擦れ違う想い








 キノコ城の地下にはトレーニング場が存在する。
 大抵は城の外の方がトレーニングする環境に適した場所を難なく探せるのだが、雨の日や別の武器を扱うのが必要な場合はここを使っている。別の武器と言えど全て木製。本気でバトルをしたとしても痣程度で済む。
 天候が良い時はここはあまり使われていないのだが、本日は大雨が降り注ぎ、とても外に出れる状況では無い。その為、戦士はトレーニング場に集中する。そこでその日に会議をし、バトルする相手と時間を決めるのだ。
 今ここにいるのはマリオとワリオである。ライバル同士であって、地下なのにも関わらず、上の床が響き渡る。二人は武器を一切使わず、体と体をぶつけ合っている。それでも敵意を抱いている訳では無く、ライバルと言う名の好敵手が故。信頼し合える関係であるからこそ、互いに心から闘いを挑む事が出来る。
 しかし、マリオは、こんな状況であっても時間はちゃんと守る。壁に下げてある時計を、拳を器用に動かしながらチラッと見た。

「ワリオ」
「あ?」
「……そろそろ終了時間が、ぐはっ!」

 乱闘中に話し掛けるものだから、ワリオの拳は見事、マリオの顔面にクリーンヒットしたのだった。




「いやー、わりいわりい」

 部屋の端に座る二人。マリオは鼻血を出してしまった鼻をタオルで押さえ、そっぽを向いていた。何とか宥めるワリオだが、中々彼は聞く耳を持ってくれない。何とか彼の顔を見ようとしたが、マリオはまた別の方向へ顔の向きを変えてしまう。

「で、でもよ、幾らトレーニングだからってよ、怪我は憑き物なんじゃねえか。な?」
「……」
「マリオー……」

 ワリオの声が次第に猫撫で声になってきている。
 すると、マリオの肩が小刻みに震え出した。ワリオはギョッとしたが、彼を見守る。そしてマリオは一度蹲ったと思うと……。

「あははははっ!」

 ワリオの笑いに負けず劣らずの大笑いをかましたのだ。ワリオは訳がわからずポカンとしている。

「ごめんごめん」

 マリオは涙を流しながら手を上げた。それでも笑い過ぎに痛くなった腹を押さえ付け、息はまだしゃくり出していた。

「……あ! 貴様、試したな!?」
「バレた?」

 喉を鳴らしながら白状した。つまりは遊ばれていたのである。それに引っ掛るとは思わず、彼はつい吹き出してしまった。
 それにワリオは見事罠に填められた。それに許す筈も無く、彼の堪忍袋の緒は、プツンと容易く切れた。

「よくもコケにしてくれたな! 勝負だ!」

 そう言う間も無くワリオは立ち上がった。怒りの余り額に血管が浮き出ている。
 マリオもフフンと立ち上がり、拳を構えた。

「ハイハイ、そこまでそこまで!」

 闘おうとした二人を、手を叩く音と二言がピタリと止めた。次の使用者が交代時間だと訴える様な台詞であるのは、流石の二人も分かっていた。
 やむを得ず拳を下ろしてでも睨みあっていたが、後にこっそり微笑み合った。

「この続きは、次のトレーニングで」
「ああ」

 マリオとワリオは勇ましい笑みを見せ、自分達の腕をぶつけあった。
 マリオはリンクにバトンタッチだと手を叩いて先に出、続いてワリオが出ようとした時、次の使用者であるリンクが彼の腕を捉えた。

