Soldier of another space──前編:別空間の異常現象── それは、ある任務中のことだった。 とある場所の潜入に成功し、順調に事が進んでいた筈だった。 だが、迂闊にも気配を消していた敵に背後を向けてしまった為、今は負傷してしまっている。そこで隠れる場所に隠れ、その場で応急処置を施そうとしたが、 「! これは……何が起こってると言うんだ……!?」 始めは出血の所為で意識が朦朧としているのかと思ったが、足場がぐんにゃりと曲がり始めたのがこんなにはっきりと見えるのかと不思議でならない。意識はちゃんと保っている。なのに何故、こんな事が起こっているのだろうか。物理的に有り得ない現象だった。やがて足場だけで無く、目に見えるもの何もかもが、粘土の如く曲がり始めたのだ。おまけにそれらは同じ方向へと変貌してゆく。自分だけは何とも無い。その曲がりくねった世界の中へと、浮遊しながら巻き込まれてゆく。奥のブラックホールとも思わせる黒い大穴を中心に、さっきまでの光景が渦を描いている。 男は、すっかり呆然としていた。映画しか観ていない場面に自分が巻き込まれているのだから、信じられなかった。異常事態を知らせようとした通信も途絶えており、後は雑音が響くだけだった。予感はした、もう通信は二度と不能のままだ、と。 前方の黒いホールが周りのもの全てを吸い込んでいる様を眺める。それは自分も同じで、前がまるで掃除機の様に自分を吸い込んでいく。今度こそ終わりだと思った。こんな最期を迎えてしまうとは全く持って予想外である。男は死を覚悟し、大声を上げながら、ブラックホールへ呑み込まれていった。 「む!」 「ん?」 マスターとクレイジーはそれぞれ別の場所にいたが、ほぼ同じ時間に何かを感じ、顔を素早く上げた。 「! どうしました、大臣?」 クレイジーの手伝いをしているマルスとロイ。 マルスは、クレイジーの求めている本を探しているが、彼の突然変わった様子に振り向いた。ロイも続けて顔の向きを変えた。クレイジーは何故かデスクの椅子から立ち上がっていた、まるで何かを察知した猫の様に。そして、後ろの窓をサッと見た。 「……これは……」 クレイジーの行動に理解出来ない二人は顔を見合わせては首を傾げた。 「マルス! ロイ!」 「! はっ!」 二人は彼がいきなりこちらを向いたので反射的に体勢を立て直した。さっきまで穏やかだったクレイジーの表情がいつに増して険しくなっている。 「あの本を探してくれ」 「はっ。その本とは?」 「ふーむ……」 王の間の椅子に腰をかけていたマスターも、クレイジーと同じ窓の外を見た。 「どうしたの、王様?」 彼の前で遊んでいたファンシーズは、マスターの様子に目を丸くしていた。彼と同じ、自分達も窓の外を見てみる。 「わぁ。すっごい曇り空!」 好奇心旺盛な彼等は早速窓へ走っていった。カービィとネスは窓に手のひらと顔をへばりつかせている。その他の子供達は口を開けたままその場を動かないでいた。 マスターは顎を手で軽く擦りながら何かを考え込んでいる。 「……正か……」 ピンと来たマスターは顎から手を離した。 「正か初めて見たぞ」 続いて、自室にてクレイジーが呟く。 「大臣、本を見付けました」 「ご苦労」 本を受け取ったクレイジーはその本をデスクに置き、見たい頁を早く見付けたいのか、本の頁を慌てて捲る。彼らしく無い姿にマルスとロイは固まっていた。 クレイジーは漸く手を止め、眉を顰めながら、ある文に目を凝らした。 「ふむ、見付けたぞ。この現象は……」 そして、マスターとクレイジーはこの時同じ言葉を発した。 「スペースホールの……異常現象!」 外は昼間なのにも関わらず真っ暗闇である。