンジェ達もマシンを止めた。 「な、何者だてめえは!」 「邪魔すんじゃねえ!」 「……」 そのマシンから顔を出した男。それは、伝説のパイロットと呼ばれている男──C・ファルコンである。 彼を見ると、暴走族だけで無く、アンジェ達も驚いてしまう。 「キャプテン・ファルコンだ!」 「こ、こんな奴に適いっこねえ! 逃げろぉ!」 「ひ、ひいぃっ」 暴走族は呆気なく腰を退き、退散していったのである。 アンジェとリンリーはC・ファルコンを見るばかり。彼もこちらを向くと、赤いヘルメットの中から覗く口をニヤリとさせた。 「君達はいいコンビだ。その気持ちを忘れるな」 そう言い残すとマシンへ戻り、青いマシン──ブルーファルコンを走らせ去っていった。 「キャプテン・ファルコン……」 アンジェは彼の名前を呟き、二人は走り去ったブルーファルコンの方向を唯々見つめていた。 ──to be continued── |