悪者ピカチュウ?








「うっ……!」

 ファルコは、ディバの攻撃に寄って負った傷の痛みで意識を取り戻した。
 彼の最後の記憶は、ディバという名の少年に自由にサンドバッグにされ、挙げ句の果てに首を締め上げられた時だ。その時点でファルコは既に諦め、死を覚悟していた。
 しかし、気がついた時は、ベッドの中にいたのだ。

「ファルコ! 大丈夫か!?」
「ファルコしゃん……!」

 痛みに目を覚まし、最初に目に映ったのは、相棒であるフォックスと、皿の様に丸い大きな目を持った、ピンクの風船みたいな生き物。

「……フォックスに……プリンか……?」

 涙を零している彼女の頬に無意識に触れた。

「良かった、気がついたんだな!」
「うぅ……凄く心配したんでしゅよ……!」

 フォックスは安堵の溜息を吐き、ピンクの風船ポケモンのプリンも笑顔になっていった。そして、体中包帯だらけのファルコにゆっくりと抱き着いた。ファルコはまだ重傷だから、気を使ったのだろう。

「悪い、心配掛けさせちまったな。俺としたことが、情けねえ」
「そんなことありませんよ」

 横からも声がし、プリンの背中に手を回すとファルコは顔を向けた。隣のベッドに座っているのは、首に包帯が巻かれているリンク、彼の膝の上で眠るカービィとピカチュウ。そして、ベッドの側にある椅子に座っているのは、ドクターマリオだ。
 眠る者達を除き、全員、心配そうにこちらを見ていた。

「無事生きていてくれたのが何よりですから」

 首がまだ痛むのか、リンクは静かに言った。

「……リンクも、無事で何よりだ」

 ファルコはリンクに笑った。それにリンクは軽く会釈した。

「リンクと同じ位、危険な状態だったんだぞ」

 続いてマリオが言う。

「フォックス達が治療を手伝ってくれなかったら、危なかった……ああそれと、ミュウツーに感謝しなよ」
「……ミュウツー?」

 向こうを向いたマリオの目線を追うと、扉の近くで腕を組んでいるポケモンがいた。

「テレポートでファルコを連れて来てくれたんだ。その……ディバって少年を止めたのも彼だ。彼がいなかったら、今頃ファルコは……」
「……そうか」

 ファルコは、目を伏せているミュウツーに微笑んだ。

「助かったぜ、ミュウツー。借りを作っちまったな」
「借り等要らん」

 目と口を閉じたままミュウツーは言葉を続ける。

「私は、戦士が一人でも消えたら困ると、そう思っただけだ」
「素直じゃねえな。心配してたんだろ?」
「……黙れ」

 今度は顔を反らす彼に、ファルコは、へっと鼻で笑った。

「とにかく、いつか借りは必ず返す。俺のルールだ」
「勝手にするが良い」

 二人のやりとりを見守っている三人は、顔を見合わすとクスクス笑った。
 そんな時、扉が突如勢い良く開かれた。

「た、大変だ!」

 入ってきたのはマルスである。長い距離を走ったのか、息を酷く荒らしている。今の騒ぎで、カービィとピカチュウはパッチリと目を覚ました。

「どうした、マルス?」

 マリオが目を丸くしながら問うと、マルスは荒い息をしながらも口を開こうとした。

「……食糧庫が、何者かに寄って一部荒らされていたんだ!」

 それを聞いた、この部屋の者全員が驚いた。

「何だって!? 一体誰が……」

 怒りを露にしたマリオ。きっと、残りの者達も同じ気持ちだ。

「そ、それが……」

 マルスはいきなり口籠った。心当たりがあるらしく、マリオ達はじっと彼を見詰める。マルスは一つ一つ言葉を繋げていった。

「昨日、ルイージと手伝いのロイが、明日……つまり今日の食料確認をする為に食糧庫へ向かったんだ。すると、倉庫から物音が聞こえたらしくて」
「食べている音か?」

 フォックスが顎に手で触れながら訊くと、彼は頷いた。

「不審に思った二人は倉庫を開けました。すると、食べ物を荒らしている姿が……」
「誰だ!?」

 ほぼ同時にマリオ達は即叫んだ。マルスは顔を伏せていたが、決意した顔を上げると遂に答えた。

「……ピカチュウ、だったんだ」
「!?」

 全員は酷く動揺した。あの冷静なミュウツーでさえも、目を開いてマルスに振り向いたのだ。
 勿論、今一番に驚いているのはピカチュウだ。皆の目線を浴びてしまうが、ピカチュウは首を横に必死で振って否定した。