分厚い曇りが青空を覆い隠しているのだ。この様な不吉な天候は今まで見た事が無かったので、王国の住民達は何らかの災いの前兆だと騒いでいる。一体、何が起ころうと言うのだろう。 「何だ、あの空?」 城内の回廊を一人歩いているピットは窓の外を見て驚嘆せざるを得なかった。今にもこの国があの曇りに押しつぶされそうな、それ程圧倒的な天候だった。今まで見た事が無い黒い空にピットは鳥肌が立ってしまった。 「正かギガの奴ら、また何か企んでいるのか?」 一応何かを考えてみる。彼の考えが合っていたら、今直ぐ戦闘態勢に入らなければならない。しかし、今日の城もいつもと変わらず落ち着いている。それに、一番に敵の気配を感じ取るのはファルコだから、先ず彼がその知らせを持って来る筈である。でないとしても、ギガ以外に新たな敵が現れたのかも知れない。ピットはそれを第二に考え、右手に持っている弓をギュッと握った。 (スマッシュ戦士の誇りに掛けて……) もしもの為に弓に気を送り込んだ。 だが、何も無い事を祈っているのも戦士として(住民達もそうだが)当然である。 ピットは再び歩き出した。それから暫くすると目線の横から手が現れた。黒い手? 「んんうっ!?」 突如それで口を塞がれた。ピットは暴れようと試みたが、後ろから足払いをくらい、体が後ろへ傾く。だがその黒い手は今度は彼の片腕に移り、後ろへ無理矢理引かせるとピットの動きを抑えた。その拍子でピットは装備していた弓を落としてしまった。 「動くな!」 直ぐ後ろから響く低い声がピットの聴覚を震わせた。スマッシュ戦士では聞いた事の無い声色である。 忠告を受けた後、拳銃が握られているもう片方の黒い手が目の前に現れた。その銃口がピットのこめかみに向けられている。ピットは息を呑み込んだ。下手に動くとその武器の餌食になると悟り、動かないでいた。 だがふとその黒い手を見てみた。赤い血がこびり付いている様に見える。始めは敵の血かと思ったが、近くで見えたからか、彼の手には何カ所かの傷跡があり、血はその傷跡から流れ出ているのが分かった。ここからでは見えないが、自分の腕を抑えている彼の手から生暖かい水が流れでいる感触がある。これも血なのだろうか。思えば、さっき喋っていた彼の口も何気に疲れている風だった。 ピットは変に思ったが、これだけは確信出来た気がした。 (この人、正か重傷?) 「ここはどこだか教えろ」 「え?」 「教えろ!」 男は改めて拳銃を握り直した。ピットは慌てて返事をした。 「ここは、スマッシュ王国だよ」 「スマッシュ?」 男の、呆気にとられた声が聞こえた。 「そんなお伽話みたいな名前の国なんか聞いた事が無い。嘘をつくな」 「本当だっ」 ピットは銃口を冷や汗を流して見ながら言った。 「無数にある空間の一つの空間があって、その中心の国なんだ」 「……あまり信じられんな」 後ろから自分のあちこちを舐める様にねめ回す気配を感じた。何か武器が無いかと探しているのだろうか。 「おまけにその格好……コスプレか?」 どうやらこの姿に疑問を抱いたらしい。その言い方にピットは少しカチンと来た。 「違う! これはエンジェランド親衛隊のコスチュームだ!」 「……天使のコスチュームが笑わせるな」 鼻で笑っているのが聞こえ、ピットはムカムカして来た。 それでも少しも抑えている手を緩めないなんて、油断出来ない。それにしても何て力だ。もしかしたら大怪我をしているのかも知れないのに……って、何でボク、今自分がこんな目に遭わされているってのに、この人の心配をしているんだ。ボクを殺すかも知れないんだぞ? ……殺す……何でだ、そんな気がしない。殺気が感じない。脅しているとしか思えない。どうしたんだ、ボク? 