「? どうした、リンク?」

 彼が振り向いた先には、何やら企んだ笑みを浮かべるリンクとピットがいた。その意味を理解出来たワリオは、やれやれと溜め息をついた。

「ワリオさん、早く告白したらどうなんです?」
「……誰に何をだ?」
「決まってるじゃ無いですかぁ。リーダーに自分の気持ちをですよ」

 ピットは明るく言い放った。それでも相手に気付かれない程度に声を抑えてはいる。
 ワリオは、スマッシュ戦士になって間もない頃から、マリオに想いを寄せていた。戦士になる前までは、只のライバル且つ旧友の関係にあると思っていたのに、彼がリーダーになってからは急に勇ましくなり、ワリオの中の何かがドクンと脈打ったのだ。今まで抱いた事の無い、この熱い気持ち。今すぐにでも伝えたい。
 だが、相手は自分を良きライバルだとしか思っていない。今までそうやって、お互いの力を競い合ってきた。彼は、それだけでも十分に喜んでいる。それに、いきなり自分の気持ちを伝えてしまったら、彼はショックを受けるのでは無いだろうか。たった一言ででも、相手は酷く傷付いてしまうかも知れない。それが怖くて、情けなさが身に染みる。

「ワリオさん?」

 リンクとピットは心配そうな目でワリオを見つめていた。ワリオはそんな二人を見ると首を振った。

「……駄目だ。俺様は、この気持ちを諦める」
「な、何でです!? ワリオさん、前に言ってたじゃないですか、いつかこの気持ちを伝えたいって」
「いざとなると勇気が出ないんだ。それに、これを言って、相手が悲しむかも分からんだろう?」
「ワリオさん……」

 自嘲しながら、悪い、と一言残し、マリオを追い掛けていった。リンクとピットは、罰が悪そうな表情をしていた。

「何の話してたの?」

 隣まで駆けてきたワリオにマリオは問う。

「いや? 何でもねえ。対した事ねえさ」
「ふーん?」

 マリオが少し首を傾げた後、二人は前方を向いた。

「また明日、頑張ろうな」
「……うん。お互いライバル同士、遠慮なくいこうな!」
「ああ」

 ライバル……か。これからも、きっと続くんだろうな。
 彼が一瞬の躊躇いを見せたのは気のせいだと素通りし、ワリオは静かに嘲笑った。




「いっけねぇ!」
「何しているんだ、ロイ! 大事な書類を無くしたと聞いた時は心臓が止まるかと思ったよ!」
「ご、ご免なさぁい!」

 叱るマルスと叱られるロイは、例の大事な書類を両腕に抱え、急いで回廊を駆けている。
 クレイジー大臣のもとへ届ける為の物で、戦士全体に関わる内容である。それをロイはついさっき『無くしてしまった』と一言。マルスとマルスの拳骨と共に慌てて探すと、ロイの机の奥に落ちていた事が判明。それを手に取り、約束の時間に間に合わない覚悟で、彼の部屋目指してダッシュしている。既に二人は酷く息を荒らしている。
 これは連帯責任だとマルスは告げているが、何度も過ちを繰り返してしまうのはご免だと言うのが本音である。
 ロイは自分ばかり責めていた所為か、半泣き状態でマルスの背中を追っていた。
 走っている最中、何やら辺りが僅かに暗くなったのを感じた。違和感を覚えたロイは、窓の外をチラリと見てみた。

「……」

 ロイはそちらを向いたまま、急いでいるのにも関わらず、思わず足の動きを緩めてしまう。そして、遂に立ち止った。マルスはそれに気付き、振り返った。

「何をしているんだ、ロイ! 早く……」

 ロイは彼の声が聞こえていないのか、窓の外に釘付けになっている。そして、両腕から書類をバサバサと落としていった。その時の彼の顔は、次第に血色を悪くしていっている。

「……?」

 不審を抱いたマルスも、その場から窓を見た。
 窓の外で、何かの影がこちらへ向かっている様に見えた。森から黒い斑点が複数に蠢いていき、次第にそれは増えていく。しかもそれはかなりのスピードで向かって来ている。
 二人はふと思い出した。森の向こうは確か……。