「見間違いだろう!? ピカチュウは、随分前からこの部屋にいるんだ。部屋からは一歩も出ていない!」

 マリオは今度はマルスに怒りをぶつけていた。それでもマルスは、辛そうながらも続けた。

「明かりを点けたら、そいつは窓の外へ逃げて行った……間違いなくピカチュウの姿だったと」
「何でルイージ達はそんなこと……」

 そこでマリオは口を止めた。いきなりの静けさに、今度の皆の目線はマリオへ集まった。

「……もしかしたら……これもあまり信じたく無いけど……」

 マリオは痛く考えた後、こう言った。

「ピカチュウの、クローンじゃないのか? スパイとして乗り込んだとか。クローンは目が赤い。それを見れば恐らく……」
「目は黒かった」

 マルスは遮った。マリオは、何だって? と、繰り返し訊いた。

「間違いなかったと言っていた。ここにいるピカチュウのと全く同じ目をしていたと」
「そんな……」

 マリオ達は頭が痛くなってしまった。
 ピカチュウは身を震わせ、ピカピカと何かを叫んだ。

「……『僕は何もやっていない! 信じて!』って云ってましゅ」

 同じポケモンとして、プリンはピカチュウの言葉を通訳した。

「僕だって信じたいよ。でも……ピカチュウ以外に疑う余地は……」

 ピカチュウはリンクに縋り、涙をポロポロ流し始めてしまった。
 マリオ達は混乱してしまうばかりで、これ以上何を言えば良いのか分からなくなった。

「ピカチュウの言葉に嘘は無い」

 不意に呟いたミュウツーにマリオ達は振り向いた。

「今、ピカチュウの心を確かめさせて貰った。ピカチュウはその日、食糧庫には一度も行っていない」
「……それじゃあ……」

 マリオが呟くと、ミュウツーは頷いた。

「誰かが成り済ました。そう言う可能性はある」
「今日もそいつは来るだろうか」
「そう考えて、影から見張るのも良い。何も行動しないよりはマシだろう」
「……よしっ」

 マリオは立ち上がった。

「ミュウツー、一緒に来てくれ。ピカチュウのまんまならポケモン語しか話せないだろうけど、仮に共通語が話せるとしても、奴の心の声を最優先に頼む」

 ミュウツーは無言のまま、首を縦に一度揺らした。
 マリオは涙目のピカチュウを撫で、笑顔を見せた。

「大丈夫。ピカチュウはこんな事する程、悪戯はしないからね。ボクらは信じてるから」

 優しく言うと、漸くピカチュウに笑みが戻り、「ピッカ!」と返事をした。




 その夜。
 マリオとミュウツーは速やかに食糧庫へ向かった。そして、積み重ねられた食べ物の影に身を潜ませた。

「……気配はあるな」

 マリオは小声で話した。

「明らかに近付いて来るのが分かる」
「……それも、小さな生物……」

 小さい足音が微かに聞こえる。ミュウツーは自分達の気配を消し、マリオと更に息を押し殺した。その足音は食糧庫の入り口で立ち止り、こちらへ入って来た。ゆっくりと、食料を食べ始める音が響く。
 マリオはミュウツーに頷き、合図を送ると、ミュウツーはその場から飛び上がった。その音に驚いてこちらを向いた犯人を睨み付ける。すると犯人は、彼の金縛り技に動きを封じられた。

「それ!」

 次にマリオが食べ物の棚の影から飛び出し、犯人を確認した。

「!」

 確かに黒い目をしたピカチュウだ。しかし、何処か雰囲気が違う。

「……ピカチュウ……じゃないな……誰だ?」

 マリオは目を細めて犯人を睨んだ。金縛りを解いた、ピカチュウの姿をした犯人は、暫し二人を交互に見たが、次第に口元をニヤリと吊り上げた。

「バレてしまっては仕方ないね」
(! これは、奴の言葉?)

 ミュウツーは特別のテレパシーで、マリオにも彼の心を伝えていた。

「まぁ、どの道ギガ様のご命令で君達にこの姿をアピりに来たのさ。何故だか分かるかい?」
「?」

 二人は一瞬だけ考えた後、同時にドキッとした。

「ま、正か……」

 恐る恐る紡ぐマリオに犯人は頷いた。

「そう、僕らクローンは進化したって訳。目も遺伝子からコピーする事に成功したのさ。まだこれは一部のクローンで、少しの間しか変えれないけど……ピカチュウ君は大変だったろうねぇ。皆に白い目で見られてたでしょ?」
「煩い!!」

 カッと怒りに満ちたマリオは叫んだ。

(……正か……そんな……)
「……」

 ミュウツーは酷く動揺しているマリオをチラッと見た後、犯人であるピカチュウのクローンを見た。

「名を聞いておこう」
「ふん。誰が……」
「言っておくが、私の技は邪悪から生み出す事も可能だ。貴様にとってはひとたまりも無いだろう」
「確か、ディバもそう言ってたっけねー」

 それでもクローンは余裕な表情をしている。そして、仕方が無いなと溜め息を一度吐いた後、名乗りを上げた。

「僕の名前は『クルヴィ』。見て分かる通り、ピカチュウのクローンだよ」

 そう言った直後、クルヴィは窓へ電光石火で向かった。

「じゃあね、ミュウツーに隊長さん。今後のスマッシュブラザーズの行動、楽しみにしてるから」

 そして、窓からいなくなった。

「……ギガが正かここまで進んでいただなんて……」

 マリオの顔が僅かに青くなっている。
 ミュウツーは冷静に腕を組んだ。

「とにかく、ピカチュウの誤解は解かれた訳だ」
「そうだね。マルス達に伝えなきゃ。通して大臣、王様にも伝えなければ」

 犯人はピカチュウのクローンだった。それも、目の色がピカチュウと同じで。
 恐らくギガは、力のコピーだけで無く、スマッシュブラザーズの信頼度も消し去ろうと考えているのだろう。だが、仲間の信頼をそう簡単に消させるものか。態々アピールしに来てくれた奴のお陰で、いつも以上に用心せねばならないと分かった。
 ギガの企みと研究は、まだ続きそうだ。










 ──to be continued──