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誰? 誰なの? 暗闇の中で泣いている、あの子は。蹲って、すすり泣いてる、あの子は。 お願いだから、泣かないで? 僕も凄く悲しくなるよ……その涙が、僕の胸を締め付けるから。ねぇ、泣かないで、こっち向いて。どうして泣いているのか、聞かせて? 僕で良かったら、力になるから。 君は誰なの? ……… ……………… …………………… ボクノナマエハ…… え? 夢の中ノ僕 スマッシュ王国。無限にある宇宙は空間とも呼ばれ、その一つの空間の中心に存在する王国である。 マリオ達の暮らす世界を支える王国であるが、そこに突如『ギガ』と言う組織が現れた。どこにアジトを置いているか不明の組織。そしてスマッシュ王国の支配を企む組織と名乗ったが、初めはスマッシュ王国を治めし王──マスターの力に寄り、幾度も追い返されていた。 それから暫く沈静していたが、近頃何やら動きを見せ始めているとの情報がマスターへ伝えられた。今までにない強大な憎悪と闇の力を、この時の彼も感じ始めていた。そこで、それぞれの世界を代表する戦士達がマスターの命に寄り集結した。そしてスマッシュ王国を守る精鋭部隊──『スマッシュブラザーズ』が誕生した。スマッシュブラザーズとギガ率いるギガ軍はそれから長年戦いを交えて来たが、スマッシュ王国は、マリオ達のお陰で今も平和を保ち続けている。 しかしギガは、戦いを交えている間にスマッシュ戦士の血を得、そこからクローンを作り出していると言う。ギガに寄るクローンは次々と誕生しており、今も尚、油断は出来ない状態でいた。 満月の光で夜空は暗闇では無く、紺色で広大な王国を覆っている。見張り担当と歌を奏でる小さな虫達以外、スマッシュ王国が静かな眠りについている深夜。 スマッシュ王国の城には、戦士一人につき一部屋ずつ個室が用意されている。 ネスは自分の部屋のベッドの中で眠っていたが、とある夢から目を覚ました。瞼をフッと開き、無意識に上半身をゆっくりと起こした。何かがさっきまでこの部屋にあったと言う仕草で、部屋中を眺める。何も無いと確認すると、静かな溜め息をつき、再び仰向けに倒れた。 「夢、か」 ポツリと一言溢し、また別の夢でも見ようかと、改めて瞼を綴じた。だがそれと同時、頬を何かが伝い、再び目を開けた。目に水が溜っていたらしく、瞼を綴じたひょうしにそれが溢れたのだ。手でその濡れた部分を撫でてみる……やはり自分は涙を流していた。 (何でだろう?) あの夢を見たから? だとしても、何故泣かなくてはならないのかは分からなかった。暗闇の中、自分と同じ格好の子が泣いていた。あれは自分自身なのかは分からない。彼が振り向いた時、彼の目はまるで血みたいに真っ赤だった。その目が自分を捉えた時に、自分は現実の世界へ引き戻された。あの時の、目の赤かった自分みたいな彼は、夢から覚めても強く印象に残っていた。 「……」 怖い。 一人で部屋にいるのは既に慣れているのに、今はひとりぼっちになるのが酷く怖かった。あの赤い目で背筋が凍った。見てはならないものを見てしまったらしい。風の悪戯で、直ぐ横にある窓ガラスがガタッと音を立てた時、ネスは大袈裟に肩を跳ね上がらせた。これ以上ここにいたくなく、速やかに部屋を出た。 フォックスはぐっすり眠っているが、扉の音には直ぐに反応した。耳をピクンと動かし、素早く顔を上げて扉を睨んだ。 「狐のお兄ちゃん、寝てる?」 扉の向こうからネスの声が聞こえ、フォックスは我が耳を疑った。ファンシーズはまだ幼い為、習慣としてこの時間はまだ寝ている筈なのだ。しかし、己の鋭い聴覚は嘘をつかない。確かにネスの声がする。 「入っても良いかな?」 「……ああ。どうぞ」 半信半疑で応じると、それを合図に扉は開かれた。子供並の背丈。青の縦縞模様のパジャマ姿。少しついた寝癖。間違いなく彼である。彼は扉をパタンと閉めると、小さな足音を立てながらフォックスに近付き、辿り着いては少しモジモジした後、 「……一緒に寝ても良い?」 こんな姿を見られたくないのか、フォックスから目を反らし、頬を薄く染めながら問う。フォックスは少し首を傾げたが、密かにクスッと笑った。 「別に良いぞ」 快い返事をすると、ネスは安堵の笑顔でこちらを向いた。そして、遠慮無くフォックスのベッドへモゾモゾとお邪魔したのだ。 「何だ、怖い夢でも見たのか?」 「……そう、かも」 「っ、え?」 始めはからかい半分で訊いてみたのだが、まともな返事にフォックスは目を丸くしてしまった。ネスは縋る様に、フォックスの裾をギュッと握る。