「!」

 二人はほぼ同時にその正体を知ると、ロイは書類を抱え直し、二人は回廊を走りながら叫んだ。

「奇襲だー!」
「ギガ軍の奇襲だー!」

 二人が通った後にいる人物はその言葉に驚くばかり。声が聞こえた戦士も、始めは信じられないと言う気持ちで二人の方向に振り向いている。耳にしたリンクとピットも、トレーニング場のある地下から慌てて顔を出した。ワリオとマリオもその声を聞き、見開いた顔を見合わせる。
 スマッシュブラザーズのリーダーでもあるマリオは即座に頭の中を切り替えると、その場から駆け出し、指示を取る。

「戦える者は全員外へ出ろ!」

 そう叫びながらマリオは二人を見付けに風を切る。
 見付けると咄嗟に捕まえた。

「数はどれ位?」
「ちゃんと見てませんが、かなりの数になるかと思われます」
「王様に頼んで兵も出して貰って!」

 そう言い残すとマリオはその場を走り去った。二人は互いの目を見て頷くと、王の間目指して走っていった。

「王様!」
「分かっておる。兵は準備万端だ」

 王であるマスターの代りにクレイジー大臣が言った。
 王の目線の先は窓。奇妙な音が聞こえるのは、ギガ軍の歩む音。マルスとロイは、その音を耳にしただけで、ゴクリと息を呑み込んだ。

「お主達が恐れてどうする」

 マスターは厳しい目をぶつけた。

「恐れてばかりでは勝ち目は無い。勝利を信じるんだ──良いなっ!」
「……はっ!」




 今朝の大雨から、今は激しい雷雨に変わっている。
 カラスの大群が、土砂降りを身にまともに受けながらも、死者と言う名のご馳走を今か今かと待ち構える。
 雨の滝を浴びながら、歩を進めていく魔性軍。それとは反対の方向からも、スマッシュブラザーズと兵が歩んで来る。ぬかるんだ地面に足を減り込ませながら、光と闇の戦士達が前進する。
 少し近付いて来た所で両軍は立ち止った。ぶつかり合う目線と目線の間には火花が散る勢い。暗闇の空を舞うカラス達。生死を懸けた戦いの目前である。
 マリオ達の軍の目の前に白い光が現れる。その光は大きくなり、そこに鏡が現れる。鏡からはマスターが映し出された。

「不吉なる雷雨の日に現れるとは、良い度胸を持っておる。だが、今のお主達力では我々には敵わぬ。引き返した方が身の為だ」

 その返事に、魔性軍側からも同じ様な現象が現れた。しかしそれはマスターとは正反対で、闇の光から黒い鏡が現れる。そこに映し出された人物は、恐らくギガ軍の指揮者なのだろうが、暗闇に紛れていて、マスターでさえも見えない。どうやら彼は自らを魔法で見えない様にしているらしい。

「その言葉、そのままそっくりお返ししようか、マスター殿。兵を引けば、死人は出ずに済むものを」
「我々は常に王国を守らねばならん。それを妨げる全ての者には、神より聖なる罰が下るであろう」
「良かろう。我々は神に逆らえし者達だ。止められるものならば、止めてみるが良い」

 闇の鏡がシュンッと姿を消した瞬間、魔性軍は声を荒げた。その圧倒差さにマリオ達は少し怯んだが、直ぐに気を張った。

「死を恐れる程、戦う者は喚きを上げる。一人も敵を通すでないぞ」

 そして、白い鏡も消えた。
 魔性軍は武器を握ると一斉に走り出した。
 マリオは拳を掲げた。

「王国の名誉に掛けて!」

 声を上げると、軍も声を揃えて叫んだ。
 武器を確りと構え、彼等を待つ。
 そして、両軍は思い切りぶつかりあった。  倒された魔性軍隊隊員は闇の煙と化して空へ消え去る。スマッシュ軍側も倒れる者は数知れず。ほぼ互角状態だった。
 フォックスも、光線銃と、撹乱させる俊敏な動きを武器に、敵を次々と地面へ平伏させた。
 地面に足を付けると、足元に自分の足が見えた。いや、違う。これは別の者の足だ。立ち上がると、目の前には、ギガに寄って作られたと言う自分がいた。血の色を持つその瞳には、自分の怒りに満ちた顔が映っていた。

