「リンクが重傷!?」

 通信を受けたフォックスは思わず叫んだ。








 笑う男








 任務から数週間振りに戻る、スターフォックスの母艦『グレートフォックス』。スターフォックスは漸く第二の故郷、スマッシュ王国へ戻れることに嬉しくなっていた。
 その時、突如の緊急通信信号に気付いたフォックスは通信ボタンを急いで押した。ボタンの隣の小さなパネルに砂嵐が表れる。画面に表れたのは、ドクターマリオだ。彼が白衣を着ているのは、重い病に倒れた者、もしくは重傷者が担ぎ込まれたのを示している。彼の息詰まった表情からしてフォックスは嫌な予感を覚えた。

「どうした、マリオ? 誰か倒れたのか?」

 ファルコがこの時この部屋に入ってきた。彼が見ている画面にドクターが映っているのを見て、直ぐにフォックスの隣まで来る。

「フォックス、良く聞いてくれ」

 マリオはそこで一旦言うのを止め、顔を斜め下へ少し反らし、口内の空気を軽く飲んでもう一度顔を上げた。

「リンクが重傷を負った」
「っ……何だって!?」

 リンクと言う言葉にフォックスは即反応した。パネルの横に置いてある手を、爪が肉に食い込む程に握り締める。異世界の者同士では、フォックスとリンクは、掛け替えの無い親友同士なのだ。それを分かっているファルコは、彼の様子をジッと見た。

「今治療を急いでる。事情は後で話すから、直ぐに戻って来てくれ」
「わ、分かった……!」

 返事を最後まで聞いたかのとこでマリオは通信を切った。正に緊急治療を物語っている。
 フォックスは、母艦のスピードでは間に合わないと思い、ならば戦闘機に乗ろうとブリッジを出ようとした。

「フォックス、俺も一緒に行くぜ」

 ファルコはフォックスの背中に話し掛けた。フォックスは立ち止まり、彼に振り返ると縦に頷いた。




 母艦の操縦は仲間達に任せ、二匹は主力戦闘機『アーウィン』に乗り込み、宇宙空間を飛び出した。目の前に広がる緑豊かな惑星。二匹はその中のスマッシュ王国を目指し、アーウィンのスピードを上げ、惑星内へ突入した。
 大気圏へ入り、数分で広大な緑の王国が見えてきた。この間の時間も惜しく感じている二匹は着陸地点を考える暇も無く、リンクの安否が気になるばかりでとにかくアーウィンを飛ばす。城が近付くのが分かると少しずつ高度を下げてゆき、スマッシュ王国の広大な森の上を通過しようとした。彼らが通った後の木々は、戦闘機の作る風の強さの影響で傾き、今にも倒れそうな勢いだった。
 森の半分辺りまで来た時だ。森の中の一部から、何やら紫色の光が溢れている。そんな事も気付かない二匹はそこを通ろうとした。溢れたその光が一気に凝縮し、それが光線へと形作られ、ファルコのアーウィン目がけて発射された。

「うわ!?」

 その紫の光線は見事にファルコの戦闘機を貫いた。幸いファルコには当たらなかったが、戦闘機の高度は一気に落ちる。この状態では間違い無く墜落してしまう。違和感を抱いたフォックスが振り返ると、ファルコのアーウィンが異常を起こしているのが分かった。

「ファルコ!」

 今直ぐ救助しに行こうと引き返そうとした時、それを見たファルコは通信を使って怒鳴った。

「お前はリンクが先だ! 俺は後で行く!」
「だ、だけど……」
「心配要らねえよ」

 自分は墜落しようとしているのに、フォックスのパネルに映っているファルコには余裕な笑顔があった。それに押され、フォックスはチラッと後ろを見た後、「必ず来い」と言い残した。そこで通信が途切れてしまい、フォックスは後は彼の無事を祈って森を去っていった。
 ファルコは慣れた手付きでアーウィンを緊急着陸させようとした。

「ちっ。相手が森じゃあ困難だな」

 ファルコは舌打ちしながらもガクガク傾くアーウィンを可能な限り動かした。一番大きなダメージを受けた機体の部分からは煙が上がっていて、最悪の場合爆発する恐れがあり、慎重に下りていった。
 出来るだけ衝撃を小さくしようと木と木の間をいくつかすり抜けるが、流石のエースパイロットも成功を納める事は出来なかった。アーウィンの翼が木の枝にガツンとぶつかり、バランスを崩すと勝手に急ブレーキが掛かった。

