Soldier of another space──中編:異常現象の正体──








 男は暗闇の悪夢から目を覚ました。
 体にも意識が戻ると、深い傷を負った部分の痛みが現実を語った。自分は、いつの間にか気を失っていたらしい。
 そして気付けば、心地のよいベッドの中、見知らぬ高い天井を仰いでいた。やはり、夢落ちと言う訳にはいかなかった様だ。

「気が付いたみたいだな」

 自分の意識が回復すると、横から女性の声が聞こえ、そちらへ目線を動かす。
 金色の長髪をポニーテールにまとめ、見た目は細く、クールビューティな顔立ちをしている女性がそこにいた。自分と同じブルーの瞳に鋭い目つき。服装はカジュアル系で、漸くまともな人物に出会えたと思うと、敵かどうか分からないのにも関わらず、ホッとした。
 女性は、サイドデスクに置かれている器から、水に浸しておいたタオルを取り出した。両手を使い、水を力一杯絞り出す。

「じっとしてろ」

 タオルを小さく折り畳むと、男の特に痛手を負った腕の傷にそれで触れた。

「っ!」

 鋭い痛みが脳髄にまで響き渡り、男は顔を引き吊らせた。

「男だろ? 我慢くらいしろ」
「痛みは慣れている筈なんだがな」
「そうか」

 冷たい口調。見た目通りに、彼女はぶっきらぼうな性格を持っているみたいだ。
 女性は男の身体中に出来た傷を、濡れたタオルで黙々と丁寧に吹いた後、それを器へ戻した。

「マリオ達は急ぎの用だったから、応急手当てだけにしたんだ」

 タオルを洗いながら女性は言った。

「マリオ?」
「赤い帽子を被った男だ。さっき会ったんだろ?」

 男はさっきの出来事を何とか思い出した。目の霞みが酷くなっていたので良く見えなかったが、確かに赤い色を纏った人物がいた気がした。

「……後の処置は、お嬢さんに任せたって訳か」
「そうなるな。偶々この部屋を通りかかっただけだが」

 女性の言葉の一つ一つには欠点がある。言葉自体に問題は無いが、言い方にトゲがある。まるで憎んでいる表現。初対面だと思うのだが、前にも会った事があったろうか?

「そう言えば、名前はまだ聞いていなかったな」
「……スネーク。ソリッド・スネークだ」
「スネーク……私はサムス・アランだ」

 ひんやりとした無表情のまま紡ぐサムスに対し、スネークは微笑した。

「俺が嫌いか?」
「どうしてそう言えるんだ?」
「丸見えだ、顔に出ている」
「……」

 グッと喉を詰ませたサムスにスネークは笑いを込み上げた。

「……スネークの言う通りだ」

 それが気に触ったのか、サムスは彼を睨んだ。

「血の臭いがする、お前のだけじゃなく、別の人達の。とても不愉快だ」
「……」

 スネークは言葉の代わりに、自嘲した笑みで返事をした。




「やっと来たか」

 王の間にて。
 マスターの前で、マリオ、リンク、そしてピットがお辞儀した。

「遅くなってしまい、誠に申し訳ありません」
「事情はリンク殿から聞いた。大怪我をした見知らぬ男の手当てをしたみたいだな」
「はい」

 マリオが認めると、マスターは柔らかく微笑んだ。

「その優しさ、私が見込んだだけの事はある」
「恐縮です」
「その男の救命に正解と伝えよう」
「……あの悪天候ですね?」

 リンクが言うと、マスターは頷いた。

「彼は、今回の事件の関係者に当たる可能性が極めて高い。リンクの話から考えると、この世界にその様な容姿の者はおらぬ。別の世界から来たかも知れん」
「あの悪天候は、一体?」
「我々も生まれて初めて見た」

 ピットの問いに応えたのは、マスターの玉座の隣に立つクレイジーだった。

「古の本に寄ると、空間と空間が偶然にもぶつかり会うと、各々の空間の中心となる世界の天候が、急激に不安定になると云う」
「あの曇り空、普通ではありませんでしたからね」
「さよう。一つの空間内の次元達を唯一支える世界が、それに寄って全体、もしくは一部バランスを崩してしまうのだ」
「あの男がこの国へ来たのは……」
「バランスを崩した箇所には空間の穴が開く。男は運悪くその穴へ引きずり込まれ、ぶつかったもう一つの空間へ飛ばされたのだ。だが、怪我に関しては別だ。空間移動はその状態のまま移動させるのだからな」
「……王様」