「初対面だよね、確か」
「……ガフィとか言ったな、俺のクローン」

 フォックスは憎たらしいと訴える目でクローンを睨み付けた。
 何もかもそっくりだ。こんなに俺に似るだなんて思わなかった。
 彼は、ずっと前にリンクを犯した事があった。あの時の悔やみと憎しみは、今でも覚えている。

「リンクに手を出す奴は……誰であろうと俺が許さないっ……!」
「敵を討つか……面白い、かかって来るが良い!」

 二匹の攻撃が激しくぶつかり合った。

「ワリオ、大丈夫か!?」

 敵を倒し、マリオはワリオを呼んだ。

「人の事より、自分の事を心配しやがれ!」

 襲いかかって来た複数の敵を漸く全て倒したワリオは、息を切らしながら言った。暗闇の雨に紛れて視界がはっきりしないが、どうやら近くにいる様だ。

「これじゃきりがねえぞ、リーダーさんよ!」
「とにかく退却してくれるまで持ち堪えるんだ」
「んな無茶な……」
「そう思っている戦士は結構多いだろうな。僕だってそうだもん」
「マリオ?」

 マリオは襲いかかって来た敵を難なく倒した後、続けた。

「皆、苦しいのは分かってる。けれど、ここで諦めたら、僕達の未来も無くなっちゃうだろ? 皆、仲間と自分達の故郷の為に戦ってるんだから」
「……」

 くるりと振り返ったそのリーダー的表情。決して引く事の無い態度。そんな彼に俺様は惚れちまったんだなと、ワリオはフッと笑みを零した。

「……そうだな。第一、一々弱音とか吐いても何にもならねえしな」
「一気に攻めようぜ、ワリオ」
「おうっ!」

 彼を襲おうとした敵が一瞬怯む。それでも二人は遠慮を捨て、一気に攻撃に掛かった。

「……」

 敵軍に紛れる、黒い馬に乗る男。闇色のマントに、闇色の笑顔の仮面を付けている。スマッシュ隊員が攻撃しようとした途端、男は彼を片手で遠くまで吹き飛ばした。他のものに興味は無いと言う感じな無表情で、男はマリオだけをジッと見詰めていた。
 そして、左手を上げると、赤黒い光を作り出した。標的はマリオで、彼を見ながら、密かに怪しげな笑みを浮かべた。
 ワリオは敵を殴り倒した後、ふと赤い光に気付いた。その光に照らされる仮面は一体どこを見ているのか。その者の目線を追うと、マリオとぶつかった。マリオは側にいる敵に夢中で、その光には全く気付いていない様子だった。

(マリオ!)

 ワリオは、不味いと反射的に地面をバシャッと蹴り上げた。赤い光を抑えに行くには距離があるので、マリオに向かって走り出した。

「マリオ……い!」
「え?」

 ワリオの声が聞こえた気がし、辺りをキョロキョロ見回す。すると、少し遠くで赤い光が目に入った。それは段々大きく──違う、こちらに向かってその攻撃が放たれたのだ。マリオは突然の攻撃に避ける余裕がなかった。その光に、まるで動きを押さえ付けられている様で、動けない。

「危ない!!」

 もう駄目だ! やられる覚悟を決め、目をギュッと瞑った。
 体に酷い衝撃が走る。しかし、それは只の衝撃波で、何も痛みを感じなかった。
 マリオは恐る恐る瞼を開いた。目の前に人が立っている。盾になってくれたのか? それが誰だと分かった瞬間、マリオの頭の中が瞬時で真っ白になった。