「ぐぁ!」

 突如の衝撃に耐えられず、ファルコは頭をガクンとさせてしまう。もう片方の翼は地面を刺しながら暫く前方へ引きずっていき、やがてボロボロのアーウィンは止まった。機体の空けられた穴からは未だ煙が上がっているが、爆発する気配は見せない。
 ファルコは痛めた首の後ろの部分を片手で擦りながら機体を飛び下りた。愛用の機体はかなりやられていて、暫くは動かせないだろう。そう思うとファルコは再び舌打ちをした。

「くそったれが。誰がこんな事しやがった」

 破壊されたアーウィンを見上げながらそう吐く。それは、芯からの怒りの呟きでもあった。
 その時、突然の殺気が彼を襲った。四方八方から身体中を突き刺す様で、ファルコは一瞬だけゾクリと震え上がった。辺りを見回すが、木、木、木。それしか無い。葉の擦れ合う以外音がしないのに不気味さを感じさせる。ファルコは身構えたまま、辺りをユラリと見回す。

 ──こっちだよ。

 ファルコの上から若々しい声がするが、そう思うのは束の間。気配が上へ一辺に集中し、ファルコはそれに気付くととっさに後ろへジャンプした。ジャンプして直ぐに、ファルコがさっきまで立っていた地面に一人の男がダンとしゃがんだ。彼の両手には、刃を下に向けた剣が握られている。地面から顔を出している白い刃は、恐らく刃全体の五分の一。残りは完全に地面に深く突き刺さっている。まだ自分があそこにいたらと思うと息を呑んだ。
 男はターゲットを外したからか小さく舌を鳴らした後、剣を引き抜き立ち上がる。

「ちぇ、一発で仕留めようと思ったのに。これじゃギガに顔向け出来ないや」

 血の様に赤い瞳に、赤に近い色をし、ぼさぼさした長髪の若者だ。ファルコはさっきの言葉からして、彼をギガ軍の手下と見た。
 その男はファルコを見つめ、剣を斜めに構えると歯を横長に見せ、ニタリと厭らしい笑みを浮かべた。刃を唾液混じりの舌でペロリと舐め、早く人を殺めたいと、言わずとも語っている。
 ファルコはこれまでに無い位に警戒心を強めた。彼から血の臭いがし、吐気を帯びそうである。誰かのクローンであってもなくても、ギガの手下に変わりは無い。そうと決まれば、ファルコも手加減無しで挑むつもりだ。

「……行くよ?」

 男がポツリと呟くと、風と共に姿を消した。しまったとファルコはとっさに後ろを振り返るが、彼はそこにはいなかった。

「!! やべ、先を読まれたか!」

 焦ったファルコが高くジャンプすると、男はその場を後ろから横へ剣でなぎ払い、風を切り裂いた。
 ファルコはそのまま彼の後ろへ回り込むと、横っ腹へキックをお見舞いしてやった。ぐぅっと唸りながら男は横へ飛ばされたが、木に足を付けて体勢を立て直し、マッハのスピードでファルコへ飛び掛かった。ファルコは間に合わないと悟ったが、男の剣はファルコの肩をかすめただけだ。
 男は華麗な動きで地面に着地すると、自分の武器を睨み、肩をすくめた。

「今日は調子が悪いなぁ」

 目線を剣からファルコへ移し、ニヤリと笑む。

「それとも、あいつが強いからかな?」
「へっ。そりゃあどーも」

 斬られた肩を押さえ、脂汗を流すファルコだが、黄色い嘴は笑っている。それに吊られた様に男もクスクス笑った。

「いい目してるね。僕、強い奴しか興味無いからね。君は強いと認めるから、ありがたく僕に血を捧げてよ」
「何訳の分からねえ事抜かしてやがる。そんなに血が好きか」
「うん」

 血と言う言葉に嬉しい感情を遠慮無く表に出す若者。剣を下ろし、空いているもう片手を握っては快感を思い出して震わせた。

「生き物が生きるには欠かせない血を見る事は何よりも好きなんだ。僕は今まで、色んな奴らを殺してきた。二度と動けないと恐れる奴ら、メッタ斬りにしてやった。その度に血の雨を浴びた時は、堪らない。中でも強い相手を真っ二つにした時の快感と来たら、もう気分は絶頂の域だったよ」