フォックスは目を細め、彼の身を腕で覆い、なだめようと彼の後頭部をよしよしと撫でた。 (やっぱり、まだ子供だなぁ) 本当の弟みたいで微笑ましいと、気付かれない程度に口の端を上げた。 暫くした後、ネスは更にフォックスに縋り、ふと口を開いた。 「……僕みたいな子が……」 「ん?」 「僕みたいな子がね、真っ暗闇の中で泣いてたの。何度も話し掛けたら、漸く振り向いた。そしたら、彼の目が赤く光ってて、それを見た時、急に怖くなって……」 「……!」 目が……赤い……正かそいつは……。 「ねぇ、お兄ちゃん」 耽っていたフォックスはネスの呼び声にハッと我に帰った。 「ん。何だ?」 「多分、夢の中で、彼の心が僕のと同化したんだよ」 「……どういうことだ?」 正かとは思うが、ネスのクローンも生まれたのだろうか。どうやらスマッシュ戦士のクローン作りは、着々と進んでいる様だ。 「分からないけど、可能性はある。夢の中での出来事をリアルに感じるのは滅多に無いよ。だから、起きた時の僕、泣いてたんだ」 「そうなんだな」 ネスはうつ向くと、フォックスの服を更に握り締めた。何かに決意した顔だが、どこか弱い面も見せていた。 「ギガ軍のクローンってさ、人を傷付けるんだよね? 目も赤いんでしょ?」 「……一応、ギガ軍の一員だからな」 「僕、未だに夢の中の彼が凄い気になるけど、相手がクローンだとしたら紛れもなく敵だし、クローンは戦士を時々惑わすみたいだから、僕は早くそれを振り切りたいんだ」 「ああ。その意気だ」 フォックスは微笑んだ。彼は優しすぎるから、戦士としての寿命はまだ短い。だから今、ネスがそう言ってくれて、フォックスはホッとしていた。 スマッシュ戦士のクローンは、初めは本物と同じ感情を持ち、そこからギガへの忠誠心を植え付け洗脳させていると言う。仮にネスのクローンが完成したてだとすると、ネスと心が同化するのは多分仕方がないだろう。 心が未熟なネスは味方だけでは無く、敵にも同情しやすい。それは戦士失格に等しいのだ。敵に対しては常に鬼でいなくてはならない。今のネスのその志が本物であると、心から願いたい。 「今日はもう寝ろ」 ネスの柔らかな髪を撫でながらフォックスは囁いた。 「心を強くするんだ。でないと、クローンの思う壺だ。それだけは分かってくれ」 「……うん……頑張るよ……お兄……ちゃ……」 安心したのか、ネスは瞼を重くし、眠たそうに言葉を零した。フォックスは今度は、彼の額をそっと撫でた。それをシグナルに、ネスは目を綴じた。スヤスヤと寝息が聞こえ、フォックスは小さく息を吐いた。 それは口だけなのではないかと、刺を心で呟いてみる。それが彼の心に届いても構わない。それが現実なのだ。それを力に変えるかは、自分次第だよ、ネス。 「お休み、ネス」 彼に対し少しだけ喝を入れた後、ネスを優しく温めながら、自分も眠りについた。 「ラフィット」 低い声は空間に響き、伝って(ネスのクローン)ラフィットの背中を襲った。ラフィットはビクッと体を震わせ、恐る恐る振り返る。(ワリオのクローン)サーシュンが腕を組んでいた。何かを察した感じでニヤニヤしている。それに怯えるラフィット。彼の心を読んだに違いない。 「この世に生まれて後悔してるのか?」 「……だって……」 図星を突かれ、拳を握り締めるラフィットを見て、サーシュンは笑顔を絶やさぬまま、呆れて溜め息を吐いた。 「自分の力を信用出来ないのか? ギガ様の為に尽したいと言ったのはラフィット、貴様だろう?」 「そうだけど、自分の今の力がギガ様を満足させているのかが不安で……」 「そうだな……まぁ、その不安を解消する方法はただ一つ。スマッシュ戦士をぶっ倒す力を得る。それだけだ」 他人事で吐き捨てたサーシュンはその場を去った。ラフィットは、彼の言葉を脳内で何度もリピートさせた。 自分は実験用クローンとして、実験台に使われる事が多い。心身深い傷を負い、その内に遂に耐えきれず泣いたら、偶然にも本物と交信してしまった。自分を慰めてくれる人に名前を明かそうと振り向いた時、本物の自分だと分かって、とっさにその場から逃げたのだ。体では無く、心が。 彼は敵だ。敵だから、倒さなきゃ。あの方の言う敵は、必ず倒さなければならない。使命を果たせば、きっとあの方はお喜びになる。それは、自分の最高の喜びでもあるのだ。何も頼ってはならない。頼れるのは、己の力のみ。そして、あの方──唯一の偉大なる神、ギガ様の為に、僕は強くなるんだ。本物の戦士よりも……遥かに強くなってみせる。 ──to be continued── 2006年10月31日START |