「ワ……リオ……?」

 大怪我を負ったワリオが、スローモーションでこちらへ倒れて来る。派手に地面へ倒れたワリオにマリオは凍り付いた。そして、我に返った時は叫んでいた。

「ワリオ! ワリオオ!!」
「……」

 赤い光を放った男は、暗くて良く見えないながらも手応え有りと再び笑むと、馬を動かした。鳴き声を上げ、馬は反対方向へ歩いていく。軍隊はその馬を見ると、攻撃を止めた。無論、ガフィも動きをピタリと止めた。

「?」

 多少の怪我をしていたフォックスは、息を荒らしながら彼を見上げた。ガフィは暫くすると、ブラスターを懐にしまった。

「この決着は今度つけよう。楽しみにしているからな」

 ガフィはその場から瞬間移動の如く消え去った。

「あ! 待ちやが……いてっ!」
「フォックス! 大丈夫か?」

 傷が疼いたか、フォックスは跪いてしまった。心配したリンクは駆け寄った。
 仮面の男の乗る馬に続いて魔将軍は退却していく。マリオの軍達は何事だと思いながらも、勝利した事に変わりは無く、武器を上げては歓喜の声を上げた。
 しかし、素直に喜べない者もいる。

「ワリオ! 確りしろ!」
「! ワリオさん!?」

 二人は彼等のもとへ駆けていった。そこには、酷い怪我を負っているワリオと、彼に必死で呼び掛けて涙を流すマリオがいた。他の戦士達もそれに気付き、急いでそちらへ向かう。

「急いでワリオを運んで!」
「えっ……」
「早く!!」

 涙目なマリオの怒鳴りに皆は静かに驚いたが、頷くや否や、皆で力を合わせた。
 何度呼び掛けてもワリオは返事をしない。意識が無いらしい。それでも、マリオは我を忘れてでも彼の名前を呼び続けた。




 皆の決死の治療の結果、ワリオはどうにか一命を取り留めた。
 怪我の状態に寄ると、相当大きなダメージを受けたものだ。これ程の攻撃を仕掛けられるのは、ザコ敵軍団よりも上回る者である。マリオをワリオがかばったと聞くと、マリオに向かって射撃した者で、それはその軍団の長だと考えられる。ワリオ並の体格だから何とか治療には成功したが、マリオがまともにくらっていたらどうなっていたと誰が予想出来たろう。
 最愛のライバルに大怪我を負わせてしまった事に重い責任を感じているマリオは、治療に協力してくれた仲間達に感謝の言葉を述べた後、二人っきりにして欲しいと、仲間達を部屋の外へ出した。その時の仲間達は素直に出ていった。
 既にワリオは目を覚ましていた。
 マリオが傍らの椅子に座ると、ワリオはそっぽを向いた。彼が向いた先の窓は未だに雨模様が続いていた。
 マリオはうつ向きながら、喋る勇気を振り絞った。

「……ごめん」
「……」
「ホントにごめん……僕の……不注意だ……った……」

 彼に対する悲しみと、彼の奇跡に対する恐怖で、声が震えている。心で思っている事を言葉に出そうともスムーズにいかない。それでもマリオは、彼にどうしても言いたかった。
 ワリオはピクリとも動かず窓の向こうを見つめている。
 きっと彼は怒っている。リーダーである自分が油断したばっかりに、ワリオが怪我をしてしまったのだからと、マリオは膝に乗せている拳に力を込める。

「……良かったよ……」
「え?」

 マリオはワリオの横顔を見た。

「貴様が無事で良かった。貴様を倒すのは、この俺様だけなんだからな」
「ワリオ……」

 ワリオはこちらを向き、マリオの肩を握った。

「今度、敵にぶっ飛ばされてみろ。俺様が貴様をぶっ飛ばすからな」
「……うん」

 マリオはうるんだ目を袖で擦ると微笑んだ。
 ワリオが無事で良かった。いつものワリオだ。





「もうドジは踏まない。ワリオに怪我させない。ワリオを倒すのは、僕だけだもん」
「……そのまま台詞を返しただけじゃねえか」
「同じ気持ちを言ったまでだよ……ライバルなんだしね」
「……ああ」