 明日を見る方向で男は嬉しそうに語る。ファルコはそれを聞き、恐れる所か呆れていた。そして鼻で笑ってみせる。

「完全に狂ってんな。血の色をした目、俺が見てきた敵の中でも一番に似合ってるぜ。そんな奴がしっぺ返しを喰らう日が、今から楽しみだ」
「最高の誉め言葉だね。うん、期待してて良いよ」

 男は余裕の笑顔で返事をするが、次第に目元に影を作ると鋭い武器を素早く構えた。

「君が地獄へ堕ちたらの話だけど」
「……の前に、俺がてめぇの好きな血の池地獄へ堕としてやるよ」
「それは……楽しみだね!」

 男は再び姿を消した。そして、ファルコに僅かな息が掛かる距離まで急接近したのだ。

「うぐっ……!!」

 ファルコの腹を、スピードを利用した膝でめり込ませた。ファルコは息が出来ず、腹を抑えながらその場で蹲る。その間にも男は高く飛び上がり、

「がっ!」

 踵落としをお見舞いした。首をかなりやられたファルコは体が痙攣し、その場に倒れ込んで動けなくなってしまった。

「……何だよ、これでも手加減してるのに、それでも抵抗出来ないなんてつまらないじゃん」

 男は気を落としながら、ファルコから一旦離れる。

「魔法を使う程でも無いね。態々君の戦闘機を撃ち落としたのにさ」

 そう言い終えると、未だ蹲っているファルコの目の前に再び姿を現した。

「でも直ぐに殺すのも何だしね。あの有名なスマッシュ戦士の一人なんだし、王国に僕達ギガ軍の強さを思い知らせてやらないとね」

 そして、今から楽しいゲームを始めるかの様な笑みを浮かべたのだ。




「ゴメン、心配掛けさせて」

 フォックスが彼の部屋に入った時は治療は終わっていた。
 ベッドに座るリンクの首には、厚いガーゼと包帯が巻かれている。首をやられているが、声帯は喋る許可を漸く貰えた。
 死ぬ程心配していたフォックスは、彼が順調に回復してっている事が何よりの喜びだった。リンクは心配掛けさせたと言うが、フォックスは優しい笑顔で首を振った。

「謝りたいのは俺の方だよ。リンクがこんな目に遭ったってのに、俺は知らなかったから……」

 リンクが一命を取り留めたのは奇跡だと、マリオの言葉を思い出す。もし、その万一の奇跡が訪れなかったら、彼の命は? そう思っただけで恐怖に震えた。
 そしてそんな彼に、リンクは自嘲した微笑を浮かべて見せた。

「自分の使命をちゃんと果たしたんだから、自分を責める必要は無いよ。悪いのは俺だ。俺の不注意がこうなったんだから、当然なんだよ」
「そんな事言うな……!」

 フォックスはリンクの手を、両手で震える程に握り締めた。

「大切な仲間を失い掛けた……それがどれ程怖い思いを抱くか分からないのか?」
「フォックス……」

 リンクは、泣きそうになっているフォックスの前で顔を伏せた。そして、静かに「ゴメン……」と呟いた。




 少し開いた扉の向こうから、ネスは部屋の中にいる彼等の様子を見守っていた。彼等の痛みや切なさが犇々と伝わって来るが、再会出来たから良かったと、心から思った。
 パタンと扉を閉め、廊下を歩こうとした時、不意に足が止まった。頭を一瞬、金属音が響き、不吉な予感に襲われる。相手はテレパシーを使えないから様子は伺えないが、叫びは聞こえるのだ。今にも死にそうな息苦しい声。それは境界の森からだと特定出来た。

「ネス」

 ネスの後ろにテレポートで現れたポケモン。ミュウツーだ。彼もネスと同じ、それをキャッチしたらしい。

「ミュウツーさん、今……」

 ミュウツーは森の方向へ顔を向け、ネスも彼と同じ方を見る。

「これは間違いなく、血の気配だ。恐らくスマッシュ戦士の誰かが、何者かに寄って危機に陥っている。急いで行かなくては、手遅れになる可能性が高くなる」
「行こうよ、ミュウツーさん!」
「私だけが行く」
「僕も手伝うよ!」
「駄目だ。お前では到底敵わぬ相手かも知れない。それに、お前も来ると足手纏いだ」
「うっ……」