「ふああ」 その時、呑気な欠伸を、この回廊の曲がり角から聞こえた。ピットはそれはマリオの声だと直に分かった。 そして、マリオとリンクが、この回廊へ顔を出した。欠伸を終えたマリオは前方を見る。 「! ピット!!」 異様な光景を見てビックリし、直に戦闘態勢に入った。リンクも剣と盾を構える。男はピットと共に二人の方へ体の向きを変えた。 「リンクさん、マリオ隊長……っ」 ピットが二人を呼ぶと、男はピットの抑えている腕を掴む手に更なる力を込めた。動けないまま腕だけをグッと引っ張られ、ピットは鈍い苦痛に顔を歪ませた。 「やめろ! 仲間を傷付けたら許さないぞ!」 マリオは叫んだ。男はピットの動きを抑え付けたまま何も答えない。 「誰だ! 名を名乗れ!」 リンクも叫ぶが、男は無言のまま何も返さない。 そして何を思ったか、今までガッチリと抑えていた両手をピットから解放した。正しく言えば、それは自らの意思では無かった。その男は、力尽きてその場へ倒れ込んでしまった。 「!? ち、一寸!」 マリオ達は戦闘態勢を止め、慌てて駆け寄る。 「っ……!」 漸く見下ろせたピットは思わず呻いた。床に赤い絨毯をさらに赤黒く染める血だまりが出来ていた。ボクを抑えている間にも、この血だまりは少しずつ作られていったのだ。普通なら立つのもやっと……いや、立っているなんて、奇跡としか言い様が無い。 マリオはしゃがみ込むと男の首に手をそっと当てた。 「……」 「マリオさん?」 マリオと同じ目線まで座ったリンクは、マリオを心配そうに見詰めた。 マリオは彼の首から漸く手を離した。 「息はしてるけど、危険な状態だ」 男の腕を引くと自分の首に回した。運ぶつもりなのだ。 「えっ。一寸、マリオさん!?」 「ん。何?」 慌てるリンクにマリオは平然とした顔で対応した。呆れた返事にリンクは一瞬戸惑った。 「ど、どうするんですか、この人」 「手当てするに決まってるじゃん」 「なっ、何ですって!?」 ピットとリンクは驚いてしまった。敵か味方か分からない不法侵入者を手当てをするつもりなのだろうか。見た目だけで怪しい姿をしていると言うのに。 そんな二人に対してもお構い無しにマリオは男を抱えると立ち上がろうとした。明らかにマリオよりも体重がある男を持ち上げる為、マリオの体は少し震えている。 確りと立ち上がると二人に言った。 「……確かにこいつは敵かも知れない。始めはそう思ってた。けれど今思うと、こいつからは、殺気を少しも感じないんだ。始めからボク等を傷付けるつもりは無かったと思うんだ」 「隊長……」 ピットには心当たりがあった。その男に拳銃を突き付けられても、殺そうとする気は全く感じられなかった。 「それに、もしかしたら、さっきの異常気候と何か関係があるのかも知れない」 窓の外を三人が見ると、分厚かった曇り空はいつの間にか薄れてゆき、雲の隙間から日差しが現れたのが分かる。この男が現れてから、あの悪天候は嘘みたいに無くなったのだ。 「王様達、あの天気について何か分かったみたい。その為に、ボク等は呼ばれてるんだよね、リンク」 「え? あ、はい、そうですね」 「その前に、この人の手当てをしよう。リンクは先に行って、王様達にこの事を話しておいて。ピット、力を貸してくれないか?」 「ボ、ボクが!?」 「頼むよ。それに……」 マリオは言葉を濁し、ピットの、男に寄って赤く汚れた白い服を眺めた。ピットは彼の目線を追うと、自分の今の姿にギョッとした。 「王の間にそんな格好で行ったら、子供達が吃驚するだろう?」 「……分かったよ」 ムスッとしながらもピットは了解した。それにマリオは嬉しそうに微笑んだ。 「とにかく急いで! 一刻を争うぞ!」 ──to be continued── |