「ライバル」と言う言葉が出ると何故か二人は口ごもる。どうしてだろう。気付けば、自分の顔が熱くなっている。
 正か……正か僕……。

(──そんな訳無い)

 マリオは小さく首を振った。

(僕とワリオは、永遠のライバルだ。それ以上でも、以下でも無いんだ)

 この気持ちを紛らわそうと立ち上がった。

「帰るのか?」
「うん。そろそろ就寝時間だし。でも、今日は家に戻る」
「おう、分かった」

 家と言うのは、マスターが戦士達の為に魔法で再現した故郷の一部である。戦士の中でも、長居していたらホームシックに掛ってしまう者が出るのだ。再現とは見た目だけでは無く、中身も同じであり、それでもホームシックの戦士には効果があった。
 但し、故郷に戻れる期間は限られている。戦士の本来の目的は、国々を唯一支えるこのスマッシュ王国を守ることであるので、戦士達は中々故郷へ帰れない。今日はその期間に入っているのをマリオは知っていた。
 マリオは彼との関係を振り返りたいが為、今日は自分の故郷へ帰るのだ。

「じゃあね。まだ体動かすなよ」
「わーってる」

 マリオはワリオの部屋の灯りを消し、部屋を後にした。
 マリオがいなくなると、ワリオは溜め息をつきながら天井を仰いだ。

「マリオ……」

 彼の最近の動作が、妙に引っ掛かる。
 自分と同じ考えを持っているのはまず有り得ないだろう、マリオに対する、恋愛感情を。




 数日が過ぎた。
 戦士の半分が故郷へ戻っているが、この国に残っている戦士の一人のファルコは、城の展望台から見張りを続けていた。逸早く敵の気配を察知出来るのは彼で、マリオも頼りにしている。

「……んっ?」

 城の前の草原を見下ろすと、一人の男が通り掛るのを見た。ファルコは注意深く目を凝らしてみた。

(……何だ、ワリオか)

 見たことある人物だと分かると少し安心した。

(もう怪我は治ったんだな)




 自分の家に寛ぐマリオは、朝御飯の支度をしようとベッドから起き上がった。
 今日の献立は何にしようと着替えながら考えると、ある事を思い出した。

「ワリオは元気になったかな」

 普通の人物ならば2、3ヶ月は安静にしてなくてはならないが、スマッシュ戦士の免疫力は極めて高い。特にワリオ並の体格ならば、今頃歩ける程度まで来ている筈だ。
 朝食をとったら様子を見に行こうと決め、マリオはキッチンへ向かう。
 その時、ドアをノックする音が聞こえた。久々のお客さんだと、マリオは返事をするとドアを開けた。
 目の前に立っているのは、思いも寄らなかった人物だった。マリオは思わず固まってしまったが、目は確りと訪問者を捉えていた。

「よ、マリオ」
「ワ、ワリオ!」

 笑顔で手を上げるワリオがそこにいたのだ。マリオは、喜びよりも驚きを先に露にしていた。何故なら、彼は傷一つ無い状態でいるからで、まだそれは有り得ないのだ。でも、目の前にいる人は間違い無くワリオだ。
 ……ワリオ……だよね?