 彼の今の言葉にネスは胸を刺された気持ちになった。だが彼の言うことは確かなので、仕方なく退く事にした。

「でも……」

 ネスは呟く。また抗議を出すかとミュウツーは思ったが、

「僕は、絶対に強くなるんだからね!」

 自分の今の力を弁えてはいるが、彼の本気の目を見て、ミュウツーは密かにフッと笑った。
 そしてテレポートを使い、その場から姿を消した。




「がはぁっ!」

 ファルコは木に背中を叩き付けられ、倒れ伏す。失った肺への酸素の欲しさに蹲ったまま咳き込むが、内臓も多少痛手を負ったらしく、血も一緒に時々吐き出していた。男は蹴り上げていた片足を下ろし、少し血で染まった手を一舐めした。

「剣まで不要だねえ。だけど、素手で遊ぶのも悪くないね」

 ククッと笑いながら、男は彼に歩み寄る。
 そして立ち止まり、ファルコの首を片手で掴んだ。ファルコはそのまま持ち上げられるが、既に抵抗する力を失ってしまい、彼のなすがままにされてしまう。足が地面から少し浮き上がり、このまま絞殺されるのは時間の問題だった。

「ヒヒ。このまま絞め殺すのも有りだけど、僕は血が見たいからね」

 そう笑いながら、男は剣をスラリと引き抜いた。力無く苦しむファルコの首元に、スッと刃を当てる。

「久しぶりに僕は血のシャワーを浴びるのかぁ。綺麗な血が吹き出るんだろうなぁ」

 気が狂ったかの如く男は高笑いをする。
 ファルコの酸素は脳まで行き渡らなくなり、気が遠くなってゆく。逸そその剣で一気に片を付けてくれたらどんなに楽だろうとも思い始めた。

「じゃあね鳥さん」

 細める目を輝かせている男は剣を高々と振り上げた。

(俺はもう、終わるのか……)

 こちらへ迫る剣を薄い視界で見ながら思った。
 その時、男の持つ剣の動きが止まった。首を掴んでいた手が緩み、気絶してしまったファルコは地面へ倒れた。
 何かを察し、男は横を向く。そこにいた奇妙な生き物と目が合った。その光る目を見た瞬間、男はビキッと動きを押さえ付けられた。

「なっ……」

 どうやらその光る目を見て金縛りを受けたらしい。体が動かず、男はその者を見つめるばかり。

「ここから去るが良い」

 その生き物、ミュウツーは静かに呟いた。

「っく!」

 何とかあがいて金縛りをほどいた男は、ミュウツーから距離を取ろうと後退る。ミュウツーは隙も無く距離を縮め、男の剣と己の腕を交わらせた。

「……へえ、君が別の生き物の遺伝子から生まれた奴か」

 男はニタリと笑む。

「なら、君も僕達の仲間なの?」
「貴様等と一緒にされる筋合いは無い」

 ミュウツーは無表情で返事をした後、もう片手から黒い玉を作り出した。男も左手から闇の玉を作り出す。両者の邪悪な玉はどんどんパワーを溜めていき、マックスになったとこでほぼ同時に相手に向かって放った。その衝撃派は凄まじく、二人は後ろへ吹き飛んだ。体を回転させて着地した男は、楽しそうにヒューっと口笛を鳴らした。

「やっぱり魔法使いはこうでなくっちゃ」
「そんなに余裕ぶっているのも今の内だ。今のお前の力では、私には敵わない」
「そう? ま、頭良さそうな君がそう言うのなら、今日はもう退散しようか」

 男は剣をしまい、汚れた両手をパンパン叩くとミュウツーに背中を向けた。ミュウツーは敵が自分にわざと背中を見せるのが気に入らず、即座に手から光線を放った。男は「おっと」と言いながら空高くジャンプした。

「僕の名前は『ディバ』」

 空中浮遊しながら男は名乗った。

「また君と戦える日を楽しみにしているからね」

 不気味な高笑いをしながら男は空へ消えていった。
 ミュウツーは戦闘能力を止め、ファルコへ寄った。ファルコはボロボロな状態だが生きている。しかし、虫の息で危険な状態だ。

(早くマリオにのとこへ連れて行かねば)

 ミュウツーは超能力でファルコをフワリと担ぎ上げると、テレポートでその場から消えた。










 ──to be continued──