 黙って聞いていたマリオが不意に口を開いた。

「何だね?」
「あの男を、元の世界へ帰してあげられないでしょうか。彼は何も知らずにここへ来てしまったのでしょう? とても気の毒で、何とかしてあげたいんです」
「俺も同じ考えをしていました」
「ボクもです」

 リンクとピットも言った。マスターは、ふむ……と考えたが、

「残念だが、今は無理なのだ」

 と、希望を失わせる回答をした。

「何故この様なトラブルが起こったのかは私にも分からぬ。今、大臣達に調べさせている、空間と空間を自由に行き来出来る方法をな。ギガに万が一その方法を先に手にされると、被害を受ける範囲は想定出来ん。その為にもこの事は慎重に行い、そしてあの者の協力も今必要となる」
「言い方が荒くなりますが、この城に暫く閉じ込めておくって訳ですね?」
「その通りだ、マリオ達よ。頼めるかね? それに、彼はまだ敵か味方か把握出来んからな」
「かしこまりました」

 三人は同時に頭を下げた。




 料理室にて、エプロン姿のルイージは、夕飯の支度をしていた。香ばしい料理の匂いが室内を包んでいる。
 その匂いに誘われて摘み食いを企む者から料理を守る為、扉にはパスワードが設置されている。一部の人にしか分からない番号を入れなければ扉は決して開けられない仕組みになっている。つまり、ルイージから見て(食べ物に関する意味で)信頼出来る仲間しか入れないのである。そんな扉が、機械音と共に開かれた。

「おや? サムスさん」

 包丁を止め、ルイージは彼女に気付いた。サムスは閉まった扉の前に立ち、その場で話した。

「ルイージ、私の分、出来てるか?」
「え? うん、出来てるけど?」

 ルイージは側のテーブルの上に並べられた料理を顎で示した。

「いきなりこんなお願いするのも何だが、スープとか作れないか?」
「作れるっちゃあ作れるけど、いきなりどうしたの?」

 そこでサムスは思わず口ごもったが、気付かれない内に直ぐにいつもの冷静さに戻した。

「……病人が出来てな、スープが飲みたいって云うものだから」
「えっ、そうなの? 分かったっ。コーンで良いかい?」

 ルイージは早速、キッチンの横にある冷蔵庫の扉を開けた。

「すまないな、夕飯の最中に」
「良いよ。病気になった仲間の為なら、これ位お易い御用さ」
「あ、ああ」
(仲間……か)

 サムスは密かに溜め息をついた。

(あんな人が仲間になったら、最悪だろうな)
「? 何か言った?」
「あっ。い、いやっ! 何でも無いっ」




 トレイに自分の夕飯とコーンスープを乗せ、スネークのいる部屋へ向かう。
 その途中、マリオ達と鉢合わせした。

「あれ? サムス、介抱はどうしたの?」
「ちゃんと看ている。心配するな」

 安心させようと(作り)笑いを見せた。

「今、夕飯を持っていってあげようとしたとこだ」
「嗚呼なるほど。ボク等はまだ用事があるから、またお願い出来るかな」
「……あ、ああ。解った」
「有難う。じゃあお願いね」

 そう言い残すとマリオ達は去った。
 サムスは彼等の背中を恨めしそうに見送った。本当は放っておきたいのだが、マリオ達の頼みはどうしても断れない。取り合えず、早くこれを運ぼうとサムスは足を進めた。
 扉を一度ノックしてから開いた。

「スネーク、スープだ」

 言い終えて入ると、サムスは立ち止まり、大きく見開いた。

「!!」

 思わずトレイを手から滑らせてしまい、料理が床を思い切り汚した。スネークが、ベッドから姿を消してしまったのだ。サムスは驚きのあまり固まっていたが、思考回路は確りと働いていた。
 あの危険人物を野放しにしてしまった。僅かな時間で目を離した隙に逃がしてしまった。あんな心まで血にまみれた奴は何をしでかすか分からない。早く追わなければ!
 サムスは顔色を悪くしながらこの部屋を後にした。










 ──to be continued──