「心配掛けたな」
「う、ううん」

 もう、どうでも良いよね、そんな考え。ワリオが元気になったんだから。明るく迎えなきゃ。

「上がって。退院したお祝いに何か作ってあげるよ」
「いや、俺様が作ってやる」
「え?」
「心配掛けさせた詫びに俺様が作ってやるよ」
「う、うん」

 マリオは目を丸くした。彼が料理を作れるなんて珍しかった。
 取り合えずワリオがキッチンへ早速入っていってしまったので、マリオは大人しく席についた。
 暫くすると、キッチンから香ばしい匂いが漂ってきた。マリオがそれをかぐと、キノコスープだと分かった。自分の好物で、マリオの期待感が膨らむ。
 ワリオは、スープを器に移した後、懐から小瓶を取り出した。

「……」

 マリオのいる部屋に目線を向けた後、蓋を開け、中の粉末をそのスープへそっと仕込んだ。

(……悪く思うなよ、マリオ……)




「さて、そろそろ俺も帰るか」

 見張り時間が終わってファルコは背伸びをした。そして展望台から地面へ飛び下り、優雅に着地した。

「あ、ファルコさんっ」

 入り口から現れたのは三人で、ピットはファルコに手を振った。

「お、ピットにリンク。お前らも帰るのか?」
「うん。久々の故郷だし。な、リンクさんにワリオさん」
「だな」
「……」

 ファルコは、ピットの言葉に何やら矛盾を感じた。果たして気のせいかどうかは分からないが。
 しかし、二人の後ろには紛れもなくワリオがいた。しかも一部に包帯を巻いている。

「……ワ、ワリオ?」
「あ?」
「さっき、城の前通らなかったか?」
「は? 何を寝惚けてやがる」

 腕を組んでいるワリオは、彼に思い切り眉をひそめた。

「俺様は今日二度も外出してねえ。ずっとベッドに引き込もってたぜ」
「? 変だな……」

 ファルコは目線を上に上げ、顎を擦った。

「俺は確かに、ワリオが一回外に出たのを見たぜ?」
「見間違いじゃねえの?」

 そう思いたいファルコだが、どうも納得がいかず、また考え込む。ピットら三人は、不審な顔付きで見合わせた。

「! もしかすると……」

 心当たりがあるらしいリンクに三人は彼に顔を向けた。

「……クローン?」

 その一言に、彼等の背筋が一瞬凍った。
 クローンは、戦士の血に寄って作り上げられる。マリオをかばい、ワリオが身代わりに大怪我を負ったあの時、地面か何かに付着した血痕を敵が持っていった可能性がある。
 だが、クローンは敵のアジトにしかいない筈だ。こちらの国にのこのこ侵入するなんて……。

「!」

 考える間、四人は何かを感じた。正確には、何かの気配が消えたのだ。

「……誰かが……いなくなった」

 リンクは顔色を変え、ポツリと呟いた。それは誰がだと言うのは、誰もが同じ考えだった。

「ワリオさん! マリオさんのとこへ早く行こうっ!」

 ピットが焦って声を出すと、ワリオは即頷いた。
 気配が消えた人物。さっきの話で筋が通れば、マリオしかいないと考えられる。

「俺は後で追いますから、ピットくんはワリオさんを連れて先に行って!」

 ピットはワリオを持ち上げると、高速で飛び去った。
 リンクも愛馬を呼び、ファルコにもう一度見張りをお願いした後、馬を走らせた。

(マリオ、無事でいてくれ……っ!)

 ワリオは万が一いるかも知れないクローンへの怒りに震え、マリオの安否に顔を青ざめながら、彼の家へ向かったのだった──。










 ──Fin──








 【後書き】


 裏666番ゲッターの鵲朱梨様へ捧げます。
 大変長らくお待たせ致しました(涙)。お待たせした分、何だか中途半端で失礼しました!

 自作小説の「悪夢」の前の話なので、まだワリ様とマリオさんは擦れ違いな関係で御座います。
 挿絵もそんな感じで描かせて頂きましたが、如何でしたでしょうか……?

 表に置くか裏に置くか迷いましたが、裏の方が筋が通りそうなので裏に収納させて頂きました。

 この小説+挿絵は鵲朱梨様へ捧げます。
 お待たせして本当にすみません! 気に入って下されば本望ですっ。
 キリリクありがとうございました!